ちょっと。
っていうかむしろかなり。
俺は驚いていた。
いや、俺でなくても普通驚くだろう。
現在ある目の前のこの状況、ある意味無謀とも取れる暴挙が繰り広げられていた。
屋上手前の階段の踊り場、通称『例の場所』での一コマである。
俺は舞と佐祐理さん本人曰く不幸な事故ことくだらん遊びでガラスを割った愉快な事故の真相を一人の先輩に聞き呆れ半分でココに戻ってきたのだが……。
「お、相沢遅かったな、先輩達はどうしたんだ?」
俺の登場に気付いた北川が気さくに話しかけてくる。
内容までは伝えず簡単にちょっとした事故で来れなくなった様子だと目の前の北川とその隣にいる栞に伝える。
その言葉に納得したのかしてないのか解らないが、とりあえずは2人の先輩が来ない、ということで決着はついたようだ。
って、そんなことどうでもよくてだ。
「北川……」
「どうした、相沢」
「どうしたって、お前、その手に持ってるもの、なんだ?」
「……? なんだ、って、ああ、栞ちゃんに貰ったんだよお前も食うか?」
俺の質問にそう答えて北川はその手に持った物をこちらに差し出してくる。
「食うかって、お前それアイスだろっ!?」
そう、北川が手に持っていて俺に差し出して来たのは例のひんやりひやひや君だ。
「何が悲しくてこの寒い地方で真冬に茶色いアイスを……あれ?」
自分で言って気が付いたが今日の栞が持って来たアイスはなんか変色している。
「酸素に触れて錆びたかっ!?」
「どうやったらそんな結論になるんだよ……普通のチョコだろ」
叫ぶ俺に呆れた声で普通に北川のツッコミが入る。
「いや、しかしながらチョコレートアイスだぞ? 『栞と言えばバニラ』『バニラと言えば栞』コレはもう『舞と言えば佐祐理』レベルの結びつきがある事象だぞ?」
「……そ、そこまで酷くないですよー」
俺の酷い言いようにアイスを口に運びながらも上目遣いで非難してくる栞。
……って、『舞と言えば佐祐理』はそんなに酷いのか?
「大丈夫だ相沢っ」
「何がだ北川っ」
「俺のはチョコだが、栞ちゃんのはちゃんとバニラだ!」
「おおっ! それなら何も問題ないではないかっ!?」
「おう、コレで宇宙の真理は守られたなっ!」
「北川っ!!」(←祐一:右腕を前に出して)
「相沢っ!!」(←北川:同じく右腕を出して祐一の右腕に絡めて)
「ひ、酷いですーっ」(←栞泣きそう)
そんなわけで途中に買って来たパンで食事を取ることにする。(←すぐに冷静になる)
北川には頼まれていたパンを渡し、いつもと違って佐祐理さんのレジャーソートがないので階段に腰掛ける。
栞が「アイス美味しいのに……」と、呟いているのが耳に入ったような入らないようなそんな昼休み。
少し寒いが屋上手前の階段踊り場。
いつもと違って舞と佐祐理さんがいないのでかなり静かな気がするような昼食時。
一度しか利用してない食堂がちょっと懐かしくなったような気がしたそんな平和なひと時だった。
「じゃ、なくて、だ」
「どうした相沢」
「お前、この寒いのによくアイスなんて平気で食えるな?」
「あ? うまいぞ?」
「いや、寒いときに冷たいもの食べてどうするんだよ、凍えるぞ?」(←祐一:引きながら)
「ほら、言うじゃないか『暑いときこそ熱いもの』と、アレの逆だよ」(←北川:至極マジメに)
「……そ、そうなのか?」(←祐一:論破されそうになってる)
「いや? 知らんけど?」(←北川:無責任)
「……」(←祐一)
「……」(←北川)
「こ、この街は変なヤツばっかりだーっ!!」(←祐一:走り去る)
「……お前には言われたくないな」(←北川:アイス食べながら)
「で、でもやっぱりこの時期にアイスは冷えますねぇ」(←栞:ストールで体を包み直しながらつい出た本音)
「……まったくだな」(←北川:やっぱり無理してたらしい)
でも、やっぱりまいがすき☆
「祐一、放課後だよっ」
「なっ! に、逃げないとっ!?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……ああ、放火、後、ね」(←香里:納得したらしい)
「誰よりも早く気付いてくれる頭の回転が素晴らしいそんな香里が俺は好きさー!!」(←祐一:大喜び)
俺の解りづらいボケ歴代ランキング一桁台に食い込みそうな台詞に呆れた顔で理解した香里に飛びつかんばかりの勢いで歓声を贈る。
「え、あ、あのっ、えっ!? あ、あ相沢くん!?」(←香里:慌てる)
真っ赤になって慌てる香里。
いつもクールな態度をとっているわりにはこういうハプニングにはなかなか可愛い反応をしてくれることが最近解った。
うむ、愛いヤツめ。
「あぁぁあぁぁぁ相沢君? あ、ああ、あたしっ」(←香里:大慌)
「香里、香里っ!!」(←名雪:香里を揺する)
「あっぁぁぁぁあ……あ」(←香里:正気に戻る)
「大丈夫、香里っ!?」(←名雪:香里の肩を掴んで)
「……ふ、不覚……」(←香里:悔しそう、でも嬉しそう)
「むー」(←名雪:どことなく不満気)
なんか、漫才やってる二人は置いといて、
まぁちょっと北川には悪いと思いながらもただの冗談だと北川に目で合図……。
「あれ? 北川どこ行った?」
「北川君なら放課後になったとたん教室を出て行ったけど?」
きょろきょろしながら呟く俺に名雪が答える。
どこ行ったんだ? やっぱり昼にアイス食べたから腹でも壊したか?
だろうな、結局あのまま栞と北川を放っておいて昼休みを終えたが、帰って来た時の北川はちょっと唇が紫色だった。
たぶんいいヤツだから栞のアイスに付き合ったんだろう、ああ、本当になんていいヤツなんだ。
そして今頃北川はトイレの王子様。
頑張ってくれプリンス、俺は心の中でお前の未来を祈っているぞ。
「そう言えば北川君ってバイトで忙しいらしいよ」
とは、名雪の談。
なんだ王子じゃなかったのか。
つまらなさすぎだぞ北川。(←言いがかり)
それはそうと、放課後である。
「名雪は、今日も部活か?」
「うん、部活なんだよ」
毎日毎日大変なこった。
運動部の連中ってのはよくやるよな。
「そうか、早く行かないと『また』『みーちゃん』とやらに怒られるんじゃないのか、部長?」
「うぅ、祐一意地悪だよ……」
折角なので、ちょっといじめてみる。
何が折角なのかはこの際無視だが、どうやら前回の失言の通り本当に部長は怒られる存在のようだ。
……不憫な……。
ああ、名雪じゃなくて『みーちゃん』が、だからな。
実際にはHRが終ってからそれほど時間も経ってはいないが俺の言葉に従って、もしくは今日こそは怒られないためか名雪はとぼとぼと部活に向かった。
なんと言うか、権威の無さそうな部長だ。
副部長であろうみーちゃん(推定)に怒られないために部活に向かった(推論)名雪が出て行った後、教室を見渡すとまだ人はクラスの半分くらいは居て少しばかり賑わっていた。
俺もそろそろ帰ろうと思い準備を整え席を立とうとする。
「……あ、相沢君は今帰り?」
席を立った俺に後ろから声がかかる。
振り向いてみれば香里。
「ああ、香里は部活か?」
「ええ、今からよ」
「そうか、じゃあ、また明日……って、香里部活なんなんだ?」
「スカイダイビング部よ」
「へぇ、そうか、頑張れよ」
「ええ、じゃあまた明日」
軽く会話を終らせて教室の外へ出て行く香里。
俺もまた帰る方向に心を向かわせてカバンを持ち直し、周りのまだ教室に残っているクラスメイトに挨拶をして教室を後に……
「スカイダイビング部っ!?」(←祐一:ようやく香里の発言がおかしかったことに気付く)
「気付くの遅っ!?」
俺の驚きに横から思わず、といった様子のツッコミが入る。
声の方を振り返ると、
そこは雪国だった。(←窓だったらしい)
「アタシこっち」
と、振り向いたさらに右から呆れた声。
「おお、いつか見た『変形ツイテ』さん」
そうだそうだ、確か先週雪の酷い時、舞や佐祐理さんの説明をしてくれた親切説明キャラ三人衆の一人、変形ツインテール娘ではないか。
今日も少し後ろにずれた感じのツインテールが印象的な活発系キャラ(希望)だ。
この間と違い今日はこの子がモップを持って掃除中、掃除当番なんだろうな。
「いや、まぁ、確かに髪形そうなんだけど……もしかして、相沢くん、アタシの名前、覚えてない?」
ちょっと諦め半分非難交じりで睨み付けるような上目遣いで聞いてくるツイテさん。
……えーっと、彼女の名前は……。
「……エトワール・紗江子」
「誰よ、それは」
「フランスで活躍中の日本人バイオリニストだ」
「そ、そうなんだ」
「嘘だぞ」
「……ノリが川澄先輩そっくりね」(←ツイテ:引きつって)
「ふ、不名誉だ」(←祐一:悔しそう)
「悔しがるってまた芸人ねぇ相沢くんは……って、それはそれとして、アタシの名前っ」
「今日は、寒いなツイテさん」
「……名前……」
「こんな日は電波がよく通るような気がしないかい?」
「……な・ま・え〜」
なんか、意地になりかかってるように見えるツイテさん。
似たようなやりとりを以前誰かとやったような気がしないでもない状況だが、
今回は正直、このツイテさんの名前を覚えてない。
どうしよう。
「ヒントは秋です」(←ツイテ:突然人差し指を立てて)
「……秋……水瀬秋子さん」(←祐一:思わず答える)
「だから、誰よそれ」
「姿だけ見るなら名雪の姉にしか見えないが行動を見てると血の繋がりがあるのが不思議でしょうがない名雪の母親」
「……」
「今度は本当だぞ」(←いろんな意味で)
「そういう問題じゃなくて……」
「うーん、秋ねぇ、秋……」
「よーするにアタシの名前憶えてないのね……」
「は、はい、申し訳ありません」
ちょっと呆れたような悲しいような表情で呟くツイテ少女に、なんだか申し訳なくなって素直に、ちょっと腰が引けながら謝る。
なんだっけなー、秋っぽい名前って秋子さんしか覚えてないよなぁ。
「アタシ『秋葉花梨』、まぁ、しょうがないよね、憶えてなくても」
「う……すまない」
「ううん、アタシも名乗った覚え無いし」(←秋葉:至極マジメな表情で)
「……」(←祐一:固まる)
「……」
「……じゃあ、知らなくて当然じゃないか?」
「アタシは相沢くんの名前知ってるのよ?」
「いや、それ理由になってないし」
「なんていうかねー、ほら、実はアタシに一目惚れしてて、いつも目で追ってたりしてー、こっそり誰かに名前なんか聞いちゃったりして心の奥に仕舞って想いを温めてるー、とかそんな展開を期待してたんだけど〜」
どことなく漫才っぽくなる会話、この学校はみんなノリがよすぎるようなそんな気がする。
この秋葉さんもなかなかに不思議な人だ。
「っていうのが、川澄先輩の有名な名台詞よ」
しかも舞の台詞かよ、ソレ。
ああ、言いそうだ言いそうだ。
物凄くいい笑顔で言いそうだ。
「ま、迷う方の、迷台詞じゃないのか?」
俺は疲れながらもなんとか彼女にツッコムが。
「ううん、ところが先輩の場合、その冗談が冗談ですまない場合があると言うか、それを言われた相手が本当にそうだったりする場合が少々どころか多々あるものだから……」
「……なるほど、名台詞、だな」
なんとなく納得。
人も少なくなってきた教室で2人向き合いうんうん頷きあう姿はなかなかに奇妙だが、話の内容はさらに輪をかけて奇妙なのでよしとする。
「ま、ところで話は変わるが、っていうか原点に戻るんだが」
舞の話はこの際いいとして、話始まらないままに脱線したもともとのこの子との会話を最初に戻そうと語調、雰囲気を変えて改めて話しかける。
「はいな、なんでしょか?」
軽い感じで小首を傾げながら答える秋葉さん、軽く横に傾けた頭のおかげで二つの尻尾が軽く揺れる。
ちょっと可愛い仕草だ。
「んー、香里の部活、秋葉さん知ってるのか?」
「あー、とりあえずスカイダイビング部じゃないことは確かよ」
「……日本中探したってそんな部は高校にないだろうよ」
「実際問題、香里の部活って謎に包まれてるのよね」
マジメな顔でちょっと困ったような表情も含み、左手を胸の下、その手の甲に右の肘をついて顎に右手の人差し指を軽く当てて上目遣いで言葉を繋げる秋葉さん。
その右手の人差し指が眉間に行ってたら名探偵だな、とか思いつつその香里の謎について話を促す。
「謎ってどういうことだ? 個人の部活なんて調べりゃすぐにわかるもんじゃないのか?」
普通に考えれば、学校の部活動など学校側が所属を管理するわけだから名簿など簡単に見つけられるだろう。
それでいて謎ってのは、あえてそちらの方を調べないままにしているとしか思えない。
しかし、秋葉さんは軽く首を振って答える。
「それがね、正式には香里はどこの部活にも所属してないのよ」
「それは、単に帰宅部、とかいうオチではなくて?」
まぁ、そんなオチだったら学年首席の名が泣く前振りの長すぎるつまらないオチだ。
帰宅部を部活だと言い張るのは正直俺のようなヤツであり、香里は明らかに部活に行くと言っていた。
それなら……。
「ありがちな助っ人とかか?」
「んー、その線も考えたんだけど……香里スポーツ得意じゃないのよ」
「そうなのか? なんか意外だな、香里ってどことなく万能ってイメージあるんだが」
ちょっと衝撃の事実だ。
香里は何でもそつなくこなすタイプだと思ってたんだが、苦手なものもあるんだな。
「そーね、イメージ的にはそうだから……実際見るとそのギャップに唖然とするわよ」
秋葉さんは呆れたように肩を落として伏目がちに、少しため息みたいに軽く息を吐き出して言葉を続ける。
「なにしろ」
ココで人差し指を顔の前に立てて、俺に力説。
「体育の時間は名雪の方が凛々しく見えるんだから」(←秋葉:真剣)
「そいつは絶句するな」(←祐一:力強く納得)
「だけど、香里体力は人並み以上にあるからねぇ、前に体育でソフトボールあったんだけど、香里の打席は傍から見てて『もし当たればホームラン』って感じなのよ、あのスイングスピードと力強さは一見の価値アリよ……当たんないけど」
「どこまでもアンバランスなヤツだな、香里は」
「その意外なへっぽこぶりがまた人気を呼んでたりするから人生ってわからないわよね」
「ふーん、その辺にやられる男どもも少なくないってことか……どいつもこいつもマニアだな」
「北川くんは違うけどね」
つい固まる。
あまりにしれっと軽く言うので思わず流しそうになったが、要は今の秋葉さんの発言は北川の心のうちを知っている、ということに聞こえた。
そして、固まっているうちに秋葉さんは俺のほうを気にしているのかしていないのか、言葉を続ける。
「北川くんは、そんなうわべだけのへっぽこぶりじゃなく、香里のいいところをわかってると思うのよ」
「そ、そうなのか?」
「あれだけ香里を見つめているんだもん、わからないなんて節穴よりわけ悪いわよ」
「……ってことは、だ」
「なに?」
「北川の不毛な一方通行は皆さんにすでに知れ渡ってるということですか?」
「うん、全員とは言わないけどー、勘のいい人なら大概気付いてると思うよ」
じゃあ、ほとんど公然の秘密ってヤツじゃないですか。
「北川はそれを?」
「気付いてない鈍いのは本人達くらいじゃないの?」
得てしてそういうのは本人は気付かないものだからな、お約束っちゃお約束なんだがな。
で、話を聞いてみれば皆は敢えて気付いてない振りをして、あたたかく見守っていたそうなのだが、
あまりに進展がないのでつまんなく思ってたところだそうだ。
香里は何か悩んでるというか落ち込んでいる様子もあったそうだし、北川は煮え切らない性格してるようだし。
と、ちょっと肩を落としながら秋葉さんは語る。
「まあ、そんなわけでちょっと相沢くんの存在はいいスパイスなわけよ」
「スパイス?」
「ん、男子で一人だけでしょ香里を『香里』って呼ぶの」
名雪にも指摘されたことだが、こうして秋葉さんに言われるところをみると気付いている人は他にもいそうだ。
そんな深いわけは無いんだが。
「相沢くんも早速香里と仲いいし、もっと引っ掻き回してくれれば何かしらの北川くんの動きがあってもいいかなーと」
「それで北川のアクションがあればいいが、そのまま俺がエンディング向かえたらどうする気だ」
まるで漫画かドラマを見るような言い種にちょっと呆れながら苦笑を交えて抗議(?)するが。
「それはそれで面白いんじゃない? 喜ぶ女の子もいるだろうし」
いいのかよ……。
てか、喜ぶ?
「北川くんもてるのよ、結構」
「そうなのか!? なんだ、女の子に『そのアンテナがセクシ〜』とかキャーキャー言われてんのか、アイツ!?」
かなり意外だが、きっとあのアンテナは北川フェロモンを発しているアンテナに違いない。
「下級生に人気なのよ、意外なことに」
秋葉さんも意外とか言ってるし。
「なんでまた、アイツ街頭で携帯電話の電波アンテナのバイトしてるだけじゃないのか?」
我ながら酷い言い種である。
「あんなアンテナしてて実は北川くんって後輩の面倒見いいのよ」
アンテナ関係ないだろうよ。
「なるほど、入りたての一年生からして見ればヤツは優しいアンテナ、というわけだな」
どんなアンテナだよ。
「うん、だから憧れてる下級生なんかも出てきて……きっと日々あのアンテナから発される北川電波を受信しようとしてるのよ」
北川電波ってどこかにそんな電気屋さんありそうだよな。
しかし、北川もてるのかー、わからんでもないがな、
今日だって結局栞に付き合ってこのこの寒い中アイスまで食べてたし。
俺が戻るまでになんだかんだ言って栞と仲良くしてたようだし。
アイツ実は年下キラーだったのか。
て、そういえば。
「ときに秋葉さん」
「はいな、なんでしょか?」
「香里のことなんだけど……」
「ん? 北川くんを差し置いて香里狙いに走る、と?」
「いや、そうじゃなくて……香里って妹いるのか?」
そうそう、栞、もしかしたらこの情報通な秋葉さんならかおりんしおりん情報さえ網羅しているかもしれない。
「いもうと? 香里の? 聞いたことはないけど」
「そうか……」
まぁ、名雪や北川が知らないくらいだからな。
本気で調べるなら部活同様職員室でも行けば何とかなるかもしれないが、そこまでするのは行き過ぎだ。
「香里の妹がどうかしたの?」
「ん、いやなに、香里の妹っぽいのを見つけたんが……まぁ香里本人もいないって言ってたし思い過ごしかもな」
ははは、と軽く笑いを後につけてこの話を流すことにする。
話をややこしくしてもしかたないだろうしな。
それはそれとして、
いいのか? 転校したての俺にココまでプライベート全開のクラスの内情を話しても。
と思って聞いてはみたが。
「いいのいいの同じクラスなんだし、それに北川くんが香里のこと見てるの相沢くん気付いてたでしょ?」
だそうだ。
「あー、まぁ、ね」
まぁ、それだけでココまで話すのはどうかとも思うが、こういう噂話も学生時代の醍醐味だ。
折角なので思い切り楽しもう。
「斉藤くんの視線に気付いたくらいだもんね、あっちはほとんど誰も気付いてなかったようよ?」
そう言えば、昼にそんなこともあったな、半ば冗談で言ったことなのに。
嘘から出た真ってヤツかな。
「で、続報だけど、あの後斉藤くんとナツミちゃん上手くいったわよ」
「ほ、ほほぉ」
ちょっとビックリ。
俺が舞と佐祐理さんの愚行を先輩に聞いている間にココではそんな甘酸っぱいドラマがあったのか。
種を撒いたのが俺とは言え、予想外の出来事だ。
てーか、あの子ナツミっつーのな、初めて知ったぞ。
「ほいで、あの2人、相沢くんには只ならぬ恩義を感じてるようよ」
「大げさな……」
香里と北川の方もこのくらい簡単にいってくれればいいんだがな。
そんなことを思いつつ行儀悪く机に腰掛けため息をつく。
ちなみに、秋葉さんはそんな話をしながらもちゃんと掃除を続行中だ、えらい。
単に一人で掃除が寂しかったので話し相手が欲しかっただけかもしれないが、俺としてはびみょーに貴重な情報を仕入れたので感謝している。
ここでそれなりに時間を費やした為か窓の外は暗くなりかかっていた。
冬の日は陽が落ちるのが早い。
いい加減帰るとするか。
俺は今日もいろんな情報提供をしてくれた名前を知ったばかりの秋葉さんに挨拶をして、教室を出ることにした。
「あ、ちょっといいかな?」
扉に手をかけたところで秋葉さんが俺を呼び止め、左手にモップを持って、右手の人差し指を顔の前で立てていた。
「どうかしたか?」
「あのね、前から一言言っておきたかったんだけど……」
眉間に皺がよっていて、ちょっと睨んでいるような目付きで俺に話しかけてくる。
「この髪形正式には『ツーテール』って言うのよ」
「マジっ!?」
ひとこと
ホントウです。
美容師のお姉さんが言ってました。