「ほら、あゆ」
「え? あ、これって」
「ああ、取れたんで、な」
「……ありがとう、祐一君」
「い、いや、いいって」
「本当、ありがとう……」
「い、いや……って、なんだ、まい?」
「祐一くんの女殺しー」
「あのな、まい……」
前にクレーンゲームで遊んで数日後。
俺はまた別の日にあのクレーンゲームをこっそりと挑戦して来たのだ。
数度の挑戦、もとい不屈の魂で目的だったあの天使の人形を獲得。
そいつを今あゆに手渡したところだ。
まぁ、要は諦め悪く足掻いた結果、しかも名雪にお金借りてまでしたからな……。
今後の俺の財政事情に悩み、というか黄昏ていたが、本当に嬉しそうなあゆの笑顔を見てそんな鬱になりかけた気持ちも吹き飛ぶ。
滅多に見せないあゆの満面の笑みだ。
この笑顔が見れたならいいか、と思ってしまう。
そして、その笑顔が俺に向いていて、俺に感謝をしているわけだから当然照れくさくなってくる。
「そ、それでだな、あゆ、この人形は只の人形じゃないんだぞ」
照れ臭さがいっぱいいっぱいになり、何がなんだか解らないが適当なことを口走ってしまう。
なんなの? という感じで小首を傾げて俺の答えを待つあゆ。
ああ、もう、そんな表情も反則だって!
照れ臭さを回避するために口を開いたのに何故だか自分を更に追い詰めてしまったようだ。
「そう、コレは、願いを叶えてくれるんだ」
ああ、もう、焦ってすげぇ適当だ、俺。
「願い?」
「そう、3つの願いだ」
ああ、本当、どこにでもありそうなネタだよ、おい。
「そうよね、あゆちゃん、何か願い事あったんじゃなかったっけ?」
先日、『願い事が叶いそうだから』という理由でコレを欲しがっていた事を思い出したまいが冷静にあゆに声をかけた。
「うん……」
「じゃあ、願い事しちゃえば? 3つもあるんだしっ」
どことなく、浮かない顔をしたあゆに、まいはいつもの明るい調子で話しかけてくる。
それに笑顔で頷くが、どこか少し憂いを帯びた表情。
あゆの願い事というのは何か深刻なことなんだろうか。
「ボクね……」
ぽつ、と申し訳なさそうに口を開く。
「お母さん、いなくなっちゃったんだ」
そんな、話。
俺とまいは突然のあゆの告白に言葉を出せない、どう考えても少し子供には重い話だ。
「あの日、それで泣いてたんだよ、だから祐一くんとまいさんには感謝してるんだよ」
「……何も、してないぞ、俺は」
「ううん、まいさんもだけど、いろいろしてくれたよ……」
嬉しそうに微笑むあゆ。
この『いなくなった』というのがどういう『いなくなった』なのかは解らないが少なくとも今、あゆの傍にはいないのだろうということは容易に想像出来る。
「でもね、ボク、お母さんがいなくなる前に『大嫌いだ』って言っちゃったんだよ」
あゆは凄く悲しそうに、辛そうに地面を見つめてぽつぽつと話を続ける。
俺とまいは相変わらず黙ったまま。
「だから、ボクの願い事は、お母さんに『ごめんなさい』って、『本当は大好きだよ』って言いたかったんだ……だから、それを……」
「大丈夫だよ、あゆちゃん、その天使さん、ちゃんと願いを叶えてお母さんに伝えてくれるよ」
最後の方は泣きそうになったあゆの声に、まいが優しくあゆをなだめながら答える。
そんなところが一年とはいえ、やっぱりまいは年上なんだな、と思わせてくれた。
それに、そうだな、苦労して取ってきた人形だ。
仮にも天使の姿をしているんだ、そのくらい何とかしてくれないと割に合わないぞ。
「そう、かな?」
「そうだよ、それにきっと……お母さんはあゆちゃんがそう思ってたことも解ってくれてたと思うよ」
「そう……かな?」
「うんっ」
とても優しい笑顔のまいの言葉に、感極まったのかあゆがほろりと涙を流す。
願いが叶うとか、そんなことも大事だけど。
きっとあゆはこうして無責任でもいいから同意してくれる、許してくれる誰かの言葉が欲しかったんだろう。
まいにしがみ付いて泣いている。
まいも小柄な方だが、あゆはもう一つ小さかったので仲のいい姉妹の姉が妹を慰めているような、そんな姿だった。
あゆもそれで満足したのか、しばらく泣いた後は笑顔でまた俺たちと街を歩いた。
手に天使の人形を持ったまま。
「で、あゆちゃん、後2つ願い事が残ってるようだけどどうするの?」
途中でまいが思い出したようにあゆに話しかけるが、あゆの方は特に何も考えてなかったらしくまた今度にとっておくなどと返していた。
「いや、ちょっと待て、実はその人形な、1つ目の願いはその天使が叶えてくれるんだが、後の2つは違うんだ」
その会話の切れ目を縫って、いや実際のとこ後2つ願い事を叶えるとか言ったが無茶なことを言われても敵わないと釘を刺しておくことにした。
「ん? 後の2つは何が違うの?」
まいが興味津々という表情で訊いて来る。
「うむ、実は叶えられる願いと叶えられない願いがあるのだ」
「……なんで?」
あゆもおずおずと問うて来る。
「そりゃだって、願いを叶える人の都合だ」
「……誰が、叶えてくれるの?」
「まい」(←祐一:きっぱり即答)
「あたしっ!?」(←まい:商店街中に響き渡るような声で)
「……ま、まいさんなんだ」(←あゆ:ちょっとびっくり)
「うむ、願いを叶える神、通称『ゴッドまいまい』だ」(←祐一:真剣)
「カタツムリの親分みたいな名前にすんなっ!」(←まい:憤慨)
「でも、まいさんが叶えれくれることが出来ることってどんなことなんだろう」(←あゆ:素朴な疑問)
「むっ、その発言、挑戦と受け取ったぞ! さぁ、願い事言ってみろ、叶えるぞっ!」(←まい:乗せられやすい)
などと訳の解らない悶着こそ最後に着いたものの、コレであゆが初めにあれほど悲しそうだった理由も解り。
完全ではないにせよ、問題解決になってあゆは自然な笑顔になってくれた。
そして改めて、俺たちは3人で、時には名雪も交えて4人でこの街で楽しく遊んだのだった。
「で、祐一くん、あたしには?」
「……なにが?」
「は、はちみつくまさんはっ!? あゆちゃんだけに取って来てあたしには何もないのっ!?」
「自分で取れよ、ゴッドまいまい」
「くぅっ、ゴッドの力見せてやるぅっ!」
「まぁ、頑張れよ」
「ゆ、祐一くんの焼きハマグリーッ!!」(←まい:走り去る)
「……それはもしかして貶してるのか?」(←祐一:理解に困る)
「ハマグリ、おいしいよね」(←あゆ:解ってない)
でも、やっぱりまいがすき☆
香里は泣いていた。
気丈に振舞って来ていた彼女だが、押し込んでいたものを吐き出して、
口にしてしまったからこそ改めてそれを認識してしまったのだろう。
香里自身が考えないようにしていたこと、目を背けて来ていた現実は彼女の涙腺の堤防を決壊させるには充分だった。
いや、初めからそんなところに堤防などなかったのかもしれない。
そのくらい、あまりにも過酷な話。
まさかとは思っていた。
その可能性は俺も考えていた。
考えていたがあまりに現実的じゃない、それこそドラマか小説のような話だ。
この街に来て、仲良くなった人の1人。
雪の積もる並木道で出会い、学校で再会し、明るすぎる先輩たちに振り回されて楽しんでいた後輩。
初めて出会った時こそ寂しげな表情だったが、それからはいつも笑顔で、みんなといることが本当に楽しそうだった。
『次の誕生日まで生きられない』
どれほど長く見積もっても1年。
栞の誕生日の日付によってはいくらでも早くなる。
コレを訊いてしまえば決定的。
その日を抑えてしまえば、確実に、その日には栞がいなくなっていることを決定付けてしまう。
知っても知らなくても事実は事実。
けど、やはり知らないというところで現実から目をそむけて逃げたくなる。
香里もきっとそんな形で逃げようとして、一番逃げるのに楽な方法として『妹なんて初めからいなかった』に行き着いてしまったのだろう。
香里の方に目をやると、すでに涙を隠すことさえも止めたのか頬を伝う雫をそのままに俺と視線を交差させる。
――2月1日。
訊こうかどうしようか悩んでいたのだが、意を決したように香里が先に口を開く。
それが、栞の誕生日。
愕然とする。
今、自分の中にある感情が、いったいなんと呼んでいい感情かも解らない。
雪が先ほどより強くなって来ている事さえどうでもいいように言葉もなく佇む。
2月1日、あまりに近い、近すぎる誕生日だ。
後、10日足らず。
いつ医者に言われたのかは解らないが、昨日今日なんてことではいだろう、それなら香里の態度も違うはずだ。
きっと、それは以前から解っていたこと。
だとすれば、後10日と言わず、今日、明日さえどうなるかわからないのではないだろうか。
信じたくない現実に、可愛い後輩の余りに短い未来に『もう、本当にどうにもならないのか』と口にしかけたが必死の思いでとどまって口を閉じる。
おそらくは、
香里も何度も問うたことだろう。
数え切れないくらい悩んで悩んで、現実を受け入れて、この状況になったのだ。
だからそのことは訊けない。
嫌というほど解ってるから、多分訊いてしまうことは香里の神経を逆撫ですることにもなるだろう。
どうにもならないと思いたくはない、けれどそれを問い詰めてもどうしようもない、俺たちは医者じゃないんだ。
無闇に騒ぎたてれば更に落ち込むか心がささくれ立つだけだろう。
互いに言葉も繋げることも出来ず、雪の降る公園の中で静かに佇む。
肩や頭に軽く雪が積もり、少しの時間を置いて少しづつ溶けていく。
更に積もるのが先か、溶けて行くのが先か、今のところいい勝負でどちらが勝つか解らない。
俯いていた俺たち2人の視界に不意に影が差す。
顔を上げて見れば、あゆが手に温かい、というよりは熱いと言った方が適当な缶コーヒーを差し出して来ていた。
気が利くと言うのか、頃合を見計らったように自動販売機まで足を伸ばして全員分の飲み物を購入して来たらしい。
俺も香里も素直にそれを受け取り、
顔を上げたのをいい機会としたのか、香里は噴水の縁から立ち上がり俺達の方を見ないままに言葉をかけてきた。
「どうするの? 相沢君たちはあの娘に関わって」
どうって、何がだ。
という俺の視線に気づいたのか香里はくるりとこちらに向き直りその目で『解っているでしょ?』と語りかけてきていた。
つまり、
もう、栞はどうにもならないのにこれ以上どうするつもりだ、と。
確かにどうしようもないかもしれない、けれど、だからと言って、
「初めから会わなかったことにでもするか?」
その言葉に香里の体がピクリと反応する。
「そういう、選択肢もあるんじゃないかしら?」
俺を見ているのか、もっと遠くを見ているのか、それも判断つかない表情ポツリと寂しそうにこぼす香里。
その声にわずかばかりの非難。
俺に対してのものか自分自身に対してのものかは解らないが、そこに非難の色があることは、まだ栞を思いやっていることを思い起こさせ俺を安心させた。
「でも、そうだな、その選択肢はいくらなんでも――」
その香里の反応に少しだけ隠れて俺は笑みを零すと、ほぼ同じ視線になる為に立ち上がりながら香里の言葉を否定する。
「――バカにしてる」
「……それは、誰を?」
「さぁ、香里解るか?」
「解らないわよ、あなたが言ったことじゃないの」
「学年首席に解らんもん俺に解るかよ、まぁ、よく解らんが対象は関係者、ってことでどうだ」
「……ふぅ、ホント厄介な……でも、そうね、関係者をバカにしてるかもしれないわね」
そして、微笑む。
今度のは自嘲というよりは自然な笑みに近い笑顔で、
涙を流していた。
涙が落ちるのに合わせるように、ぽつぽつと、
香里は、栞のことを話し始めた。
俺たちに聞かせているのか、自分に言い聞かせているのか、
それすらも解らない、そんな表情で、そんな話し方で。
彼女の妹は、
姉と一緒に学校へ通い。
姉と一緒に作ったお弁当持って行って、お昼休みは一緒に食事。
他愛もない話題で盛り上がり、
友達に『また明日』と挨拶をして一日が終わる。
でも、美術部に入って好きなだけ絵を描くと言うのも捨てがたい。
そんな平凡な、
どこにでもあって、誰にでも出来そうなことが望み。
それを叶えようと努力して姉と同じ学校に合格。
しかし、その努力による成功も入学して一日で体調を崩し、結局叶わず仕舞い。
そして、それからすぐ後に、
もう次の誕生日まではもたないと解ったそうだ。
誕生日まではもつ、ではなくその頃にはもう、ということ。
つまり、今でさえ医者から言わせればもっている方だというわけだ。
だから、今、この時に、もうダメだと言われても何も不思議じゃないという状態だと。
泣きながら、いつしか香里は俺の正面からコートにしがみついて栞のことを語ってくれていた。
あの娘はいったい何のために生まれてきたのか、そんな神でも恨もうかと思わせるような台詞を叫ぶように吐いた後、
もう嗚咽だけしか聞こえない。
状況的に俺の胸で泣いている姿だから、なんとなく落ち着くようにその頭を撫でてやっていると、
少しづつ、ほんの少しづつだったがその嗚咽も小さくなり落ち着いて来たようだった。
それからどのくらい経っただろうか。
ぱたぱたとあゆが肩と頭に積もった雪を振り落とす音で正気に戻ったのか、香里はそっと俺から離れる。
照れくさいのだろうか泣いた後の顔だからだろうか俯いたままである。
俺も自分と、ついでなので香里に積もっている雪を払い落として空を見上げると、なかなか結構な降雪。
俺たちがさっき座っていたところも既に新雪に覆われていた。
いつの間にこれだけ雪が強くなったのか。
「コーヒー、ぬるくなっちゃったわね」
口を開いたのは香里、プルタブを開ける音が続いて気付く、誰もコーヒーを開けないでそのまま持っていたのだ。
「でも、買ったばかりの時だと熱すぎて飲めなかったよ」
あゆも、そう答えながら自分の缶コーヒーの蓋を開けて、中身を口に含む。
「あゆちゃん、猫舌なの?」
「うん、そうなんだよ」
「……魚類にも舌あるのか?」
「うぐぅ、誰が魚類だよ!」
「あるわよ、でも骨みたいに硬くて舌ってイメージじゃないわね」
「ふぅん、どれ」(←祐一:あゆの口を開ける)
「ひゃはらひょふいややひっへ!」(←だから魚類じゃないって!)
「……ホント、厄介な人ね」
香里がため息混じりに、それでも小さな笑顔で呟く。
こういう話の後にちょっと調子に乗ったのは不謹慎だったかと、すまなく思い謝ろうとしたのだが、
「謝らないでいいわよ、なんだかそうじゃなきゃ相沢君らしくないもの」
なんて笑顔で言われてしまう。
「何より、こんな話を聞かせてしまって、謝るのはあたしの方だと思うし」
「それこそ謝ることじゃないだろうよ」
「そうかしら? 相沢君の悩みのタネが増えたんじゃないの?」
「そうかもな、けど知らないよりはいいんじゃないかと思うぞ」
「そう?」
「知らなかったら、知らなかったと言うことできっと後で悩みそうだからな」
「……ホント名雪の説明通りの人ね」
「名雪の説明?」
「……変な人だってこと」
「……心外だな」
くすり、と2人で笑いあう。
そして香里は今日はもう帰ると、帰途の意を告げてゆっくりと公園を出て行こうとする。
合わせて俺たちも後から公園を出るために動き出そうとしたところで香里が振り返り、改めて質問を投げかけてくる。
「で、結局相沢君はこれからどうするの?」
これから、今日のこの後の予定のことではないだろう。
今日の話を聞いて、栞に対してどうするか、と言うことだろう。
正直、栞の病気に関しては医者がそんなことを言うのだ、一介の学生でしかない俺にどうこう出来るものであるはずがない。
だから俺に出来ることなんではっきり言ってない、ないからこそ、俺は、
「どうもしない、かな?」
「……そうなの?」
「どうにもできない、が正しいかな? まぁ、今まで通りってことでどうだろうな」
「……なんか、意外と言えば意外、諦め悪そうだからジタバタ足掻くかと思ったわ」
でも、そんなのも相沢君らしいわね、なんて後につけて納得したのか帰途につくため体を公園の入り口の方に向けて歩き出した。
諦めが悪い、か。
実際にどうしていいか解らないんだ。
どうにもならないとしか結論が出ないんだ。
薄情と言えば薄情かもしれないが、じゃあ、足掻くネタがどこにあると言うんだ。
きっと、香里自身も、ココまで足掻いて来たんじゃないのか?
「香里さんはこのままでいいの?」
俺が答えの出そうにない考えに埋没して、香里が公園の外へ出て行こうとした時、
今までほとんど黙って俺達の話を聞いていたあゆが大きな声で香里を呼び止めていた。
よく考えれば、あゆもかなり微妙な立場。
栞とは面識はあるし、香里ともいつの間にやら仲がよい。
けど、栞の学校でのことなどは知らないため、今日の話はほとんど初耳、意外な話ばかりだったろう。
なのに話の腰を折らずに静かに聞いていたので、もしかしてただ邪魔しないように流しているんじゃないと思っていたが、
「香里さんにとって、栞ちゃんは今も妹じゃないの?」
この台詞で、あゆがしっかりと話を理解していたことが解る。
そして、今、栞のことで俺たちが口を出せることにして元々の目的。
「多分、香里さんがどう思っていても、栞ちゃんには香里さんはお姉さんだよ」
そう、栞の体のことはどうにも出来ないかもしれないが、そんな時に姉妹がこのままでいいとは思えない。
「現実を受け入れるのは辛いかもしれないけど……」
奇しくも一番こういう話に縁がなさそうだったあゆが最も今の状況を理解していた。
「このまま……の方がきっと何倍も辛いはずだよ」
少し空いた間は『このまま栞がいなくなってしまえば』と言う言葉を飲み込んだところだと思う。
あゆの言いたいことは解る、多分後悔するなと言っているのだろう。
まさにお手本のような説得だ。
そう、お手本のようなのだが、
何故か悲痛な声に乗り、とても心に響く。
香里もそれを感じているのだろう、驚いたようにあゆを見つめている。
ああ、そうだ、心に響くはずだ。
いつだったか、あゆに聞いた話があった。
コイツはこんな話に一番縁遠いどころか、後悔をして来たんだ。
それが辛くて、あの頃、泣いていたんだ。
あゆは知っているんだ。
その辛さがどれほどのものかということを。
しかし、香里にしても素直に、スイッチを切り替えるように考えを代えれるようなものでもないだろう。
あゆの言葉に沈痛な面持ちを見せて、軽く礼の代わりか会釈をすると雪の降りしきる中、公園を出て帰って行ってしまった。
それを見送って、雪の公園で俺たちはただ静かに香里の歩いていった方を見つめていた。
香里と栞、せめて姉妹仲良くあってくれればいいのに。
きっと、あゆの言う通りこのままでは香里が辛い思いをする。
俺に、俺たちに何か出来ないものか。
「祐一君」
「どうした、あゆ」
香里の栞に対する態度のことで頭を悩ませていた俺にあゆはこちらの方を向かないまま、しっかりした声で話しかけてきた。
「大丈夫だよ、多分」
無意味に安心させるような声ではなく、どこか確信を持った声で呟く。
「祐一君と舞さんがいるんだもん、きっとなんとかなるよ」
「そう、だといいな」
あゆが何を言いたいのかは全てが解るわけではないが、
そのあゆの言葉に俺は本当にそうなるといいと思い、出来ることを探してなんとかしてみようという気にさせられた。
あとがき
あゆ、格好いい……。
というわけで、香里の告白編は2話使ってようやく終わりです。
昼前なのに薄暗い、そんな雪の降る公園を想像して貰えてたらいいなぁ、と。
そんな32話でした。