夕暮れの商店街。

赤く染まる街並みと路肩に寄せられ積まれた雪の塊。

雪国特有の風景を眺めながら俺たち3人は商店街の外れのベンチに腰掛けてタイヤキを食べている。

もちろん食べているタイヤキは先ほどあゆがタイヤキ屋から勝ち取ってきた戦利品。

コレだけのタイヤキを釣り上げてくるとはきっと魚紳さんでも難しいに違いない。

そういえばタイヤキの数え方ってどうなんだろう。

物だし、一個二個でいいのか、一匹二匹にすべきか魚らしく一尾二尾なのか。

タイヤキ食人ことあゆに聞いてみたら真顔で『一つ二つ』と答えられた。

なんていうかコイツは大物だ。

ともあれ、そんな感じの夕方。

夕焼けを眺めているとちょっとした既視感。

何年も前に、まだ小さかった自分たちが同じように同じ場所でタイヤキを食べていた風景を思い出す。

あの時は俺のおごりで今回はあゆのおごり。

あゆも金を出したわけではないので厳密には違うかも知れないが、それでもあゆのタイヤキを分けて貰っているわけだ。

そういえば、再開時にもあゆにはタイヤキをおすそ分けされてるんだよな。

……。

舞にはいつご馳走になれるんだろうな。

「……祐一くん、今なんかあたしに抗議の視線向けなかった?」

鋭いヤツだ。

しかしまあ、ご馳走といえばあゆも舞も料理出来ないんだったな。

なんだ舞に関して言えば一ヶ月待ってくれとか言ってた記憶があるが、修行してるんだろうか?

……してなさそうだな。

修行とか練習どうこうよりも舞と料理が結びつかない。

こう言っちゃなんだがまだ大人しい感じのあゆの方がキッチンが似合うような気がする。

気がするだけだがな。

同じキッチンに立って包丁握ってても、あゆが持ったら包丁で舞が持ったら刃物と認識してしまいそうだ。

イメージ的にあゆが菜切包丁で舞が柳刃包丁な。

「祐一くん、今なんかあたしに対して非常に失礼なこと考えなかった?」

鋭すぎるって。

妙な力を発揮して俺に詰め寄る舞に言い訳しながら俺の取り分だったタイヤキを一尾差し出してご機嫌伺い。

あたしを太らせるつもりか、とさらに詰め寄られながらも機嫌を直してくれる舞、複雑だな女の子。

嬉しそうにはむはむと香ばしいタイヤキを頬張る姿を眺め和むような気分になりつつも、

俺の心の中は先ほどもって続きの包丁論。

加えてイメージすると名雪が通販よろしくの穴あき万能包丁、今ならキャンペーン中につきさらにもう一本くらいの勢いだ。

佐祐理さんイメージは備前長船、業物で何でも切れるが人まで斬れそうな雰囲気が漂う包丁が似合いそうだ。

関係ないが香里に至っては鉈だ。

どこまでいってもパワーファイター、カジキマグロを一振りで屠りそうなダイナミック板前になりそうである。

栞はなんだか包丁など持てなさそうなのでカッターナイフでいいだろう。(いいのか?)

料理じゃなくてスクリーントーンの切り貼りの方が似合いそうなのだ。(偏見)

ちなみに、秋子さんはレーザーブレードなんかを使ってキッチンに立つ姿が似合いそうだとか似合わなそうだとか。

まさにマグロ、クジラをはじめ宇宙犯罪組織まで捌けるスーパー料理人だ。

袋の中のタイヤキを一つ一つ着実に減らしながら、我ながらくだらないこと考えてるなと実感。

再び横を見れば嬉しそうにタイヤキを平らげる舞。

色気より食い気を素でやってのける美女を視界に収めながら、そういえばさっきから大人しいあゆはどうしたのかとさらに向こう側にいるちびっ子羽リュックに目をやるのだが、

「……ぅ、ぐ……」

ちょっと青い顔をしながら自分の胸を軽く叩いていた。

「……お茶、飲め」(←祐一:あゆに買っておいたペットボトルのお茶を手渡す)

「う、ぐ、ありが、と、ゆうい、ち、くん」(←あゆ:涙目でお茶飲む)

「……んー」(←舞:タイヤキくわえたままあゆの背中をぽんぽん叩く)

「……ぷは、お花畑見えたよ……」(←あゆ:一息ついて)

「「待てっ」」(←祐一&舞:汗)

 


でも、やっぱりまいがすき☆


 

「確認だけど、あゆちゃんって祐一くんと同い年よね」

商店街、時間もそれほど経ったわけではないが冬の夕方。

すっかり日も落ちて街灯の明かりが頼りになっている中央通で舞が話しかけてくる。

あゆとは先ほど分かれたばかり、タイヤキを食べてて時間も遅くなったのでとりあえず今日のところは探し物は置いておいて帰る事にしたらしい。

現在、そんなあゆを見送って俺と舞は2人商店街の外れに佇む、というわけだ。

「ああ、不思議な話だが舞の一つ年下なわけだな」

それを聞いてちょっと考え込むような表情を見せる舞。

あゆは確か俺と同い年との話。

しかし、容姿、言動を取ればもう少し下だと言われても不思議はない。

言っちゃなんだが、本日倉田ファミリーに仮入籍した天野嬢の方がしっかりした感じで年上に見えたりしたもんだ。

天野嬢、なんというか落ち着き過ぎなほど落ち着いていて大人しかったもんな。

言葉の節々からも頭のよさそうな発言が飛び出していたし、ふむ、只者じゃなかろう。

「……あゆちゃん、ウチの生徒じゃないわよね」

「そーだな」

単純な話。

あゆは俺と同い年で話を聞く限り学生。

だが、当然ウチの学校で見かけない、いればアレだけ変ったヤツなら有名にもなるだろうが噂も聞かないところからほぼ間違いなく他のところの生徒だろう。

なにより、いつも私服で出会うからな。

ウチの学校の女子生徒の制服は赤を基調にしたなんて言うか裾が際どく魅惑的な、おい本当に冬服かよってな変った制服だ。

名雪に言わせるとその服が人気あってわざわざそのために受験するものもいるそうだ。

男が? 女が? とかいう質問もしたくなるが、名雪の話し振りから本当に女性に人気なのだろう。

もっとも冬服に見えない冬服しか見てないからわからないが、そんな評価だとすると夏服も凝ったデザインなんだろう。

で、校内を見渡しても全員制服を着用、別に自由というわけでもないようなのであゆがウチの生徒という線はありえない。

つまり、この近所の別の学校、しかも私服が許されている学校へ通っているのだろう。

と、思ったわけなのだが。

舞は考え込んだ様子で渋い表情。

何事かと問いかけようとするが、その俺の雰囲気に気付いたのか質問を待たずして答えを吐き出した。

「……あたし、このあたりで私服の学校なんて知らない」

「え?」

「……」

「……」

「……もしかして、あゆちゃん」

「……なんだよ」

「本当は中が……」

「それこそ私服なわけ無いだろう田舎」(←祐一:呆れて)

「む、今の発言は田舎をバカにした発言とお見受けするぞ、土着精神溢れる川澄さんは怒り心頭ですよ」(←舞:ぷんぷん)

「……じゃあ、あゆの学校探してみるか?」(←祐一:ため息)

「私服の中学?」(←舞:真面目)

「お前実はあゆをバカにしてるだろ」

掛け合い漫才のような会話をしながら商店街を歩く。

向かう先は結局あゆの向かった方向。

実は、舞に言われるまでも無くあゆに関しては気になる部分があった。

今朝気になったこともそうだが、その他にもあゆの帰る方向だ。

前に一緒に帰った時は途中まで同じ方向だったはず、それを時折、いや同じ方向に向かったのが時折なのか、あゆは商店街の反対側に向かって帰って行った。

どちらからでも辿り着けると言ってしまえばそれまでなのだろうがどうにも気になってしまう。

そのことを舞に伝えてみると、少々考え込んだ様子を見せてとりあえず行ってみようということになる。

まぁ、こっちに来てそれどの時間が経ってないわけで、この街に詳しくない俺は商店街の向こう側になどまだ行ったこともないので素直に舞に従い後を着いていく。

つかつかと軽快に歩いていく舞は、今日はいつかの休みの日の黒いレザーコートと違いゆったりした白のコート。

黒か白か、極端なヤツだ。

雪が降りしきる日には保護色で周りから居場所が解らなくなるのではないかと危惧しながら歩いていると、

道はいつしか田舎の短い商店街を抜け人も、家さえもまばらな住宅地。

街灯に照らされた道は何故だか俺たちを導くようで、長く続く一本の道をほぼ無言で歩く。

ココまで来ると地面の雪もわざわざ路肩によけることも無く人の歩く場所と車のわだちが踏み固められて半分氷のようになっていた。

純粋なこの街の人間じゃない俺は雪の上の歩き方など熟知していないから足を滑らせてまだ踏み固められていない場所に足を入れたりしながら歩くことになる。

その度に雪を踏み固める『きゅ』と言う音だけがあたりに響き渡り漂う。

そして、その雪の音を聞いてあたりが非常に静かなことを実感する。

道に落ちる光、雪に反射して僅かに広がり辺りをぼんやりと照らし、まるで世界に自分達2人しか居ないような気にさえなってくる。

何か酷く寂しい気分になってあたりの景色が消えていく錯覚に陥った頃、急に前を早歩きのようなスピードで歩いていた舞が立ち止まりゆっくりと振り返る。

しかし、何故か無言。

見渡せば今いるところは遊歩道のような場所。

かなり遠い間隔で街灯がちらちらと灯っているのが視界に入る。

不思議とどこかで見た事のあるような風景だと思う。

以前、あゆと舞と共に栞に会った場所に似ていそうな気もしたが方角的にココではないだろう。

もっとも自分の方向感覚の無さは身にしみているので確信は皆無と言っていいのだが。

それにしてもココはなんだか……。

「祐一くん、さ」

考え込もうと頭が動き始めたところでこちらをじっと見ていた舞から声がかかる。

声色が、いつもと違って重く、硬い。

「なんだ?」

「七年前のこと、憶えてる?」

「七年、前?」

「うん、七年前……」

言いながら、舞自身眉間にしわを寄せ、口元を軽く手で覆い思案顔。

というより困惑している様子だ。

いや、かく言う俺も似たようなものだろう、

――七年前。

言われて出てくるのは『あゆ』のことだ。

あの時はあゆと出会った時で、何よりそれが一番インパクトが強かったのだから。

だから、

今年、あゆに再会するまですっかり忘れてしまっていたのも、

ましてや七年前の『出会ったことしか憶えていない』ということも頭の中を掻き乱す材料にしかなくなる。

舞のことも再会時に思い出したと感じてはいたがアレとは別物。

舞に関しては、こっちもこっちでインパクト強かっただけあって思い出自体は忘れようにも忘れられない。

ただあの時は今の『舞』とあの時の『まい』が激しい成長の元、記憶と目の前の映像との重ね合わせが上手くいかなかったわけだ。

だから当然今となっては、記憶の磨耗により劣化した細かな記憶こそないが舞と一緒に遊んだ思い出は頭の中にしっかりとある。

例の剣道部のきっかけとなった舞の思い出も、アレほどアホっぽい笑い話でこそ無いにしても似たようなことがあったのは憶えている。

それでも、

すっぽりと七年前の時の記憶が抜けているのだ。

あゆがいて、舞がいて、ときに名雪が加わって……。

だがそこまで、記憶がそこで途切れてしまう。

大した事のない記憶だから憶えていないのか、それとも……。

「……ココさ、憶えない?」

「ああ、初めて来たって気はあまりしないな」

舞も同じような気持ちなのか、考え込んだ表情のまま俺に声をかけるとゆっくりと体をまた道の先に向け歩き出す。

止める理由も、放っておく理由もない俺は当たり前のように後ろについて歩く。

が、舞は着いてくる俺の姿をちらと確認すると近くまで寄るまで歩を緩め、至近距離に来たところで俺の手を取った。

「舞?」

「ん、いいから、このまま着いて来て」

剣道やってたにしては柔らかい手のひらが俺の手を包む。

ただ、ちょっと気合が入ってるのか強く握られているので少々痛い、この辺が竹刀を握っていた握力の産物ということだろうか。

「おいちょっと舞、何にそんな気合入れてるんだ?」

「ん〜、それが、よくわかんない」

「はぁ?」

「でも、なんか、ね、ちょっと……うーん、やっぱよくわかんないや」

街灯が少なくなる道の奥へ進みながら、始終困惑顔の舞はしっかりと俺の手を握り頭の中を整理しきれない感じで話をする。

「あゆ、のことか、七年前って」

「うん、祐一くんは憶えてる? あゆちゃんと知り合ってから後」

この言い方からすると、多分、舞も憶えていないということか?

「ううん、それ以前に『あゆちゃんに会うまであゆちゃんのこと憶えていた』?」

決定的な台詞だ。

顔だけこちらを向いて投げかけられたその言葉に俺は静かに首を横に振る。

2人揃って同じ部分の記憶が削れている。

偶然にしては出来過ぎだ。

けど、何かあると考えるには考え過ぎだ。

バカバカしい小説やドラマじゃないんだ、2人揃って忘れているからってそれが何かの鍵を解く部分だとでもいいたいのか俺は。

あたりの気温は肌が痛くなるほどに冷えているのに頭が冷めてくれない。

昔のことを憶えていないこと、それ

くらい大したことでもない、そのはずだ。

けれど、舞の言葉は内容とは関係なく不思議な危機感がかもし出されて落ち着こうにもなにか、どこか落ち着くことが出来なかった。

「祐一くん、あたしたちあゆちゃんと七年前出会って、いろいろ遊んだよね」

「……ああ、そうだよな出会った日だけじゃなくその後も……」

「で、何して遊んだか憶えてる?」

「何って……」

「出てこない?」

「……まぁ、なんだ、そんな細かいことまで憶えてなくても」

「ふむ、ただ、遊んで仲良くなった、って記憶なのよね、ふしぎー」

舞の言葉は後に行くほどとぼけた調子になるが、表情は変らず、いや、むしろ、

「舞、お前顔色悪いぞ」

真剣な顔を崩さず、その色は悪く青ざめていた。

舞は一つ深呼吸して見せると握る俺の手をぎゅっと一度強く握るとこちらに向き直る。

「祐一くんこそ、平気そうに見えないわよ」

言われて自分を顧みる。

確かに今俺はよくわからない情報、あゆとの記憶のことで心と頭がごちゃごちゃに、平たく言えば混乱している。

我ながら、ただ記憶があやふやなだけでよくココまで動揺できるものだと思う。

舞にしても何をそんなに怯えたような姿になっているのか不思議な……怯えた?

そうだ、今更だが怯えたという表現が合っている。

何に対してかは解らない、解らないけれど確かに俺たちは何かに怯えているようだ。

「あたしね」

「ん?」

「……アレから七年、この街で暮らしているんだけど」

突然始まる舞の話、ココで暮らしてるってそらそうだろと思うも彼女の表情は至極真剣で、見ているのは俺ではなく進んでいた道の先。

その先に何を見ているのか、何を今言おうとしているのか聞き漏らさぬよう口を閉じてじっと話を聞くが、

「なんでか、この道を意識的に避けて来たのよね」

「……えっ?」

「解らないけど正確には、多分道じゃなくて、この先じゃないかなって」

そう思うんだ、今。

と最後の部分は消えるように呟くと申し訳無さそうな顔で上目遣いに俺を見上げる。

いつもなら、こんな姿の舞、しかもしっかりと手を繋いでいれば俺の頬も上気する、いやそれだけで済むかどうか。

なんだかんだ言って、舞は、その幼い頃の初恋の人で……今も憧れのような綺麗な先輩で、

なんつーか、なんだ、そんなんなんだ、解れ。

けど、今は、そんな気分もどこかへ行ってしまったようで舞の言わんとすることを理解して2人で道の先へを歩みを進める。

何故今この道の先へ向かうのかは自分でもよくわからない。

ただただ上り坂になっているこの道を進んでいる。

上り坂、とはいえだんだんと勾配は急になって来ていて、まるで山道を行くような気配だ。

街灯も途中からなくなってしまっているためどこからか来る微かな明かりが頼りになってしまう。

……1人だったら迷わず帰ってたな。

……いや、本当の意味で迷って帰れないか。

自分の気を紛らわそうとくだらないことを考えるも、あまりに現実的なくだらないことだったので逆に気が滅入るというよくわからないことをしたところで獣道にのようになりかけていた遊歩道(?)が開ける。

「あ」

小さく舞の声。

視線の先には暗くてよく見えないが何かある。

目を凝らすがぼんやりとしか見えないが、少しづつ目も慣れてきてだんだんとそれの輪郭が浮かび上がってくる。

上手い具合に俺の眼が慣れるのと、雲のほんの小さな隙間から月の光が漏れるのが重なり浮かび上がった輪郭が確たる姿を目前に晒した。

そこに佇んでいたものは木。

いや、以前は一本の巨木であったものの一部というのか。

あまりに大きな一つの切り株が一つ、そこに悠然と鎮座していた。

切り口に座るどころか寝転がっても余裕のありそうな大きな切り株。

そこから想像するに、この木はかつて街からその姿を確認できるほど大きかったのではないか。

それが今はこうしてその一部だけ、かつての面影を残すだけになってしまっている。

言葉に出来ない喪失感があたりを漂い、気持ちの中を流れる。

「舞?」

隣を見ると難しそうな顔をしていると思っていた舞がその実表情も無くただぼーっと突っ立っているのが目に入る。

「あ、うん」

名前を呼ばれて初めて自分がぼーっとしていたことに気が付いたのか慌てて、首だけだがこちらを向く。

「どうかしたのか?」

「いや、ううん、大したことじゃないわよ」

何かを言いかけて、首を軽く振って話を無かったことにでもしたのだろうかちょっとつらそうな表情で口をつぐむ。

あからさまに何かあったって表情だろうが、不躾に聞いてもいいものかどうか。

そもそもあゆ関連のことなら俺も身内、何を隠しているのか言ってくれてもよさそうなのに。

「舞、何か言いにくいことなのか?」

「……うん、なんて言うか、そうだ、ね」

「いまさら、遠慮する仲でもないだろう、あゆのことなんじゃないのか?」

「まぁ、そうだと言えばそうなんだけど」

「歯切れ悪いな、そんな厄介なこと、なのか?」

「……て言うか、ね……」

引き締まった表情をしていた舞、その台詞を呆れたように吐くと表情一点苦笑いになって視線を逸らすとぽつぽつと言葉を投げてくる。

「なんで、あゆちゃん追って来たんだっけ」

「なんでって、お前そら、あゆの学校……」

と、そこまで言って気付く、

うん、そうだな、舞の言わんとするところはそれだ。

いや、普通に考えればあったりまえだよ、おい、何やってんだよ俺たち。

「なんで、帰る方向追っかけて学校探すかね」

かくん、と引きつった表情を見せて視線を地面に落とす舞。

「月宮家探すならまだしもな」

つられて俺も同じように地面を見つめる。

雪が白いなぁ、こんなとこ普段誰も来ないんだろう足跡が俺たちの分しかないぞー。

「百歩譲ってそれだとしても思いっきり住宅街無視したわよね、あたしら」

「こう言ってはなんだが途中から、目的忘れてなかったか?」

「そーね、なんか『あゆちゃんが向かった方向に行く』が目的になってたような……」

「……」

「……」

「……アホですかね、俺ら」

「……アホかもしれませんね、あたしら」

「このことは、黙っていましょうか、舞さん」

「そうですね、特に佐祐理にはどうあっても知られないようにしませんとね」

静かに向かい合い、相手をいたわるように肩を叩き合い。

今日の不思議な行動をなかったことにしようとしている2人を月もアホらしいのか照らすこともなく、

恐らくは山か丘の上のこの小さく開けた広場に、それはそれは寒い風が2人を撫でるように吹き抜けていったのでした。

 

つづく


あとがき

果たして、謎なのはあゆか舞か祐一か!?

『作者だ!』とかいうツッコミは無しだ!!

 

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