緩やかな音楽が流れる中。

会場内の多くの人の視線を集めて軽やかに踊りを披露していた。

俺としては先ほどの失態からも解るようにとても自分はダンスなど踊れないと思っていたのだが、

目の前の女性の指導は踊りながらだというのに非常に的確で解りやすく、

なんだかその通りに動くだけでかなり自分が上手いのではないかと錯覚してしまうほどに踊れていた。

実際のところその人の動きがこちらをサポートするように一瞬先に導くように動いているだけ。

だからそんなところからも解るように俺は実は大したことがなく、加えてこの人の技術は相当なものだということが見て取れる。

いろんなスキルを持ってる人だ。

本当に改めてそう思う。

そんな風なことを考えながら、目前の女性と優雅に、いや俺はぎこちなくだが音楽に合わせてゆったりとステップを踏む。

会場の人たちの視線がちらちらとこちらに向く。

最初の時ほどあからさまではないもののやはり人の視線を感じてしまい気恥ずかしい。

まぁ、視線のほとんどが商店街関係者だというところはやはりこの一緒に踊っているパートナーが原因なのだろう。

なんだかんだで有名なんだろうな、ベンチで肉まんとかゲーセンのUFOキャッチャーとか。

きっと俺の知らないところでもっといろいろやってそうで恐ろしい。

なんつってもほら、母さんの妹だしなこの人。

そして何より、

っていうかコレが一番の原因なんだろうがこの人、一言で言うと『美女』なのだ。

「祐一さん、上手じゃないの、もうちょっと体寄せた方がいいのだけれどね」

「いや、はい、秋子さんのご指導の賜物ですよ」

笑顔で間近で話しかけてくる現在のパートナーこと水瀬家家長の秋子さん(美女認定済)。

仮に本当にこの人が商店街の神として崇められていたら俺は今日の帰り道気をつけねばなるまい。

何しろ雪国、

雪雲に覆われていて月が見えないのだ。

ああ、なんと闇討ちに持って来いなことか。

っていうか秋子さん普通に体を寄せて来ないで下さい。

いや、本能的には来て欲しいんですが……

なんていうか、その、あの、

着痩せするんですね秋子さん。(←結構混乱中)

そんな物騒なことやなんやかんやを考えていると、秋子さんはまじまじと俺を見つめてポツリと感想を漏らす。

「でも、普段学生服姿やラフな格好ばかりだったけれど、こういうパリッとした服も似合うわね祐一さん」

「そ、そうっすか? いや、秋子さんこそ、こんなドレス姿なんて、いやホント似合ってて」

たおやかな笑みを浮かべて俺を褒めてくれる秋子さんに、社交辞令だとは思いつつもみっともなく慌ててしまう。

こんな俺の姿に微笑ましそうに笑う姿もまた魅力的。

しかしまぁ、こんな距離で見ることも稀なので気がつかなかったが、この人冗談抜きで若い。

ありえないくらい若い。

名雪の母親なんだし、俺の母親の妹なんだから少なく見積もっても俺達の倍は生きていると思うのだが、

肌なんかこう、水を綺麗に弾きそうで、さらに露出した肩から二の腕が綺麗な曲線を描いていて。

いつも大きめのセーターやカーディガンを着ているせいで目立たないが胸なんかも実は舞と同等の戦闘力である。

平たく言って薄化粧で本当に楽しそうな表情で笑うこの人は20代前半で通用する容姿なのだ。

ただでさえ人目を引く人なのに、今日はその上白いドレス。

本人曰く『とっておいたウェディングドレスをリフォームした』ものだそうだ。

いや、目立つ目立つ。

ただ白いだけならいいんだがそれに合わせてどことなくウェディング装飾。

リフォームして形を変えてあるとはいえ元が元、それもかなり高価なものだったらしく輝いて見えたりするからさぁ大変。

髪型はいつものトレードマークだった三つ編みではなくまとめてアップにしている。

そこで本来なら光るうなじが視線を釘付けにするのだが生憎とふわふわの毛皮で覆われていてそれが、更に言うなら鎖骨も見えなくしている。

そう思うと毛皮がちょっと邪魔に思えるが、その狐色した高級感あふれてみずみずしく……。

……きつねいろ?

「……」(←祐一:じっと毛皮を見つめる)

「……あらあら」(←秋子:視線に気付く)

「もしかして」(←祐一:汗)

「あ、やっぱりわかる?」(←秋子:悪戯が見つかった子供のような顔で)

「……マコト?」

俺の声に反応して秋子さんの首に纏わりついていた毛皮が動く。

ひょこっと出て来たその顔はいつも見ている水瀬さんちのマコトちゃん。

ココがどこか解ってるのか、いやそれよりなんで大人しくそんなところでくつろいでいるんだか。

あまりの驚きに踊ることさえ忘れて唖然としている俺を前にして、

秋子さんといえば、

してやったり、とそんな表情で嬉しそうにマコトを腕に抱きなおして撫でてやっていた。

もしかして秋子さん。

このネタやるためだけに参加した、とかじゃないですよね?

そんな意味の篭った俺の視線を受けた水瀬家の家長さんは、

俺が何を言いたいのか理解したとでも言うように、

加えて『まさにその通り』と態度で表すように、

左腕でマコトを抱えながら、右手でサムズアップ。

鏡に向かって練習でもしてきたのか、ステキなウィンク持参の笑顔付で、

曲の終わりを締めくくるように頷いて見せてくれたのだった。

……やべぇ、惚れそう。(←錯乱中)

 

 

「お、お母さんいつの間にっ!?」(←名雪:秋子が参加しているの知らなかった)

「あ〜、秋子さんずるいですっ、祐一くんかむばーっく!!」(←舞:佐祐理と話してるうちに祐一を秋子にさらわれた)

 


でも、やっぱりまいがすき☆


 

舞踏会の時間も終盤まで進んで、一服。

途中秋子さんの乱入というパプニングこそあったものの舞と充分に舞踏会を楽しんでいた。

が、本日の本来の目的を思い出して件の姉妹を探す。

先に見つけた香里と名雪のコンビを連れて先ほどまで久瀬会長と踊りながら笑いを取るという大技を披露していた倉田さんちの佐祐理さんの所へと合流。

何のことは無い、久瀬と男女パートをまったく入れ替えて大真面目に踊っていただけだったのだが会場からは拍手と爆笑の嵐だったというわけだ。

いや、久瀬もよく付き合うものだ。

ともあれ、そんな佐祐理さんの所には件の中核になってしまっている北川。

舞踏会の始まった当初からほとんど変わらず、北川の傍でのんびりぼんやりしている栞。

もちろん、同じく北川の傍に天野嬢も。

久瀬がいるかとも思ったのだがヤツは何だかんだで実行委員の要なので一旦席を外している。

だから一見久瀬に見えたそこに居たもう1人の男は佐祐理さん曰く『素直でなくなった弟』こと倉田家ご長男の一弥くんだった。

姉弟が揃って一緒に来たというよりは、佐祐理さんに引っぱってこられて来ただけの様子。

しばらく様子を伺っていると、まぁ、予想通りというかなんと言うか、

北川と栞がからかわれているらしい。

どうにも既に俺達『いつものメンバー』の中では北川と栞がくっつくこと、いやむしろくっついていることが決定されているような感じになっている。

こうなると微妙に不憫なのは北川に想いを寄せる天野嬢(予想)。

そして栞にほのかな恋心を抱いている(と推測される)倉田一弥氏。

でもって、渦中の人であって2人の後輩から慕われているのに実は慕われている片方の姉に心奪われているがまったく相手にされていない北川(確定)。

そんな倉田嬢率いる連中に、俺と舞は名雪と香里を連れて参加したわけだ、むぅ、複雑な人間関係だ。

当然香里は渋ると思ったので、もう相手の意見も聞かずに内容も教えずに無理矢理のように2人を連れて来たのだ。

はじめは『してやられた』と思ったのか戸惑っているような状況だったが、どうせこうなるとは香里も諦めていたんだろう。

次第に落ち着いていつもどおり、つまりは特に姉妹としてではなく振舞う。

あからさまに視線もあわさなければ話もしない。

――が、お互いにどことなく意識して、

それとなく気にかけている様がありありと伺える。

「どうする、祐一くん?」

現状の場の雰囲気を読み取った舞が小声で俺に話しかけてくる。

「どうするも何も、ココから先は俺達がどうしようもないんじゃないのか?」

「まぁ、そうだけどさ……何かしらこう、2人が話し合う場を設けたんじゃないの?」

「そのつもりだったんだが……」

場を設けるだけで、きっかけはこれ以上作りようがないというのが現実。

いや、きっかけというならこの状況こそが最大のきっかけになるだろう。

でも、とりあえずのところ互いにどう話しかけていいものかと間合いを測っているような状態が続いている。

おそらく香里は今までのこともあり、どう対応していいか解らず、

栞の方は今までの姉の姿から話しかけて拒絶されるのを恐れて。

唯一の救いは、

周りの人間もそんな姉妹の様子に気がついているだろうが敢えてそこを追求もせず、態度にも出さずいつものように軽い雑談からバカ話までと当たり前に過ごしていることだろう。

けど、やはりそれでは話が進まない。

何かきっかけを、

そんなことを考えて無理に頭を働かせる。

本当、ここ数日だけで知恵熱出そうな程に考え込んでいるような気がする。

「北川くん、踊ってないんじゃないの?」

そんな時、ぽつりと名雪から北川に話が振られる。

一見大したことの無いような、この会場においてはありふれたその一言。

しかし、イトコ殿はそれを狙ったのか偶然か、この後この場において最大のセンタリングになる言葉を吐いてくれたのだった。

名雪・アシスト1。

「さっきから女の子に囲まれてるのに勿体無いよ〜」

ぼーっと間延びした口調で北川とその傍にいる2人の少女を見比べて話を続ける。

名雪のその言葉に北川も、そして傍の少女2人も照れたように言い訳を始めるが、

それが功を奏したというか、いや3人には迷惑な話なのかもしれないが佐祐理さんと舞の琴線に触れたらしく更なる追求の手まで伸びて盛り上がりを見せる。

そんな女性陣の様子に俺と一弥は顔を見合わせて苦笑。

もっとも若干一弥が切なそうな表情に見えるのは先日の恋のベクトル解析における情報から来た錯覚なのだろうか。

ふと、香里の方を見れば彼女は騒ぎから一歩引いた態度で、表情を硬くして大きく息を吸っていた。

何事かと不審に思ったが、彼女の表情があまりにも真剣だった上、

俺と目が合うと小さく微笑み軽く頷いて見せて来た。

ああ、多分、決心したんだ。

そう、俺に思わせるに充分な態度。

「いや、ほら水瀬さん、ココはこの場を楽しむだけでも……」

なんて、そんな弱気な発言をかまし、踊りに参加しないで隣の少女とゆったりと話をしていただけの北川に正面にいた香里から声がかかる。

どうやら深呼吸が終わったらしい、彼女なりに何かの覚悟を決めたという姿をとりながら真っ直ぐに北川達、もとい北川と栞の方を見て話しかけていた。

「女の子のエスコートくらいしてあげないの?」

「いや、そうは言われてもな」

突然声をかけられて及び腰になる北川に意地悪そうに話を続ける香里。

「両手に華? どっちが本命なのかしら?」

「いや、そういうわけでもなくて、だな」

香里に軽口、北川にしてみれば『本来の想い人』からのキツイ仕打ちだ。

見るからに動揺しておたおたと言葉も訳わからない。

それを香里は気付いていないものだから困りもの、

コレでは進む話も進みやしない。

だから、邪魔かもしれないけれど敢えて話をスムーズに続ける為に横から口を挟むことにした。

「随分と気にするんだな、香里」

俺の声に反応して体を少しだけこちらに向けて、

それでも視界に栞を収めて香里は答えを返してくれる。

それは多分用意していた言葉で、きっと誰かが今言った俺の台詞を投げてくれるのを待っていたのだろう。

「それは気にするわよ、だって片方はあたしの妹だから」

「え?」

先ほどから若干香里から目を逸らしていた栞は、まさか自分を否定するような態度をとっていた姉の口からそんな言葉が出るとは思っていなかったのか驚いて跳ねる様に顔を上げる。

そんな妹の様子に自嘲の混じった苦笑を浮かべると、香里は栞の方に向き直る。

「香里の、妹さん?」

一瞬静まり返った場に、名雪が話を促すためか香里に問いかける。

この辺の呼吸は流石親友というところなのだろうか。

そんな名雪の言葉を待っていたように香里は次の言葉、大事な台詞を紡ぎだした。

「ええ、栞は、あたしの妹よ、名前も一字違いじゃない、関係ないと思う方がどうかしてると思わない?」

「ああ、まぁ、漢字だと微妙だけどな」

かおり→しおり、は確かに一字違いだが、香里→栞は何字違いと表すのだろうか。

などとどうでもいいことを思いついてつい口にしてしまうが、当の美坂姉の方は軽いジョークと思ったのか小さく声に出して笑ってくれる。

対して妹の方は俺のそんな呟きも気にならなったのかまだ驚いたように突然今までと違う態度をとった姉を凝視していた。

そんな栞を横目に北川も話に参加して来る。

「まぁ、『かおり』と『しおり』だからな、『かおりんしおりん』で漫才コンビみたいだから姉妹だとは思っていたってところだ」

「誰が漫才コンビよ北川君」

「って、相沢が言ってました!」

「ちがっ、バカ、俺じゃねぇっ、舞だ、舞が言ったんだよ!」

「……あ い ざ わ く ん ?」

「だ、だから舞、っていねぇーっ!? いや、その香里そんなステキな笑顔で一体何を!?」

怒っているようで、どこか楽しそうな香里に軽く叩かれながら栞を見ると驚きも解けて楽しそうに笑って姉を見ている。

言葉にしてみればとても単純なことだった。

それでもいろいろあってすれ違って、でもこうして笑顔になれた。

もう、これで姉妹は姉妹としてココで動いていくことになるだろう。

今日の好プレーは名雪で決定だ。

でもって、香里のコメカミに井桁を付けた北川がエラーで、舞が危険球退場処分だコノヤロウ。

避けることの大切さとか偉そうに語ってんじゃねえぞそこ。

更には俺が香里に叩かれる際に使用したハリセンをどこからともなく持って来ていいタイミングで渡した佐祐理さんはいぶし銀の犠打職人だな。

つーか、香里も素直に受け取ってそれ使うなよ。

変に似合うから始末に終えない。

下手するとポスト佐祐理または舞は香里なのかもしれない。(←ひでぇ)

「もうっ、ほら、栞も何か言ってやりなさいよ」

「え、あ、えっと?」

楽しそうな俺達、主に香里の姿を嬉しそうに見ていた栞にその香里から話がふられるが、直接話しかけられるのが久しぶりだったのか突然のことに驚く。

だが、慌てながらも待っていた姉との接点だ、一所懸命気を取り直して言葉を捜して選んでなんとか姉に促された言葉に答えようと口を開く。

「あの、美坂、栞ですっ」(←栞:必死)

「あのね、今更自己紹介してどーするのよ……」(←香里:苦笑)

「香里ちゃん、ダメだよそこは香里ちゃんも自己紹介しないとっ」(←舞:力説)

「ええ、その後2人で『かおりんしおりんでーす』と、いかないとっ」(←佐祐理:『』部分は、舞と2人で)

「……」(←栞:苦笑)

「……」(←香里:まだこの2人のノリに慣れてないので固まる)

「ふぅ、折角の栞ちゃんの前フリだと言うのに……」(←舞:まいったなこりゃってなアメリカ人っぽいゼスチャー)

「まったく、そんなことでは学年一番の名が廃るよ」(←佐祐理:偉そうに)

舞と佐祐理さんがうんうんと頷くが香里はどうしていいか反応に困って思わず栞に助けを求める。

そんな姉を見て『気にしたら、多分負けだよ』なんてアドバイスを送っている。

美しい姉妹愛だ、内容がアレだがな。

っていうか正直学年一番関係ないし。

ともあれ、美坂姉妹の久しぶりの姉妹としての会話のネタがコレで本当によかったのかどうか悩むところだが、

結局のところ成果だけ見渡せば香里と栞が姉妹であるということを本人達も含めて確認を終えたというところ。

今後のことも考えると頭を抱えそうだが、とりあえず今は、コレでハッピーエンドとしよう。

上手く盛り上がりを見せた今年の舞踏会。

俺としても……まぁ、舞とも踊れたし、いい体験を出来た訳だ。

美坂姉妹にとっても、今回の舞踏会がいい思い出になっていてくれることを切に願う。

いつしかまだぎこちないとは言え言葉を交し合うようになった姉妹に安心しながら今回の件に関わって協力してくれた人たちを改めて見渡す。

「で、きっと祐一くんなら上手く返してくれると思うのよ」

「たとえばどんな?」

と、舞と佐祐理さんが先ほどの自己紹介の挨拶談義をまだ続けていた。

周りは呆れたのか諦めたのか静かに2人の話に耳を傾けている。

っていうか俺に期待しないでくれ。

「あたしと佐祐理が『舞でーす、佐祐理でーす』と来て……」

「ははぁ、そこにすかさず真ん中に祐一くんが現れて……」

定番なアレかよ。

「『南こうせつでございます〜』」(←舞:真顔)

「こうせつかよっ!」(←祐一:思わずツッコム)

「赤い手拭マフラーにして〜」(←佐祐理:嬉しそうに)

その後『じゃあ、あたしがパンダで佐祐理が伊勢ね』とかかぐや姫を結成してしまう勢いで騒ぐ騒ぐ。

しまいには『赤いマフラーなんてしたらサイボーグ認定だよね』とかいう何か間違ったお嬢様に弟が『姉さんはお笑い担当の役者だから007担当だね』とかほざいて殴られたりしていた本日の舞踏会。

締め括りはみんな笑顔で、というささやかでどこにでもありそうで、

実はとても難しく、そして最も望んだ結果で終わることになった。

「んで、結局踊らなかったよね、北川君」(←名雪:帰りにぼそっと)

「実は踊れないから逃げてたとかか北川?」(←祐一:にやりとして)

「んな、美坂じゃあるまいし」(←北川:こちらもにやりとして)

3人顔を見合わせて一瞬黙った後、噴出すように大笑い。

会場から既に出ていた俺達の笑い声は静かな夜の闇に消え入るように溶けていく。

そして、まだ笑っている北川から遠ざかるように俺と名雪もじりじりとその闇に消えていこうとしていた。

だってなぁ。

「……へぇ、北川君、その美坂って、あたし? 栞?」

「み、美坂、帰ったんじゃ……」

「ええ、その前にちょっと思い出して、ね、栞の事に関してお礼とか言っておきたかったんだけど」

「い、いや、気にするなよ、大したことしてないんだし……」

「そうね、でもお礼はしておかないと、まぁ、ただ……」

「た、だ?」

「感謝の気持ちをコブシに乗せて、あたしの気持ちを届かせるわ♪」

「あ、相沢、水瀬さ……って、いねぇよオイ、お前らどこ行ったー!!」

 

走ってその場から去っていく俺達の背中に『お、お姉ちゃん背中から黒いオーラがで……き、北川さーんっ!』ってな声が聞こえてきたような気がしたが、

隣の名雪の姿を見るとスタスタとステキな疾走。

流石陸上部部長、迷いが無いぜ。

そしてこちらの視線に気付いて顔を向ける名雪と目が合い、お互い言葉もなく見詰め合った後、ただ静かに頷き北川の冥福を祈るように再び前だけを向いて一路水瀬家へと走り続けるのだった。

 

 

ちなみに、秋子さんとマコトだが。

あのダンスの後秋子さんは頭にマコトを乗せて会場を歩いていた。

なんでも普段俺がマコトを頭に乗せていることを羨ましく思っていたらしい。

何度か試してみても上手く安定して乗らなかったのだが今回の髪型だとミラクルフィットしてマコトもご満悦で乗っかっていたため、

上機嫌の秋子さんが会場で笑顔を振りまいていたのだとか。

ファンが出来たとか、いや元から商店街で美人だと言うことで有名だったとかなんとかいう噂もあったが、結局マコトを頭に乗せているということで

誰もダンスに誘う勇気がなかった、というオチがついたらしい。

そして、秋子さんは俺の中で舞踏会珍プレー大賞に位置することになったのだった。

だって、

「マコト、マコト、はい、パイルダーオーン♪」

家に帰ったらそんな風にマコトと遊んでいたし。

 

つづく


あとがき

舞踏会に秋子さんを出せ、というお言葉多数頂きました。

本当は流石に関わって来ない予定だったんですけどねぇ。

おかげで一話余分に書いた気分。

その分楽しんでいただけましたらこれ幸いってところですけどね☆

 

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