結局朝の騒ぎを収めたのは時間になってやって来た我等が大親分こと担任の石橋教諭。

朝の騒ぎも乗り越えて、午前中の授業を終えて昼休み。

朝にクラスが一丸となったことで内容ともかくどことなく嬉しそうな先生を思い出していいことをしたと実感に浸る。

ココはとてもいいクラスだ。

というか、転校して来てまだそれほど経っていないというのにいつの間にかすっかり馴染んでいるな俺。

これも全て名雪のおかげか、と親愛なるイトコの姿を探してみると、

「祐一、お昼休みだよっ」

いつもどおり元気いっぱいに必要のない昼の号令を教室に響かせてくれていた。

「あー、名雪、今日の昼の号令いつもよりちょっと遅くないか?」

「だって、今日の古文黒板の文字多いんだもん……」

要は写してて手間取ったらしくチャイム後もしばらくノートと板書と格闘してて今になったと。

なんとも不憫というかお約束な娘さんだ。

てーか本当にアレは号令でいいのか。

ちょっとため息をついたような表情から一転、名雪は気を取り直していつものぼーっとした表情になると少し困ったような声で質問を投げかけてきた。

「ところで祐一、香里知らない?」

名雪に言われ教室内を見回してみるが確かにその姿が見えない。

たいてい昼は名雪と一緒だと思っていたのだがいったいどうしたものだか。

名雪の話によれば、稀にこういうことはあるそうで理由としては香里は部活に行っているのだそうだ。

そんな説明をした後名雪はため息をつきながら言葉を添える。

「最近気付いたけど、香里って謎多いよね」

俺としては最近まで気にもしなかったお前の方が謎だよ。

「部活がなんなのか誰も知らないし、朝学校に来るのもイヤに早いし……変ってるよね香里って」

……香里もお前に言われるのは非常に心外だと思うぞ。

うんうんと可愛く頷きながら納得する名雪の言葉に思ったことを言葉を選んで言ってやろうと頭を動かしていたのだが。

「ああ、相沢」

横から声をかけられた。

「おお、ナツミちゃんとラブラブベストカップルの斉藤」

声のする方に顔を向けてみるといつかの男。

変形ツーテール娘の秋葉さんの話によればポニーテールのナツミちゃんといい仲になったとかなんとかのヤツだ。

でもってきっかけを作った俺に恩義を感じてるとか言ってたな。

「いや、まぁその、お前には感謝してるが、そんな憶え方辞めてくれよ……」

うぁ、本当に感謝してるよこの人。

「いやいや、気にするな斉藤、結婚式に呼んでくれればそれでいいから、やっぱアレか仲人は石橋先生か?」

「いや、あのな相沢……」

「うむ、その折にはこの相沢祐一、クラス全員を連れて『てんとう虫のサンバ』を歌って踊ってやるぜ」

「誰もやらねぇよっ!」

斉藤の前途を祝しての言葉に呆れたように怒る御当人だったが、

「いや、踊るぞ歌うぞ」

「そうね、2年石橋組またの名を『相沢チーム』一同、一ヶ月は練習して本番に臨むわよ」

「そんなわけだ斉藤、結婚式は一ヶ月以上前に告知してくれよ」

話を聞いていた教室内のクラスメイトから頼もしい言葉が飛び交う。

ますますもって恐ろしいクラスだ。

「そっれっはっ、ともかく、相沢くんに話があるのよ私たち!」

斉藤の後ろにいたナツミちゃんがなかなか進まない話に痺れを切らして声を荒げて割って入ってくる。

苛立ちにあわせるように振り回されるキュートなポニーテールが印象的だ。

「お、ナツミちゃん、なんだ仲人は俺にするのか? まかせとけあることないこと2人の過去を語ってやるぜ!」

「そうじゃないっ、香里ちゃんのことよっ」

「香里?」

話の展開が読めず首を傾げると斉藤が後に続いて説明をしてくれた。

「ああ、秋葉に聞いたけど相沢は美坂さんの部活知りたかったんだろ?」

「あ、それか」

「で、俺達がちょっと調べてみた訳だ」

「斉藤とナツミちゃんでか?」

「おう」

ラブラブ探偵だな、とかツッコミを入れたいがココで入れるときっと話が逸れる、っていうか荒れるからそっとしておこう。

で、注目のそんないちゃいちゃ探偵の調査の結果とは。

「武術部?」

「美術部だ、び・じゅ・つ・ぶ……まぁ、美坂さん似合いそうだけど」

むろん、似合いそうなのは『ぶ』の方なんだろうな、と思いつつ、一応隠している香里を気遣ってか小声で俺にだけ聞こえるように話してくれる斉藤をいいヤツだと認識する。

とはいえ、あまりに意外性のない結論だったな。

栞が……上手い下手は別にして絵を描くからその線もなんらおかしくはない、なんだかんだ言って姉妹ということなのだろうか。

ただ、解せないのが何故今まで誰も知らなかったのか。

その辺斉藤の話によると今までも香里は部活については訊いても敢えてはぐらかすような態度を取っていたらしい。

何故隠すのか、理由が見えないだけに気になるところだ。

だが、

今、

それよりも気になることは、

「てか、斉藤それどうやって調べたんだ?」

「あ、後つけた」

「私が、だけどね」

「相沢には恩返しをしないといけないと思っていたからな」

「頑張ったんだよ、私」

答えて遠くを見つめる2人、なんて言うか単純なことなんだけど行動した人間が勝つんだよな世の中。

礼を言う俺に、満足してちょっと誇らしげに胸を張る2人。

そんな2人を微笑ましく見ながら、俺はココに一つの真実を記す。

今、ここに、倉田力(くらたぢから)が斉藤力(さいとうぢから)に敗北したということを!

 

 

「じゃあ、昼にしようかナツミちゃ〜ん」

「今日はお弁当作ってきたのよ〜斉藤君っ♪」

しかも、こんなヤツラに。

 


でも、やっぱりまいがすき☆


 

ぴんぽんぱんぽーん。

『2年はにゅはにゅ組の相沢くん、2年はにゅはにゅ組の相沢くん、至急例の場所に来てください、て言うか遅いぞコノヤロウ』

昼休み。

斉藤カップルがいちゃいちゃし始めたころ、何故か挑戦的な放送が校内を駆け巡った。

微妙に前とクラス名が違うのはワザとだろうか。

前回ほど騒ぎは大きくないもの、みんなは呆れた様子で俺の方を向いて『いってらっしゃい』と声を揃えて手を振ってくれた。

連帯感があるのか薄情なのか謎の多いクラスだ。

が、

まだ続きがあったようで、校内に内容は落着いてないのに声だけ落着いた様子の放送が流れた。

『なお、お嫁さんランキング初代チャンプを同伴の上、アンテナを持参してくること、繰り返します2年はにゅはにゅ……』

「……」(←名雪)

「……」(←北川)

「……」(←祐一)

「「「「いってらっしゃーい」」」」(←クラスメイト)

「行く、か、嫁、アンテナ」

「わたしも……あっち側に行くことになったんだね……」

「アンテナかよ、どこまで行っても……」

哀愁漂わせ呟く俺達の後姿を見つめ、どういう表情で送り出していいか解らないクラスメイト達の見送り受けながら、

石橋組の相沢と愉快な仲間達は静かに戦場へと向かって行ったのだった。

ともあれ、そんなわけでとぼとぼと例の場所に辿り着く3人。

待ち受けるのはいつも通りの舞と佐祐理さん、そして栞というわけだが……。

よく考えれば栞と名雪は初対面、軽く紹介、のほほんとした名雪に栞も警戒を見せるわけもなく問題なく一同食事に取り掛かる。

名雪にしてもコレまでの俺達の話からこの栞の状況はある程度わかってるのだろう敢えて香里に関する話題もなく穏やかに昼のひとときが流れていった。

「あ、そうそう忘れかけてたけど、どうでした? 名雪ちゃんは?」

話と食事に一段落着いたとき、消えかけた火に油を注ぐみたいに思い出したように新しい話題を提供する佐祐理さん。

名雪は何のことだかわかってない表情で小首を傾げているが、内容は朝の名雪に抱きついた感想を聞こうとしているというところなんだろう……。

でも、両手で何かこう柔らかいものを持ち上げるような仕草は辞めた方がいいと思う。

とことん容姿と行動言動がアンバランスな人だ。

「ふむ、佐祐理と同等ね、鼻の差で佐祐理に軍配、と言いたいところだけど」

そして、こちらも同じような仕草、いや実際に現物を掴んでいるだけにイヤにリアルに、そんな格好で答えを返す。

「む、何か問題でも?」

「いや、流石陸上部部長、全体的に締まってるから侮れないわよ」

「む、むー、サイズではなくバランス、か……」

「ふむ、強敵ね」

「む、強敵よね」

2人して腕組みをしながら感慨深げにうんうんと頷き話をする。

内容は非常にくだらないように聞こえるが女の子にはもしかするととっても大事なことなのかもしれない。

頑張れ女の子。

特に栞。(←かなり失礼)

というか、舞は抱きついただけではなく掴んでいたのは胸だったんだな、セクハラ親父か貴様。

「そっ、そう言えばっ! 舞先輩は剣道部で全国大会まで行ってるんですよねっ」

2人が考え込んだところで、言葉を挟むタイミングを見計らうように名雪が声を上げる。

何とか話題を逸らそうという涙ぐましい努力だというのは言うまでもないだろう、頑張れ名雪。

「ふふん、まぁね♪」

そしてそれにあっさり乗って来る舞、実はとても単純なお嬢さんだ。

「一年のときはベスト4まで行ったのに、後はパッとしなかったよね、舞」

「あー、まぁ、あれは……永遠のライバルだと一方的に決め付けた娘が腰痛めて辞めちゃってたからあたしも気合抜けちゃって」

ライバルがいると人は強くなるということだろうか、ちょっと寂しそうに語る舞が印象的で、

名雪にもライバル、といえるような存在がいるようでその話に乗ってしきりに頷いていた。

ちなみに、佐祐理さんが言った舞の『パッとしなかった』成績は、別に弱かったわけではなく、入賞しなかったレベルで全国では問題なく名を馳せた存在だったらしい。

そして面を取ったら美人だったこともあり武道館では大人気を誇ったそうだ。

世の中何をするでも美人は得でしかない、人というのは結局のところ不公平に出来ているものである。

「舞先輩が元剣道部エース、水瀬先輩が陸上部部長……で倉田先輩が元生徒会長ですか」

話も進み部活や生徒会などの話題になって、それぞれのプロフィールが割れると栞が感心したのかそれを反芻する。

こうなると何もしてない俺らがヘタレみたいだな北川さんや。

俺の考えていることが解ったらしいアンテナ小僧は『うむ』と静かに頷いて友情を確かめ合った。

もっとも、北川はバイトするという目的のために部活をしていないそうだから厳密にはふらふらと何もしてないのは俺だけになる。

うむぅ、正直肩身狭い。

「凄いですよね、川澄先輩も水瀬先輩も、いつから始められたんですか?」

「うーん……中学で部活始めたときから、かな」

「わたしも……始めたのは中学の部活」

まぁ、舞はともかく名雪に関しては陸上だしな、陸上を子供のころからやってるってのははっきり言って珍しいを通り越えて初めから世界を意識したその手の御家族くらいだろうから部活以外で始めるのは考えられんな。

「じゃあ、名雪、陸上を始めたきっかけってのはあるのか?」

と、栞の話に便乗して今気になった名雪が陸上を始めるきっかけなどを聞いてみることにした。

子供のころから言ってみればトロくさいイメージのあった名雪だ、人と競い合う、ましてや主に速さを競い合う陸上部に在籍していることはよくよく考えればミステリーだ。

俺の質問に栞も興味があったようで『是非』てな感じで名雪の言葉を待つ。

それを受け、しばらく眉をひそめ考え込んだ後、当の天然娘は俺の予想もしなかった答えを返した。

「うん、昔祐一に薦められたんだよ」

「待てっ!」

奇妙な話の展開、突然飛び出した俺の名と驚愕の事実に思わず声を上げる。

つーかそんな話記憶にない。

「どうしたの、祐一?」

「どうしたじゃないだろう、俺が薦めた? 名雪を陸上部にか?」

だいたい、陸上を始めたのは中学だと言っていたからその頃は俺と会っていないはずで、薦めることはおろか話もしていないのだ。

しかし、名雪はにこっと笑顔を浮かべて事の詳細を語る。

「うん、昔祐一が『名雪はトロくさいから走って体鍛えたらどうだ』って言ったんだよ」

「……それで、陸上部か?」

「うん、部活を決める時に祐一のその言葉を思い出してね」

「……」

そう言われるとそんなこと言ったような気がする、いや、記憶はないのだが俺なら言いそうだという意味だ。

おそらく、というか間違いなくその台詞はトロトロ歩いている名雪に痺れを切らした俺がもっと速く動けと言いたくて言った皮肉と言うか非難の言葉だろう。

……それが原因で陸上部部長か人生ってホント解らないな。

「だから、今のわたしがあるのは祐一のおかげなんだよ」

そんな大層なことか!?

と、心の中でツッコムも名雪には届かず、というか届いたところで気にしないだろう素敵な笑顔で話しを締めくくった。

が、

何を思ったかその話を聞いて対抗意識を燃やした一人の剣士。

「いや、それを言うならあたしもきっかけは祐一くんね」

などとまたもや俺は身に覚えもない原因に、しかも北国最強の女剣士のルーツになっていた。

「大人気だな相沢」

「祐一くんがこの傍若無人のお気楽剣士を作り上げたのね……」

そんな中、腕組みをして感慨深げにしきりに感心する北川と佐祐理さん。

なにより佐祐理さんそれなりに酷い言い種です、っていうかその台詞舞もアンタにだけは言われたくないと思う。

ほら舞もアンタ見て呆れ返らんばかりの表情を……、

いや、違う、今考えることはそうじゃなくてだな。

「待て、名雪には確かにそんなこと言ったかも知れんがコッチは流石に心当たりなさすぎる」

舞に向かって抗議、証拠があるなら出してみろといつもと違いちょっと強気に攻勢の勢いだ。

だったんですが。

「……ひ、酷いよ祐一くん、あの日のことを忘れたの……?」

舞はちょっと悲しそうな表情で左手を軽く握り口元に持って行って伏目がちに目を逸らしとポツリと呟く。

内容も内容だが、その表情だけで破壊力あり過ぎだ。

コレが舞の演技だとわかっていても、いや本当に演技かどうかもわからないがとにかくこんな表情で悲しく呟かれたら抱きしめて慰めてぇー!! とか思うのが男の生き様だ。

くそう、恐ろしい女め。

そんな葛藤する俺の動きに満足したのか、舞は表情も体勢も戻し話を続ける。

「ほら、昔麦畑で遊んだじゃない、あたしと祐一くん」

「……ああ、そうだな」

麦畑。

初めて俺と舞が出会った場所だ。

昔この田舎町で道に迷い、辿り着いた夕日に照らされた一面黄金色の草原。

舞とあの場所で出会い、友達になり、そして帰りの日を遅らせるあの日まで2人でその麦畑で遊んでいたんだっけか。

まぁ、その後も確か名雪かあゆも交えて遊んだかも知れないという微妙な記憶もあるのだが。

とりあえず、今舞が言いたいのはその時期のことだろう。

確かにあの時期2人で麦畑で走り回って遊んだが、それがどう剣道部に結びつくのか解らない。

「で、祐一くんが地元に帰る前にあたしに会いに来てくれて、プレゼントくれたんだよ」

「プレゼント?」

俺が舞に渡したプレゼントと言えば……うさぎ耳のカチューシャだったと思ったが、アレが剣道部のきっかけだというならその流れは連想ゲーム第三解答者の大和田さん壇さんにもきっと解るまい。

もっとも、アレは別れ際に渡した訳ではないし何か別なものを送ったということ。

「そー、あの時の祐一くん、あたしを真っ直ぐ見つめて『強くなれ』と言葉を残し『木刀』を渡して行ったのよ」

腕組みをして渋い顔で昔を思う出すように目を閉じて語る舞。

ツッコミどころ満載過ぎてどうしていいか解らない、いやホント。

どう聞いてもそれ、俺変なヤツだよ。

「名雪、俺、もしかして昔すっげぇ変なヤツだったのか?」

「ううん、今でも変だから大丈夫だよ」

お前に言われたくねぇ。

しかしまぁ、なんなんだよ昔の俺、とか頭を抱えていると舞が恨みがましい顔で問いかけてくる。

「本当に憶えてないの?」

問いかけたとはいえ、おろおろする俺の態度から全然憶えてないことを悟ったのか、寂しそうにため息を吐いて表情に影が差す。

「すると、あの時のことまったく憶えてない、のか」

珍しく、明らかに落ち込んだと解る姿、それでいてどこかしら俺を責めているような態度で呟く。

「ふぅ、祐一くんにとってあたしはその程度の存在だったのね」

……なんかしたのか、俺?

申し訳ない気分になって来て、せめて断片だけでもなんとか思い出そうと頭をフル回転させていると舞は気を取り直したのか表情一転。

握り拳を作り勢い良く立ち上がると遠くを見つめて一言。

「でも、負けないっ、ドラマはここから始まるのよ!」

なんかよく解らんが何かが始まってしまったらしい。

「祐一くん……」

それを受けて佐祐理さんが凍りついたような表情でゆっくりこちらを向く。

すんません、我ながら変なヤツだと思いますが憶えてませんので勘弁してください。

心の中で憶えのない自らの謎の過去に精一杯の謝罪をするが、佐祐理さんの反応は俺の予想をはるかに上回っていて。

「なんて、なんてカッコイイ……ずるいよ、舞っそんなドラマチックな過去持ってるなんて初めて聞いたよっ」

「こうして、祐一くんとの誓いを果たす為精進したあたしは全国大会の常連になるほどの剣士になったわけなのよ」

「いいなぁ、舞」

何がっ!? って佐祐理さんにツッコミたいのはやまやまだが実際問題ココで下手に口を開けない、どうコメントしていいか正直解らない。

「優勝したら『相沢祐一くんのおかげです』とコメントしようと思ってただけに、ベスト4止まりは悔しかったわ」

いや、正直勘弁してくれ、俺が悪かったんなら謝るから。

「大丈夫だよ、舞、まだ大学でもやれるんだしっ」

「そうねっ、さらに有名になっていつかNHKの『その時歴史が動いた』で……」

歴史になるつもりかよお前。

横を見ると驚きを通り越したのか我関せずと黙々とお茶を飲む北川、完全にギャラリーに徹している。

チクショウ、俺もそっち側に居てぇ。

「そうなんですか……今のこんな凄い川澄先輩があるのは祐一さんのおかげなんですね、はぁ、なんかドラマみたいでカッコイイですよね」

「まったく、そんな美味しいイベントを持ってたなんて卑怯だよね」

夢見がちな笑顔で納得する栞と先ほどから何故か羨ましそうな佐祐理さん。

「ていうか、佐祐理さんは今の話の何が羨ましいんですか」

「何言ってるの祐一くん、過去イベントは最大重要項目よっ、過去にフラグを立てておいてこそヒーロー! 今や過去のないヒーローなんか三流なのよ!?」

……なぁ、舞。

「佐祐理さんってヒーローなのか?」(←小声)

「ううん、佐祐理って単に『わがまま』だから」(←素)

あ、なんかスゲェ納得。

「うう〜、なんかこのままじゃいけないような気がするよ〜」

事態が悪化しているような状況、別のところから困ったような声が聞こえてくる。

声の主は名雪、その台詞に何がいけないのか傍にいた北川がきっとくだらんことだろうと思いつつもいいヤツっぷりを発揮して話を聞くが。

「わたしも『祐一のおかげです』って言うために頑張って全国大会に行かないと……」

「対抗意識燃やすなよっ!!」

「祐一さんは2人のスポーツ選手の誕生に大きなきっかけとなったんですね、なんだか凄いです」

「そんないい話で締めくくって終ろうとするなよ栞っ!」

なんというか、只でさえ手におえない連中で構成されたメンバーなのにちょっとズレた名雪が混ざったことで過度にパワーアップされたような気がするぞ。

舞と佐祐理さんは言うまでもなくアレだし、名雪がズレて事態を悪化させ、なんか栞も感化されてるし……北川は諦めてるのか役に立たないし。

俺の味方になってくれるツッコミ役プリーズッ!!

「ところで、栞ちゃん、私には訊いてくれないの?」

「え?」

一応のところ、栞の締めくくりで話が一段落したような状態になった、が、そこを見計らうように栞に恨めしそうに佐祐理さんが問いかけてくる。

一瞬栞も何を言われているのか理解できなかったようだが少し考えて思い当たるところがあったのか慌てて当の倉田チームリーダーに話を振るのだった。

「あ、あのっ、倉田先輩が生徒会長をはじめたきっかけはなんだったんですか?」

その台詞を聞き、満足そうに微笑む佐祐理さん。

部活をはじめるきっかけを訊いたのは栞じゃなくて俺なんだけどな、とツッコミを入れようかどうしようか悩んでみたが、

俺の考えの結果が出るよりも先に佐祐理さんは用意していた答えを言うために口を開いたのだった。

「ええ、私が生徒会長をやろうしたきっかけは、昔、祐一くんが……」(←佐祐理:真面目)

「うそつけっ!!」(←祐一:速攻でツッコム)

「いいじゃないっ、私にも過去イベントの一つや二つくれたってっ!!」(←佐祐理:逆ギレ)

 

つづく


あとがき

佐祐理さん、一番変ですね。

24話か、

なんで続いてるんだろう。

 

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