「北川くんっ!」

「あなたが北川くんですかっ!」

突然飛び掛るような勢いで北川に詰め寄る二人。

北川も何が起こったのか今ひとつわからないようで目を泳がせて詰め寄る二人を交互に眺めていた。

言うまでもなく二人とは舞と佐祐理さんだ。

「ダメじゃないの、昨日の誓いはどこへ行ったの!?」

「こんなことでは目標は達成できません、立ち上がるところを間違えてしまえば行き着くところは後悔ですよ?」

「将を射んとすれば先ずは馬、作戦は実行しなければ何の意味も無いのよ!」

「勝負事は常に行動が物を言います、待ちの戦法とて『罠を張る』という行動があってこその待ちなのですよ」

「動かない北川くんは負け犬、いえ、負け北川よっ!」

「そうです、略して『まけがわ』ですっ!」

コレは普通なんだろうとしか思えない二人のノリのよさ。

いつもこの調子なんだろうとしか思えない二人の息の合い方。

ネタ合わせしてるんじゃないかと疑いたくなるような掛け合いでどんどん話が進んでいく。

おろおろする北川を尻目に、どう見ても楽しんでいるとしか思えない。

楽しんでいるとしか思えないのに二人の表情は真剣そのものだ。

「昨日、高らかに宣言したアレはなんだったと言うの?」

悲しそうに舞が目をそらしてつぶやくが、

アレはお前に言わされたんだろうが。

「ええ、あの叫びは魂の叫び、人間、本心は偽れませんよ、そんな情熱を無駄にする気ですか!?」

と、一見真剣に北川のことを考えて熱く語る佐祐理さんだが、

アンタ昨日のアレ知らないだろうが。

しかし、そこで北川も根性を見せて反論をしようとする。

「い、いや、しかしですね、宣言も何も……」

するのだが、それはすっかり無かったことにされて話は続く。

「しかも、何? あんな寒いところに女の子一人立たせておいて、あたしたちはキミのために邪魔しちゃ悪いから行かなかったって言うのに……」

……いや、舞お前さっき栞の姿見て『忘れてたっ』って叫んだじゃないか……。

「北川くん、女の子にとって体を冷やすのはよくないことなんです、何かあれば責任をとるのは北川くんなんですよ」

佐祐理さん、正論のようにも聞こえますが、それは単なる押し付けです。

見ていることしか出来ない俺を尻目に二人の先輩方はヒートアップ。

この二人を敵に回すのは正直怖いな。

うん、勉強になったよ、ありがとう北川。

さっきから俺が思うだけで口にしないのは理由がある。

もうすでに、最初の二人が教室に乗り込んで来る段階で止めようと努力したのだが、

『『祐一くんは黙ってなさい♪』』

と笑顔で怒られたのだ。

俺は素直に思った、

正直、怖い、と。

音符がそこはかとなく恐ろしい、と。

はるか昔に偉い人が言いました。

君子危うきに近寄らず。

ごめん、

北川、

俺にはこの二人は止められないよ。

教室の中も静かになって二人の漫談家を唖然として見ている。

当の北川は腰が引けたまま言いたい放題言われていて、周りに助けを求めるように視線を巡らすが誰も近づこうとしない。

うむ、懸命な判断だ。

ちなみに俺は教室に入るなり名雪を捕まえ巻き込まれないように戦略的撤退。

いつしか舞と佐祐理さんは身振り手振りまで加わってオーバーアクションで話を大きくしていく、

実際、凄い才能だ、

しかし、本当に凄いのはコレだけ捲くし立てるように次々と喋りながらも肝心の『香里』『栞』に関してのことは一切伏せていると言うことだ。

隣で見ている香里もまさか話題に自分が絡んでいるとは思っていない様子で呆れるように騒ぎの中心の3人を眺めていた。

「そして、馬を射た北川くんは将の心を掴みハッピーエンドへっ」(←舞)

「まさに下克上っ!」(←佐祐理)

「人生は波乱万丈っ、線路は続くよどこまでもっ」(←舞)

「青春は暗中模索っ、海は広いな大きいなっ」(←佐祐理)

「男の生き様、歩く道はどこでどうなるかわからないっ」(←舞)

「さぁ、今まさに立ち上がるべきときです!」(←佐祐理)

「そう、今こそ!」(←舞)

「今こそ!!」(←佐祐理)

「「いんでぃぺんでんす、で〜い!!」」(←ハイタッチ)

「ときに北川暦17年1月半ばのことであった! あった! あった〜」(←舞・自前エコー付き)

き〜んこ〜んか〜んこ〜ん(←昼休み終了)

「……独立してどうするんだろうね?」(←名雪)

「きっと、素敵なことなんだろうよ……」(←祐一)

 


でも、やっぱりまいがすき☆


 

素晴らしく美味しかった昼食も終わり、

舞の壁殴りも一段落した眠気が襲ってくるような穏やかな時間帯。

俺と、舞そして佐祐理さんは屋上前の階段の踊り場から教室に向かうために空になった重箱を持って歩いていた。

もちろん、御相伴に預かったのだから、荷物持ちくらいは俺がすると申し出たが、

佐祐理さんはいつものことだからとお弁当箱やレジャーシートなどをそばにあったリュックに詰め込んで背負っている。

昼休みにリュック背負って歩いてる訳だから妙な感じなのだが、

佐祐理さんにいたっては不思議と似合うから困りもんだ、思わずこのままピクニックにでも行きたくなる。

美人は何かと得である。

そんなことを考えながら廊下を3人でふらふら歩いていたが、

あたりももう昼休みの残り時間が少ないことを意識してか廊下に出ている生徒はまばらだった。

俺たちもいい加減教室に向かわないといけない、

昼休み残り時間を佐祐理さんが自分の時計で確認すると後10分弱。

まぁ、とりわけ少ない、というわけでも無いのだが、予鈴も含めて10分なので余裕をもって行動したほうがいいだろう。

もっとも、俺はそんなことより、

「佐祐理さん、それ、懐中時計ですよね……」

彼女の持っている時計がやけに古めかしい立派な懐中時計であることが気になったのだが、

「ええ、私のお気に入りなんです」

穏やかな感じで語尾に音符が付いてきそうな語調で微笑みながら返して来た。

素敵な、

とても綺麗な笑顔。

アルカイックスマイルとはこういうのを言うのだろうと思う。

どことなく、秋子さんに雰囲気が似ているような、そんな錯覚におちいり、ついつい見とれてしまう。

「ちょっと早目にあわせてあるから実際にはもうちょっと時間があるんだけど」

と続けるも、その笑顔のため、

訊いてねぇよ、そんなこと、というツッコミも、

その懐中時計が顔に似合わす渋い趣味だなとも思ったことも、すっかりとプレアデス星団の向こうに旅立ってしまったようだ。

コレには谷村新司もビックリだ。

さらばスバルよ。

つーか、落ち着け、俺。

佐祐理さんに見とれてぼーっとしていた自分に気が付き、頭を振って誤魔化そうと頑張っていると、

「実はね、あたしと佐祐理はおそろいの懐中時計持ってるのよ」

こちらは語尾に☆が付いてるような勢いで笑顔で説明してくれる舞。

「ふーん」(←棒読み)

「……」(←舞)

「あははー」(←佐祐理)

「……」(←祐一)

「……」(←舞)

「あははー」(←佐祐理)

がすっ、がすっ。

俺のいい加減な答えと沈黙、そして佐祐理さんの邪気の無い笑顔に行き場の無い怒りをそのコブシに宿した舞は、さも当たり前のように廊下の窓枠にもたれかかり無表情、無言で壁と熱い戦いを繰り広げていた。

実はちょっとコレを期待してみた。

実際さっきからこんな感じで佐祐理さんと暗黙の了解というかなんというかそんな感じで舞をいぢめているのだが。

「……さっきから、祐一くんが冷たいんだよ……」(←涙声)

しっかりと、当事者の中にいなければこの倉田佐祐理嬢が一役買ってるキーマンだと気付かないかもしれないな。

「あはは〜」(←笑顔)

いろんな意味で恐ろしいぞ、この倉田のお嬢様は。

「はぇ〜、今日は舞ってば壁殴りまくりだねぇ、コレは強くなるよ」

そして、舞が壁を殴る中佐祐理さんはと言うと、それは素敵な笑顔で両手を胸の前で合わせて舞の成長(?)を見守っていた。

「そうですね、なかなか腰の入ったいい拳ですね」

「そうだねー、アレならワンインチパンチの極みに辿り着くのもそう遠くないかもしれないね」

「ふ、二人とも酷いよっ! しかも佐祐理ってばあたしに何を期待してるのよっ!」

「え、何って……お料理の上達?」(←笑顔で小首を傾げて)

「パンチ関係ねぇよ」(←祐一:思わずツッコム)

「は、はにゅっ!?」(←舞:大ダメージ)

始終笑顔の佐祐理さんと、表情豊かな舞。

不思議なコンビだが、どう見たって漫才コンビにしか見えない。

いや、どっちもボケだから漫才としてはこれほど恐ろしいものは無いだろう、

何しろ終わりが無いんだからな。

しかもなんだ、傍若無人だと思ってた舞をココまで翻弄するとは、この倉田佐祐理嬢、ただのお嬢様ではないな。

その素敵なはずの笑顔にそこはかとなく戦慄を覚える。

俺は誓った、

佐祐理さんには逆らうような真似はしないでおこうと。

先ほど感じた秋子さんのような雰囲気というのはこういうことだったのかも知れない。

あの人もどこと無くっていうか本能が逆らっちゃいけないと警告を出してるもんな。

俺がそんなことを考えてるうちに、

「さ、さゆりんのイジメっこ〜!! ワンインチパンチの高みに辿り着いたら最初の犠牲者にしてやるんだから〜っ!!」

涙目で走り去る舞。

涙目はちょっとラブリーだが口走ってることは物騒極まりない。

舞だけに本当に辿り着きそうで怖いと思うのは俺だけでしょうか?

しかし、さゆりんか……。

かおりん、しおりんの次はさゆりんか……次はいったい誰が来るんだろうか……。

って、そうだ。

「あ〜、祐一くん、忘れてたっ!!」

俺が1つ大事なことを思い出そうとしている思考を遮って舞が叫びだす。

佐祐理さんがビックリしているが、舞の視線が窓から外、中庭を向いていることからどうやら俺と同じことを思い出したらしい。

急いで近づいて舞の視線を追って中庭を見てみる。

するとそこには予想通りの小さな影が1つ。

一面が白い雪で覆われた中庭にたたずむ女の子。

遠目でも制服で無いことが解り、その肩の少し下あたりからストールがまかれてる。

「私服の、女の子だね」

佐祐理さんが『なんで?』って語調で呟く。

「うん、あの子1年生らしいんだけど……風邪で学校休んでるみたいなんだよ」

それにあわせて舞が説明を入れる。

風邪なのにわざわざ学校に来ていること、初めて出合った時のはかない雰囲気のことなど、目線を中庭に固定したまま呟いた。

そのまま話は進んで行き、あのまま一人で栞を放って置くのは可哀想だろうということになり、時間も少ないが三人で中庭に向かった。

ぎぎぎぎー。

例の中庭に向かう鉄の扉の音だ。

結局男ということで俺があけることになったのが、何度あけてもコレ重いな、誰か油させよ。

しかも開けたときの入り込んでくる冷気が寒くてたまらん。

何でこんな短いスカートで二人は平気そうな顔してられるんだか、女の子は不思議でいっぱいだ。

そんなことを悩みながら外へ出た後、外から中に冷たい風が入らないようにと扉を閉めていると、(←親切)

すでに先に飛び出した舞と佐祐理さんが栞に飛び掛るように話しかけていた。

この辺は、この人たちが人懐っこいのか先輩の余裕かわからないが見ていて気持ちの悪いもんじゃない。

始めは目を見張るような美人二人に囲まれて話しかけられて驚いたような表情をしていた栞も片方は知っている顔で話したこともあるからか徐々に警戒をといて談笑に加わっていた。

横で聞いていると話は取り留めの無い話、

佐祐理さんの自己紹介とか、栞の自己紹介とか、

要は佐祐理さんと栞の顔合わせみたいなものだった。

「で、栞はまた学校休んでるのに抜け出して来たんだな」

俺の声にバツの悪い表情を見せる栞。

「ダメだよ〜、祐一くん、きっと栞ちゃんにも何か事情があるんだよ」

なんとなく大人しい感じの栞を気に入ったのか佐祐理さんが庇うように声をあげる。

そしてそれに続くように舞がその事情とやらを説明しだす。

「そうだよ、きっと栞ちゃんはこの学校の秘密を調べるように派遣されたエージェントなんだよ」

「あははー、じゃあ学校を休んでるのは正体がばれそうになったからなんだね」

勝手な事情を作り上げる二人。

しおりんちょっと困惑気味。

「でも佐祐理、それだったらしおりんは学校に来る必要が、っていうか来ちゃまずいんじゃない?」

「うーん、そうだよね、正体がばれそうなのに来ちゃダメだよしおりん」

栞の小さな「……しおりん、ですか……」という苦笑交じりの呟きがやけに耳に残ったが、

舞と佐祐理さんはそれを聞いてるのか聞いてないのか、

栞が学校に来てる事情ってのについて話しあっていた。

「うん、だからあたしはやっぱり好きな人に会いに来てるんじゃないかと思うのよ」

「はぇ〜、なるほど彼の顔を見なければ一日が終わらないという乙女心だね〜」

「甘く切ない恋ね〜」

「素敵だね〜」

エージェントの話はどうした。

せめて舌の根が乾いてから次の話をしようぜ。

などと声に出せない俺の思いもむなしく、栞は二人にからかわれていた。

「ち、違いますよ〜っ」

「栞ちゃん、赤くなってるよ」

「説得力ないよ〜」

うっとりしている二人、困っている栞。

そこで俺は気になっていたことを口にしてみる。

それも不自然な感じが無いように少し作為的に。

「それじゃ、もしかして香里に会いに来たのか?」

「えっ!?」

俺の台詞、香里、の部分に反応して振り向く栞、表情は驚き一色に彩られていた。

「……姉、だろ呼んで来ようか?」

「祐一さん、お姉ちゃんを知ってるんですか?」

この時点で舞の表情が真剣になる、栞にしてみれば俺の方に振り返ったのでそれは解らない。

「ああ、クラスメイトだ」

「そうなんですか……」

「でも、栞ちゃん自慢のお姉ちゃんなんじゃない? いつも学年首席でしょ香里ちゃん」

笑顔で、しかし目だけは真剣なままで舞は口を開く。

「……はい、自慢のお姉ちゃんです」

栞は少しだけ考えた後、笑顔で答える。

この間、佐祐理さんは笑顔を絶やさず静かに話を聞いていた、

舞の真剣な目を見てココは黙っておくべきだと一歩引いたのだろうか、

そうだとするなら舞の親友と言う言葉も伊達や酔狂じゃないんだろう。

そんなことを考えているうちに中庭に予鈴が響き渡る。

いい加減教室に戻らなければならない、

栞も俺たちとの談笑を終えて、会釈をして「また来ます」などと不適当な別れの挨拶を済ませてストールを翻しその場を去っていった。

それを見送った俺たちは教室に向かうべく歩を進めようとするのだが、突然舞が立ち止まり地面を見つめて考え込んでいた。

「とりあえず、コレで栞ちゃんと香里ちゃんが姉妹だってのは確定ね」

確かめるように言葉を紡ぐ。

普段の表情がアレなので気が付かなかったが舞の顔は少し目が鋭くきつめに仕上がっている。

マジメな表情でたたずんでいると近寄りがたい雰囲気にすらなる。

まぁ、滅多にそんなことはなさそうだが。

「かおり?」

誰のことかわからない佐祐理さんは首を傾げている。

舞が何かを考え込んでいるようなので俺が佐祐理さんに説明を入れた。

俺のクラスに栞と同じ苗字の少女がいること、

そして、その少女が妹は居ないと言ったこと。

「……人違い、と言う可能性は……ないんだよね」

と、俺の説明を聞いて佐祐理さんが呟く。

「ええ、そのために名前だけじゃなく『学年首席』ってキーワードも混ぜてみたのよ」

「確定だろうけど、こうなるとますます香里が栞を妹と認めない理由が気になるな」

「……ただの姉妹喧嘩ならいいんだけど」

ちょっと寂しそうに佐祐理さんが呟く、その仕草、その表情がこの人は本当にいい人なんだと思わせる。

しかし、ただの姉妹喧嘩なら、

わざわざ関係ない俺たちに姉妹を否定する必要性がわからない。

もしかすると、もっと俺たちの想像つかないような根の深いものなのかもしれない。

そうすれば正直首を突っ込むべきではないのだろう、姉妹の問題に外から騒ぎ立ててかき回すのも……。

「ん〜〜〜〜〜〜〜」

「どうしたの? 舞」

突然重たい空気を壊すようにいつもの表情に戻った舞が唸り出した。

それに反応して佐祐理さんも表情を和らげて答える。

多分今日のところはマジメで暗くなりそうな話はココまでにしようと言うことなんだろうな、休み時間も残り少しだし。

俺も硬くなっていた表情を崩し、心持ち軽い気分で背伸びをして舞の話を促した。

「ん、いや、ね、栞ちゃん、いつから居たのかと思ってね〜」

「一人、だったみたいだよね」

「うん、足跡があたしたちのしかないわね」

しばらく考え込むような仕草で立ち止まる舞。

俺は鉄の扉を開けてぼーっと待っている。

そのうち舞はゆっくりと俺に向かって言葉を吐き出す。

「……北川くんは?」

「……は?」

「は? じゃないでしょう、何で北川くんがココに来てないのよ」

何でって、そもそも北川がどうして……、

って、アレか?

昨日の……。

「もしかして、舞、昨日の『香里ちゃんを手に入れるために〜』ってヤツか?」

「そうよ、当然じゃない、何のために今日あたしたちがココに来ないでお膳立てしたと思ってるのよ」

……お膳立てだっけ?

と、ツッコもうとしたのだが、

「きたがわ……くん?」

「ああ、佐祐理は知らないんだよね、いや実はね、祐一くんのクラスに北川くんって子がいて」

「ふんふん」

「一言で言うとアンテナで、二言で言うといい人で終わっちゃいそうな人で」

……ひでぇな、舞。

「さっきの栞ちゃんのお姉ちゃんの香里ちゃんにラブラブ一方通行車線変更追い越し禁止なのよ」

「……」(←考え込む)

「……」(←頷く)

「……それは大事件だね、舞」

あ、なんか今佐祐理さんにスイッチが入ったような……。

「ええ、それであたしは祐一くんと、祐一くんのいとこの子を交えて北川くんをちゃかそ……応援しようと言うことになったのよ」

あ、なんか今舞の本音がちらりと出たような……。

という感じで舞は佐祐理さんに昨日の一連の事件(?)を嬉しそうに声を弾ませて説明しながら廊下を歩いていた。

なお、北川のプライバシーは考慮されないらしい。

一方佐祐理さんは真剣にそれを聞いている、

「そうだね、舞、そんな事情なら私もその北川くんをちゃか……応援しないとね」

似てるって、二人似すぎだって。

ちょっとだけ今後の北川の苦労を不憫に思いながら教室に帰ろうとした、

……が、

さっきから気になってたんだが……。

「……二人とも、3年の教室はこっちじゃないと思うんだが……」

いくら方向音痴の俺でも、階まではそうそう間違えたりはしない。

3年と2年では教室のある階が違うし、俺の記憶だとココは2年の階。

そして、このまま二人が進んでいるのは……。

「何言ってるのよ、栞ちゃんをあんなところで一人で放っておいた北川くんを許すわけにはいかないじゃないっ」

……ゆ、許さないんですか、舞さん。

「ええ、北川さんには覚悟が足りてませんから少し言い聞かせないとダメです」

……お、お説教ですか、佐祐理さん。

「しかし、休み時間も残り少しだし……」

わざわざ事態をややこしくしに行くために俺の教室、

もとい、北川のいる教室に向かっているような気がしてならない俺は勇気を振り絞って二人を止め……。

「「祐一くんは黙ってなさい♪」」

見事にハモって笑顔で振り向く二人。

この上なく楽しそうなんだけど、怖いよ二人とも……。

そして肩を並べて笑顔で歩いていく二人、

心なしか足取り軽く、とても速い。

リノリウムの廊下にカツカツといい音を響かせて美女が二人一見素敵な笑顔で下級生ばかりの廊下を突き進んでいく。

当然回りから視線が集中するが意にも介さず二人は目的地をロックオン。

この数分後、

1つの教室は騒然となるのだが、それはまだ誰にもわからぬ未来の話。

このとき、俺に出来た事と言えば、

ただただ北川の無事を祈るばかりだった。

 

つづく


ひとこと

予定外に北川の出番多い。

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