「あ、あのっ、よろしければお名前だけでも……」

「いや、別にたいしたことしてないわけだから……」

「でもっ、お世話になったわけですから」

「お世話ってほどのことは別に何もしてないんじゃないか?」

「そうは言いますが、そう言う訳には」

先ほどからずっとこの調子なのだ。

どういう事かと言うと、

俺は秋子さんから買い物を任されて商店街へ買い物に来たのだった。

その使命を終えた帰りに財布を拾ったわけだ、

そして、交番へそれを届けるために商店街を抜けようとした、

その途中、何かを探している感じの女の子を見つけた、

この財布の持ち主ではないかと思い声をかけた、

ぴんぽ〜ん。正解、

さぁ、青の人何番?

2番、

ぽーんぽーんぽーん、

青の人トップに立ちました!

って、落ち着け、俺。

アタック25ごっこやってる場合じゃないだろ。

とにかく、その女の子は財布を届けた俺に感謝してるようで先ほどから何かお礼をと言って聞かない状況なのだ。

ちなみに、財布を拾って届けただけなら彼女もこうもしつこくは言わなかったことだろう。

届けた財布についていた小さなウサギのマスコット人形がなくなっていたらしく、財布を受け取った後、俺にしきりに礼を言った後また同じように地面を見つめ探し物を始めた訳なのだ。

コレで放っておくというのは……と考える以前に俺は動き出していた。

『で、どんなウサギなんだ?』

『え?』

『どんなものかわからないと探しようがないだろ?』

『え、あ、えっと、ピンクの小さな…えっと、3センチくらいのものです……』

結局その後二人で俺が財布を拾った場所まで戻りあたりを探した、

俺が財布を蹴った時に外れたのでは、という危惧があったからだ、それならば俺の責任だ、こうして探すのも当然のことだろう。

そして、その推測は正解だったのか俺が財布を拾ったすぐ傍にそのウサギはあった。

『コレか?この不思議な二足歩行タイプのウサギ』

『あ、はいっ、それです!』

『ん、よかったな、それじゃ、俺はこれで』

その不思議なピンクの直立ウサギを手渡して家ヘ戻ろうとしたのだが、

くんっ

『……』

なにやら服の裾が引っ張られた感じがして後ろを振り向くと、その女の子が俺の服を掴んでいた。

『あの、何かお礼をっ!!』

という訳だった。

 


でも、やっぱりまいがすき☆


 

もうかれこれ5分は押し問答。

女の子は俺が一向に譲らないのを見て眉間に皺を寄せて綺麗な顔をしかめていた。

そう、目の前の女の子は綺麗な子だった。

おとなしそうな雰囲気を持ち綺麗と形容できる容姿、舞や名雪も美人の類だが、その二人とは違った意味で目を引く女の子だ。

俺の中でこの子はお嬢様決定だ。

なぜなら髪型がお嬢様を物語っているのだ。

雰囲気もそんな感じなのだが、髪型が長い艶のある横の髪を一部後ろに持っていきリボンでまとめている。

コレを俗に「お嬢結び」という(ことに俺はしている)髪型である。

つまり、この子はお嬢様だ。

まだ絶滅していなかったんだ、けどレッドデータだろうな。(←絶滅危惧種)

ワインレッドの高そうな長めのコートをしっかり着込んで寒さをしのいでいる姿もどことなくお嬢様っぽい。

などとしみじみ考えていたのだが。

「あの……?」

女の子は物思いにふけっていた俺を訝しげに見上げていた。

「あ、いや何でもない、ちょっと地球の未来について考えていただけだ」

「ふぇ〜。凄いんですね」

素直に感心されると少々心苦しいが、とりあえず少し話をそらすこと成功。

「じゃあ、そういうわけで、俺には使命があるからこの辺で…」

「け、けど、あなたの使命も大事だとは思いますけど、あなたの氏名をお教え願えませんか?」

「……」(←考え中)

「……」(←上目遣い)

「……」(←理解した)

「……」(←不安)

「……上手いな、今の」

「はい、ちょっと自信作です」

えへん、という感じに小さく胸を張って笑顔で答える女の子。

なんだか意地になって名前を教えるのを拒否しているのがバカバカしくなった、

まぁ、それほど彼女にとってこの謎ウサギが大事なものだということなんだろう。

それにもう結構時間も経っている、いいかげん戻らないと夕食のおかずを待っている二人と一匹に悪い。

「……相沢祐一だ」

「あいざわ、ゆういちさんですね……倉田、佐祐理といいます」

彼女、倉田さんは俺の名前を反芻した後、自分の胸に左手を当てて名前を名乗った。

くらたさゆり、なんとなくぴったりだ。

なんというか、彼女は見た感じ『くらた』という感じで、

雰囲気が『さゆり』という感じだ。

……悪かったな語彙が貧弱で。

「それじゃあ、俺そろそろ戻らないと」

「あ、はい」

名前を聞いたことで、とりあえず納得してくれたのか、今日のところは解放されたらしい。

まぁ、そうそう再会するなんてこともないだろう、ただでさえ、この街で名雪を皮切りに再会ラッシュをしてきたんだ。

そんなわけで、別れ際何度も頭を下げる彼女を帰るように促した後、俺もようやく水瀬家への家路についた。

「ただいまー」

ちょっといろいろあって疲れたので間延びした声を出し玄関からリビングへ、

ソファで名雪がテレビを見ていたのかテレビをつけたままの状況で俺の方に向き直る。

「お帰り、祐一遅かったね」

「すまん、ちょっといろいろあってな、じゃあ、食事にしようか」

俺は偉そうに言って袖を捲り上げる真似をする。

「……祐一、料理出来るの?」

「……とりあえず『ザ・シェフ』は全部読んだぞ」

「幻になられても困るよ……」

「まったくだな」

「それ以前にもう準備出来てるよ」

「先、言えっ」

という問答もあったが、俺は財布と買って来た惣菜などを秋子さんに渡した。

そのままでも食べられるのだが秋子さんはそれに少し手を加えて水瀬風味を付ける。

この辺は職人芸だろうか、ともあれ、食卓並んだ惣菜は元の物より祐一比1、8倍の美味しさになっていた。

恐るべし秋子マジック。

まさにメイクミラクル。

「お母さん、これ美味しいね」

名雪が感動している俺の横でのんきに料理の感想を言う。

「簡単よ、名雪にも出来るわ、これはね砂糖を少しかけると味が深くなるのよ」

「え?これ砂糖かかってるの?そんな感じの味しないのに……」

「うふふ、そんなものなのよ、料理って」

さも当然のように、こともなげに言う秋子さん。

こ、これが『料理の方程式』かっ!?

半ば暴走しかけている俺の思考。

「うまいッス!秋子さん最高ッス」

何故か体育会系モードに突入。

「うふふ、祐一さんが美味しそうに食べてくれるものですから張りきったんですよ」

にっこりと目を細めて微笑みながら嬉しそうに秋子さんが返してくれる。

「…………」(←感動中)

「…………」(←微笑中)

「……感激ッス!!」(←体育会系モード続行中)

「たくさん食べてくださいね」(←止めの微笑み)

「ラジャー!!」(←軍隊モード突入)

不思議な雰囲気のまま、食事は進み、俺の隣で名雪はポツリと

「楽しそう〜」

と呟いたとか。

時間は進んで夕食後。

秋子さんが腕によりをかけて作ってくれた料理をコレでもかと言うほど食べた俺は現在ソファの上でくつろいでいる。

っていうか、食べ過ぎて動けない。

うぷ、下向くと辛いぜ。

お腹がぱんぱんに膨れ上がってる感じがする。

「祐一、大丈夫?」

そこへ、風呂から上がってきた名雪が苦しそうな表情の俺を見つけて声をかけてきた。

「うむ、妊娠8ヶ月だからな」

「わ、お父さんは誰?」

「秋子さん」

「あらあら、じゃあ責任を取らないといけませんね」

俺と同じようにリビングでくつろいでいた秋子さんも自分が話題にされているのを聞いて話に混ざってくる。

「そうですね、結婚しましょうか、秋子さん」

「ええ、式場は玉姫殿ですかね」

「わ、祐一がお父さんになっちゃうよ、ダメだよそんなのっ」

「ちがうぞ名雪、俺がお母さんだ」

「わたし、お母さんが二人にっ!?」

「と、そう言うことで風呂行ってくるわ」

少々混乱気味の名雪をおいて、俺は風呂に向かうことにする。

お腹が苦しいのでちょっと胸を張った形でリビングを出て行く。

ドアを開け、外に出ようとしたところで、

「いってらっしゃい、あなた」

ごんっ

思わず扉にぶつかる。

そりゃ、凶悪です、秋子さん。

「うう〜、祐一とお母さん凄い仲良し……」

そう言う問題でしょうか、名雪さん。

ともあれ、そんな事件も慎ましやかに過ぎていき、今日と言う日が終わりを告げる。

俺は布団の中でお腹の心地よさを感じながら眠りについた。

……

『あさー、あさだよー、朝御飯食べて学校行くよー』

「今日は日曜日です」

やる気なさげな従姉妹の声がする目覚まし相手に起き抜けにツッコミを入れて日曜が始る。

そんな自分が誇らしい。

昨晩次の日が日曜だと忘れて目覚ましをかけてしまったのだ。

日曜の朝から起きてしまったのは大失態だ。

などと考えながらいつものクセでつい着替えを済ませている。

そんな自分がいとおしい。

折角なのでキッチンに向かうことにする。

キッチンに入ると秋子さんが1人。

マコトもまだ寝ているのだろうか、静かな部屋でのんびりしていた。

「朝御飯、食べますか?」

微笑みながら秋子さんは俺に訊いて来る。

そう言えば、昨夜アレだけ食べたというのにもうお腹がすっきりしている、コレも秋子さんの料理の方程式の一つなのだろうか。

結局、促されるままに朝食を取り、健康的な日曜日を過すことになったのだが、午前中ってのは結構することがない。

部屋に戻った俺は何をしようかとりあえず本棚を眺めてみる。

カラッポじゃん。

まだ引っ越してから部屋の整理してなかったな。

それからはじめようかとも思ったのだが、まだ名雪が寝ているのにガタガタうるさいのは安眠妨害だろう、もっともその気遣いも意味がないとは思うのだが、とりあえず今はやめておこうと言う結論に至った。

で、どうするか。

部屋を見渡して見る。

殺風景な部屋、

机や棚、ベットは秋子さんと名雪が用意してくれたものだ。

まだほとんど使ってないが。

あとは、机の上に俺のカバンが、

前の学校と授業の進度が違っていたことを思い出す。

……べ、勉強して見るか?(←自分の中に出て来た思いがけない選択肢に慌てている)

そ、そして、そのまま何を思ったのか、べ、勉強するべくカバンを……(←動揺)

開けて閉める。

……教科書ねぇんじゃん。

明日にはくるらしいけど、今は何も出来ない状態だな。

ふむ、できん勉強はするなという神の思し召しだな。OK解ったぜ神様、俺はこれからもバリバリ勉強しないぜ。

間違った神の教えを胸に、結局小物だけでもと簡単な部屋の整理をすることにしたのだった。

で、気がつけば12時過ぎ、はっきり言ってぜんぜん進まなかった。

大きなものを片付けないと小さなものは動かしにくいもので、本当に小さな手荷物だけを動かして終わった。

そうこうしてるうちに昼食の準備が出来たようなのでキッチンへ向かう。

キッチンに入ると、いつの間に起きていたのか名雪も既に来ていてテーブルについていた。

俺がテーブルにつくのを待って秋子さんが昼食を用意、いつも通りに3人と1匹の食事が始った。

途中、昨日の夕食が素晴らしかったので言い忘れていた財布拾いました事件のことや、軽い雑談など交えながら楽しい水瀬一家の昼食は過ぎていった。

現在は、昼食後。

それぞれ思い思いに過していた。

秋子さんはキッチン。

名雪はリビングでテレビ。

マコトは今日は天気がいいので庭で日向ぼっこ。

俺はリビングで新聞を読んでいた。

うわ、ローカルニュースが大根の話題だ……田舎の冬だなぁ。

「ふぁ」

ソファに座っていた名雪から眠そうな声があがる。

「大丈夫か?」

「わたし……夢の中……」

「いつもだろ、それは」

「くー」

「寝るんならちゃんと寝ろ」

「……テレビ」

「寝てたら一緒だろうが、録画しといてやるよ」

「うん、お願い」

それで満足したのか名雪はそういい残してふらふらとおぼつかない足取りでリビングを出て行った。

さて、録画、録画、空のテープはコレで……三倍でいいかな?

ういーん。

時間を指定し、録画のセットをしてミッションコンプリート。

仕事も終わったので部屋でも片付けることにしよう。

もう昼過ぎで、名雪が寝ているがコレを待っていたら冬が終わっても俺の部屋はあのままだろう。

だいたいちょっとやそっとじゃ起きない気がするし。

と、いうことで俺はリビングを後にする。

「祐一さん」

廊下に出たところで、いつの間にこちらに来ていたのだろうか、秋子さんが俺を呼び止める。

「名雪、知りませんか?」

「名雪なら、たぶん今ごろ夢の中です」

「そう、困ったわね……」

まったくもって困ったように言わない秋子さん。

謎が多すぎです。

「何か困ることがあるんですか?」

いや、困ったように見えてないんだが、コレはコレ、訊いておかねばなるまい。

「ちょっと、用事を頼みたかったんだけど……」

「それなら、代わりに俺がやりますよ」

折角暇を持て余してるんだ、世話にもなってることだし俺がやれることならやるべきだろう。

気を使われるより、家族として気軽にものを頼まれてみたいと思っていたところだからな。

その辺、秋子さんも承知しているようで、

「それなら祐一さんにお願いしようかしら、晩御飯の買い物に行くんですけどね、手伝ってもらえるかしら?」

「ええ、構わないですよ、お手伝いさせていただきますよ」

「お米を買うのでちょっと重いけど、よろしくね」

「ええ、それじゃ、今からですか?」

「ええ、少し準備をしますので、祐一さんも寒くないようにしてきてくださいね」

「はい」

そんなわけで今から2人でお買い物だ。

俺は部屋へ戻って掛けてあったコートを羽織る。

そして、そのまま急いで玄関に向かうと、もう秋子さんも準備を終えていた。

早いって。

とは言っても秋子さんも結局準備はコートを羽織っただけのようだ。

いつものカーディガンの上から薄いクリーム色のロングコートを羽織っているが、そのコートはウエストのところで絞られていてベルトがついている。

パッと見なかなか格好の良いコートだ。

ますますこの人が俺と同じ歳の娘がいる母親に思えなくなってきた。

俺の姉と紹介しても誰も疑わなさそうだ。

「では、行きましょうか」

俺のそんな考え事を中断させて、秋子さんは買い物袋を手に外出を促した。

つーか、そのコートと買い物袋はミスマッチです。

……。

寒いとはいえ、天気がいいので日差しが暖かい。

もっとも、気休め程度だが。

風がふけば思わず身をすくめるくらい寒いのは事実。

それでもこの地方でこの時期に太陽が見えるのはなかなか珍しい、普段はどんよりとした雲が空一面を覆っている。

実はその方が雪国としてはいいのだ。

雪で反射した太陽の光というのは酷く眩しく目に付き刺さるように痛く感じるものなんだ。

寒さに加え、目の痛さ。

結構厳しいものである。

が、秋子さんは顔色一つ変えないでにこやかに歩いている。

商店街についても別に寒さは変わらないのでいいかげんあきらめるべきであろう、開き直って寒さと向かい合って見る。

「……」

やめる。

などと、隣で甥がくだらないことをしているのを知ってか知らずか秋子さんはそこいらの店でいろいろ商品を見繕っていた。

俺はおとなしく後を付いて回って秋子さんの買い物状況を分析。

店の親父さんたちが愛想よく値引きをしてくれている。

美人は得である。

同じ立場なら俺でも値引きするんだろうな…。

そんなことを思っているうちに秋子さんは米屋に入り、コシヒカリ20Kgを3袋購入。

合計60Kg。

どう見たって秋子さんの体重より重い。

なるほど、俺はこのために付いて来たわけだ。

まぁ、俺が気づくのとほぼ同時に秋子さんが口を開いた。

「祐一さん、このお米お願いできますか?」

「あ、はい、もちろんですよ、そのために付いて来たんですから」

「助かるわ」

眩しいばかりの微笑をこぼしながら秋子さんは米を俺に手渡す。

いや、当然ですよ、このくらいしないとバチが当たります。

が、

秋子さん、その60Kgの米を平気な顔して手渡さないでください。

見た目よりずっとパワフルなんですね。

……おもてぇー。

「本当、祐一さんがいてくれて助かるわ」

ははは、お役に立てて光栄です……。

「今日は日曜ですから、結構人があふれてますね」

独り言なのだろう、秋子さんは商店街に出るとあたりを見渡し静かに呟いた。

しかし、俺が見るにその商店街の様子は人があふれる、というものではなく、どちらかと言うとまばらな感じがした。

田舎、だからこんなものなのだろうか、

とにかく、あふれているのは雪だと思うんだが。

そして、そんなことを考えているうちに秋子さんは今日の買い物すべてを終わらせたようで、二人で家路についた。

そのときである。

べちっ。

「うぐぅ……」

誰かがこけたような音と奇妙な呟き。

ぱんぱんぱん。

「……あゆちゃん、真っ白だよ」

「うぐぅ……ありがとう〜」

服の雪を払っているような音と知った声二つ。

「あ、舞さん、ボクの服より早く行かないと祐一君逃げちゃうよっ!」

「そ、そうね、逃げられちゃうわねっ!」

「逃げねぇよっ!!」

何やら逃亡犯のような扱いをされている俺は声のする方に振り向きざま叫ぶ。

「うぐっ!?」

「はうっ!?」

振り向けば、予想通り視界には長いポニーテールと羽の付いたリュックが入ってきた。

が、思わず、そこで俺の動きが止まる。

問題は二人の服装だ。

あゆは例によって前回同様のダッフルコートに羽リュックと代わり映えがないのだが。

問題は舞である。

さすがに日曜日、制服ではなく私服なのだが、

黒のレザーのロングコートで腰を付属のベルトで縛ってある、背が高く、スタイルがいいだけに映える映える。

なんつーか、反則もので格好いい。

あゆと二人並んでいる姿はものの見事に凸凹コンビである。

「祐一さんのお友達ですか?」

状況を見守っていた秋子さんが固まっている三人を見比べて話をふってくる。

「ええ、学校の先輩と……その娘です」

なんとなくいたずら心が芽生える。

「誰がだよっ!!」

「あたし子持ちっ!?」

二人はそれぞれ抗議の声をあげてくる、そりゃそーか。

「あらあら、父親は、祐一さん?」

秋子さんも笑いながら軽く冗談で返してくる。

「そうですよ」

すかさずそれに答える舞。

「舞っ!?」

「うぐぅ……祐一君お父さんなの?」

「まてやっ!」

「ダメですよ、祐一さん、ちゃんと認知しないと」

「そうね、とりあえず籍を入れるだけでいいわよ♪」

「だから待てや」

よもや自分で振ったネタに追い詰められるとは……。

「……えっと」

ここで、あゆは秋子さんと俺を見比べ俺に視線を向ける。

要するに俺と秋子さんの関係を訊いているのだろう。

さすがにこれ以上のネタは自分の首を絞めそうなのでまともに答える事にする。

「ええっと、こちらは水瀬秋子さん、俺が居候させてもらってる家の家主さんだ」

とりあえず、俺が場を仕切って二人に説明。

「やぬしってなに?」

あゆは真剣に聞いてくる。

「……やぬしっていうのは始まりの神のことよ、英語の1月がJanuaryなのはココから来てるの」

「舞っ、それはヤヌスだっ!」

「土星の第6衛星ですね」

「秋子さん、それもヤヌスですっ!」

「うぐぅ……で、やぬすってなに?」

「あゆ、間違ってるぞっ!?」

などと紆余曲折があったが、どうにか家主の何たるかをあゆに伝えることが出来た。

……秋子さんと舞っていいコンビかもしれない。

薄いクリーム色のコートを羽織る秋子さんだが、見ようによっては白のコート、見た目は俺と同い歳の娘がいる年には見えない。

で、黒のコートの舞。

どちらもスタイルがいいので並ぶと様になる。

まぁ、買い物袋はアレだが。

……次行こう、紹介続行だ。

「で、こいつは月宮あゆ……だったよな」

「よろしくお願いしますっ……って憶えといてよ祐一君……」

「月宮あゆ……ちゃん……?」

わずかに秋子さんは表情をかえて首を傾げた。

とはいえ、ほとんどその仕草は表面に出ていない、本当にごくわずかなのだ。

少し様子のおかしい感じのする秋子さんを黙ってみていたが、それに気づいたのか秋子さんは何事もなかったかのようにいつもの秋子さんに戻った。

「よろしくね、あゆちゃん」

「はいっ」

はたから見てても気持ちのいいくらい元気な娘さんだ。

「で、こっちの黒いのが川澄舞って、うちの高校の先輩です」

「黒いのって…よろしくお願いします」

こっちはあゆとは違って落ち着いた感じでの挨拶。

こう言う仕草は大人っぽいんだな、舞は。

「川澄舞さんね、こちらこそよろしくね」

「はい」

そんなこともあって現在帰り道。

「祐一君の部屋ってどんなんかな?」

「物色、物色♪」

「片づけが終わったら、美味しいコーヒーとカステラを用意しますね」

「「わーい」」

「……」

二人もついて来ることになっていた。

ことは俺の事情。

この後の予定を二人に訊かれたので、俺は前からせねばならんと思っていた部屋の片づけをすると言ったのだ。

『じゃあ、ボクも手伝ってあげるよ』

『あ、あたしもっ』

と言う流れだ、とりわけ断る理由もなかったし、実際一人ではきついと思ったので折角だから二人に頼むことにしたのだ。

「カステラ、カステラ♪」

「コーヒー、コーヒー♪」

なんとなく、不安なのは気のせいだろうか。

俺、秋子さん、舞、あゆ、と一見何で一緒にいるのかわからないバランスが取れてないような四人は一路水瀬家へと向かった。

……

「「おじゃまします……」」

現在水瀬家。

あゆと舞は玄関をきょろきょろ見渡しながら遠慮がちに挨拶をする。

「……なんかいつもと違うな二人は」

「いつもって、祐一くんからみてあたしたちってどんなんなの?」

「元気」

「うぐ? ボクいつでも元気だよ」

ああ、そんな感じだ。

「あ、お米はココでいいですよ」

秋子さんがお米を玄関に置くように指示するので、俺は素直に従い目の前の廊下に下ろしておく。

さすがに60Kgは重たかった……。

「祐一さん、結構力持ちなんですね、コレならお姫様だっこも軽く出来そうですね」

確かに、60Kgの米を抱えて商店街から歩いてこれるのだ、そのくらいは出切るだろう。

が、例えが悪過ぎる。

「……」

「……舞?」

なんですか、その何かを懇願するような目は。

「……」

「……さ、片付け始めようか」

反則技:美少女の上目遣いをどうにか流して俺は二階へ上がろうとした。

「……つれないよ、祐一くん」

そういう問題ですか?

そうこうしている間に秋子さんは軽く俺たちに一言残してキッチンへ。

多分カステラの在庫でも確認してるんだろう。

「わぁ、おっきな家」

あゆは感心したように家の中を堪能中。

「何人で住んでるの?」

「えっと、俺と秋子さんと俺の従姉妹の3人」

あと、マコトがいるがアレは何人で数えられないので保留。

「じゃ、行こうか」

俺とあゆの話に一段落ついたのを見て、舞が片付けを促した。

そこで二人が詰まれたダンボールに気づく。

「……コレが引越しの荷物?」

「結構あるんだね」

「やめるなら今のうちだぞ」

「まさか、ココまで来てやめたりしないよ」

「うん、カステラが待ってるんだもん」

「……あゆだな」

「……ええ、どこまで行ってもあゆちゃんね」

「……うぐぅ?」

俺の部屋の片付けは本当に大丈夫なのだろうか?

多々不安を残しながら、俺たちは持てそうなダンボールを手にまだ何もない俺の部屋に向かい階段を上った。

 

つづく


ひとこと

……誰がヒロインかわからん。

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