「うわぁ……」

 

なんだかとても嫌そうな声、そして嫌そうな表情でアリスが呟くその目の前を、

全長一メートルはあろうかと言う大きなキノコが触手の様なものを足の代わりにして、ゆっくりと歩いていた。

 

 

人形の衣装を作り終えて気分転換に森を散歩していたアリスだったが、突然視界に謎のキノコが入り、何事かと目で追って確認したところ動くキノコ。パッと見巨大なエリンギだ。

最初は仕事のしすぎで幻覚でも見たのか、魔法の森の瘴気に当てられて見ちゃならないものでも見てしまったかと眉を顰めたが、現実は厳しいものでゆっくりと歩みを進めるキノコは存在感たっぷり。

魔法の森の生態系は謎が多い。

いやもう、謎と言うより訳解らない、が正解かもしれない。

見れば、キノコは瘴気と胞子を撒き散らし我が物顔で森を歩き回っている、まるで自分がこの森の主であるとでも言いたげにだ。いや、顔ないんだけど。

アリスはこの森の化物キノコのことは知っていた、何しろこの森に人が足を踏み入れない、下手すると妖怪ですら避けて通る理由がそのキノコの瘴気と胞子のおかげなのだ。

胞子で呼吸もままならず、瘴気で体調を崩す。それに耐えられる魔法使いや森に適した妖怪、妖獣でもない限りこの森は百害あって一利なしの場所なのだ。しかし。

 

「歩いているキノコには初めて会ったわよ……」

 

通常、魔法の森の化物キノコといえば、木に生えているただただ瘴気と胞子を撒き散らすだけの見た目シイタケだ。決してこんな可動式エリンギではない。

気分転換の散歩とは言え、奥の方まで歩きすぎたか、と少々後悔をするが、自身も魔法使い、目の前の謎の生命体が気にならないわけでもない。

歩いているのだから知能とか持ってるかも知れないと接触を図ってみる。傍目には巨大なキノコに話しかける金髪美女、恐ろしくシュールだ。

 

「……痛………………」

 

近づいたら攻撃された。

触手っぽいものでなぎ払おうとしてきたキノコ。たかがキノコと油断していたアリスは飛び退くのが遅れて右手首にその触手攻撃を受けてしまう。案外痛かったようで赤く腫れてくる。

無言で1,2秒手首を見つめたアリスは、すっと左手を胸の前にかざすと、

魔法でキノコを吹っ飛ばした。

擬音をつけるなら「ちゅどん」。手首にミミズ腫れを作った代償としては容赦ない攻撃。アリス・マーガトロイドは案外沸点が低かった。

 

冷静に考えて、

アレでキノコとコミュニケーションでも取れていて、更には同じ魔法の森の住人としてご近所さん付き合いから友達にでもなってしまった場合、アリスの友達第一号が歩くキノコというなんだか人に言えない事態になるじゃないかと自分自身に納得し、この度のキノコ殲滅を脳内で正当化させた。一件落着である。

 

 


〜アリス・マーガトロイドは友達が欲しい〜

第二話 突撃!となりの魔法店


 

魔法の森。

幻想郷にはそう呼ばれる森がある。

魔法、などと偉そうな名前が付いているが別に魔力が漂っているわけでもなく、更には幻想郷に森らしい森なんてここぐらいしかないが故、森、といえばココになる。 はっきり言って御大層な名前であるのだが、

普通の人間には入り込むことも危険であることと、魔法の材料になる化物キノコなどが取れることから昔からここに居を構える魔法使いが何人か居たため『魔法の森』といつの間にか呼ばれていたというのが通説だ。

現実、現在は解っているだけでも2名の魔法使いがこの森に住んでいるのが確認されている。

一人はここ最近人形劇で有名になりつつあるアリス・マーガトロイド。もう一人は森の中で霧雨魔法店を経営するとされる霧雨魔理沙。

魔法店と名乗ってはいるが、正直何を商売しているのかさっぱり解らないと人里で評判。加えて何かを依頼しようと思ってもまず人は彼女の店まで辿り着くのが困難である。

もっとも、その商売内容も知ってる人は知っているもので依頼者が居ないと言うことは無く一応商売は機能している、仕事の依頼はよく彼女が出没するという博麗神社に向かうのが効率的というのが事情を知る者たちの暗黙の了解だ。

ちなみに事情と言うのは霧雨魔法店店主が博麗神社にお茶と茶菓子をたかりに行っているという事情だ。

 

そんな状態の店舗である為、霧雨魔理沙の住居である霧雨魔法店は常に開店休業、客がやって来ることなどまずありえないのだ。

 

だから、当然来客などありえないと信じて奥の部屋で魔法の研究をしていた魔理沙は久しぶりに機能した来客を知らせる扉の音を、何の為の音か理解出来ずに驚くことになる。

暫く悩んだ挙句、客だと気付き慌てて玄関に向かう。途中片付けていない魔法道具や魔導書につまづき足を取られかけたが、避けるでもなく躊躇無しに蹴り飛ばしながら進む。当然部屋の散らかり具合が度を増すが、さばさばしている性格の為、気にも留めない。

 

「いらっさい、霧雨魔法店へようこそ〜……って、なんだそりゃ……」

 

珍しいにも程があるレベルの来客を歓迎する意を表す魔理沙だったが、扉を開けて飛び込んで来た光景に一瞬固まり、思わず突っ込む。

 

「これ、いらない?」

「いや、だからソレ、なんなんだよ……」

 

玄関先には同じ魔法の森に居を構える人形遣いとして名が売れている魔法使いの姿があったのだが、魔理沙の姿を確認してくると彼女は体を少しずらして後ろに転がっていた何かを見せてくれる。

いや、まぁ、キノコだ。

魔理沙はウェーブのかかった背中の半ばまである長い金色の髪の毛を無造作に掻き揚げ、そのままガシガシと頭を掻いて事態を把握しようと改めて目の前の女性と謎のキノコを視界に収めて頭を働かせる。

短い肩までの長さの金髪を持つ目の前の女性はアリス・マーガトロイドという魔法使いだったはず、魔理沙にしてみれば少し前に幻想郷で起こった事件が切っ掛けで顔見知りに、名乗りあった憶えもある相手だし、同じ魔法の森の住人と言うことで多少なりとも 親近感を憶える相手だ。もっとも、見上げなければならない高い身長とすらりとしたスタイル、人形のように整った容姿に落ち着いた雰囲気、大人の女性ってこんな感じなのかよ、と女として少々嫉妬する部分があるようなないような。

いや、問題はそこじゃない。と軽く頭を振って後ろのキノコに思考を移す。

移すんだが、まぁ、考えても解らない。化物キノコの一種だとは思うが、魔理沙は正直、こんな大きく妖しいキノコはまだこの森で見たことがなかったのだ。

 

「確か、あなたは森のキノコを集めて魔法薬を作っていたと思ったのだけど?」

 

困った表情をしていた魔理沙を見てか、アリスは左手人差し指の腹を唇にあたりそうなくらいの場所に持ってきて、不思議そうに軽く小首を傾げる。チクショウ可愛いぜ。

言葉少なめだがこれで一応のところ魔理沙は事態を理解する。要するに、変わった化物キノコを見つけたアリスが魔理沙の魔法形態を憶えていた為その材料として持って来てくれたということだろう。普通に考えればいいやつである。

確かに魔理沙にしてみれば初めて見るキノコではあるので興味が無いわけではないのだが。

 

「それは、どういうキノコなんだ?」

「さぁ? 私も今日初めて見たのよ」

「魔法の材料に出来るものなのか、これは」

「真っ当なキノコじゃないことは保証するわよ、多分魔法の森独自のキノコだからキノコ使いのあなたなら興味を示すかと思ったんだけど?」

「まぁ、確かにどう見ても真っ当じゃないわな、これ」

「私の知ってる限りだと、歩く速度は亀より速いわよ」

「歩くのかよ!?」

「後、触手っぽいものがあるわね」

「いや、最早それ妖怪じゃないのか!?」

「会話は出来なかったわ」

「話しかけたのかよ!!」

「顔が無かったからどこに話しかけていいのか解らなかったので諦めたのよ」

「顔ある方が話しかけたくなくないか、コレ!?」

 

妖しいキノコよりも、この真面目な顔でとぼけた話をするアリスの方がよっぽど気になる存在に見えてしょうがなくなる。

ウケ狙いなのか、とも思った魔理沙だが、表情と態度を見る限りそれはない。更には小さく首を傾げて「いらない?」なんて態度を取ってくる。見た目お姉さんタイプの美人だけにそのギャップが可愛い、なんだろうもう可愛すぎるぜこの魔法使い。結婚してくれ。

と、思考がなんとなく斜めに向かっている魔理沙に対し、キノコをずるずる引きずって来たアリスは、目の前の魔法店店主の態度に、ひょっとしてこのキノコ駄目なのかしら、と不安気。自身はキノコを使った魔法なんて使わないので化物キノコの良し悪しなんて解らない。

実のところ、同じ森の同じ魔法使いとして、以前顔を合わせたとは言え、その時以外全くの無縁だったので半分以上はキノコを理由にご近所さんへの挨拶、あわよくばそのまま仲良しに、言わば「里の人間とはコミュニケーションが上手く取れないので同じ魔法使いとお友達になろうとかどうだろう大作戦」である、長い。どう略していいかも解らないくらいアレな作戦である。

キノコに対する反応が微妙なので、作戦失敗なんじゃないかと不安になるアリスだが、むしろキノコよりアリスに対して興味をそそられている魔理沙。

ちょっと変なヤツ、程度の興味だ、もっとも博麗の巫女あたりに聞かれたら本日のお前が言うな大会で吊るし上げ確定だ。実のところ魔理沙はもう一つ変なヤツである。

何しろ、「魔法使いになる!」と、里の家(結構大きい)を飛び出して魔法の森に家出、そこで逞しく暮らし、本当に魔法使いの端くれになってしまっているアグレッシブお嬢様なのだ。幻想郷じゃ無く外の世界ならかなりアレでソレな悶絶物の過去である。

冷静に考えれば、「よく生きてるよな」レベルである、いやマジで。

しかし、しかしながら、実はアリスも過保護な家族と故郷のなんとなく陰気な感じが嫌になり「修行して来ます」と書置きを残し家出して来た娘さんだったりする。コレもなんだ、外の世界なら黒歴史一直線ルート確定だ。修行ってなんやねん、と。 あれ? 似てるのか二人?

現状、この魔法の森、ちょっとアレな家出娘の巣窟になりかけているという事実だが本人達は当然知らない。この後、里の娘さん達が彼女らに憧れて家出しないことを祈るばかりである。

幻想郷の未来に幸あれ。

 

 

「あー、なんというか……申し訳ない」

「そんなにかしこまらなくてもいいわよ、半分勝手にやったようなものだし」

「いや、ホント世話になった」

「……今回だけよ?」

 

結局。

森の化物キノコには違いないし、おそらく進化系だろうと自分を納得させた魔理沙は礼を言ってキノコを引き取ることにした。

一応、悪いとは思ったのか大してお金があるわけでもないのに少々なら買取として扱う意志を見せたのだが、当のアリスは今回は顔見せの挨拶だから気にしなくていいとやんわり断ってくれる。

それほど親しくも無いのになんとなーく申し訳ないなぁと思ったりもした魔理沙だったが、まぁ、事実金銭的には弱者の立場でもあったため有り難く引き下がる。とはいえ、なんとなく頂いてばかりでは悪いと思い、珍しい客と言うこともあってお茶でも飲んで行って貰おうとしたわけなのだが。

散らかっている霧雨魔法店の惨状がお気に召さなかった非常に綺麗好き、整理整頓が好きなアリスの手によりキッチンとテーブル周りを掃除されてしまった。客に何させてるんだ。

もちろん魔理沙も手伝おうとはしたがテキパキと人形を使ってさっさと片付けてしまったわけで、実のところその魔法使いの人形師としての技量に目を奪われている間に全て終わってしまったわけなのだ。

解ってはいたが、魔法使いとしては自分とはレベルが違う、と今後の自分の修行方針などを考えてしまうほどに繊細な魔法を見せられ、うんうん唸っていたら、振舞おうとしていたお茶を振舞われていた。勝手にではなく、ちゃんと確認をとってきたのだが適当に返事していたらそんなことになっていた。そんなわけで前述の台詞である。ダメだこの店主。

魔理沙は工房にしている部屋に例のキノコを放り込んでからテーブルに着いているアリスに向かい合うように椅子を出して来て座り、湯気を立てている美味しそうな紅茶を手に取る。

 

「今回だけと言わずにいつでも掃除しに来てくれていいぜ?」

 

いっそすがすがしく開き直る魔理沙だが、その実、申し訳なさと散らかった部屋を客に片付けさせた照れ隠し。自分はこんなダメなんだぜーとある意味自己弁護だ。ちなみに解決には程遠い。

 

「……あのね、掃除くらいしなさいよ、魔導書は開いたままだし、本のシオリ代わりにえげつない魔法のナイフが挟んであるとか、もうちょっと魔法使いらしくしたら?」

「魔法使いらしいだろ? 服とか」

「黒が基調の服で魔法使いなら、お葬式とか凄いことになりそうね」

「まったくだ、世の中思ったより魔法使いって多いんだな」

「……」

「そんな呆れた目で見ないでくれよ〜、というか、あのナイフってえげつないのか?」

「知らないで使ってたの? あれ、それなりに微妙にえげつないっていうか呪いの類の力があるわよ?」

「呪い……ってそんなヤバイものなのか? 気付かなかったぞ」

「まぁ、だから微妙なのよ、そんな立派なものでも大きな力があるものでもないから気付かなくてもしょうがないけど」

「ちなみにどんな呪いなんだ?」

「『持ってるとじわじわ髪の毛がカールする』っていう呪い」

「……微妙だな」

「後天的にパーマを作成出来るナイフね、本人の意思関係無しに」

「……激しく微妙なえげつなさだな、需要あるかもしれないけど。 ていうか仮にも呪いの道具だろ? よくあの時間で内容まで解るよな」

 

やっぱアリスって凄い魔法使いなんだなーと関心する魔理沙。

その言葉にちょっと眉を顰めて紅茶をすするアリス。

こうしてゆっくり会話するのは初めての二人。会話自体は先日起きた冬が長く続き春がやってこないというよく解らない事件で鉢合わせしたときに軽くこなしている。

その時はアリスはふらふらと外に出てみただけで、魔理沙は事件の真相と解決に向けて飛び出したところ、会話といっても魔理沙がその冬が続く状況について聞き込みをした程度のものだ。

ちなみにその時の会話だが。

 

『いよう、酷い雪だな』

『寒くて嫌ねぇ』

『誰の所為で春なのにこんな吹雪にあってるんだよ』

『ちなみに、私の所為では……』

『……どうしたんだ?』

『今、春なの?』

『……まぁ、日付では春のはず、だけど……』

『……気付かなかったわ』

『あんたもたいがいだな』

 

と、聞き込みでもなんでもない会話だった。流石アリス、ヒキコモリの鑑だぜ。

お互い魔法の森に住んでいるというのはその時に知ったのだが、まぁ、今まで挨拶もロクにしてなかったということだ。

両方とも研究者肌の魔法使いである為、基本ヒキコモリであまり表に出ないのが原因。双方割り合い知人が少ない。

アリスはアリスでアレだが、魔理沙も魔理沙で実のところ最近まで交友関係は神社の巫女とか森の入り口の雑貨屋とかくらいしかなかったのだ。人里は飛び出した手前あまり寄り付きたくなかったわけだし。

そんな二人だが、魔理沙はさばさばした性格と物怖じしない性格が重なっている為それほどコミュニケーション能力が低くなく、アリスはアレだが魔法使いとしての能力は高いので、お互い魔法という共通話題があるため、上手く話が噛み合い楽しく雑談と言うものが発生する。

アリスはコミュケーション能力低めとは言え、会話が出来ないわけでもないし、魔法のことに関しては自信もあるので饒舌になったりも出来るので一見コミュニケーションが低くは見えない、現実問題、家から出ないのが悪いだけのやれば出来る子なのだ。

とは言え慣れてないのは事実なので、内心アリスは「こんなに上手く行っていいんだろうか」とビクビク。加えてこんな誰かとサシで雑談なシチュエーション、ほとんど経験がないので割とテンパってたりする。

それでも和気藹々と話が進む、基本魔法関連、その他には先日の長い冬の異変のこと。

そして本日の切っ掛けになった例のキノコのこと。

やっぱアレおかしいよ、とは魔理沙の談。

いつも収穫している化物キノコは化物とは言われているが、単に瘴気を振りまいたり人に有害な胞子を振りまいて自身に魔力を持っているっぽいとかなんとからしい。

いや、それ『単に』じゃないわよね、ともアリスは思うが、キノコ使いの魔法使いにとってはその程度の認識なのだろう。

つーか、人に有害だって言ってるのにお前は大丈夫なのかと問い詰めたい、小一時間問い詰めたい。

そんな感じで穏やかに、いろんな疑問を残しつつ流れていくティータイム。

アリスにしてみれば、ご近所さんといい感じに交友関係が結べたのかなぁ、ってな感じに満足の行く一時だったようである。

 

 

「紅茶ご馳走様」

「どういたしまして、と言っても紅茶煎れたのアリスなんだけどな〜」

「そうね、振舞って貰うのは次の魔女のお茶会の楽しみにしておくわね」

「お、おぅ、あー。 なんだ、その、大したお構いも出来ませんで、次回の来店もお待ちしておりますお客様」

 

ティータイムの雑談を終え、玄関先でそんな挨拶を交わして「それじゃあ、また」なんて残してスタスタと去っていくアリスの後姿を眼で追う魔理沙。

アリスの姿が見えなくなってから溜息をつき、少し乱暴に髪を掻き揚げ少し上気した頬を冷まそうと頭を振る。

 

「……『魔女のお茶会』ねぇ、美人は言う事までかっこいいわ」

 

今後もまた接点ありそうだし、今日仲良くなったと思うからこれから楽しくなりそうだ。 そんな感想を浮かべて家に戻る魔理沙。

キッチンの方は既に(アリスが)片付けたし、自分も胸を張れる魔法使いになる為に精進しようと奥の工房に向かう。

そして、扉を開けて気付く。

目の前には転がるキノコ。結局なんだか解らない謎のキノコ。

パッと見、巨大なエリンギ。とりあえず立ててみると魔理沙の胸の辺りまである大きなエリンギ(仮)。

動いてたと言ってたし、動物扱いになるんだろうか、と思いながら近くにあった筆でなんとなく顔を描いて見たのだが。

 

「なんだろう、激しくムカツク」

 

きーのーこのこのこげんきのこ。とか歌って踊りそうな姿になった。落ち着け、アレはまだ幻想入りしてないはずだ。

そんなカオスな霧雨魔法店、本日も開店休業しております。

 

 

 

「しかし」

 

帰り道、木が育ちすぎて光があまり差さず暗い魔法の森の獣道を歩きながら先ほどの霧雨魔法店訪問大作戦を思い返して一人呟くアリス。

思い出すのは、呪いのナイフだ。

髪をカールさせると言う凄いんだか凄くないんだが、何故ナイフなんだかさっぱり解らないあの呪いのナイフ。

 

「まさか、彼女の手にあるとはね……」

 

もしかして彼女の髪にウェーブがかかってるのはアレのせいなのかしら? と悩む。いや、意味深な台詞だが何のことは無い、実は『自分が髪のカールに使える魔法道具をなんて思って作ってみたはいいが出来てみれば呪いだし使った材料ナイフだし、コレはないわー』と言う経緯で『疲れてたんだな私』ってな言い訳を元に窓から投げ捨てた物だったのである。

あの時はそう、人形劇を人里に告知したはいいが直前になって考えてた話が気に入らなくなって徹夜で代替案を考えてた次の日の暴走だった。

アレからだ、アレからアリスは早寝早起きを心がけるようになった、そんな心に残る一品だ。

以上のような黒歴史の結晶が彼女の家にあったことにちょっと驚いたが、今回それなりに友好関係を築き『突撃!となりの魔法店』ミッションは成功に終わったと言える。

 

「でも、最後は『店のお客様』扱いか……友達って難しいのねぇ」

 

ちょっと寂しそうに溜息をつくアリス。そうは言っても向こうさんはあれでもう既に友達のつもりだったりするのだが当然友達のいないアリスには解らない。

人間関係とは実に難しいものである。

 

「ま、でもこれで顔見知りにはなれたんだし、それなりに仲良くはなったわよね、名前で呼んで貰えたし」

 

ファーストネームで呼ばれていたのを思い返し、前向きに頑張っていこうと決意するアリス、あわよくば次回はこちらから彼女の名前を呼んでみるか、なんて思い。そして気付く。

 

「霧雨……えっと……ま……?」

うん、またこのオチか。成長しようアリス・マーガトロイド。

「ま……まー……」

もうちょい。

「マルス?」

それは確かに幻想入りしてそうですが2015年のジェッターなヒーローです。

 


第三話

戻る

2011/02/27

inserted by FC2 system