「……と、言うわけで2人とも今日は漫才禁止な」

「ええええーっ!!」

「そ、そんな殺生なっ、この日の為に用意したネタをどうしてくれるのよっ!」

「折角作ったハリセンをどうすればっ!?」

なんて舞踏会が開催の直前の一コマ。

ドレスを着た2人の女性、舞と佐祐理さんを見かけた俺は一瞬その姿に見とれたが、

よく見ると片方がその手に白い厚紙製の蛇腹を束ねて持っていることに気がついたわけだ。

なんつーのか異様な姿。

片方はカラスの濡れ羽色というべき漆黒の黒髪に一見合わないのではないかと思うような薄紅色の肩を露出したドレスで、

いつものポニーテールじゃなく髪を下ろしている新鮮な姿。

同年代の中では一際その存在を強調する胸がばいんばいんってな感じに自己主張する様が目に眩しい。

が、何故か『天晴れ』の文字が入った扇子を手に持っている。

もう一方は栗色の髪をいつも通りに『お嬢結び』でこちらはドレスと合わせた若草色のリボンでまとめている。

ドレスは清楚な感じで上から若草色が下に向かう程薄い色になっている。

『ネギ』かよ。

とかツッコミたくなったがいくらなんでもドレス姿の女性にそのツッコミはないだろう。

まぁ、ネギはユリ科だから『歩く姿はユリの花』ってな誤魔化しも出来んことはないが、色からネギ扱いしてるので花でもなんでもないので却下。

と、脱線した話はおいといて、

そんな若草色のドレスで清楚に決めた見た目お嬢様は何故か手に長さ50cmはあるだろうハリセンをそりゃもう極自然に持っていた。

まさにその手に収まるように存在した一品。

余りに当たり前に手に収まっているのでそれが当たり前と思い、思わず流しそうになったほどだ。

っていうか、ココまで誰もツッコまなかったのは、

コノ2人だからツッコめなかったのと、余りに似合ってたためスルーしてしまったのだと俺は信じている。

だから、だからこそ俺がツッコム。

このまま俺がツッコまなかったらきっとコノ2人、

本当にステージに上がって漫才をしでかすに違いない。

そんなわけで勇気を振り絞った俺は何とか2人を押しとどめ、遠くからなんとなく感謝の念をこめているような久瀬の視線を受けていいことをしたと自分に満足していた。

っていうか2人とも漫才やる気まんまんだったのかよ。

今回ばかりはそれなりに勘弁してやってくれと2人をなんとかなだめる。

不満そうな2人ではあったがとりあえずのところしぶしぶと引き下がってくれる。

……どんなネタだったんだろう、とか気になって無いぞ、気になって無いからな。(←葛藤)

もっとも、ハリセンと扇子は没収して久瀬の手元に行ったがこの2人のことだから依然予断を許さないのは深く考えるまでもない。

悲しい運命を背負う生徒会長と倉田弟と目配せをしてこの2人を見張る意思を伝えあう。

とはいえ、実際のところ舞踏会が本格的に始まるまで警戒すればいいのであと少しなのだ。

流石に大きな催し物。

しかも学校だけの物ではなく市を巻き込んでいるわけなので、そんな中いくらこの2人と言えど無茶をすることはないようだ。

去年の漫才にしても準備が終わった後の開場から開催の合間の出来事だったとか。

なんだかんだでいろいろ考えてる2人だが、

どうみても考える方向が人と方向が立体角で45°ほど間違っている。

まぁ、結局は開催まで俺達の監視もあってか大きな問題もなく舞踏会が始まることになったが、

そんな時、気になったのは倉田さんとこの佐祐理さん。

ネタを禁じられてしょぼんとしていた舞とは別に意外に冷静で大人しく佇んでいた。

その姿は流石にこの街の名士の家のお嬢様だということを思い出させる立ち姿。

ただ黙って突っ立っているだけなのにえもいわれぬ存在感があり、

ただでさえ目を引く容姿だというのに今日は不思議と輝いていて男女問わず会場のほとんどの視線を浴びていた。

……隣でしょぼんとドレス姿でうずくまって床にのの字を書いている舞は狙ったような引き立て役だ。

だから、大人しくしてるそんな2人、今日は美坂姉妹のこともあるしステキなお嬢様で舞踏会を盛り上げてくれるのだろう、

と、

思っていたのですが甘かったです神様。

やっぱり倉田のお嬢様はどこまでいっても倉田のお嬢様で、

例によって例のごとく、

我々の予想を思いもつかない形で裏切って下さいました。

ええ、ええ、それはもう突然のことでした。

我が校の生徒会長が舞踏会の挨拶を、開催にあたり市や商店街の皆様に礼を述べ、

注意事項などを伝え終え、

今しがた開催の宣言を終えたというところ。

まさにその時のことでした。

会場の一角から上がるたった一人分だというのに大きく響き渡る拍手の音。

そして

「いいぞー! ゴンザレス会長!」

静かな会場に響き渡る鈴の音を転がすような声。

内容は激しくおかしい。

その拍手と声の人の隣でうずくまっていた影も何事もなかったかのようにスクっと立ち上がり、

怒涛のゴンザレスコール。

しばらく呆気に取られていた周りの人たち。

しかし、その続けられる会長に対するエールに感動してか次第に1人、また1人と声を上げていく。

そして、

気がつけば会場中に響き渡る『久瀬会長のためのゴンザレスコール』。

校内のことをどこまで知っているのかわからない街の人たちさえ、その異様な盛り上がりを見せるコールに釣られ会長を称え始める。

不憫とも思えるその状況。

俺なら間違いなく泣きダッシュ場面だというのに、

泣きたいだろうに敢えてそのコールに手を上げて答える久瀬は、

まだ舞踏会が始まったばかりだというのに、

本日のMVPに決定しました。

 

 

「どちくしょ〜〜〜〜!!」

舞台を降りてみんなの視線が外れてから泣きダッシュを試みるMVPの姿が心に残った、そんな開催式でした。

 


でも、やっぱりまいがすき☆


 

開催時から前生徒会長、現生徒会長2人の策略により異様なほどハイテンションで始まる舞踏会。

あ、いや、2人の策略というよりは前会長の独断先行突っ走りによる結果なのだが。

なお、現会長はどことなく陰のある表情で壁の花となっていたりする。

流石にかわいそうだと思ったのか隣に田中さんがついているのがポイントだ。

だがしかし、

あの田中さんなら慰めてるのか追い討ちかけてるのかは謎。

この人も実はいつも久瀬と佐祐理さんの闘争を眺めているが、どちらにつくでもなく観戦を決め込んでいる節がある。

重ね重ねウチの会長は不憫である。

そんなわけで初っ端から盛り上がった舞踏会。

実際のところ生徒会長の他、

わが校の校長、また市長やダンススクールの講師などの挨拶もあったのだが、

美味しいところは全部久瀬っちが持って行ったために他のお偉いさんメンバー影が薄かったりする。

前に聞いていた話どおり確かに学校だけのイベントではない様子。

辺りを見渡せば年配の方まで参加しているという状況だ。

肉屋の主人とか、ゲーセンの店員さんなど商店街で見たことのある人の姿もちらほらと目に入ってくる。

本当にお祭りのようである。

用意された飲み物・食べ物も商店街のプロが用意、しかも自分達も食べたり飲んだりするために手抜きがないのかかなりレベルが高い。

いやまったくどこが主催のイベントだかマジメに解らない。

そんな風に辺りを見渡していると今回の舞踏会における俺達が思うところのメイン、

北川と栞が目に入った。

俺からは離れた場所にいるが特徴があるあのアンテナでその存在が確認される。

パリッとした服を着て舞踏会に溶け込んでいてもあのアンテナは治らないのか。

もしかするときちんとセットしたのにアレだけはどうにもならない代物なのか。

実はアレがないと真っ直ぐ歩けないとか勘ぐってしまうのはしょうがないかと思われる。

恐るべし、北川アンテナ。

でもって隣に当たり前のように付属するようになった栞は舞と同じような薄紅色のドレスで北川に笑顔を振りまいている。

本日は流石にストールは付けてない。

実はいつも羽織っているストールがなかった為に最初彼女が栞だと気付かなかったのはご愛嬌だ。

そしてさらにその傍に伺うように連れ立って山吹色のドレスに身を包んだ天野嬢がいる。

こちらは友達の栞に付き添っているのか、はたまた北川の傍にいるのがメインなのか謎だが、とにかくあの辺りは賑やかである。

胸囲は沈静化しているというのは俺の心の中だけにしまっておこう。

年下キラーは香里だけではなく胸にも縁がないらしい。

不憫な。

で、またそこから少し離れ、俺のいる側に近いところに笑顔のはずだが眠そうな顔にも見えたりする名雪の姿が見える。

どうやったのか結局期待通り香里を連れて参加に乗り切っていてくれていた。

凄いぞ名雪、実はちょっと見直した。

どうやって連れてきたのか是非聞きたいところだが、隣にいる香里の様子を見ているとそんなこともどうでもよくなる。

なにしろ、こんなイベント気だるいと言いたげな雰囲気を体から出すようなしぐさをしながらも、ちらちらと栞の様子を伺っているのだ。

なんだか微笑ましい姿だ。

そんな意地っ張りな香里の姿に苦笑がもれたところで、近くにいた人たちから俺に声がかけられた。

「なるほど、相沢クンは実は香里ちゃん狙いだったと」

「いえ、相沢君は名雪狙いかもしれないわね、視線は香里だけを捕らえているとは限らないわよ」

「川澄先輩という人がいながら、裏切り者っ」

聞こえる声は3つ。

どれも聞いたことのある声で、

内容は恥ずかしいというかなんというか、明らかにからかい調子の言葉が矢継ぎ早にぽんぽん飛び出して来た。

振り向けばいつかの仲良し3人組。

変形ツーテールの秋葉さん他2名。

……いや、実は他2人、茶髪さんと背高さんの名前はまだ憶えてない。

なんとかそれを悟られないように軽い調子で3人に言葉を返す。

「なんだ、仲良し3人組も参加してたのか」

「……単純かつ直球ネーミングよね」

俺の軽口に背高さんが呆れたような笑顔で答える。

ココでしっかりと3人の姿を視界におさめると、ドレスアップしてあるだけあって、普段教室で見る姿よりも4割増し魅力的に見える。

いや、まぁこの3人に限らずの話なわけで、つくづく女は魔物だと認識させられる。

「ん? どうしたの相沢くん、もしかしてアタシに見とれた?」

考え事をはじめてしまった俺の視線に気付いたのか秋葉さんがちょっと体にしなを作って流し目で問うて来る。

実際なかなか可愛い娘だったりするからそれなりに見とれたりしてしまうのだが、

視線を上から下へと動かし彼女の全体像を視界におさめたからこそ敢えて別のことを追求したくなった。

「まぁ、その辺はともかく、秋葉さんドレス着ててもツーテールなんだな」

いつも同じ髪型なんだからこんなドレスのときくらい変えたらどうだよ、って皮肉を含めた質問。

しかし、目の前のお嬢さんはそんな皮肉は通用しないのかステキな笑顔のまま俺との会話を続ける。

「ふふふ、コレがアタシのアイデンティティ」

「……そうか」

「む、なんか投げやりね、失礼よドレスアップした女を前にして」

楽しそうに語る秋葉さんにいい加減に返事をして怒られる。

いや、怒られても困るんだが。

つーか、ツーテールやめたら自分が崩れるのかお前は。

「相沢クン、ここはお世辞でも褒めるのが男の役目よ」

ちょっとだけ、絡んで来る秋葉さんに苦笑していると、ぼそっと横から小さな声で助言。

声の元は3人の中では小柄な姿の茶髪さん。

その意見も確かにこういう場では礼儀になると背高さんの秋葉さんには聞こえないように呟く助言も追加され、

「でもまぁ、その髪型も秋葉さんらしくて似合ってるよ」

なんて自分で言ってて歯が浮きそうな台詞を吐いてしまう。

「そう? ふふ、そんなアタシのドレス姿に惚れてもいいわよ相沢くん」

「胸、無いけどね」(←背高さん)

「花梨ちゃん、二の腕の脂肪取れた?」(←茶髪さん)

「……」(←秋葉さん)

俺の台詞に気を良くし調子に乗った秋葉さんの台詞に打ち合わせでもしてたかのような間髪入れず飛び出して来た他2名のツッコミ。

表情が無くなり固まる秋葉さんとため息を吐く背高さん、そして手に持っていたジュースを一気飲みする茶髪さん。

「う、うあぁぁぁぁあぁぁぁぁ……」(←秋葉さん:遠ざかる)

「……いいのか、あれ?」(←祐一:すまなそうに)

「まぁ、調子に乗ってたからいいんじゃない?」(←背高さん:何でも無いように)

「……ぷはっ」(←茶髪さん:一気飲み完了)

「というか、俺に褒めさせてアレか?」(←祐一:汗)

「落とす時は一度持ち上げてから」(←茶髪さん:腕を組んで)

「基本よね」(←背高さん:神妙に頷いて)

なんと言うか、3人の変わった友情を見せていただいた一コマ。

なんだかんだで2,3言雑談した後に秋葉さんを追って行くあたり普段からのツレという感じがにじみ出ている。

俺としては女の子が離れて行った事こそ寂しいものの、あまり話も長くならず、名前を憶えてないことがバレなかったのでよしとする。

……後で名雪にあの2人の名前を確認しておこう。

その後暫くは雰囲気を楽しみ、ダンス教室の講師による簡単な説明を聞いて研究。

ココ数回の体育で社交ダンスをかじりだけ受けたとはいえ、その時は正直いい加減にやっていたので憶えていない。

その為ココで憶えないとどうにもならないと、自分で言うのもなんだが真剣に聞いてしまった。

で、折角憶えたのだからと試してみようと適当なダンスパートナーを探す。

よく考えればこの街に来てからというもの親しくなった相手というのは主に女性。

普通に考えればその中から相手をピックアップ。

ダンスなんかをそつなくこなしそうな上、何だかんだでこういう場合一番頼りになりそうなのは佐祐理さんで、

一番軽く誘えそうなのがイトコの名雪。

北川に対する嫌がらせと運動神経うんぬんで一番面白そうだということで香里という選択肢もある。

でも、やっぱり

その今考えた人たちを置いておいて、俺は舞を探してしまう。

一番頼りになる人でもなく、一番気軽に付き合えそうな相手でもなく、一番面白そうなヤツでもなく、

俺にとって一番……

「ゆういっちっく〜ん!!」

危うく何かの結論に行き着きそうになった俺の思考を遮って、当の少女の舞がドレス姿ながらこちらに向かって走ってくる。

ばたばたと優雅さの欠片もありゃしない。

ああ、もう、なんだかいろいろと台無しだ。

呆れ返りそうになる、が、しかし、何より舞らしい姿。

なんというべきか、既に呆れは飛び越えて微笑ましくさえ思ってしまう。

「祐一くんっ、なんかそういえば成り行きで舞踏会に参加したけど、踊れるの?」

「ああ、まぁ、今ダンスの先生の講義を聞いていた」

「……じゃあ、さ、折角だし、どう?」

走って来た為か少し頬を上気させて話しかけてくる、もといダンスに誘ってくる舞。

「……まぁ、折角参加してるし、今講義受けたところだし実践したいところだからな」

と、いうか、今の今まで相手をして貰う為に舞を探していたわけなんだが、

いや我ながら素直じゃない言い回しだ。

「えっと、それじゃあ……」

舞がふわりと優雅に手を差し出してくる。

「じゃあ、一曲お願い出来ますか?」

差し出されたドレスとセットの手袋に包まれた舞の手を取りながら、改めてダンスの誘いを告げる。

「はい、喜んで」

微笑み答える舞、頬が朱に染まっているのは照れているからだ、と思いたい。

多分、俺も似たような状況になっているだろう。

だからと言って今更下手に誤魔化してスマートに行こうとは思わない。

どうせ俺は素人、舞はそれなりにダンスもコレまでの経験でなんとか出来るそうだが、俺には頭で先ほどの講義内容を思い出しながら動くのが精一杯だ。

舞に注意を受けながらオタオタと踊るのが関の山だろう。

だから、どうせ恥をかくのなら俺が楽しんで恥をかくべきだし、笑いが取れるなら盛大に頂いてダンス部門のMVPを貰ってしまおうではないか。

「祐一くん、足逆」

「おお、すまん、つっても何がどう逆だか解らん」

「あたしの動きに合わせてくれればいいんだけど」

「……げふっ」

「……足を踏むとかはよくあるけど……膝を入れたのは初めてだわ」

「い、今のは、おまっ、太腿の側面……あ、歩けねぇぞおい……」

「……ご、ごめん、流石に今のは悪かったわ……」

結果、笑いを取るどころか周りに心配される危険球となるデッドボールを食らったような形になってピッチャー・バッターともに途中退場。

自分の主観だがちょっといい雰囲気になりかけてから勿体無かったが、それでもダンス一回分の8割分くらいは楽しんだのでとりあえず舞とのダンスは俺的に成功。

気分的にはもうめでたしめでたしである。

舞のニーキックを受けた箇所をさすり、椅子に座って一息ついていると、加害者様が両手に飲み物を持って横に腰掛けてきた。

そのまま手に持っていたオレンジジュースを黙って片方俺に渡してくる。

礼を言って受け取り、2人でちびちび飲みながら先ほどのダンスの反省会。

「ごめんね、なんていうか、まさかあんなに綺麗に膝が入るとは」

「いや、うろ覚えで踊ろうとした俺が不味かったんだろうし、気にしないでくれ」

「でもほら、あたしがあんな勢いつけないで気をつけてれば」

「あー、いやでも、俺は楽しかったし、問題ないけど」

「あ……うん、あたしも楽しかった」

申し訳なさそうに言葉を出して来た舞に、なんとかフォローをして上手く行った様で笑顔になってもらえる。

もとより、俺が下手だから起きた事件で、言ってみりゃ被害者なのは舞の方なのだ。

俺だけ楽しんだ結果になられても困るので雰囲気を軽くしようと思いつく軽口、半ば本気の軽口を叩いて場を変えた。

「折角こんな美人をダンスだけじゃなく終わってからも独り占めに出来たんだ、膝蹴り様々ってことで問題なしだろ」

「……あ、そのちょっとだけ問題あるかな」

「何がだよ」

俺の軽口を受けて、一瞬驚いたような表情になったかと思うとすぐに笑顔に、

それもどこか楽しそうな意地悪そうな表情だったから、同じように軽口で返して場を明るくしてくれるのかと思い次の言葉を待ったのだが、

「もうちょっと、祐一くんと踊っていたかったかなってね」

はにかむ様な笑顔で言われたその言葉は余りにも破壊力がありすぎて、

多分俺は今戦隊ヒーローのリーダーをやれるくらい真っ赤になっているだろう。

ただでさえ美人、

その上昔から気になっていた、憧れていたような女性にこんな至近距離でこんな笑顔を見せられて、

好意とも取れるお言葉頂いたのだ。

コレで一介の男子学生が落ち着いていられるだろうか、っていうかいられるわけがねぇ。

そう多分、

今、

俺はきっと、

今なら、

かめはめ波が撃てる。(←激しく混乱中)

もうなんか、みっともないくらいに動揺している俺の横で、

そんな俺を見て楽しそうに笑う舞は本当に綺麗で、

何を言っていいか解らない、そんな状況になったところで辺りから響いて来たのは。

「〜踊る〜ゴンザは一拍ずれて〜、頑張れヤクルトスワローズ〜」

「佐祐理さんっ、曲に勝手に歌詞付けて歌わないでくださいよっ!」

「港区〜麻布十番、三丁目〜、公共〜機関は東京特許許可局♪」

「ないからっ、ないですから、東京特許許可局は架空の公共機関ですからっ!!」

そんな変な歌と、必死な声の方に目を向けてみれば、

見た目優雅に踊っている久瀬と佐祐理さん。

見栄えの良さと踊りの洗練さで同年代なら他の追随を許さぬ雰囲気で華麗に曲に合わせ踊っているペアの姿が目に入って来た。

もっとも、会話の内容と踊りの優雅さのギャップが激しく、

変な雰囲気ということでも他の追随を許しそうもなかった。

そしてなにより、

恐らくは即興で会場内に流れる曲に自分勝手な歌詞を付けて歌う佐祐理さんと、

流石生徒会長、と思わせる程につらつらと『東京特許許可局は架空の公共機関』などと普通に舌噛みそうな難解な台詞を激しいツッコミとして吐き出す久瀬。

なんていうか、もう何がどう、とかじゃなくすげぇよこの2人。

さっきまでいい雰囲気だった舞もいつしか腹を抱えて笑っている。

そして、

渦中の人久瀬っちは、

俺の中で本日のMVPから月間MVPに格上げとなったのであった。

 

つづく


あとがき

あれ?

シリアス?

 

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