美坂香里
↑
美坂栞 → アンテナ ← 天野美汐
石橋 ←→ 鹿島
「と、まぁ現状としてはこんなところですね」
「ふむ、佐祐理質問」
「何? 舞」
「香里ちゃんと北川くんの仲はどんなものなの?」
「あー、それね、北川くん栞ちゃんに関わるようになってから香里ちゃんとはあまり縁の無い様子だと相沢隊員の報告が」
「むぅ、このままでは馬を射てしまうのね」
「いいんじゃないの? それはそれで面白いし」
「そうね」
今、倉田家の一室で矢印と人の名前がちょこちょこと書かれたホワイトボードを前に3人の人間が議論を繰り広げている。
『恋のベクトル解析』と銘打たれた議題、センスあるんだかないんだか。
ともあれ、そんなことを3人、もっとも俺自身はあまり発言の機会もないので実質舞と佐祐理さんの2人なわけだが議論している。
要は単に目の前に出されたお茶とお茶請けを楽しんでいる座談会なんだけどな。
こっちでどれほど考えてもどうにもならないってのは解っていることなので折角だからコイツラの噂話を肴に勝手に盛り上がっていよう企画のようだ。
俺達が邪魔しないであの3人だけにして進展を図ろうという意図もあるにはあるが心情的ならともかく見た目には変化なさそうなのであまりその辺は期待して無い。
そんなわけでこの会議をしているのだ。
俺としても楽しいからいいんだが。
とはいえ、天野嬢の参戦は決定になっているらしい、別に本人から確認とったわけでもないだろうに。
それを言うなら栞もそうか、単に懐いてるだけと言ってもいいかもしれんが……北川に関してはもう暗黙の了解なのでいいだろう。
ただし、まったくもって報われて無いのだが。
そもそも栞に近づいたのは香里を落とす為だったはずだろうに、どこでどうなったんだか。
……そういえば、香里と栞が姉妹って確認も取れて無いんだよな、実際のところ。
ほぼ確定なのは間違いないと思うのだが、いったい何が原因で2人はああなっているのか、兄弟の居ない俺には皆目検討もつかないところだが……。
って、そうだこの際関係ないが兄弟って言えば、
「そういえば、佐祐理さん弟いるよな」
議論、というかどうやって茶化すかという話題に一段落着いたのか軽く手元の紅茶をすすっていた佐祐理さんに話しかける。
以前、登校中に佐祐理さんのビグザムとか名乗った弟らしき人物に出会ったことを思い出したのだ。
「いません」
「え? あれ? 一弥ってのは……」
意外にも即答で否定する佐祐理さん。
こちらとしては本人と思しき人物から聞いただけに最早確信し、確認として訊いただけなのにこいつはあまりに意外。
頭の中であの時の、栞のことを始めて訊いた時の香里の姿を思い浮かべてしまう。
偶然か狙ってか、佐祐理さんの表情はあの時の香里に似た、どこか冷たい表情。
ココの姉弟も何かしらの確執が……
と、思ったところで舞が隣でわざとらしく大げさにため息をつく。
それに合わせて、なのか単にタイミングが揃っただけなのか解らないが佐祐理さんがその表情のまま静かに口を開いた。
「そうですね、昔、そういう名の弟がいました」
「昔?」
いや、そう言われてもこの間会ったところなんですが。
「はい、昔です」
「え? でもこの間……」
「一弥は、一弥はもういません……」
「さ、佐祐理さん……」
「あの頃の、何でも素直に信じて私にからかわれてた一弥はもういないんですっ!!」
「……」
「私には弟などいませんっ! 疑り深くなった素直じゃない一弥なんか一弥じゃないっ」
「……なぁ、舞」
「……ん?」
「……不憫だな、一弥氏は」
「しょうがないよ、佐祐理の弟に生まれたサダメよ」
「おてんとさまの元に生まれた者は皆平等ではなかったのか?」
「倉田の宿命には逆らえんのだよ」
佐祐理さんがどこまで本気かわからない悲しみくれる横で不憫でしかない弟殿の心情を思い、心で涙しながらその身の心の安否を気遣う俺と舞。
佐祐理さんはまだ自分に酔ってるのか拳を握りしめ天を仰ぐように言葉を続けていた。
「一弥を、あの素直だった一弥を誰がこんな風に!」
「「アンタだっ」」
そして最後にぼそっと呟かれた舞の台詞が印象的だった。
「香里ちゃんの理由もこのくらいだといいんだけどねー」
まったくだ。
でも、やっぱりまいがすき☆
「と、いうわけで、どうやら知ってるみたいだけど紹介しておきましょう、弟の倉田・エッシェンバッハです」
「誰っ!?」
「ご紹介に預かりました倉田一弥です」
「素っ!?」
いや倉田家でツッコンでたらキリ無いよ、という舞の言葉でその場はとりあえずおさまり、改めて紹介された倉田のお坊ちゃんとご挨拶。
前に会ったときは登校中、しかも名雪の猫暴走中だったので軽い挨拶程度でしかなかった。
だからこうしてゆっくり話をするのは初めてなのだが、改めて見てもやっぱりこの弟くん、佐祐理さんに似てる。
さすが姉弟、と言うところなのだろうが、
実際のところ一弥氏が極端に女顔と言うところなのだろう。
ちょっと大き目の服を着て髪を長めにしたら充分に女の子で通用しそうだ。
おあつらえ向きに彼の背格好は男性として大きな方ではない。
小さい方でこそ無いものの、線が細そうなイメージから控えめな雰囲気が漂い、それがますます男っぽさを崩しているように見える。
なんと言っていいのか、ビグザムというよりはやっぱりゲルググだと思う。
……いや、説明求められても答えられないんだけどな。
もっとも、佐祐理さんの説明では彼、弟一弥氏は
「男の才能の無い弟だけどね〜」
だそうである。
横で悲しそうにため息をついている御本人が印象的で、なんとか力になってやりたくなったりする。
佐祐理さんが相手じゃなければ、だけどな。(←要は力にならないと言っている)
しかし、弟くんといい久瀬ゴンザレス氏といい、何故こうも佐祐理さんに深く関わる人間(男)はすべからく不憫に見えるのだろう。
見た目はお嬢様、中身は魔女。
天使の皮を被った悪魔。
だのだの、妙なイメージが頭の中を駆け巡る。
そのうち『私ハ 鬼女 クラタサユリ コンゴトモヨロシク』とか邪教の館か業魔殿で現れそうだ。
……いや、何で話し方が獣型悪魔タイプなんだ?
「そういえば、一弥」
「何、姉さん?」
「一弥、美坂栞、天野美汐って娘知ってる? 同じ一年の」
俺がくだらないことで頭を悩ませていると、佐祐理さんが今弟の年を思い出しました、てな感じで一弥氏に話しかけていた。
よく考えればそうだ。
一弥はウチの学校の一年生。
ならば当然、栞と天野嬢とも同学年、もしかするとどこかでその名前くらいは知っていてもふしぎではない。
まぁ、流石に栞は入学式からコッチ、全然学校に来て無いらしいからいくらなんでも顔見知りってことはないかもしれないが、
そんな不思議な長期休暇少女のことだ、同学年内でなら多少なりとも噂になっている可能性もある。
佐祐理さんも、きっと大して大きな情報こそ得られないものの何かの足しになれば程度のつもりで言ったのだろう。
だから、一弥氏が「ああ、知ってるけど」と返したのに軽く「ふぅん」で流しそうになったようだ。
「って、一弥、知ってるの? 栞ちゃんのこと!?」
「ああ、美坂さん、だろ、あと天野さんも同じクラスだし」
「な、なんですとっ!?」
衝撃の事実に必要以上に驚く佐祐理さん。
ま、気持ちは解らんでもない。
俺の隣で舞が「世の中狭いわよね」などとしみじみ呟き、俺もそれにあわせ無言で頷きながら、2人で出されたお茶受けの煎餅を頬張っていた。
それ以前に紅茶に煎餅ってどうよ、普通クッキーあたりじゃないのか?
「え、それじゃ一弥、栞ちゃんが入学式以来学校来てないってことも……」
「うん、まぁ、事実だよ、天野さん気にかけてたみたいだし、仲いいみたいだよねあの2人って、前の学校は別なはずなのに」
「あれ、何で一弥2人の前まで知ってるのよ」
「何でって、僕前から美坂さんと同じクラスだったし」
「え?」
「何度か話をしたこともあるからね、まぁあの頃からあまり体は強くなかったようだけど」
「「「なんとっ!?」」」
流石にその辺の衝撃的事実は俺達ものんびりとお茶と煎餅でくつろぐ場合でもなく、声をあげてしまう。
舞の台詞の通り、いやまったくもって世間は狭い。
田舎だからこそ、ということもあるだろうがそれにしても知り合いだったとは。
もしかすると俺達の知らない栞情報なんかもしっかり知ってたりとかは……。
と、思っていると、同じことを思ったのか舞と佐祐理さんが一弥に向かいいくつかの質問を飛ばす。
「じゃあ、一弥くん、栞ちゃんってずっと体弱かったの?」
「そうだね、頻繁に休みがちだったよ、それも一旦休むと長期になってて、どうも入院してたらしいけど」
「でも一弥、そんな頻繁だったの?」
「ああ、来てることが珍しい、って思うこともあったくらいだからね」
「それでも、ウチの学校に進学したのね」
「それは、なんか『姉と約束があるから』とかで頑張ってたみたいだけど、病院でも勉強してたしね」
「姉……そうだ、一弥くん、栞ちゃんの姉のこと何か知ってる?」
「何かって言われても、ウチの学校にいるとくらいしか……あ、そうだ」
「何?」
「いや、一つ上の年で……相沢先輩と同学年ですね、その代の首席入学だって言ってたはずだけど」
「首席か……ますます香里ちゃんで間違いないようね佐祐理」
「ええ、まぁ、ちょっと調べては見るけど、ただの確認になりそうね」
2人は一弥の言葉に少しだけ難しい顔をして舞は腕組み、佐祐理さんは右手を顎に当てて呟く。
事実、コレまでの話でも栞と香里が姉妹ってのはほぼ確定の事項だったわけだし、一弥の台詞はその信憑性を85%から90%くらいに引き上げた程のものだ。
選挙で言うならもともと前評判当確が、即日開票午後11時30分時点で当確マークがついたようなものだ。
「しかし、姉と約束ってなんだろうな」
ふと、その一弥の説明の中にあった1フレーズが気になって俺は呟く。
一弥から答えはなく、流石に内容までは知らないらしい。
けれど仮にも私立の進学校(らしい)うちの学校、学校にほとんど来ないで受験に成功するとしたら並大抵の努力ではないだろう。
それでも入学を成し遂げた栞、原動力は言うまでもなく姉―香里との約束だろう。
現状2人の姉妹の関係はアレ、お互いに他人だというスタンス。
……まさか、姉妹喧嘩するって約束じゃあるまいしな。
俺が思考の海に沈んで頭を抱えていると、舞は舞で舞なりのよくわからん答えに辿り着いたのか、
「……漫才よ」
などと自信満々にのたまった。
「2人は漫才姉妹『かおりんしおりん』である為に同じ学校に入学しなければならなかったわけなのよ」
意図してだか無意識なのか、舞のどこか真面目くさった台詞で真剣になりかけた雰囲気が戻るというか壊すというかうやむやになる。
それに次いで佐祐理さんも話を合わせて変な方向に話題が広がって行っているようだ、
いつものこととは言えこの2人、実に『真面目な表情でくだらないことを言う』姿が似合う。
この2人以上にこの状況が似合う人間いないんじゃないかと思うくらい違和感もない。
普通の人には不名誉な話だが、この2人にしてみれば誉め言葉だと思う。
何しろ存在が冗談みたいな2人だからな。(←結構酷い)
ふと、そんなくだらない話で盛り上がる女傑たちから目を離してみると、こんな状況でも慣れたものなのか非常にのんびりと紅茶を飲んでくつろぐゲルググが1人。
変なテンションで話し合う2人から離れている俺に気づいたのかこちらの方に体を向け居住まいを直し小さく話しかけてきた。
「すみません、よくわからない姉でご迷惑かけてます」
「いや、その辺は承知しているし、迷惑もなにも今更ってところだ、気にするな弟」
実際、慣れてしまったというのが本音。
まだまだその魅惑のハイテンションと二重三重の罠に辟易することあるだろうが、すでにそれが『いつものこと』として認識できるようになってしまっている。
まさに良くも悪くも『慣れてしまった』わけだ。
なんとなく部屋の中なのに遠いお空を見上げて黄昏てしまう。
横目でそんな俺を見ながら苦笑する一弥は一呼吸置いてから栞と天野に関することを逆に訊ねてきた。
まぁ、そうだわな、入学式以来来てないはずの栞のことを俺たちが知ってたわけだ、不思議に思うのも当然だろう。
俺は舞と佐祐理さんが話に加わって訳の解らないことになる前に一弥に事の次第を伝えておくことにした。
掻い摘んで『栞が学校休んで学校来てる』こと『最近は俺たちと昼食時を共にしている』ことなどだ。
「……美坂さん、学校に来てたんですか」
「ああ、まぁ、登校じゃなくてホント遊びに、のレベルだろうけどな」
「もしかして、今日とかも来てたりとか……しませんかね」
「今日も来てたようだけど、その辺は北川に任せてきたから大丈夫だろう」
心配そうになかなか鋭いところを突いてくる一弥の言葉に軽い感じで今日の美坂模様を伝えて安心させる。
俺の説明で納得はいったのだろう、それなりに安心したような態度を見せるがそれでもどことなく腑に落ちないような表情を覗かせる。
むぅ、北川に任せるのが不安なのだろうかこのゲルググ殿は。
俺から見てもいいヤツなんだがな、北川……って、そうじゃねぇよ。
「あ〜、そういや一弥って北川って知ってる?」
よく考えれば説明の中に北川の名を出しはしたが、どういうやつかは言ってなった。
ましてや学年が違う一弥だ、まさか北川と面識があるわけでもないと思うので『否』の答えが来るのを予期して問うてみたわけだが。
予想を裏切って彼の答えは肯定、どことなく困った感じの表情を浮かべて噂くらいは聞いていると言葉を返してくる。
まぁ、噂ってのは何のことは無い例によって年下キラーだというようなこと。
直接的にそんな噂ではなく、面倒見がいいとか女の子の間でちょっとした噂になってるとかアンテナとかそんな話らしい。
……アンテナはデフォルトかよ、北川。
俺が一弥氏と2人、そんな話をしてしみじみ北川の不憫さを嘆いていると、いつの間に話を辞めたのか佐祐理さんがこちらの方を眺めて少しばかり思案顔。
なにかあったのだろうか、と目の前の一弥のほうを見ると、
――なんか嫌な予感がします。
という視線での訴えが理解できる様な気がしてくる表情をこちらに向けて来ていた。
一体何が、と思ったのもつかの間、少しだけ微笑んで、というかなんか黒いものが含まれているような笑みで穏やかに話しかけてくる彼の姉。
「一弥」
「……何、姉さん?」
静かな、そしておしとやかな雰囲気さえかもし出される姉の物言いにそこはかとなく恐れを抱いたのか、どことなく腰が引けた感じの返事を返す弟。
よく考えればどこに怯える必要があるのかわからないが相手はあの佐祐理嬢。
警戒しすぎて損は無い、というところなのは付き合い短いけど俺も良く知っている。
もっとも、その過ぎたと思われる警戒さえ乗り越えてくるのが佐祐理さんなだけにタチ悪いことこの上ない。
そして往々にして悪い予感と言うものは当たるためにあるようなものだったりするところがお約束。
しばらく一弥を見ていたかと思うと『そっかー、そうなのかー』などと呟きながら当のお嬢は弟から視線を外しホワイトボードに向かいキュッキュと小気味いい音を立てながら例の『恋のベクトル解析』に新たな要素を追加する。
美坂香里
↑
美坂栞 → アンテナ ← 天野美汐
↑
一弥
石橋 ←→ 鹿島
「な、なんでだよっ!」
書き上げられたベクトル図に渦中であろう本人様はその書き上げた元凶に抗議の声を上げる。
まぁ、解ってたことだが文句の言葉を浴びせられたお嬢様はしれっとしたまま嬉しそうに一弥の相手をする、むしろこの反応を心待ちにしていたような様子だ。
……いや、待ってたんだろうな間違いなく。
ほら、だからこそ、佐祐理さん見るからに生き生きしてるよ。
事態を知らずにこの表情だけ見たら惚れそうなくらいいい笑顔だよ。
「ほらだって一弥、栞ちゃんのこと詳しいし〜」
「それは、ほら、同じクラスだし」
「入学式以来学校来てないのに〜?」
「だ、だから前の学校のときから知ってたんだよ」
「なるほど、そのころから片思いだったと」
「だ、だからどうしてそうなるんだよっ!」
「だって、栞ちゃん情報詳しいじゃない、気になるあの子のことをいろいろ調べる男の子だったんでしょ一弥は」
「別に調べたわけじゃ……本人から聞いたことだよ」
「おお、そんな話をするほど親しかったんだ、頑張れ一弥未来は明るいわよ!!」
「……それで明るくなるのは姉さんの未来だろう……」
話の種、からかいの種ってこと、なんだろうな。
姉弟の言い争いを聞いていると、どうも一弥はそれなりに栞と親しかったらしく、以前には見舞いにも行ったことがあるそうだ。
栞情報はそのときに本人から聞いたものらしい。
まぁ、女の子の見舞いに行ったということで佐祐理さんの目の色が変わりまた一騒動あったのだが、それを見て舞は慣れているのか
「あー、スイッチ入った」
とのこと。
これじゃしょうがないねー、一弥も不憫だよ、などとのたまいながら煎餅をかじるが助けてやらないあたりが舞らしいっちゃ舞らしい。
いや、ホント不憫だ一弥氏。
……まぁ、俺も助けないんだけどな。
重ね重ね不憫だ一弥氏。
結局のところ一弥氏の話では当時の学級委員長だったから見舞いに行ったということ。
「一弥、そんな照れてもっともらしい言い訳なんかしなくてもお姉ちゃん解ってるから」
と、いい笑顔の佐祐理さんの台詞に肩を落とす彼の姿が痛々しかったが、
でもまぁ、それ以上に気になるところ、っていうか初めからかなり気になってたことなんだが。
「なぁ、隅っこの『石橋 ←→ 鹿島』てのはなんだ?」
ホワイトボード内、右下隅に申し訳なさそうにたたずむ唯一の双方向恋のベクトル解析。
なにやらどこかで見たことのある苗字だけに嫌に気になるこの関係。
聞いていいのかツッコンでいいのか、悩んだ上の質問だったのだが。
「ああ、それ、祐一くんのクラスの担任の石橋センセとうちのクラスの鹿島ちゃん」
「ええ、一応二人とも隠してるようだけど、鹿島さんが卒業したら結婚するみたいなのよね」
「なにーっ!?」
「なんて言うのかな『逆おねティ』?」
「いや、犯罪だろ!?」
いや、そうじゃなくて舞なんで『おねティ』なんて単語出てくるんだお前。
「舞、石橋先生は宇宙人じゃないわよ……残念だけど」
「残念なのっ!?」
あんたも不思議と変なこと詳しいな、つーか本当に残念そうだよこの人の表情。
「けど、佐祐理、ベクトル解析って割には鹿島ちゃんとこ以外一方通行で直角だよね」
いや、直角って何だよ。
「うん、しょうがないよ、内積ゼロだから」
|A||B|cos90°!?
ていうかわけわかんねぇよ!
「それにこれ見るとなんか天野さん可哀想よね、誰にも想われてない」
「そうねー」
どうやら同じように想われてない一弥氏のことは無視らしい。
そして二人しばらく悩んだような表情で首を傾げていたのだが、何かを思いついたのか佐祐理さんが突然一弥を指差して表情を引き締め口を開いた。
「よし、一弥アンタ栞ちゃん諦めて天野さんにしときなさい」
「だからなんでだよっ!!」
あとがき
頑張れ一弥。