「相沢、昼だぞ!」
「さ、先越されたよっ」
「……競ってたの?」
北川がボケて名雪が天然で香里がツッコム。
昼一番に俺の席に向かってすることがソレか、とツッコミたかったがツッコミキャラは香里に取られたので自粛するとして。
俺に昼を知らせようとしていた名雪は北川にその台詞を取られてご機嫌斜め、北川がソレをなだめているという平和な昼の一コマ。
今日は金曜日。
いつも通りの一日、朝起きてマコトと秋子さんと朝食を取り、なかなか起きて来ない名雪に痺れをきらして起しに行っていつも通りに小走りに学校へ向かい、ほんの短い間に日常になってしまった一連の行動を大して疑問も持たずに片付けていって昼休みたる現在に至る。
そして例によって午前中、余り授業の内容は頭の中に入ってはいない。
ココまでを合わせて一連の日常だ。
だけど、授業を聞いていなかった理由はいつもとちょっと変わっていて、考え事をしていたためだ。
むしろ考え事というより困惑、事態の整理とでもいえばいいのかもしれない。
他でもない、昨日のあゆの学校の一件。
もはや正直な話あゆの学校の存在どころかあゆ其のものが訳の解らないものになって来ている。
あゆの記憶していたところに学校がなかったこと。
あゆの行動、山道から遊歩道にかかる道筋で穴を掘って何かを探していたと思えば突然いなくなったり。
極めつけは舞の過去、『昔の不思議な力』がなくなっていたこと、それを俺も舞も自覚していたが『いつ』なくなったか把握しきれていなかった事だ。
でも、一番異様なのは『昨日のことを大したことではない』と流している自分の感覚だ。
今日朝起きたら、いや、昨日既に家に帰った時から当たり前にいつもの生活を続けて悩み事は美坂姉妹と北川のことに戻ってしまっていた。
朝の授業で使いそうな辞書をカバンから取り出そうとして昨日のことを思い出した、というわけだ。
実際カバンの中にあゆのミトンがなかったら思い出すこともなかっただろう。
昨日あの後、あゆが去った後、恐らくは手で掘り起こしたのだろう地面に出来ていた穴のその傍に投げ捨てたようにあゆがいつも付けていたミトンが放り出されていた。
舞と相談して俺が預かっていたわけだが。
普段からあまりカバンを開けない俺としてはもっと長いこと忘れていてもおかしくない話だ。
俺が単に物忘れが激しいっていうならそれはそれでいいんだが、
いくらなんでもあれだけ不安というか不信に思ったこと、内容ではなくあれだけの心のざわつきのような焦りを何事もなかったと忘れていられるものだろうか?
落ち着いて考えれば今までも確かにあゆと言う存在は不思議だったかもしれない。
午前中の休み時間を利用してちょっと俺にまだ恩義を感じているらしい斉藤とか色んな事情通っぽい秋葉さんに話を聞いてみたがやはり私服の学校というのはこの辺りに無いらしい。
あるべき学校も無く、どこに住んでいるかも解らない。
加えて普段から何か自分でも解らないものを必死に探しているという。
はっきり言って変。
変わり者とかで片付けてもいいのかもしれないがなんとなく俺の理性がそれを阻む。
あゆのこともそうだがあの時の舞の様子も気になる。
怯えにも似た青ざめた表情。
いや正直、なにがどうとかじゃなく、いろいろありすぎて訳わからん、ってのが本音になってる。
何かとココ最近不思議なことが多すぎて頭を抱えることばかりの毎日を過ごしているような意がする。
もっとも、頭を悩ませているだけで上手く解決する方法なんて見つかってもないのだ。
そもそも何が解決で、元より何を解決していいかが曖昧だったりするから困ったものだ。
まいった。
いやもう、そうとしか言いようが無い。
あゆもあゆで謎、舞の様子もきっとあゆがらみ、俺と同じで訳も解らないままの焦燥とは思うが思い当たる節がない。
でもって、現状一番厄介なのはやっぱり栞のことで、
『大したことでない』と流す物ではないと自覚しつつも、あゆには悪いが何がなんだか解らない何かに悩まされてるあゆよりも今現在直面した危機にある栞の方が気になってしまうのは確かだ。
でも、やっぱりコレも解決策など無い話。
それでも『美坂姉妹の仲直り』というミッションは成功を持って終了したわけなので上出来だろう。
ふぅとため息をつきながら俺の横に来ている3人を見てやると、軽く笑顔も交え談笑している。
おそらくは事情を知らない名雪はいつも通りの名雪であるだろうが、北川と香里の胸中はいかがなものか。
まぁ、なんにしても、この2人が周りに気を遣わせないように明るく振舞っているとすれば、当事者から一歩はなれた俺としてはいつまでもこんな不安な顔をしているわけにもいかないだろう。
結局、俺は何が問題なのか解らないことで悩むという無駄なことを切り上げ、目の前の3人に向かって昼食を促した。
いや、促そうとした。
「相沢くん、例の場所とかに行かなくてもいいの?」
「もたもたしてるとまた放送で呼び出されるよ?」
「それならいいけど、あの先輩なら教室に乗り込んで来る可能性もあるんじゃないか?」
などなど、クラスメイト達から『いつものこと』とばかりに昼の行動を先に促されてしまったのだった。
キミら、いったい俺をどういう目で……なんてツッコもうとしたがよくよく考えてしまえば反論の余地ナシだ。
ここは大人しく周りの声に従って例の場所に向かおうと席を立つと。
ぴんぽんぱんぽーん。
――きやがった。
この瞬間、おそらくはクラスの全員、下手すると校内でも多くの人が同じことを考えたに違いない。
そして流れ来る放送は例によって例のごとく、聴衆達の期待通りの彼女のワンマンショー。
『2年はにゅはにゅ組の相沢祐一くん、並びに水瀬名雪さん、至急例の場所へこられたし』
しょうがねぇ、と名雪と目を合わせると諦めたように2人で頷いて教室の出口に向かう。
その際、なんでお前呼ばれないんだ、と北川を睨みつけ、睨まれた北川と傍に居た香里が手を振って俺たちを送り出そうと――
『なお、おのおのアンテナとワカメを持参すること、繰り返します、2年はにゅはにゅ……』
「……行くか、アンテナ」(←祐一:北川に同情などこれっぽっちもなく)
「……あーるーはれたーひーるーさがりー」(←北川:ドナドナ熱唱)
「……え? ワカメ? ワカメって……」(←名雪:なんとなく誰のことか解るが言いにくい)
「あたしっ!?」(←香里:ショック)
「いーちーばーへつづーくみちー」
「ああ、その次の『荷馬車』、俺子供の頃『煮干』の仲間だと思ってたんだよ」
「祐一、いくらなんでもそれはないと思うよ」
「ねぇ、ワカメなの? あたしワカメなの?」
でも、やっぱりまいがすき☆
「祐一くんはヘタレのクセに人がよすぎると思うのよ」
放課後、HRも終わり生徒たちが各々部活に向かったり帰途についたりとする中、俺は何故か佐祐理さんと一緒に商店街に向かっていた。
帰ろうと教室を出たところで待ち構えられていたのではと疑うほどのいいタイミングで誰にも見つからないように身柄を拘束されてこそこそと学校を出て来たという経緯。
で、ココまでほぼ無言だったが、商店街が見えて来たところで佐祐理さんの開口一番がコレだったわけだ。
いや、いろいろ言いたいことはあるがとりあえず反応できる部分から反応しようということで。
「人を連れ出しておいて突然ヘタレ呼ばわりですか」
「うん、結構ヘタレだよね」
「言い切った!?」
夕日に照らされた街の中で、雪や街並みにと同じように茜色にほんのり染まりながら佐祐理さんは悪びれもせずに笑顔で俺をヘタレと認定。
せめて何か反対要素を見つけて反論しようと
「特に何が出来るってわけでもないのに栞ちゃんと香里ちゃんのことに必要以上に首突っ込んだり」
――反論しよう
「別に何かいい方法があるわけでもないのに北川くんと香里ちゃんの仲を気にかけてみたりしたけど何か北川くん栞ちゃんといい仲だし」
――反論しよ
「聞いた話じゃ香里ちゃんの部活を調べようとしたはいいけど結局クラスの友達に調べてもらう結果になったとか」
――反論し
「はたまた何かさっぱり解らないあゆちゃんの探し物まで手伝ったりしたけど物の見事に何の成果も上がってないとか」
――反論
「美坂姉妹のことを考えて舞踏会イベントを利用するもなんか舞にニーキック受けてるし」
――反
「で、結局美坂姉妹の件はいい方向に持っていった実行部隊は名雪ちゃんと北川くんだったりしたのよね」
――
「……ヘタレなお人好しでOK?」
「……OK……」
反論しようと思ったけど滑るように矢継ぎ早に出てくる佐祐理さんの口撃に最早白旗無条件降伏。
口で勝てる相手でもないのは解っていたとはいえ、よもや一言も反論できないとは思わなかった。
こんなところで多少なりとも反論して戦っている久瀬の偉大さを認識することになるとは思いもよらず、
今後、まだ少なくとも半年以上有る彼の生徒会を影ながら助けてやろう、なんて考えてしまうほどであった。(←この辺がお人好し)
「で、そのお人好しの祐一くんは、今回も何が出来るわけでもないのに栞ちゃんのことで悩んでたりする?」
商店街入り口が目の前に来た時に、流れ的には話は続きなのだがそれを仕切りなおすように一旦立ち止まって佐祐理さんは真剣に俺に問いただす。
意図するところが解り難いが、俺にしてみれば『栞の病気の事』と受け取ってしまえる物言い。
正直その言葉に暫く内心衝撃を受けて、慌てる様を表に出すことこそなかったがどう答えていいのか黙り込んでしまった。
そんな俺を見て何かを確信したのか佐祐理さんは今度はしっかりとこちらを見据えて言葉を続けた。
「……祐一くん、栞ちゃんの病気、知ってるんだよね」
多分、それは単なる確認。
加えて考えるなら、その質問をする時点でおそらく佐祐理さんもそれを理解していると思っていいはずだ。
その事を視線で追求すると、俺の意図を読み取ってくれたらしく佐祐理さんが事の内容を知るに至った経緯を教えてくれた。
要点をまとめると、昔一弥の事もありこの街で一番大きな総合病院とは縁があったということ。
今もその時の名残かタダの健康診断か一弥は病院に顔を出すことがあり、つい数日前の病院訪問の折にたまたま、本当に偶然だったらしいが栞のことを噂で聞いてしまったらしいとの事。
「――だから、ちょっと栞ちゃんに、香里ちゃんにどういう態度とっていいのか悩んだりしたんだけどねー」
「え、でも佐祐理さん数日前に解ってたってことは……舞踏会の時とかも」
「ううん、私が知ったのは昨日だから」
「それでも今日の昼とかは――」
「うん、だから舞って凄いな、と思って」
一瞬、話が飛んだように見えて、首を捻る俺に佐祐理さんは丁寧に解説をしてくれる。
何でも昨日の夜に一弥からその話を聞かされて、どうしていいか解らないままに本日学校に来たのだが、栞のことを考えて気分が晴れず、
結局親友であるところの舞に、こんな話を持ちかけて悪いとは思いつつも相談したらしい。
話を真剣に聞いた舞はその後眉間に皺を寄せてこう言い放ったとか。
『じゃあ、より一層楽しく行こう』
佐祐理さんが思うに、舞の言いたかったことは
『栞がそんな病気で、先がないからといって急に今までの態度を変えて腫れ物を触るような扱いをしたところで嬉しいわけはなく、だとすれば医者でもない自分たちに出来ることは友達として彼女とあることだろう、何か出来ることがあるのなら誰かが既にやっているし、手を貸して欲しいといってくるはず、また足掻くにしても家族を始め事情を前から知っている親しい人たちが必死に足掻いているはずだ、だから、自分たちは今自分たちに出来る事をするべきだ』
と、言うことなのではないかと理解したそうだ。
正直、舞がそこまで長い文章考えていたかどうかは謎だ。
いや、そのくらいは考えてるとは思うが、普段の彼女を見てると『何か小難しいこと考えるより今を生きよう』と突っ走ったと言われても納得してしまうから困ったものだ。
しかし、佐祐理さんにしてみればその舞からの一言で目から鱗が落ちることになった。
本人計算で25枚くらい、比率右:左=14:11だそうだ。
細かいところだが彼女右目より左目の方が若干視力が弱いらしい。
いや、そんなことはどうでもいいとして、なんて『それはコッチに置いといて』ゼスチャーをしながら佐祐理さんは話を元に戻し話を続ける。
「でも、まぁ、何も考えてないんじゃないかって、気もしないこともないんだよね」
「あ、やっぱり佐祐理さんもそう思いますか」
「その辺はほら、舞だからね〜」
「舞、ですからねぇ」
なんとも話題の中心であるご本人が聞いたら「失礼なー!」とでも叫びそうな会話。
結局オチにもってこられたワケだが、その実俺も、おそらくは佐祐理さんも舞をしっかりと見直していたりする。
いや、佐祐理さんにしてみれば見直すまでもなく舞を元々そういう人間だと解っていたということも充分に考えられる。
だからこそ、どうしようもないループに陥った思考に対し救いを求めて相談をしたのかもしれない。
まぁ、結果こうしていい方向にもって行かれているので経緯はこの際どうでもいい、この話のおかげで俺もどことなく心が軽くなった気分だ。
「だから、祐一くんもそんなに気にしなくていいんだよ」
「佐祐理さん……」
俺の考えとほぼ同時に、誰かにそう言って貰いたいとどこかで思っていたセリフが笑顔の佐祐理さんの口から飛び出す。
どうにも出来ないと理解しつつも、目をそむけることが心苦しかったから、何が出来るわけでもないが目を背けるのは逃げることだと思ってしまったから。
だから、単に逃げる方向への道しるべや考えを放棄するような結果だったとしても、舞の考え、佐祐理さんの言葉は
正直、ありがたかった。
「ヘタレなんだから無理してもしょうがないと思うんだよ」
その続きのセリフがなければ物凄くありがたかった。
いやもう、そのセリフのところさっきより2割増笑顔輝いて見えるのは気のせいなのかコンチキショウ。
「ヘタレヘタレ言うために今日は拉致されたんですか俺は」
ちょっとだけ、恨みがましい目で見ながら問う。
もっとも、言い方は皮肉のような言い方だが意訳としては『今日の一緒に帰っているのはいろいろ抱え込んでる俺を諭すのが理由だったのか』と聞いているつもりだ。
その辺の意図を目の前のお嬢様が酌んでいてくれているかどうかは甚だ謎ではあるが、まぁそんな感じ。
「あ、うん、それはついで」
「じゃあ、他に何か本命があったんですか」
「そうそう、大事なこと忘れるところだった、というか祐一くんにも大事なことだから」
言いながら先ほどまで立ち止まっていた佐祐理さんは神妙な顔つきで俺についてくるように促して商店街の中に入って行く。
「俺にも?」
その彼女の後姿に遅れまいと急いでついて行くと、佐祐理さんはきょろきょろと辺りを見渡しながら俺に質問をぶつけて来た。
「そう、祐一くん、舞の誕生日知ってる?」
「舞の? いや、聞いた覚えもないんですけど、もしかして近いんです?」
わざわざ大事な話と言った後に聞いてくるんだ、おそらくは近場に舞の誕生日があるのだろう。
親友としては準備をして祝ってやろうと言うところか、確かに俺も世話にもなってるし、まぁなんだ、アレだし、大事なものだから一役買えということなのだろうが。
「明日」
「近すぎだ!」
佐祐理さんの答えは俺の予想を上回るスピードだった。
「そうだよねぇ、もうちょっと遠慮してゆっくり来てもいいと思うよね誕生日」
「そうじゃねぇだろ!」
「大体1月29日なんて憶えにくい日に誕生日な舞が悪いんだよ」
「今アンタ誕生日1月29日の人たち敵に回した! っていうか忘れてたんですか、結局のところ」
「……まぁ、ココのところってバタバタしててアレだったから、ね、祐一くんが転校してきたりとか栞ちゃんのこととか天下一舞踏会とかで」
俺がバタバタの要因であることにツッコムべきか、天下一にツッコムべきか。
なんてちょびっと考えたが、もうなんか、いちいちツッコンでいたら話が進まないような気もするのでこの際スルーを決め込んでとにかく話を先へ先へと進めて行く。
俺のそんな態度にほんの少し不満そうな表情が掠めた佐祐理さんだったが、問題が切羽詰っていたから大人しくコレ以上の脱線を避けてくれた。
「と、まぁ、そんなわけで簡単かもしれないけどプレゼントなんかを用意しようと言うわけですよ〜」
胸の前で手を合わせて微笑むその彼女の姿はきっと知らない人が見たらフォーリンラブするほどに可愛らしい仕草。
だが俺のように彼女の性格、生態を知ってしまった後ではこんな動きも何か企んで見えてしまうから困りもの。
今日ココに至っては『友達の為の誕生日プレゼントを探しに来た』という正直裏なんか考えようもない事態だというのに。
お母さん、俺は汚れてしまったのでしょうか?
俺のそんな葛藤をよそに、佐祐理さんは俺を連れて楽しそうに商店街を見て回る。
「祐一くんには私とは別に、何か舞にプレゼントして欲しいわけなのですよ〜」
「え、何か選ぶの手伝うのに俺を呼んだんじゃ?」
「うーん、それでもいいとは思うんだけど、出来るなら祐一くんからも何か、の方が舞も喜ぶんじゃない?」
「まぁ、それはそうだと思うけど……」
「舞だって『祐一くんからの愛のプレゼント』って部分に反応すると思うし、下手に上手くやられると私からのプレゼントが置き去りにされる恐れまで出て来るんではないかと」
「……いつの間に『愛』が」
「そりゃもう、最近の祐一くんの態度を見てればなんとなくこう、舞への対応が常にウィズラブ?」
言い方は軽いが、内容的に俺にしてみれば自分でもそーかなーとか思ってる節も有るし言うなれば『図星』な為に体中の体温が数度上がったような感覚に陥る。
多分、夕焼けに染まっていなければいい感じで赤くなっていただろう、いや俺も純情この上ない。
照れ隠しに反論しようとも思ったのだが、相手も相手だし下手に反論すれば引っ掻き回されるし、何より件の事は自分自身最近自覚した問題だ。
だから敢えてココは反論などしないで素直に従っておこう。
「まー、そーですね、するってぇと舞へのプレゼントに俺を駆り出したのはアドバイスでもくれるとかでしょうか?」
「……ありゃ」
「どーしました?」
「意外にも素直っ! からかいがいが無いよ! ココで反論してくる祐一くんを追い詰めて吐かせようと思っていた計画が台無しだよ!」
佐祐理さんは俺の反応に一旦眉間に小さく皺を寄せ小首を捻って何かを思案したと思ったら拗ねた様子でそんなことを叫ぶ。
いや、もう商店街の中なんだから辞めてくれ。
っていうか、反論しなくてよかったのか悪かったのか、判断難しいよ。
「や、佐祐理さん落ち着いて、時間も有限ですから雑貨屋にでも行きましょうよ」
「ヘタレに主導権握られた!?」
「ヘタレ言うなっ!」
いいから行きましょうよと半ば強引に楽しそうにはしゃぐ佐祐理さんを促して商店街は雑貨屋の傍まで来たところで目的の店から知った顔が一人外へと出てくるところが見えた。
見間違えるはずも無く、この街に来てから、転校してから最初の男の友人にしてアンテナ。
北川なんとかが買い物を済ませたのだろう袋を手に提げて中から現れた。
――えっと、ジュンだっけか、アイツ。変な螺子巻きアンティークドールとかに呪われそうな名前だったような。
「北川くん、買い物かな?」
「ああ、そういえば栞の誕生日が2月1日だったような、もしかするとそれかも」
「なっ、まさか北川くんまでウィズラブ!?」
「いや、でも北川のラブは本来姉の方に……」
「彼も彼でいい感じにヘタレだよね」
「……まぁ、ヘタレですよね」
そんな会話を後ろでしているとはきっと夢にも思ってない北川は、
ヘタレの称号を背に茜色に染まる商店街の中を颯爽とアンテナを揺らし去って行くのだった。
あとがき
僕が舞の誕生日を忘れてたのはご愛嬌。
いやいや、何気なく資料見てビックリしたね、ホント。