「しかし、凄いなこの重箱」

俺は目の前に並べられたお弁当と称される重箱を眺めて驚いた声をあげた。

それもそうだろう、たかだか高校の昼食のお弁当にコレだけ豪華なものを用意するなんて凄いを通り越してミラクルだ。

入れ物である重箱もなにやら只の重箱ではなさそうな厳かな雰囲気を醸し出しているが、

お弁当である以上問題は中身だ。

見た感じどれも美味そうだ。

ちゃんと、冷めても美味しいものを用意してある細かな心遣い、

勧められるままに早速少しイビツに割れてしまった割り箸をのばす。

うむ、ちゃんと一口サイズ、

そして口に含みゆっくりと咀嚼。

……。

▽ゆういちはかんどうした。

おのれ、コイツは今までこんな素晴らしい弁当のご相伴にあずかっていたのか。

うらやましいぞ、舞。

「あははー、慌てなくてもまだ沢山ありますからね」

にこにこと、心なし動きが速くなっていた俺の箸を見てか目の前の上品そうな女性が話し掛けてくる。

「いやぁ、本当に美味しいですよ、ご馳走になります倉田先輩」

何の因果か、昼時ぶらぶらしていた俺は舞とその友人である倉田先輩の誘いもあり、こうして一緒に昼食をとっているのだ。

倉田先輩は人見知りもしないようだし、俺が舞の友人だということもあり、先日の財布うんぬんもあるからか、ひどく好意的だ。

場所は階段の上ったところ、屋上の一歩手前の踊り場。

レジャーシートを敷いてまるでピクニックだ。

「ふふん、佐祐理は凄いでしょう、祐一くん」

嬉しそうに、そして何故か偉そうに舞が友人のことで威張る。

何故あなたが自慢するんですか?

と、ツッコム前に当の倉田先輩は気にした風でもなく俺に話し掛ける。

「あ、相沢さん、私のことは佐祐理でいいですから、もっと気楽に付き合ってくださいね」

うわ、気さくないい人だよ、この人。

「あ、それだったら、俺も祐一でいいから」

「はい、わかりました祐一さん」

「何より、えーと、佐祐理さんの方が年上なんだから敬語はいいよ」

「えーと、じゃあ、祐一くん、これからよろしくね」

にこっ、と花が咲くような笑顔で挨拶される。

頬が上気してしまいそうな状態に陥りながらもこちらもよろしくと伝える。

「で、このお弁当は全部佐祐理さんが作ったのか? 凄いな」

「ええ、でも毎日やってることだから」

コレだけのお弁当をこともなげに毎日やってることだからと片付ける佐祐理さん。

「しかし、祐一くん、コレだけで驚いてちゃ佐祐理は語れないわよ」

次いで舞が佐祐理さん列伝を語りだす。

いや、俺別に語るつもりはないんですけど。

「佐祐理はお料理が上手いだけではなくて、成績もTOPクラスだし運動神経もいいと来てて、さらにその上良家にお嬢様なのよっ!!」

どどーん。

まるで舞の後ろから佐祐理さんの方へ流れていく効果音があるかのように大げさな身振りで話す舞。

その姿はどことなく通販番組のアメリカ人だ。

しかし、話している内容は実際に凄いことだ。

それだけのステータスを持ちながら嫌味な感じもなければ、俺の第一印象でも佐祐理さんは美人の類、

っていうか、凄い美人。

舞と並んでりゃそりゃ絵になるっつーかなんつーか。

でもっておっとりした春の日差しのような性格の人。

なんつーか、ぱーへくと?

思わずじっと見つめてしまう。

「あはは、そんなことないよー」

ちょっと目をそらして照れたようにはにかむ。

そんな仕草もお上品である。

しかし、

「で、舞はどうなんだ?」

「え? 何が?」

「何がって、料理や成績、運動神経などなどだ」

「……う、運動神経はなかなかよ」

「いや、佐祐理さん、コレ本当美味しいよ、いいお嫁さんになれるな」

「あははー、ありがとうございます☆」

がすっがすっ。

予想通りの舞の答えから、流れを持って佐祐理さんを持ち上げてみたのだが、

妙な音を耳にして横を振り向くと、

「…………」

舞が壁を殴っていた。

「……一ヶ月……一ヶ月あれば……」

……コブシは大事にしような。

 


でも、やっぱりまいがすき☆


 

「あっしには関わりねぇことでござんす」

寝起き一発机の上に置いてあった串をくわえて眠気を吹き飛ばす。

飛んだかどうかは別問題だが、とにかく今日も朝が始まる。

こんなところに串が置いてあったのは昨夜すっかり捨て忘れたからだ。

うむ、尖ったものは危険だ、危険なのでさっさと捨ててしまおう。

……いや、惜しいなんて思ってないぞ、思ってないからな、俺。

涙目なのはきっとまだ眠いからだ、

朝日がそうさせたんだ。

そうに決まってる。

だから俺は串を捨てる……

のは、まぁ、帰ってきてからでもいいかな。(←なにか愛着が出来たらしい)

などと、アホなことを考えながら俺は着替えを済ませて廊下に、

そのまま連日の教訓でか名雪を扉の前から起こす。

心もとない返事が返ってきたのを確認して一階に向かう。

こまごまとした準備を済ませてキッチンに入るといつものように笑顔の秋子さんが出迎えてくれる。

マコトもこんな時間から起きだして来ていて自分の食事をおとなしく食べている。

俺もマコトと一緒に食事をとることにしたのだが、

「おはようございます……」

後ろで眠そうな名雪の声が聞こえて、席につこうとしていた秋子さんとほぼ同時に声のほうに向き直る。

「……」

「……」

「……うにゅ」

「……そりゃ、なんだ?」

「けろぴーですよ、祐一さん」

眠たそうな名雪は大きなカエルのぬいぐるみを抱えて立っていた、

不思議に思って声をかけた俺の質問に答えたのは秋子さん、

あまり驚いてないところを見ると、もしかするとこの不思議な光景は珍しいことではないのかもしれない。

「うん、けろぴー」

秋子さんの言葉を受けてか、名雪は嬉しそうにぬいぐるみを強く抱きしめる。

当然だが、まだ名雪は寝ぼけている。

「けろぴーはココ」

名雪はわざとやってるんじゃないかと思うくらい正確にいつもの席につくと、隣にけろぴーとやらを座らせる。

マコトといえば、ちらとけろぴーを一瞥するとすぐに興味を失ったようでまた自分の食事に集中していた。

マコトまでが驚かないところを見ると、本当に当たり前の光景らしい。

恐るべし、水瀬家。

俺はココでやっていけるんでしょうか、母さん。

「家族が増えて嬉しいわ」

俺が、唖然とする中、

名雪が寝ぼけながらも食事をとる中、

マコトがいつも通りとばかりにくつろぐ中、

秋子さんはのんきに場を締める。

父さん、俺は今しがた不思議な家族が出来てしまったようです。

「けろぴーはね、せんたくきであらってももとにもどるんだよ、ゆうしゃなんだよ」

「……そうですか」

「あらあら」

……

というわけで、どういうわけかさっぱりわからないが俺たちは雪の通学路を走っていた。

食事が終わって名雪が起きて、

まだパジャマで着替えに時間がかかって、

ぬいぐるみが部屋からなくなってると騒いで、

気がつけば走っているわけだ。

……名雪が起きたのが敗因か。

寝ぼけたままの方が動きがよいという可能性も否定できない、

何しろ、名雪だからな。

今度是非試してみよう。

「どうして、起きられないんだろうね?」

現在走っているまさにその原因が他人事のように重大事項を呟く。

「どうしてって……夜更かししてるわけじゃないしな、名雪は」

だからこそ性質が悪い。

強いて言うなら『名雪だから』だ。

「うん、ずっと、努力はしてるんだけど……何かいい方法ないかな?」

「……そ、うだな……」

陸上部の名雪についていってるため少々息を切らしながら名雪の朝の対策を考えてみるが……。

「……諦める、かな?」

「うん、そうだね」

「いや、あっさり諦めんなよっ!」

「冗談だよ〜、悪いと思ってるんだよ〜」

不毛な会話を繰り広げながら俺たちは学校へと雪の道を急いだのだった。

ようやく同じ制服が見え始めたと思ったところで学校に到着、

予鈴が鳴り響く中、そのままの勢いで教室に向かう。

どうにか時間内にたどり着き、机に突っ伏したところで担任が教室に入ってくる。

俺は息を整えるだけで精一杯、

隣の名雪を見ると、もうすでにうつらうつらしていた。

ココまで来るともう賞賛しか出てこない。

そんな名雪を尻目に、香里の様子を視界の端で覗き見る。

見た目はいつもと同じ、

いや、知り合ってから数日しか経っていないので『いつもの』というと語弊があるだろうが、とりわけ落ち着いて見える。

やはりおかしな感じだったのは昨日の午後だけのようだ。

俺たちが来たときには当たり前に教室にいて、

いつものことと言わんばかりに名雪にあきれた表情を向け、

これといった表情を出さずに黒板に向いている。

あれこれ訊けば、おそらくはまた昨日のようになるのか、

いや、香里のことだから昨日のを失態と考えて何事もなく振舞いそうな気がする。

……まぁ、俺があれこれ考えても仕方がないことだろうとは思うが。

「……すー」

親友の名雪がこれだしな。

香里関連は北川に任せて俺もゆっくりしよう、さすがに疲れてる。

「……んー」

まったく、アレだけ走った後によくこんな普通に眠れるもんだ、普通は目が覚めるだろうアレで。

まさに天晴れ。

一時間目が体育だというのにこのありさまだ、改めて名雪のすごさを思い知らされ……。

……。

え?

一時間目体育?

考え事をしているうちにHRは終わったのかあたりをきょろきょろと見渡すとみんなが一時間目の準備をしている。

あー。ほんとに体育?

「ほら、名雪早く更衣室行かないと遅れるわよ」

面倒くさそうに香里が寝ている名雪を半ば強引に引っ張っていく。

香里も慣れてるんだろうな、こういう状況は。

しみじみと、一時間目の地獄を逃避するようにいとこの生態を思案していると、

「相沢、今日はマラソンだから面倒だな」

北川の追い討ちがあった。

今、走って来てようやく呼吸を整えたのにですか?

「マラソン?」

「ああ、しかも校庭をだぜ、景色かわらねえしやってられねぇよな」

ぷりーずへるぷみー。

途中、

今日の俺はどこまででも走れそうなくらいエンドルフィンが分泌されたり、

まるで天に昇っていくような心地で走り続けたりということがありながら、

もはや自分以外の誰かが体を動かしている(とでも考えなければやってられない)ような状況で気がつけば2・3・4時間目の授業すら記憶にないまま昼を迎えていた。

途中、綺麗なお花畑が見えたのは気のせいだろう。

「祐一、昼休みだよ」

半ばくたばっている俺に名雪が嬉しそうに寄って来る。

「…………」

「? どうしたの祐一」

「……つかれてる」

「お昼はどうするの?」

「ちょっと休んでからにするよ、名雪は気にせず食べてくれ」

「……うん、わかった、けど香里知らない?」

「え?」

まだ体が思うように動こうとしない俺は名雪の話を聞いて何とかあたりを見渡してみるが、確かに香里の姿は見当たらない。

「うーん、じゃあ、香里探してくるよ」

しばらくして、名雪は俺が本当に動きそうにないというのを感じ取ってか教室の外へ出て行く。

まぁ、俺がこうなっているのは名雪のせいなのだが、

去り際に『朝はごめんね』と残していったため怒るに怒れない。

アレで名雪も結構気にしているんだろうな。

そんなことを考えつつ、俺は筋肉が張っている感じの体を強引に動かして、ゆっくりと食事を取るために食堂の方に向かう。

確か、食堂は購買も存在していたはずなので、今日の昼食はそれでまかなうとしよう。

教室を出て食堂に向かう。

昨日北川たちに教えてもらった食堂への通路を一人歩く。

まだ通るのは2日目なので正直今歩いている廊下が正しい道なのかはっきりとはわからない。

なぜ学校には案内板がないのだろうか。

よく考えたら図書室もわからんし、体育館への道もわからん。

……普通転校生には初日に案内がつくんでは?

などと、学校側の不手際を指摘していると階段の手前で突如女生徒呼び止められる。

「あのー」

その声に振り向いて見れば長い髪の大きなリボンをつけた少女。

ケープのリボンの色から上級生だとわかるが……

はて、俺は舞以外に上級生に知り合いなんていたかな?

「……あいざわ、ゆういちさん、ですよね?」

その女生徒はにこやかに、そして確認するように俺の名前を口にする。

「ああ、そうだけど……えっと」

何でこの女生徒は俺の名前を……

あれ?

どこかで見たことあるような……

「あの、先日はどうもありがとうございました」

先日、先日……

この女生徒の顔を見てて思い出したのは小さなウサギ。

そしてどことなくお上品な雰囲気。

そうだ、確かこの人は

「くらた、さゆりさん?」

ああ、あの財布の時のお嬢様だ、同じ学校の、しかも先輩だったんだな。

うむ、何かと俺は美少女に縁があるなぁ、俺の人生万歳。

んな不届きなことを考えていても、くらたさんは嬉しそうに話を続けてくれる。

「はい、先日は本当にありがとうございました、あの時はろくなお礼も出来ませんで」

「いや、だから気にすることは……」

くらたさんの言葉に気にすることはない、と返そうとした時だった。

「ごっめーん!」

遠くからひときわ通る元気が有り余ってることがわかりすぎるほどわかる、しかも嫌ほど聞き覚えのある声が響いてきた。

どう見てもこちらに、

いや、目の前のくらたさんに向けての声だった。

ほら、その証拠にくらたさんもその声の主に手を上げて答えている。

「あ、舞〜!」

うん、そうなんだよな、この声は舞だ。

……友達だったんですね、くらたさんと舞は。

世の中狭いねぇ。

「って、あれっ? 祐一くん?」

舞がくらたさんと俺の前まで来たときに、ようやく俺の存在に気がついたのか、驚いたような声をあげた。

それに合わせてくらたさんも驚いているのかいないのかよくわからないがなんとなく不思議そうな表情で俺と舞を交互にキョロキョロと見る。

うむ、そんな仕草もお上品。

で、時間にしてみれば非常に短い沈黙があった後、舞がたまりかねてか口を開いた。

「祐一くんと、佐祐理って知り合いだったの?」

もっともな質問だ、

当然、俺だけでなくくらたさんもこの質問が飛んでくることは予想の範囲内だったんだろう、その舞の言葉に答え……

ようとしたところで俺が遮った。

「うん、あいざわさんは……」

「許婚だ、親同士が決めた」

「ふ、ふぇっ!?」

「にゃっ!?」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……いや、そろそろ誰かツッコンでくれないか?」

「い、許婚だったんですか!? 知りませんでした……式場は平安閣ですか?」

「ノって来てるしっ!」

くらたさんもなかなかにいろいろすごい人だ、

楽しそうに言ってるあたりノリのいい人だと理解できる、

なるほど、一見お嬢様お嬢様していて舞とはつりあわないかと思ったが、なかなかどうしていいコンビのようだ。

つーか、どっかで似たようなボケを聞いた気がする。

などと、俺とくらたさんがよくわからない会話で盛り上がってるのか盛り上がってないのかもよくわからないまま話を続けていると、

先ほどまで魂が口からはみ出しているような表情で固まっていた舞が気がついたらしく、

がすっ! がすっ!!

無表情で壁を殴っていた。

それを眺めていて、くらた嬢が舞に一言。

「舞〜、親指は内側にたたまない方がいいよ〜」

俺は思った、

このくらたさゆり嬢、決してただ者ではないと。

ともあれ、何だかんだあって舞に事情を説明。

あのまま放っておいたら……それはそれで楽しそうだが壁がダメになってしまう。

折角の新しい校舎を壊すこともあるまいとくらたさんと協議の結果そういう運びになったのだ。

いや、協議なんかしてないけどな。

「なるほど、んで、佐祐理を助けて祐一くんは去っていったと」

で、納得したのか舞は事態を自分の中で整理している。

「いや、助けたって言っても財布届けただけだぞ?」

実際それでしかないわけなのだ、

まぁ、その他彼女が大事にしてたのであろうキーホルダーを見つけたりもしたが、それを助けたと感謝されても行き過ぎかと、

よっぽど大事なものだったんだな。

「で、舞もあいざわさんと知り合いだったの?」

舞が俺とくらたさんのことを自己完結で納得した頃を見計らってくらたさんが話しかける。

ああ、そういえばコレも当然の質問だな、くらたさんは俺と舞の関係は知らないんだし。

舞もそれを思い出したのか考えるような仕草を見せた後、

「ああ、うん、祐一くんはこの学校にやって来た、とある組織のスパイでね」

お前まだそれ引きずってたんかいっ!

「ふぇ〜、そうなんだ〜」

アンタもノリよすぎっ!

「うん、そこをあたしが捕まえて……

 

舞「さぁ、スパイさん、アナタの命運もココまでよ」

舞は片膝をつき息も荒く苦悶の表情を浮かべる祐一に勝利を確信して話しかける。

祐一「……ああ、確かにココまでのようだ」

その言葉に祐一も観念したのか自分の状況を理解して諦めとも取れる呟きを見せる。

舞「アナタはとても優秀なスパイだったわ、それはアナタと関わったあたしが一番わかってるつもりよ」

祐一「……その優秀なスパイを見つけた上に敗北の味をプレゼントしてくれたお前は何者だって言うんだ」

舞「いえ、今回は言うなれば運があたしに味方しただけ、まさに偶然だったわ」

事実、舞もココまで祐一には苦汁を飲まされ続けていたのだ、正体もわからず、いつ行動をしたのかすらわからない、

まさに完璧といっていいスパイ。

偶然でもなければとてもココまで来れなかったろう。

舞「本当、偶然とはいえ、あんなところに串が落ちてなければ気づかなかったわ」

祐一「くそっ、こんなことなら『ねぎま』など食べなければ……」

舞「しかたないわ、空腹時に店から漂ってくるねぎまの匂いの魔力にはオリンポスの神とて抗えないものよ」

そう、祐一は仕事の際に途中屋台のねぎまを購入していたのだ。そしてそれが今回の最大の敗因となったのだった。

舞「しかし、アナタは本当に優秀なスパイよ、あたしに着かない?」

コレまで祐一の能力を目の当たりにしている舞は、おとなしくココで投降して条件付でこそあるが、こちらに雇われてみないか? と言う誘いを祐一に提案した。

祐一「……見くびられたものだな、俺は内容はどうあれ自分の仕事に誇りを持っている」

舞の言葉に苦笑いを見せ、祐一は一言一言自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

祐一「誘って貰って嬉しかったよ、けど俺には俺のけじめがあるんでな」

語り、何かを悟ったように、笑顔で立ち上がりコートの内ポケットから出したスイッチを操作した。

舞「なっ!?」

突如祐一を中心に巻き起こる爆発。

舞「そ、そんな……」

突然のことに、信じられないという表情で立ち上る炎を凝視する舞。

舞「まさか……コレは自己犠牲呪文(メガンテ)……」

 

「と、言うことが……あれ?」

説明が終わるが自分で説明したくせに左手人差し指を口にあて何か納得いかない顔をしている舞。

「ふぇ〜、大変だったんだねぇ、舞」

こっちはこっちでしきりに関心しているご様子。

「つーか、俺死んでどうすんだよっ!!」

「おお、違和感の正体はそれかっ」

「アホかっ、スパイからいい加減離れろお前はっ、俺たちは子供の頃に知り合った友達で先日再会したっていう間柄ですくらた先輩」

まどろっこしいことをするといつまでも話が続きそうだったのであっさりと話を終わらせるために本当のことをくらたさんに説明する。

なお、ちゃんとくらたさんは先輩扱いだ。

「うん……でも舞」

「なに? 佐祐理」

「自己犠牲呪文(メガンテ)なら舞も死んじゃうはずだよ」

「しまった、盲点っ!?」

「……」

この二人、いろいろすげぇよ。

その後、

俺が昼食を取りに学食へ向かおうとしてることがわかってか、二人は折角だからと俺を二人の食事の席に誘って来た。

まぁ、舞は知った仲だし、

くらたさんも舞の親友だとかでいい人そうだし、

何より美人二人の誘いを断るなんて男には出来まい。

そんなこんなで俺は二人と一緒に階段を昇っていた。

二人はいつも階段の上、屋上手前の踊り場で弁当を広げるらしく、今日は俺はその弁当のご相伴にあずかるという流れになる。

うむ、なんだか申し訳ない。

「けど、あいざわさん、同じ学校の人だったんですね、縁がありますね」

にこやかにくらたさんが話しかけてくる、

実際まったくそのとおり、その上俺の友人の親友だなどとは思いもよらなかった。

「あらためてよろしくお願いしますね。私は倉田佐祐理といいます」

「あ、ああ、よろしく、俺は相沢祐一……ココの2年生で、漢字で書くとこう書く」

眩しい笑顔にちょっと押されながらも改めて自己紹介。

折角なので名前を指を動かし文字ごと教えてみる。

くらたさんもそれを見て同じように空中に名前を書いて文字を教えてくれた。

「倉田、佐祐理、こう書きます」

「ふーん、祐の字は同じだな、もしかすると生き別れの姉弟かもしれないな」

「あははー、それはいいですねー、でももしかすると本当に許婚なのかもしれないですよーっ」

目的地に向かう途中、俺の軽口に軽口で返してくれる倉田さん。

早速仲良くなって話を盛り上げていると。

がすっ! がすっ!!

舞が悔しそうに壁を殴っていた。

 

つづく


ひとこと

佐祐理さん、性格違う。

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