「祐一、お昼休みだよっ」
先ほどまで妙な夢を見て寝ていたとは思えないほど元気になった名雪が昼休みを知らせてくれる。
こいつは時報か?
どこにでもいるよな、こういう説明要員。
さしずめ北川あたりは驚き要員なんだろうけどよ。
で、多分香里がツッコミ要員。
俺がボケを張ればなかなか立派な四人パーティー、
魔王だって倒しにいけそうな勢いだ。
……戦うのが似合いそうなのは香里だけのような気もするがな。(←偏見)
「祐一?」
くだらない方向に考えが脱線していたら名雪が小首をかしげて俺の方を不思議そうに眺めていた。
まぁ、折角昼を教えてくれたんだ、それなりに対応することにしよう。
「ああ、昼だな」
マジ、それなりだし。
「うん、お昼なんだよっ」
うわ、さらに返して来やがった。
「そうか、昼、なんだよな」
なんとなく何かに負けてなるかと踏み出してはいけないような気がする方向へ一歩一歩進んでいく。
「お昼、だよね〜」
目を細めて幸せそうに言葉を吐き出す名雪。
もしかしてコイツまだ寝てるんじゃないかと疑いたくなる物言いだ。
「うむ、この上なく昼だな」
……人のこと言えない物言いだな、俺も。
「……祐一は、お昼?」
「ああ、昼だぞ、名雪は昼か?」
「うん、わたしもお昼だよ」
「……二人とも、一般人にも解る会話しなさいよ」
なんだか喋ってる本人でもよくわからないような内容の会話にとうとう呆れがメーターを振り切ったのか香里がため息をつきながらツッコンで来た。
うむ、さすがツッコミ要員。
「?」
何のことか解っていない様子の名雪にはもはや尊敬の念を抱くほかないと思う。
「あ、うん、祐一お昼ご飯どうするのかなって」
しばらく考えた後でようやく気がついたらしく名雪は先ほど俺に言おうといていたことの意味を噛み砕いて説明してくれる。
「ああ、そうか、今日はどうしようか……名雪は学食か?」
「うん、今日はそうだよ」
「ええ、割とあたしと一緒に食堂っていうのが多いわね」
そこでちょっと気になる。
「二人は弁当とかは考えないのか?」
「えっと……」(←名雪)
「無理ね、名雪が早く起きられると思う?」(←香里:即答)
「……酷いよ、香里」
「ってか、香里はどうなんだ? 香里は名雪と違って早起きそうだし料理ぐらい軽く出来そうな感じだけど」
「え……えっと、あたしは……」
自分のことを言わず即名雪にツッコンだ香里はどうなのだろうと思い問いかけてみたのだが、
少しだけ、気まずそうに口篭る。
香里のイメージは、何でも出来そうって感じなのだが、まぁ、苦手なものがあるのも愛嬌かな。
「でも、わたしお弁当たまに作るよっ」
そこへ名雪は思い出したように声をあげて意外な反論をする。
「そ、そうなのか!?」
「……ええ、たまにだけど、確かにそんな時があったわ」
俺のあからさまに驚いた声を受けて、香里が名雪の言葉の信憑性を示してくれる。
正直意外だ、
名雪が、
あの病的に朝に弱い名雪が弁当を作って学校に来るなんて……。
「でも、その日は大抵名雪は遅刻だったわよね」
「……う」(←名雪:言葉に詰まる)
「なるほど」(←祐一:酷く納得)
何も遅刻してまで自分で作らなくともいいと思うのだが、
名雪にも何か思うところがあるのだろうか、第一料理なら水瀬家には第一人者がいるではないか。
「いや、名雪自身でなくてもだな、秋子さんなら作ってくれたりしないのか?」
これはありえるだろう、秋子さんは朝早いし、料理も巧いから朝食の準備と一緒に弁当くらいはお手の物だろう。
作ってくれるのなら俺ももしかしたらそのおこぼれを受けられるかもしれない。
と、思ったのだが名雪は急に表情を暗くして、
「……そんな、危険なこと出来ないよ……」
「危険?」
つい、オウム返しに聞き返してしまったが、その答えは横で沈痛な面持ちをしていた香里から帰って来た。
「……アレが入ってたら他のどの料理も台無しでしょうね」
……ああ、アレか。
思い出したくねぇから記憶を封印してて忘れてたよ。
この瞬間、俺の『もしかしたら俺にも秋子弁当、略して秋弁』計画は水泡に帰した。
「あ、北川は昼どうするんだ?」
俺は、思い出にもしたくない過去を振り返るのもはばかり横を歩いてどこかに向かっていた北川に声をかけた。
「ん、俺はいつも食堂だぜ」
「ああ、そうなのか、それじゃ俺はどうしようか……」
「そういえば相沢君、昨日はどうしてたの? 食堂にはいなかったようだけど」
俺のこの後どうしようかという思考を遮って香里が思い出したように声を上げた。
えっと、昨日、昨日。(←律儀に思い出そうとしている)
「ああ、そういえば相沢いなかったな」(←北川)
「帰って来たときはトラブルを持って来たけどね」(←香里)
そうか、昨日は朝から名雪のおかげで走って登校してさらに体育マラソンでへばってたんだっけ。
そのおかげで昼に出遅れて購買に行こうとして……。
あの傍若無人なお嬢様方お二方に……、
ぴんぽんぱんぽーん。
突然、教室内のスピーカーが音を上げて、俺たちの話と俺の思考回路を停止させる。
教室の中の喧騒も収まり静かになったところで放送が校内に流れ出した。
『えー、2年ほにょほにょ組の相沢祐一くん、2年ほにょほにょ組の相沢祐一くん、至急例の場所に来てください』
がたーん。
スピーカーから聴こえて来た真面目そうな声なのに遊んでいるようにしか聞こえない声に学校のあちこちから呆れとツッコミの音が聞こえる。
『……か、川澄先輩っ! 放送室を私用で使用しないでくださいっ!!』
『あははー、ゆかりちゃん、上手いねー今の、座布団64枚だよー』
『佐祐理、あげすぎ』(←冷静なツッコミ)
『それは今のは64枚までの価値はなかったということなの?』
『せいぜい今のじゃ53枚ってところね』
『はえ〜、素数だね〜』
『どっちにしても多いと思いますけど……』(←遠慮がち)
ほ、放送ジャックで漫才かよ。
『そもそも、川澄先輩も倉田先輩もいつどこから入って来たんですかっ! ドアは鍵をかけてたはずですよっ!?』
『忍法壁抜け』(←嬉しそうに)
『にんにん☆』(←おそらくは素敵な笑顔で)
『……だ、誰かーっ!!』(←泣きそうな声)
「……こ、ここは『ほにょほにょ組』だったのか?」(←北川)
「いや、ツッコムところは他にもあるだろっ!?」(←祐一)
「ほにょほにょ〜♪」(←名雪)
「……ココは『2年石橋組』よ」(←香里)
「「「うそっ!?」」」
でも、やっぱりまいがすき☆
結局、俺は暖かいクラスの友人たちに中東へ向かう自衛隊のように見送られて、例の二人ご指定の例の場所とやらに向かうことになった。
なぜか気分は生贄の祭壇に向かう子羊のようだ。
名雪も香里も薄情だ。
あっさりと『いってらっしゃい』で片付けやがった。
北川に至ってはこそこそといつの間にか姿を消していたし。
俺は友達がいの無い連中のことを思いながら例の場所とやらへ向かう。
一応気になって教室を出るときにクラス表示を確認したが『ほにょほにょ』でも『石橋』でもなかったのでとりあえず安心だ。
半ばどうでもいいことを確認して歩を進める、向かう先はおそらく階段の屋上手前の踊り場のことだろう。
あの二人が絡んで俺が知ってる例の場所に相当するとしたらそこしかない。
昨日の記憶を辿り、ココだと思う階段を心持ちゆっくりと登っていく。
確かに、この先には精神がぐったり疲れるようなことも待っているだろうが、よく考えれば舞と佐祐理さんがいるわけで、
この二人はよく考えなくても結構、っていうかかなりの美少女コンビだ。
北川をはじめクラスの連中の話を聞いてみてもこの二人は校内TOPクラスの人気の少女らしい。
当然だろうな、あの二人は見た目もいいし性格も明るく朗らかで傍にいて楽しいのと落ち着くのだ。
なので当然楽しんでいる部分もあるのだ。
しかし、転校してきたばかりの俺が校内でも有名な二人と接触しているので話を聞いた先々で驚かれるのと同時に羨ましがられるわけなのだが、
「あ、祐一くんいらっしゃい♪」
コイツはいろいろトラブルに首突っ込みたくなる性分みたいな話も伺えたので傍にいると気苦労することも多々あるんだろうとか思わせてくれる。
実際ただでさえハイテンションがまさかり担いで熊に跨っているようなヤツだからな。
「あ、祐一くん、ごゆっくりどうぞー☆」
こっちの佐祐理さんはそんな舞とは親友のようで、いつも一緒にいるそうだが、笑顔を絶やさず舞に付き合っている。
気苦労を隠しているのか、はたまた単に同類なので疲れることも無いのか、
おそらくは後者の方だと思うが、
昨日一日でわかった佐祐理さん情報は侮れない少女だというところか。
「あ、祐一さん、こんにちは……」
「ああ、お邪魔するよ」
考え事をしているうちに例の場所こと屋上手前の階段の踊り場についてしまっていた。
そこで昨日のようにレジャーシートを敷いてお弁当を広げている舞、佐祐理さん、そして栞。
呼ばれたわけだし、座る事を身振りで促してくれていたので俺は空いている場所に腰を下ろした。
「まったく、あんな放送で呼び出すからびっくりしたじゃ……って、栞っ!?」
「あ、はい、お邪魔してます」
俺の驚いた声にはじかれて遠慮がちに上目遣いで挨拶をしてくる栞。
って言うか何で栞がココに?
「……」(←舞:笑顔で食事)
「……」(←佐祐理:笑顔でお茶を注ぐ)
……考えるまでも無いか。
この二人が関わってる時点で何でもありのような気がするし、深く考えちゃいけないんだろうな。
見てみれば栞は私服、
例によって風邪で学校を休んでいるのだろうか、
それでも学校に来るとは、相変わらず行動が不思議な少女だ。
……まぁ、目の前の二人の上級生よりはまともだと思うけどな。
「……と、言うわけで連れて来たのよ」
「舞、それだけじゃさっぱりわからねぇ」
俺が二人の方に目をやったのを説明を求めているんだと思ったのか舞は栞を連れて来たいきさつを話したいんじゃないかと思わせるような説明にもなっていない説明をしてくれる。
「はい、祐一くんハーブティーどうぞ〜」
佐祐理さんは佐祐理さんでマイペースに事を運んでいる。
とりあえず礼を言ってコップを受け取りこの状況を、
いや、訊かなくてもなんとなくは解っているが訊いてみることにする。
「えっとですね、今日も中庭でウロウロしてたんですけど、昼休みになったら舞先輩と佐祐理先輩がお昼に誘ってくれたんです」
この上なく話の中心である当事者の栞が『とりあえず風邪治して普通に学校来いよ』とツッコミたくなる説明をしてくれた。
しかも、すでに3人すっかり仲良しだし。
「まぁ、あんなところに立ってても体冷えるだけだしねどうせ暇ならと思って」
「食事は大勢の方が楽しいからねー」
舞と佐祐理さんも続いて経過に至る部分を話してくれる。
もっとも本音として舞がぼそっと
「北川くんに任せておくと話進まないから」
と呟いたりもしたが。
しかし、だからって、
「あの放送はどうかと思うぞ」
どう訊いても放送室に勝手に入って勝手に放送器具を使用したようにしか聞こえなかったし、呆れ半分お遊び半分で二人を責めてみる。
「いやぁ、楽しかったでしょ?」
「あははー」
「わ、私は止めたんですよー……」
二人を責めたんだが……申し訳なさそうにしてるのが栞一人というのは何か間違ってると思う。
って言うか栞もアレに巻き込まれた口か。
その後3人の話を聞いてみると、どうも二人は栞を捕獲した後俺を呼び出すために、弱々しくも止めようとする栞を引きずったまま放送室に殴りこんだらしい。
どうやらあの放送の後ろで栞はおろおろしていた模様。
なんとも、こんな連中と関わったのが運のつきとでも言うのか……。
「……大変だったな、栞」
「えぅ、解ってくれるのは祐一さんだけです〜」
泣きそうな表情で、それでもわずかに楽しそうに俺に助けを求めてくる。
「しかも、放送室の人も、結構楽しんでやってたみたいですし……みんな騙されてますー」
……放送部もグルだったのかよ。
「ん、でも最初は祐一くんを教室まで迎えに行こうかと思ってたんだけどね」
「そうだね、どう言う風に行こうか考えてたけどいい案がなかったから放送になったんだよねー」
「「……」」(←祐一&栞)
「教室の前のドアからあたしが入って注目を集めているうちに佐祐理が後ろのドアからこっそり入って祐一くんを持って来るとか」
「屋上からロープを垂らして窓から飛び込んで祐一くんを捕ってくるとかいろいろ考えたよねー」
待て。
特に後者。
あんたらはコマンド部隊か?
「ま、すんでしまったことはすんでしまったこととして、食事を楽しむことにしましょうかね」
固まっている俺と栞をよそに、言いたいだけ言って綺麗に場をまとめようとする舞。
あえてツッコムところも、あるっちゃあるが話がややこしくなるだけだし、二人の満足のいくように放っておくのがいいだろう。
素直に食事に向かうことにしよう。
心を決めた瞬間を狙ってか佐祐理さんが俺に割り箸を渡してくれる、なかなか気配りの利いたいい人である。
すでにシュウマイを口に放りこんでいる舞とは大違いだ。
「はい、どうぞ、たくさん作って来ましたからね」
言いながら佐祐理さんは目の前の弁当を指し示す、
昨日見た時も豪華だったが、今日は2割増色鮮やか選り取りみどりで、量もあからさまに多い。
俺がまたココに来ることを予想してのことなのか、
いや、もしかするとはじめから栞を拉致してくる予定だったのかもしれない。
昨日の会話のこともあり、北川をからかうに加えて美坂姉妹のことも思慮に入れて行動しているのかもしれない、
それが俺を教室まで迎えに来ずに放送で呼び出したという行動になったのだろう。
栞に直接訊いていないもののおそらくは二人の間に何かしらのわだかまりが存在する。
ような気がする。
少なくとも、姉は妹を拒絶している、理由こそわからないもののただの小さな喧嘩程度ではすまないものだと思う。
栞を拾って俺の教室まで来ると香里と出くわす可能性が高い、というよりほぼ確実に栞は気まずい雰囲気になるだろう、
仮に栞を連れて来なくても『香里の教室に行くために栞を置いて行った』という状況が出来上がれば栞が申し訳なさから萎縮するかも知れない。
それを上手く回避するためにただ楽しんでいるようにしか見えないあの放送室の……
「……う」(←舞:喉詰まる)
「あははー、慌てなくてもたくさんあるからゆっくり食べなよー」
「……いいから……飲み物……」(←舞:青)
俺の考えを中断させるに十分な間抜けな会話が横から聞こえてくる。
黙って立ってれば美女極まりないのに、こういうところを見るとなんだかアホにしか見えない。
やめ。
さっきの考えなし!
うん、俺の思考も暴走していたぞ、ちょっと考え過ぎか。
ちょっとした行き違いの喧嘩ならむしろ会わせて仲直りさせた方がいいだろうし……。
「ぅぅぅ……」(←舞:紫)
「……ほれ、飲め」
内容こそ落差あれど二度も思考を中断された俺はため息混じりに舞にハーブティーの入ったコップを渡す。
「んぐ…………んぐんぐ」
差し出されたコップを半ばひったくるように手に取り両手をコップに添えて涙目でお茶を飲む舞。
見た目が美少女だけあってとても可愛らしい姿だ。
……顔がチアノーゼの症状で逝きかけてなければな。
「……くは〜っ」
そこはかとなく男前な舞のため息。
「あ、あのっ、舞先輩大丈夫ですか?」
ようやく一息つけた舞に栞が心配そうに声をかける。
こんなものを目の前で見せられたらうかつに弁当食べられなくなるじゃないか。
「大丈夫だよ栞ちゃん、いつものことだから☆」
心配する安心させようとしているのか佐祐理さんはこともなげにこの状況を笑って済ませている。
「舞はアレだよ、ほら……『食べることだけ三人前』」
「……そ、そうなんですか」(←栞:困惑)
「……」(←祐一:アンタ本当に親友ですかとツッコミたい)
「なんて言うかねー舞は、その食べっぷりと言ったらお料理を作る側としても……ハムスターを飼ってる人でもこんな満足感は得られないんじゃないかと思うほど……」
視線を交わして困惑の表情でどうしようか目で相談する俺と栞。
構わず佐祐理さんは舞の素晴らしさ(?)をとつとつと語り続ける。
「ああっ!」
突然舞が、ソレが舞だとわからなければ非常に可愛い声をあげる。(←かなり失礼)
でもとりあえずどうしたのかとみんなで舞を見ると、
舞は頬を染めて……いるような気分で目を細めて右手で先ほどハーブティーを飲み干したコップを持って、左手の人差し指と中指の先を唇に当てて、
「ゆ、祐一くんと間接キス……」
普通に見たら恐ろしく可愛らしい仕草だが、相手が舞だけに思いっきり芝居がかっているようにしか見えない。
「祐一くんっ、これを狙ってわざとコップを渡したのね……」
んなわけあるか、と言う弁解をする暇もなく舞は何かに憑かれたように可愛らしい仕草のまま両手を頬に当てて首を振る。
「一つのコップで確かめ合う二人の絆、こんな小さな技を使わなくてももっとはっきりと……」
「いや、俺そのコップにまだ口つけて無かったんだ……」
ぼぐんっ。(←打撃音)
どんどん怪しい方向にマッハ号に乗って突き進む舞を止めるべく、さりげなく舞の行動を否定する真実を述べたのだが、ものの見事に瞬殺を食らう。
「だ、台無しじゃないのーっ!! あたしの心の迷走はどうしてくれるのっ!?」
迷走だと自分で気付いてるのかよ。
「っていうか、どうなのよ間接キスってのは乙女にとってはラブコメアイテムよそらもうこの上なく後ろにバラなんか飛ばしたりとか少女漫画御用達トーンで飾ったりとかだけど、男の子がやると何? 縦笛ですか? それはむしろ犯罪だろって、おい聞いてるのっマイスイートハニー祐一っ!!」
迷走は迷走を超え、爆走の域にまで達している。
「あ、あははー……舞がこわれ、た?」
さすがに笑顔を絶やしていなかった佐祐理さんもココにいたっては引きつっている。
後で聞いた話によると、いつも何事にも動じない様子で笑顔を絶やさない佐祐理さんの困惑するこの表情はとてもレアな代物だったらしい。
「こ、こうなったら食べるしかないわ、食べるしかないじゃないのよっ!!」
(((何故?)))(←祐一&栞&佐祐理)
「女は食べて強く、どこまでも強くなるのよっ!!」
「……そうなのか?」
「わ、私は違いますけど……」
「私も違うよー……」
がつがつっ(←舞:食事音)
「「「……」」」(←3人:黙って見てる)
「……ぅ」(←舞:喉詰まる)
「……」(←佐祐理:お茶を注ぐ)
「……」(←栞:背中をさする)
「……」(←祐一:生暖かく見守る)
そして舞の二度目の酸素欠乏症が治まったころ、栞が笑いをかみ殺した表情で話しかけてきた。
「ゆ、祐一さん……」
「どうした、栞」
「あの、このお二人って噂通りというか、それ以上と言うか……」
「……噂ってどんな噂なんだ?」
「あれ?」
俺の苦笑交じりの呟きを受けて、栞が不思議そうに声を漏らす。
「ああ、俺転校して来たばっかりでな、まだ学校の中で迷えるくらい新人なんだ」
「あ、そう言えば前に久しぶりに再会したって言ってましたね」
あの、最初の栞との出会いのときだ、あゆと舞と俺で道に迷った時だったか。
「ドラマみたいな再会で、昔懐かしい人と今もこうして一緒にいられるなんて素敵ですね」
羨ましそうに、夢見がちな乙女の特権とでも言うのか、そんな表情で言葉を続ける。
「で、祐一さんと舞先輩は……えっと、恋人、同士、なんでしょうか?」
恋人、というフレーズで少し赤くなるあたりまだまだ恋に恋するお年頃を抜けきっていないと窺わせるが、今は話の内容が妙な方向に向いているのが問題だ。
「……そ、そんなわけじゃないけど……そう見えるのか?」
正直、舞と……って言うのは悪い気分じゃない、もといいい気分だが、
と、舞をちらと見てみるが、
「さ、食べるか」
続きをはじめていた。
減点5。
何の点数かはわからないが今確かに俺の中で舞の点数が下がった。
「そうなんですか? 数年越しの再会を果たした二人が……って言うのは凄くいい話じゃないですか」
そんな舞の様子は見えてないらしく話を続ける栞。
……それだと俺は後二つ似たシチュエーションが発生するわけなんですが。
「まぁ、とりあえずはそんな仲じゃないわけだが、あの二人の噂ってどんなんなの?」
なんとかこの背中が痒くなるような話を切り上げるために噂とやらの話を促してみる。
「あ、はい、私の聞いたところによりますと舞先輩と佐祐理先輩は『生徒会より力のある二人』とか『無駄に元気』とかです」
無駄に元気の方は、そういや北川にも聞いたっけ。
しかし、生徒会より力があるのかよ、この二人何者だよ。
「本当に、不思議な先輩ですよね」
綺麗に最後を締めくくろうとした栞。
しかし、俺はその栞の手に収まっていて先ほどから食べている『バニラアイス』が気になって仕方が無かった。
冬の昼食にそれはないだろ、普通。
「……不思議なのは栞だろ」
「祐一さんも食べます?」
「……ぅ」(←舞)
「舞ー、今日は厄日だねー」(←佐祐理)
ひとこと
テンション高いと人生楽しい。