「なんでも栞ちゃんって絵が趣味なんだって、なんとも高尚な趣味をお持ちですわブルジョワめ」

「え〜」

「佐祐理、解りやすい上にどうツッコンでいいかわからないボケは身を滅ぼすわよ」

「大丈夫、私は世界を滅ぼす女です」

「……やりそうで怖いわよ」

「ともあれ、絵なんだよね、舞」

「ええ、とっても絵よ」

「で、栞画伯が選んだモデルは恋のマジカル一方通行のお相手なわけだね」

「きっと美化160%くらいの仕上がりになるとあたしは踏んでる」

「アンテナの長さが6割増とかかな」

「アンテナの質が6割増しかもね」

「2人ともすっかり北川はアンテナで決定してるんだな……」

なんだかよくわからないがいつも通りといえばいつも通りの舞の状況説明に弁当関連を片付けていて経過を知らなかったこちらもなんだかよくわからないがいつも通りといえばいつも通りの佐祐理さんが事態を分析する。

もっとも、コレだけだと何がなんだかわからないだろうから詳しく説明。

なんでも昨日の帰り北川は栞と雑談をしていて絵を描くことが趣味だと聞き出したらしい。

さすが我が校が誇る年下キラーだ。

そんなわけですっかり定例となってしまった昼食会を終えた頃、スケッチブックと絵の道具を持って来ていた栞が約束だ、と話を切り出したのが今回の事の発端だった。

どのような約束かと言うと、話は単純で北川をモデルに絵を描くということらしい。

俺たちはすっかり仲良くなった2人を眺めて出入り口の三段ほどの階段に軽く腰をかけていた。

2人とも照れくさそうにしているあたりがなんとも微笑ましい。

北川は純粋に絵のモデルとして照れているんだろうが、栞の方はちょっと違った照れなのかもしれない。

なんだかんだ言って結構栞のポジションはいつも北川の傍にあったりする。

正直、うまいことやりやがったな北川、ってところだ。

なんつーか本人全然気付いてなさそうだが。

でもって、よく考えれば北川が見てるのは香里だったわけだし、なかなか複雑な人間関係に発展しそうな勢いだ。

……まぁ、この展開に喜びそうなのがここに若干名いるわけだが。

隣を見るとその若干名こと舞と佐祐理さんが何やらこそこそと相談だか会議だかを行っていたが、そのうち栞が一息ついて絵を書いていたその手を止めた。

状況を見るにどうやら出来上がりらしい。

時間から見ても簡単な鉛筆画クロッキーだろう。

道具を置いてスケッチブックを眺めて栞は難しい顔をしている、思ったより上手く出来なかったのか首を捻りつつ絵と北川本人を見比べていた。

「し、お、り、ちゃ〜ん出来たの〜?」

そこに舞の間延びした抑揚のない声が飛ぶ。

弾かれるようにその声に反応して栞は、はい一応、と語尾を小さくもじもじしながら答える。

自分の絵が照れくさいのかスケッチブックを胸に抱いていた。

そしてそれも暫くのこと、舞と佐祐理さんに押し切られるようにスケッチブックを見せてくれたわけだが。

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

五人揃って声が出ない。

舞はどうコメントしたものか悩んでいるのだろう表情が固まっている。

佐祐理さんは眉間に皺があるような感じでやたらと真剣な表情。

北川はどうにかフォローしようと苦笑しながら言葉を選んでいるっぽく。

俺は見なかったことにでもしようかと逃避しかけていた。

でもって当の本人、美坂栞画伯といえばちょっと泣きそうな上目遣いで周りの様子を伺っていた。

要するに問題のその絵は

なんていうか

アレでアレなんですけど

そうね、まぁ、その

一言で言いますとですね

ただ単に――

 

☆下手でした☆

 

いやもうね、なんていうかある意味芸術。

魂を根底から揺さぶられる神秘の絵画なのですよ。

コレはもういろんな意味で俺ワールドでスミソニアン博物館行き決定でファイナルアンサー。

「こ、コレは抽象画?」

「……写実画です……」

俺が微妙に現実逃避している傍で舞の搾り出した声に沈痛な面落ちで栞が答える。

それなりにプライドはあるらしく、抽象画にしか見えない絵でも自分の描いた物を自分の思った通りに主張。

「な、なんていうか……現代アートというか前衛芸術よね」

「ふ、普通の鉛筆画なのですが……」

さらに、舞のフォローになってないフォローが栞の小さな胸をえぐる。

「そ、そういえばっ、鉛筆のHとかBってなんなんでしょうね」(←佐祐理)

「か、硬さを表す表示らしいけど何でHとBなんですかね」(←北川)

「そ、そうだな、えーっと、きっと『HOSOI』と『BUTTOI』の略じゃねぇか?」(←祐一)

「すると、Fは『FULL ARMER』とかですか」(←佐祐理)

「「なにぃっ!?」」(←祐一&北川)

舞の栞に対する傷口に塩を塗りこむような追い打ちと言う意味でのフォローに耐えかね、見事な連携プレーで話を笑いに持って行きとりあえずははぐらかす。

複雑な恨めしそうな表情を少し見せながらも口論しても相手が相手だと諦めたのか一応の決着も着き、例によって北川の年下キラーぷりを見せその絵を受け取っていたので栞も満足したのだろう。

ふと時計を見れば時間ももう昼休みが終わる頃。

傾きかけた栞の機嫌もそこそこに、なんとなく今日も平和に昼休みが終わろうとしていた。

 

終ろうとしていたんだが、

「……うむ、コレはきっと北川くんの優柔不断っぷりを線に表した名作ね」(←舞:笑顔)

お前もう喋るな。

 


でも、やっぱりまいがすき☆


 

「あの……」

昼休みも終わり頃、予鈴が鳴ったすぐ後のことだ。

授業開始5分前を知らせる鐘に合わせて、例によって休んで学校に来てる謎の後輩を帰して俺たちも教室へ戻ろうかと校舎に足を踏み入れたところで近くを通りかかった一人の女生徒に声をかけられた。

「はい、なんでしょうか?」

突然見知らぬ女の子に声をかけられたので驚いて一瞬言葉に詰まったが、人当たりがいいのか頭の回転が速いのかいち早く佐祐理さんが向き合って言葉を返していた。

見れば少女はリボンの色から一年生、正面に向きながらも視線をちょっと逸らすように彷徨わせていた。

先輩を相手取って、しかも舞と佐祐理さんという学校きっての有名人相手だからか少し緊張した面持ちだった少女は倉田嬢のその反応のいい人懐っこい笑みを浮かべた姿を見て安堵した表情を浮かべた。

こうして見るといつも笑顔で人に対して非常に対応がよく、パッと見素敵な先輩に見える佐祐理さん。

実際に頭がよいらしく以前に成績優秀だと舞が言ってた気がする。

うん、まぁ、でもなんだね。

中身は明らかにその高機能な頭脳の使い方を間違えている存在だということが最近解っただけに心中複雑だ。

「今、一緒にいたのは美坂さんですよね……」

話を聞いてもらえると理解したのか声を絞り出すように一年生の女生徒は話の本題を切り出してきた。

小柄なこともあってか視線は見上げるように上目遣いで、肩の少し上まである髪の先が巻くように跳ねていてわりにキュートだ。

「……えーっと、美坂、美坂栞ちゃんね、ええ一緒にいたけど」

「まぁ、風邪引いて学校休んでるわりに今来てたけど、そろそろ元気になったんじゃないかしらね」

答える佐祐理さんに続いて舞がちょっとしたフォローを入れる。

確かに学校休んでて学校来てるヤツを見たら不信に思うだろうからな、きっと目の前の彼女も栞のクラスメイトかなんかなんだろう。

「風邪……ですか?」

だが、舞の言葉に少女は訝しげになんとなく眉を寄せて首を傾げる。

「ん? アレ? クラスメイトかなんかじゃないの? 聞いてないの風邪だって」

「あ、いえ、はい、クラスメイト、です……はい美坂さんのクラスメイトの天野美汐、と言います」

「『あまのさん』ね、うん、あたしは川澄舞、こっちの無邪気を装って邪気出しまくりなのが魔人倉田佐祐理よ」

「あははー、酷い言い種だよねー」(←佐祐理:目が笑ってない)

「でもって、後ろのお人好しが服着て道に迷ってそうなのが相沢祐一」(←舞:無視)

「……いや、確かに方向音痴だけどな……」(←祐一:引きつって)

「更にこっちのは無駄に爽やかさを振りまいている北川アンテナ」

「名前、言ってませんでしたっけ……」(←北川:ため息)

と、一年生の女生徒である天野さんの慌てたような仕草で行われた自己紹介にあわせて、何故かしら舞がこの場を仕切ってメンバー紹介となる。

明らかにおちょくってるような紹介文だが目の前の彼女の緊張をほぐすにはいいかもしれない。

その意図が舞本人にあったかどうかは知るところではないが天野さんは緊張の糸も少しほぐれたようで穏やかに軽く微笑んでくれた。

「それで、美坂栞ちゃんのクラスメイトであるところの天野美汐さんは栞ちゃんが何で休んでいるか知ってるの?」

休み時間も残り少ないからか話を元に戻して本題に向かおうと佐祐理さんがこの場をまとめ、今しがた『風邪』という理由を不思議そうに聞いた天野嬢の態度に思うところあったのか詳しいことを聞き出そうと話を促した。

天野嬢はこの学校で有名な上級生に話を催促され、どこか悩んだような曇った表情を浮かべた後、意を決したようにとつとつと語り出した。

「……風邪、かどうかは知らないんです、先生は何も言ってませんでしたし」

彼女の話を聞く限り、どうやら理由も解らないままだた長期に渡って休んでいるらしい。

教師はとりわけ説明するわけでもなく、栞の机はずっと空いたままだったため入学式当日に仲良くなった天野嬢はその友人であるところの栞を気にかけていた、ということである。

そして、おそらくは俺たち全員が認識不足だったと思い知らされた部分、揃って驚いたのは彼女の最後の一言。

「はい、ロクに知り合いもいなかった状況に声をかけて貰って仲良くなったんですが……美坂さんは次の日から今日まで一度も教室には来なかったんです」

近隣の中学は少ないといえ、周りが全て知った人間でもない入学式当日、教室内にあまり知った人間もなく知っていてもそれほど親しくもなかったこの天野嬢は緊張してか一人で居たところを同じく一人で居た栞に、

『友達になろう』

と、要約してしまえばそんなようなことを笑顔で言われたそうだ。

シックなストールを巻き穏やかな微笑が印象的で、あまり人付き合いが上手くない自分と初日で仲良くなった少女がいったいどうしたのか、と気にかかっていたところに中庭に私服で現れた。

確かに人付き合いが苦手なのだろう、目の前の少女は落着いたような雰囲気で言葉も丁寧だがどことなく一歩引いた印象を与える。

しかし、それでも栞のことが気にかかり居ても経ってもいられず知りもしない上級生に声をかけた、ということだろう。

「入学式、から……えっと9ヶ月以上も来てないってこと、なの?」

「はい、私もそれだけの間姿を見てなかったので今先輩方と居たのが美坂さんだという確証もなかったのですが」

混乱する頭をいち早く立て直した舞が代表して状況を声にして絞りだすと、答えて天野嬢も『ストールを見てもしやと思った』と俺たちに声をかけた経緯を説明してくれた。

とはいえ結局中庭に居たのは美坂栞であるのだが、肝心なところ何を理由に学校に来ていないのかなんてことは当然ここに居る誰にも解ることはなく、

お互いに何を言っていいか、訊いていいのか、そんな状況になったところで昼休みの終わりを告げるチャイムが校内に鳴り響いた。

意外にもその場は北川がまとめて答え出ないままの解散。

もっとも、時間があったところで、いくら考えても答えが出るわけはないんだが。

当の話題を振った天野嬢は俺たちを悩ませるようなことを言ったからか申し訳無さそうな表情で別れを告げて午後の授業のために自分の教室へ戻って行った。

全員なんだか心にもやもやしたものを感じながらほとんど何も喋らず各々二年、三年のフロアに戻った訳だが、午後の授業中も栞のことが頭を支配して教師の声もロクに聞こえては来ない。

どうやらそれは北川も同じようで、授業に身が入らなかったのだろう、休み時間に後ろを振り返ったら教師が出て行ったのに気付いているのかいないのか、何かぼーっと窓の外を見ていた。

そんな感じで本日の午後、気が付けば流れるように過ぎ去って時間は夕方。

残念ながら窓の外はちらつく雪のために茜色の空は見えず、どんよりと灰色の雲が一面を覆いつくしている。

授業も終わり放課後、ちなみに名雪は今日こそみーちゃんに怒られないようにと不穏な発言をしながらとうに部活に行ってしまっていた。

「じゃあな相沢、オレはバイトがあるんで先に帰るわ」

律儀に一言挨拶をして北川は教室を出て行く旨を伝えてくる、その表情はあまりすっきりしたものでないように見えたが、

「ま、オレらがあれこれ考えてもどうにもならんし、真実解らんしな」

と、まぁこんな調子で話しかけてくることから俺も似たような表情だったんだろう。

北川の言葉もちょっと聞くだけには冷たい対応に聞こえるが、見た感じとここ数日で解ったコイツの人の良さから考えるに俺に対する気遣いと、

栞に対して変な態度にならないように、とする気持ちから来ている台詞だと思う。

確かに北川の言うことも充分解るし、これ以上気を遣わせても悪いので後に用事の控えている目の前の人のいいアンテナをその大切な用事に向かわせる。

「ああ、そうだな、お前のその妖怪アンテナを持ってしても解らんようじゃきっと誰にもどうにも解らんな」

「いや、オレ両目ともあるから、っていうか妖怪アンテナの使い方は妖怪の検知だ」

「うむ、流石自分が持っているだけあって使い方を熟知してやがるぜコノヤロウ、やっぱアレか、その片目って手足生えて飛び出してくるんだろう」

「だーかーらー、そこから離れろっておめぇは」

「ああ、これ以上引き止めてもポストに手紙を出したよい子に悪いしな、じゃあ妖怪退治のバイト頑張ってくれよ」

「ウチのポストは妖怪ポストじゃねぇっ!!」

本当に時間がないのか、俺の激励に叫びながら教室を出て行く北川だが、

「頑張って北川君、その子を……その子を助けてあげてっ」

「北川、仲間が必要ならものみの丘に行くといい、あそこには昔からキツネの姿をした妖怪が……」

「ちゃんと家に帰ってちゃんちゃんことゲタを持ってから行くのよ、いくらアナタでも丸腰は危険よ」

「北川っ、ヤツにだけは手を出すな、相手が悪すぎる……対抗できる何かしらの算段を立ててからにしろっ」

教室の出口に差し掛かったところでクラスの愉快な仲間たちからドラマチックな声援が次々と送られてくる、みなさんなかなかに役者だ。

ちなみに上の四つの台詞はその声援の中でも一際真に迫った演技で教室内を笑いの渦に巻き込んだ勇者の呪文。

その威力は凄まじく、爆笑を誘うだけでなく北川を半泣きダッシュさせた代物だった。

――今日も2年石橋組はネタと平和で出来ていた。

「……不憫よね、北川くんも」

北川を見送ったあと、俺も帰ろうかとカバンを取り席を立ち上がったところで斜め後ろから声がかかって来る。

声の主は確認するまでもなく香里、北川の不遇な運命を見て呆れた表情でため息混じりに同情していた。

「なんだ、そう思うんなら助けてやったらどうだよ香里」

「イヤよ、下手にフォローすればそれこそ猫娘扱いされたりしない?」

「いいじゃないか、ネコ、香里ならきっと気位の高そうなシャムネコなイメージだな」

「何言ってるのよ……」

などと言い合いつつ、ライトグレーのネコミミをつけて右手を顔の高さまで持って来て軽く拳を作り招き猫のように、左手は同じように胸の前でネコっぽくして『にゃ』とか言ってる香里を想像してみる。

……凶悪極まりない。

つーか、何故だ、何故香里がこんなにそんなものが似合うのか、

気のせいかもしれんが、他の誰より似合うような気がする。

いや、似合うだけなら他にもいそうだが、これほど魂を揺さぶられそうなのは香里だけだ。

だから、だからこそ俺は万感の思いを込めてこう言おう。

「ん、猫娘いいじゃないか、香里が猫娘なら俺は惚れるぞ、エブリディ愛でるぞ」

「な、なに馬鹿なこと言ってるのよ……」

何をくだらない、ってな態度でそっぽを向いて帰りの準備の為にカバンを取り出す香里だが、どことなく照れているあたりがまたラブリー。

もうちょっとからかってこの可愛い香里を拝みたいが、あまり調子に乗ると鉄拳制裁でも来そうなのでこのあたりにしておく。

別に香里が武闘派というわけではないだろうが拳を握り締めて斜に構えて相手を睨みつけている姿などを想像するに酷くマッチする。

そうか、きっと香里はいつか聞いたそのパワーを持て余して空手部にでも顔を出しているんだな、その相手の心さえも射抜き砕く邪眼だけで全国優勝しそうだもんな。(←想像)

と、俺の思考が暴走しかけたところで香里が不思議そうな顔をして声をかけてきた。

「で、相沢くん、今から帰りなの?」

「ああ、香里は部活か? 全国優勝のために拳を磨いてくれ」

「……今、あなたがあたしをどう見てるのかわかった気がするわ」

「いや、うん、ちょっとした間違いだ、すまん頼むからすっげぇいい笑顔で青筋立てるのやめてくれ」

「辞世の句を読む暇くらいならあげるわよ」(←香里:素敵笑顔+青筋)

「……しょ」

「しょ?」(←香里:天使の笑顔+青筋)

「『商店街 喫茶店なら 百花屋で ケーキセットは おすすめマーク』」(←祐一:必死)

「それは、おごり?」(←香里:胸を抱えるように腕を組みのけぞるような偉そうな態度で)

「イエッサ、美坂閣下殿!」(祐一:敬礼)

俺の言葉に満足したのか穏やかな、たおやかな笑顔で頷く香里。

その姿を見てふと思う、いや思い出すと言うべきか、やはり、どことなくだが香里と栞と似ているのだ。

しかし2人の物言いを思い出してみると互いに姉妹であることを否定しているのだ。

香里は冷たく、栞は辛そうに。

今更だが、2人が否定してようと十中八九香里と栞は姉妹だろう、正直ココまで関わってこう疑わない方がおかしい。

ちらっと香里の顔を眺めてみるといつもと変らない表情だ。

もっとも、天野嬢の話から栞が学校に来てないのは入学当初からだというから、香里の表情は俺が知る前からずっとその栞の事実持ってのこの姿だったのかもしれない。

単なる俺の思い過ごしかもしれないが、あまり多くを語らず冷たくあしらうような香里の性格は妹のことがあって、ソレで作られた物じゃないだろうか。

そして、香里は栞が今日のようにココのところ毎日のように学校に来ているのを知っているのだろうか?

気になる、とはいえ、ココで急に栞の話をふっても香里はきっとロクに答えないだろう、何しろ妹と認めていないのだから。

だから、俺は敢えてその話題に振れることもなく、いい加減俺と香里以外人のいない教室から退散しようと軽く傍の少女に声をかけながら立ち上がった。

「……なぁ、香里、栞が……」

……やっちゃいました。

要はアレだ、人間ってのは辞めておこう、言っちゃダメだ、とか思うことを考えすぎてつい口をついてしまったりするもんだろう。

既に言葉になったことは覆せないし、さてどうしようと思いあぐねていると香里は表情変らず俺を一瞥した後、

「……どうしたの? 話を途中で止めて」

視線を俺に合わさずに妙なことを口走って途中に切った俺に非難なのか話を促そうとしているかは解らないが感情のこもらない声で言葉を投げかけてきた。

正直気まずい状態、どう答えていいのか悩むがとりあえず誤魔化しのようにそれでいて探るように話を続ける。

「……いや、大したことじゃないんだが、一年で学校長いこと休んでる女の子がいてな」

「へぇ……」

「ま、その子が学校休んでるはずなのに私服で学校毎日のように現れるもんだからちょっと気になってな」

「……で、それをあたしに話してどうしようって言うの?」

俺の物言いに興味なし、とでも態度で表したいのか、体ごと横を向いてそっけなく香里は対応する。

そう言われるとにべもない。

「うーん、なに、ただ優等生の御意見を聞いてみたいと思っただけだ、気にするな」

「そう……」

なんて言うかお互いタヌキだな、奥歯に物が挟まったような話し振りはお互いが気付いているだろうにそ知らぬ顔で話し続けるなんて精神的にちょっとぐったり感だ。

まぁ、香里はタヌキっつーかキツネイメージだけどな。

と、先ほどと同じく、キツネ耳を着けて今度はふさふさの尻尾まで着けた香里を想像してみる。

イメージが巫女装束なのは愛嬌だ。

でもって、マコトを腕に抱えて神社の階段で腰掛けてる姿とかだとなんつーか、こう、ね。

……ブラボー香里。(←可愛かったらしい)

なるほど、北川が香里に惚れてる理由が解った気がするぜ。(←誤解)

などと、俺の思考の暴走も知らずに当のコスプレ少女(←誤解)は腕組みをしたまま難しい顔をして俺のほうに向き直った。

くそ、そんな表情も可愛いぜ香里。(←まだ暴走中)

「……もしかするとその娘、学校に何か思い入れでもあるのかもしれないわね」

「え?」

俺の逝っちまってる思考を遮って小さく呟いた香里は、その後にも何かを言ったようだが内容は俺の耳には届かず、

更に聞き返す俺の言葉を聞いてないのか無視したのかそのまま教室を出て行ってしまった。

ふと思い出す。

そういえば、

奢らなくてもいいのかな……。

 

 

つづく


あとがき

鉛筆のH、B、Fはそれぞれ『HARD』(硬い)『BLACK』(黒い)『FIRM』(しっかりした)の意味です。

うん、天野さんの出番は予定通りなんですよ、初めからココの予定だったんですよ、出せと言われて急遽出番作ったとかじゃないですよ。

 

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