午後の授業が続いていた。

黒板にチョークがあたり、文字を描き出していく音が教室に響いている。

そしてその音に追随するように各人のノートにペンが走る音が流れる。

午後の授業にしては恐ろしいほど珍しい話だが皆授業に集中し、一心不乱にノートを取っている。

教科書を片手に朗々と内容を説明するこの理由を知らない教師は目の前の珍しい事態に満足そうに授業を続けている。

ふと、後ろの北川の様子を覗き見る。

「……」

ただ、黙々と黒板とノートを照らし合わせる作業を繰り返している。

なぜ教室がこんな雰囲気に包まれているのか、

話は単純である。

昼休み終了間際のアレのせいである。

突如現れた先輩二人に圧倒されて声も出ないままに授業に突入したわけである、

頭が混乱して何していいかわからないので、とりあえず授業を受けてみる、

という行動にクラス全員が収束した結果がこの状態。

謀らずも、今まさにこのクラス、心が一つになったのである。

なんとも素晴らしい光景ではなかろうか、

昨今学級崩壊が流行して全国の教諭を泣かせているらしいが、これほど一体感のある教室はそんな不穏な流行などまるで無縁に思える。

まぁ、理由はアレだが。

俺はその一体感に包まれながら、

北川はなんとなく複雑な気分であろうとは思うが、

このNHK教育に出てきそうなクラスの雰囲気に浸りながらただ流れる時間に身を任せていた。

……あ、いや、授業聞かなきゃな。

いけねぇ、浸りすぎて今危うくクラスの大いなる意志から飛び出そうになったぞ。

「……くー」

……今何か隣から素敵な寝息が聞こえたような気がする。

どうやら俺のいとこはクラスとの一体感はどうでもいいらしい。

果たして、この空気を感じられないほど眠いのか、はたまた先ほどのあの二人の漫才を意にも介していないのか、

名雪、お前は小宇宙(コスモ)を感じることが出来ないのかっ!

きーんこーんかーんこーん

「では、今日はここまで」

微妙に機嫌のいい教師の一言で締めくくられて授業は終了した。

授業の終わりということもあるのか不思議な雰囲気から覚めてきた教室の住人たちはようやく普段の自分を取り戻し始め、少しづつ会話なども出て来る。

話題と言えば当然先ほどのアレしかない。

校内でも恐らくは有名であろう美少女二人の突然の来訪、

そしてクラスメイトに向かい大騒ぎである。

普通コレで黙って帰る方がどうかしている。

当然こぞって北川に詰め寄って質問攻めである。

しかし、当の本人である北川にしても、舞はともかく佐祐理さんがココに現れたのは大事件だろうし、

何より今回の訪問はあまりにも突然である、いや、知ってても驚くかアレは。

俺は外まきに北川がいろいろ聞かれているのを眺めていた。

「北川、お前あの二人に絡まれるなんて何やったんだよ」

クラスメイトの一人の質問である。

北川どうこうよりも『あの』と言われるほどの二人がどれほど有名なのかが気になる発言である。

「まぁ、何やったか知らないけど羨ましい災難だな」

「でもあの川澄先輩と倉田先輩って基本的に凄くいい人だからいじめられたりはしないわよ、……きっと」

「……ったく、他人事だと思いやがって……」

すっかり皆落ちついたうようで、もう男女関わりなく笑顔で北川をからかう。

そのうち一人の女の子が思い出したように冗談なのだろう、しかしひどく楽しそうに笑いながら語り始める。

「待って、みんな気をつけないとっ、昔から言うじゃない『噂をすればなんとやら』って、 『さっきは時間がなかったから言いたりない』ってもうそこまで来ているかも知れないわよっ」

と、教室の前の扉を芝居がかった仕草で指差す。

ガラッ

同時に響く扉の開かれる音。

一瞬クラスの全員が固まる。

いや、名雪を除く。

「あー、HR始めるぞ、席に着けー」

タイミングのいい担任の登場に緊張の解けたクラスの笑い声が響いたが結局問題なくHRが始まり、そして時間が流れて行った。

「くー……」

とにかく、我がいとこは大したヤツだということがわかったのが今日の収穫である。

大した連絡事項もなく、HRも滞りなく終了し、放課後に突入。

北川は疲れた顔をしていたようだが、まぁ、心配しても始まらない。

クラスメイトたちも帰る準備を進めながら今日を振り返っていた。

クラスのあちこちから今日のことを楽しそうに話す声が聞こえてくる。

「今日の大事件はやっぱあの二人の先輩だよな」

「よせよせ、さっきも言ってたが、『噂をすれば……』」

ガラッ

「北川くん!」(←舞)

「私たちはまだ言いたりませんよっ!!」(←佐祐理)

「「「「「…………」」」」」(←クラス唖然)

「ハイテンション・ビューティーズが来やがった……」(←祐一)

「……それはチャンピオン? 挑戦者?」(←香里)

 


でも、やっぱりまいがすき☆


 

「祐一、放課後だよっ」

なんとも、先ほどまでこの上なく寝ていたとは思えないほど寝起きのいい名雪が俺の傍に駆け寄ってくる。

朝もこうだと助かるんだがな。

「……名雪は部活か?」

何を言っても無駄なような気がして、少々疲れ気味に名雪に今日の放課後の予定を訊いてみる。

「うん、今日も部活なんだよ」

「そうか、まぁ頑張れ」

ま、ココまで寝てたから体力は有り余ってるだろうし、

なんつーか、コイツは部活に学校に来てるのか……時々いるよな、そういうヤツ。

「で、祐一はどうするの? 部活とか入ってみる?」

「それは遠慮しとく、今日は大人しく帰るよ」

「うん、それじゃわたしは行くね、祐一道に迷わないよう気をつけてねっ」

「……」

笑顔で言う名雪の最後の台詞に何か言ってやりたいが何も言えない自分が悲しくて、

名雪が教室から出て行った後、静かに窓の外、空にかかる灰色の雲を眺めながら涙を心の中で流す。

ちなみに、教室の中はもうほとんど人もいない。

結局のところ例の2人の先輩は北川に言いたいだけ言って風の様に去って行ってしまった。

でもってさんざん言われた挙句取り残された北川は風邪の様に去って行った。

なんかくたびれて帰って行ったもんな。

クラスメイトたちにしても、2人の先輩の無意味なハイテンションを楽しんだ後波が引くように帰って行ってしまった。

そんなわけで今の俺の黄昏を邪魔するヤツはこの教室内にはいなかった。

「……相沢君は何か用事でもあるの?」

いた。

いや、すっかり影が薄くなっていた香里さんではないですか。

もうとっくに帰っていたと思っていた。

「いや、ちょっと黄昏ていただけだ」

「この地方で冬場の黄昏はあまり期待できないわよ」

うむー、なんかこう辛辣ですな。

頭はいいかもしれないがもっとこう柔軟な思考を持つべきですぞ、香里さんや。

こういうのは、気分。

己のインナースペースを照らす小さな太陽の位置を変える作業なのだよ。

まぁ、そんなことを議論しても口じゃかなわないような気もするので話題を変えてみるか。

「昨日はさっさと帰ったのにまた随分と今日はゆっくりだな」

昨日は何かあったのか、そんな小さな含みを持たせて香里に話しかける。

「……昨日は、部室に顔を出してただけよ」

少し、目を逸らしながら答える香里。

そう見えるだけかもしれないが、どことなくバツが悪そうだ。

何にしても、こっちが疑ってかかってる以上何を言われてもそう聞こえるのかも知れない。

また、仮にこのまま問い詰めても香里は栞を妹ではないと言い張るだろうと言う予感はある。

予感と言うよりはすでに確信に近いものだ。

そんな状況で問い詰めても仕方がないし、事実俺はまだ香里と出会ってから数日、あまりツッコンだ話も避けるべきだろう。

いろいろと考えた挙句、俺はあえて栞の話は避けて無難に話しかけることにした。

「で、今日はもう帰るのか?」

「ええ、もうすることもないから」

「んじゃ、よかったら一緒にどうだ?」

別に深いことは考えず、帰る時間が一緒になったのだから軽い気持ちで香里を誘ってみる。

はじめ香里はちょっと驚いたような仕草を見せたかと思うと、しばらく考えた後に、こちらもまた軽い感じを思わせる口調で承諾の意を伝えてきた。

と、まぁ、そんなこんなで今俺は香里と一緒に下校の途についているという訳だ。

よく考えれば共通の話題などない、と言うより付き合いも浅いので知らないと言うのが正解な訳だが、どちらにしても何の話をすればいいのやら、

ちょっとばかり頭を悩ませてみたが、今日ある話題と言えば何をおいてもあの昼休み終了間際の大騒ぎだろう、

何事も冷静に見ているような香里でも、例え世捨て人のような高校生がクラスメイトにいたとしても、アレだけは気になると思う。

っていうか、気にならないヤツはよほど枯れたヤツか、あの状況でも寝息を立ててた名雪くらいなものだ。

そんなわけで、例に漏れずアレが気になっていた香里も事情を知っているであろう俺にあの状況のことを聞いてくる。

まぁ、俺と一緒に教室に入ってきたわけだし、俺と舞が古い友人だと知ってるわけだし、

加えて周りの反応を見るに、舞と佐祐理さんのあの2人のコンビはどうやら有名なコンビらしいので、俺と佐祐理さんに接点が出来るのは時間の問題だと予想するのは難しくないだろう。

「あの2人は相沢君が連れて来たの?」

「いや、俺は止めたんだが……何故かああ言う事に」

「まぁ、逆らえそうな相手じゃないわよね」

「まったく、いろんな意味で恐ろしい2人だった」

隣で俺の感想を聞いて静かに頷いている香里。

本当にああいうキャラで有名なのか、あの2人は。

しばらく俺があの2人、舞とのことは知ってるので佐祐理さんと知り合った経緯を尋ねられたり、

また俺があの2人の有名度合いやどういう人達なのかを香里の視点から見ての感想で聞いてみたりと、軽く笑いを交えながら帰り道を歩いていた。

「で、相沢君ならわかるけど、どうして北川君があの2人に絡まれてたの?」

とは香里の質問だが、素直に答えられるものではないだろう。

いや、答えてみても面白いのだが、流石にそれでは北川が可哀想だ。

っていうか、

「なんで俺なら絡まれててもわかるんだ?」

北川云々よりも微妙に俺に対して失礼な発言のようにも聞こえる香里の前置きに反応するが、

とうの香里は驚いた表情もなく、態度、体勢も変えずにまったくそのまま当たり前のように答えを返す。

「言葉通りよ」

「わけわかんねぇよ」

話繋がってないし。

「で、どこがどうなってあの2人に北川君が絡まれたの? 普通に考えれば相沢君が何かしたんじゃないかって思うけど」

「……ふむー、俺のせいだと言えば俺のせいじゃないし、俺のせいじゃないと言えば俺のせいだな」

「わけわかんないわよ」

「要は単純に俺のせいじゃないような気もしないでもないけど自信がないってところだ」

「ま、どっちにしても北川君にしたら災難よね」

はぁ、とため息をつきながら諦めたような物言いで北川の未来を案じる、様な感じがしないでもない、香里。

聞き様によっては北川を気にかけているようにも聞こえる。

「ふむ、香里さんは北川が心配かね?」(←ちょっと含みを持たせて)

「ん? 別にみんな楽しそうだからいいんじゃないかしら?」(←きっぱり)

……早かったよ、香里。

答えに躊躇なかったよ。

照れた様子も慌てた様子もなかったよ。

仮に、こういう状況で香里が北川のことを気にかけていたのなら、何かしらの反応を見せていただきたいところだ。

……はい、北川消えたー。

どうやら初期状態の北川では香里の眼中にないらしい。(←決定)

単に香里が平静を装うのが上手いとかいう案はこの際なしだ。

とはいえ別に俺が北川と香里が上手くいくことを嫌がっているわけではない、

そう、むしろ勝負はここからだと、

初めから上手く行ってちゃ面白くないだけなのだ!

ココは北川を鍛えてパラメーターを考えられるだけ上げたところで香里に狙いを定めて卒業式の日に伝説の木の下でっ!!(←暴走中)

……北川にすりゃ迷惑な話なんだろうけどよ。

などと、香里と談笑しつつも心の中でいろいろ北川のことを考えてやっていた時だった。(←えらそう)

「祐一君っ!」

突如後方から聞こえる今にも裏返りそうなハイテンションボイス。

聞き覚えのある年齢にそぐわないわずかに舌足らずの口調。

そして、必要以上に元気を振りまくような雰囲気を携え、後ろの方からなんとも言えないプレッシャーをかけて来ていた。

その時、俺は何かに目覚めて、そして気づいた。

コレは危険だと、

このままでは何かに巻き込まれると。

「……相沢君、危ない」

いや、単に香里のアドバイスだって話もあるけどな。

俺の方に斜に体を向けながら話をしていた香里はそのまま少し顔を声の方に向けるだけで様子が見えたようだ。

その香里の声を聞き、俺は弾かれるように香里のいる方向に一歩二歩軽くステップを踏む。

「あっ!」

そして俺の後ろから声をかけて来た物体は、俺に飛びつこうとでもしていたのだろう、目標が急に位置を変えたので驚きの声をあげて俺の背中を通り過ぎていく。

だが、よけるのに遅れたため物体の肩と俺の背中が軽くぶつかる。

「うぐっ!」

「うわっ」

「きゃっ」

上から順に飛びついて来て失敗した物体、俺、香里の声だ。

状況を説明すると、

香里の方に避けた俺の背中に押すようにハイテンションボイスの物体がぶつかって来てそのままこけたらしい。

で、押された俺は丁度向かい合うようになった香里に押しかかる形になり、香里は驚きながらも俺を受け止めた、と言う状況である。

「……えっと、相沢君、大丈夫?」

「あ、ああ、すまん助かった」

香里の両手は俺を受け止める、もとい抱き止める形になってしまったので俺の腰の上辺りに添えられていて、

俺にしても勢いと言うかなんと言うか思わず香里の肩の少し下辺り、二の腕の上の方に手を添える体勢になってしまっている。

客観的に見れば夕暮れの雪の町で抱き合ってるように見える。

っていうか、それにしか見えん。

 

▽香里のイベントシーンが増えた。

 

だから、俺が増やしてどうするんだよ。

北川の立場がまったくもってないったらない。

こんなことをしていたら舞と佐祐理さんに怒られてしまいそうだ。

……あの2人に怒られるのか……なんか、すげぇ嫌だ……。

話が暴走した挙句八つ当たりまでくらいそうだ。

などと、真剣に考えてしまったため、軽く、控えめに抱き合い視線を合わせて見詰め合う二人が完成。

後ろで潰れている羽リュックを除けば絶好のシチュエーションである。

「……う、うぐぅ、祐一君が避けたー!」

そのうち、物体こと羽少女月宮あゆが飛び起きながらわめき散らし、絶好のシチュエーションが壊れる。

「……いや、普通避けるだろ」

「……あ、相沢君の知り合い?」

「あ、ああ、商店街名物のタックル少年だ」

「ボク女の子だよっ!!」

そのあゆの叫びに返事を返しながらも慌てて香里と俺は離れて居住まいを直す。

流石にいつも冷静そうな香里も居心地が悪いのか視線を彷徨わせてほんのり赤くなって照れている。

うむ、なかなかに可愛い姿だ。

あゆ、グッジョブ! 心の中で誉めておいてやろう。

「と言うわけで商店街名物タックル少女だ」(←祐一)

「そうだよっ」(←あゆ)

「……商店街名物なんだ……」(←香里)

「って違うよ、祐一君っ!!」(←あゆ)

「ああ、商店街名物鯛焼き泥棒だ」(←祐一)

「名物じゃないよっ!!」(←あゆ)

「そうだな、泥棒が名物じゃまずいよな、うん、こっそりやるんだぞ」(←祐一)

「まかせてよっ」(←あゆ:得意気に)

「違うだろっ!!」(←祐一:ツッコム)

「……」(←香里:唖然)

で、

転んだおかげで雪まみれになっているあゆと、どことなくそわそわしてる香里を折角なので顔合わせとして紹介しておく。

香里のことはクラスメイトだと、あゆのことは昔からの知り合いの鯛焼き食い逃げ少女だと。

いや、あゆに怒られたりしたけどな。

途中、北川の事情を多少なりとも話してあるあゆが

「ああ、香里さんってきたが……もがもが」(←祐一抑える)

と言うこともあったが概ね問題なく話は進んでいった。

あゆは無邪気に話をするし、香里は人がいいのでちゃんと相槌をうってくれるので割といい雰囲気のまま雪道を歩くことになる。

「しかし、あゆお前ふらふらといつも暇そうじゃないか?」

「そんなことないよっ、ボクだって結構忙しいんだよ」

なんとなく、いつも結構このあたりをぶらぶらしているイメージしかないもので思った通りのことを口にしてみるが、ちょっと怒った感じのあゆに反論される。

「ボクは探し物をしてるんだよっ」

「「探し物?」」

ちょっと得意気に左手の人差し指を口の前に立てて右手を腰に当てて言葉を繋げるあゆ。

期せずして声をそろえて俺と香里が聞き返した。

「……」

「……」

「……」

聞き返したのだが、あゆから反応はない。

あゆは何故か固まっていて、俺と香里は目を合わせて二人で首を捻る。

「どうしたの?」

「どうしたんだよ、あゆ」

「……ボク……」

どういう訳か目線も合わさずにつぶやくあゆは目を見開き驚いたような表情をしていた。

「ボク……」

視線を落とし自分の手を見つめて真剣な顔になって言葉を繋ぐ。

「ボク、探し物してたんだ……」

初めて知りました! ってなニュアンスを含んだ言い方で弾かれたように俺たちの方に向き直る。

ツッコミたくなるような発言だが表情がいたって真剣なので迂闊にツッコムことも出来ない状況である。

「何を、探してるんだ?」

とりあえず、声をかけてみるが、それに対してもはっと顔を上げて、

「え、え? あれ? ボク……何を探してるんだろ」

驚いたような表情から困ったような表情に変わっていき、だんだんと焦りが傍で見ているものにも伝わってくる。

「大切な、大切な物……」

そんな問答がしばらく続いたが、香里と2人であゆをなんとか落ち着かせて話を聞いてみると、

▽普段街を徘徊してるのは探し物をしてるらしい。

▽探し物はとても大切な物。

▽探し物が何かわからない。

▽昨日今日探しているものではなく前かららしい。

▽今、話をしていて思い出した。

と、いくつかの矛盾を含む複雑な探し物らしかった。

そのあと、不思議なことに香里も巻き込んで3人で商店街を探し物を捜し歩くことになった。

意外なのは香里。

一見冷たそうに見える彼女だが、不安そうなあゆをあやして励まして、見たら思い出すかもしれないと3人で探し出すことになったのはひとえに彼女の先導によるものだった。

彼女とて、あゆの話の内容は不思議に思っているだろう、

正直、普通に聞けば半信半疑な無茶苦茶な内容だ、

けど、それを信じてくれている。

信じてくれていると相手に思わせるだけでも相手は安心するものだ。

こうして、あゆと話している香里を見ているだけでも解る、香里はとても優しい。

なるほど、北川はココに惚れたんだろうかと思わせる一面だ。

だから、だからこそ、

香里が栞を妹と認めないところが余計に気にかかる。

今はあゆの問題の最中だというのに不謹慎かも知れないが、この香里がああいうことを口にすることが、あまりにも腑に落ちない。

結局、俺の頭の中は今日の探索が終わりを告げる頃まであゆの探し物、香里のこと、栞のことでごちゃごちゃになってしまっていた。

でもって今日の探索結果だが、何もめぼしい収穫はないまま終わりを告げたのだが、あゆもすっかり落ち着いたのか、

今日は日が落ちてきたから帰るそうだが、また日を改めて探して見るとのことで幕を閉じた。

煙るような赤い夕日に照らされた道の先へ時々後ろを振り向きながら俺たちに手を振って走っていったあゆは、夕日に溶けて行くような形で消えていった。

「……」

「……」

それを無言で見送った俺たちは、揃って家路に着くことにした。

「……あゆちゃんって不思議な子ね」

「ああ、そうだな」

「探し物、見つかるといいわね」

「まずは何を探してるか解らんことにはなぁ」

「……本当、不思議な子ね……特に『うぐぅ』が」

香里は噛み締めるように小さな笑顔でつぶやく。

今日のあゆの姿、言動を思い出しているのだろう。

「それは同感だ」

「アレは万能語として機能してるわね、ある意味凄いわよ」

「是非語源が知りたいな」

「きっとあの子のことだから語源も不思議でいっぱいよ」

何気なく酷いことを言っているような気もしないでもない香里さん。

「ふむ、もはやあゆの不思議でない部分を探す方が難しいような気がするな」

「……酷い言い草ね、相沢君……」

俺の発言に睨むような視線を送るが口元は笑っている。

ふむ、今日一日で何か香里と仲良くなれたような気がするな、役に立ったぞ、あゆ。

しかし、

「香里」

「何?」

「一応言っておくのだが」

「?」

「あゆは俺たちと同い年だぞ」

「うそっ!?」

コレが今日香里の中で一番不思議なことになったらしい。

 

つづく


ひとこと

このゲーム、ヒロイン精神年齢低すぎ。

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