「ところで祐一くん」

「なんすか?」

「あゆちゃんって、何者?」

「え……」

日も暮れかけた商店街。

明日の舞の誕生日を控え、そのためのプレゼントを買った帰り、もうこの繁華街に用は無いとばかりに帰途についたところでの佐祐理さんの質問だった。

おそらく彼女があゆのことを思い出したのはここから見える文房具屋。

以前、あゆがケーキ屋と間違えた文房具屋を前にしたことで何かを思い出したのか、思案顔で佐祐理さんが問いかけて来た。

「何者、って?」

言葉だけを取るなら笑い話にでも繋がるかと思えるような物言いだが、

佐祐理さんの言葉にどこか真剣味がある上に、あゆが何者か、なんてことはまさに昨日の今日のこと、実にそのことについて頭を悩ませていたわけなので個人的には非常にタイムリーな話になるのだ。

だから、佐祐理さんの真意がどこにあるかは解らないが、つい、真面目に聞き返してしまうことになる。

「ん、まぁ、気のせいかも知れないんだけれど……」

言いよどむように、視線を逸らして言葉を紡ぐ彼女の反応は珍しく、もしかしたら初めて見る姿かも知れない。

普段の「笑顔で暴れるエンタティナー」の姿からは想像できない面持ちだ。

もっとも、これまでの彼女の罪状から「これが前フリである」という疑惑も拭えないのも確かなので、この際どちらに転んでも心乱されぬよう心の中に相沢の旗印を掲げ来るべき未来に対し覚悟完了。

まぁ、彼女が本気ならこの程度の覚悟

『じゃんけんのグーが石でパーが紙なら石で紙突き破るのがスジってものだと思うのよ』

とでも言わんばかりに蹴散らして行くに違いないのだろうが。

いや、自分でもよくわからない例えだが、ともかく相手は理不尽の塊みたいな人なので何やっても無駄に終わる可能性も低くないと言いたいのが伝わってくれてればいい。

ともかくそんなこんなで災害を防ぐ為に心の中にバリケードを作った俺は当の佐祐理さんのふった話題の続きを軽く視線で促してみる。

「あゆちゃんって、祐一くんと舞の幼馴染なんだよね」

「まぁ、昔しばらくこの土地へ来ていたころにちょっと知り合って遊んだ程度なんだけど」

実際問題その程度でしかない関係。

昔この土地へ遊びに来ていたって話は舞の時もそうだったので佐祐理さんもその辺はわかっているだろう。

だけど確か、―不確かではあるが記憶を引っ張り出すとあゆには一冬だけしか会っていない。

自分でなんだが、意外だと思う。 正直印象に残ってる割には一緒に居た期間があまりに短い。

出会って、仲良くなって、舞も交えて遊びまわって。

それだけ考えると実に数日、季節は冬だったこともあり、明らかに冬休みの期間のことなので数週間という時間はありえない。

だからこそ、その数日のことが印象に残って、心にこびりついていたのかも知れないが、

――どういうわけか別れが思い出せない。

何者か、と問われてしまえば答えを返すのは難しい、いや、むしろこちらが聞きたい程だ。

いつも、唐突に現れて、どこかに帰って行く、聞いていないだけとも言えるが来るところ帰るところも解っていない、ましてや通っている学校さえ存在が不確定。

謎の探し物、数年前に変わった筈の商店街の店を勘違い、謎が多いといえば多い。

なにより不思議なのは、俺はその謎を謎だとあまり認識していなかったというところ。

おそらくは俺に次いであゆに付き合っている舞もそうなのだろう。

前から少しおかしいとは思い始めていたが昨日の一件でその思いは急激に高まる。

だから、何かを言いづらそうにしている佐祐理さんの次の言葉が非常に気になる。

言いづらそうにしているという事実から聞かないほうがいいのか、と心のどこかで思うが、最早ココでなかったことにするというわけにもいかない。

俺がどうこう出来る問題でもないかもしれないが、それを言うなら栞の件だってそうだ。

目の前のお嬢様に『ヘタれなお人好し』とか烙印を押されたんだ、もうその方向で無意味でもなんでも厄介ごとに首を突っ込んでやる。

そんな覚悟を胸に秘め、目前の意を決して話出そうとしたお嬢様に正面から向き直る。

さぁ、来い。

あなたはあゆの何を知っている、何を気づいているんだ、と目で訴えて彼女の解答を受け取る。

が、

「あゆちゃん……天使だと思うわけよ」(←佐祐理:真剣)

「おおよそ佐祐理さんの口から出る台詞じゃねぇっ!?」(←祐一:かなり失礼)

「いやいや、祐一くん、考えてもみようよ、あの羽リュックはきっと空飛べるんだよ」

俺の失礼な言葉に気を悪くもしないで、はたまた単に聞いてなかっただけなのか佐祐理さんは真剣表情のままで淡々と言葉をつなげる。

「きっとあの羽リュックの羽は背中から生えてる本物で、リュックはカモフラージュ」

夕日に照らされて、なんていうか聞いてる側にしてはとっても恥ずかしい台詞をそりゃもう真剣な表情で語るお嬢様は人目も気にせず握り拳を作ってもう演説モード。

「そして、リュックにはジェットエンジン搭載でそれで空を飛ぶのよっ!」(←佐祐理:赤く染まった雲を見上げて)

「こういうオチかー!」(←祐一:夕日に向かって叫ぶ)

「で、どう? っていうかそこは『羽関係ねぇ!』ってツッコミが模範解答じゃないかと思うんだけど」

「どうもこうもツッコミどころ多すぎますが、とりあえず思考回路舞と一緒ですね……」

何を期待していたのか知らないが俺の回答を受け、『どういうこと?』と問うてきた佐祐理さんに、舞の場合はアフターバーナーだったけど、と前置きして同様のネタが先日繰り広げられたことを説明。

いやまったく、似たもの同士のコンビだよこの二人は。

そしてその説明を受けた当の佐祐理さんは可愛らしいその容姿に似合わないかと思ったが意外とこれはこれでイケテルと思わせるような感じに眉間に皺を寄せ不満気な表情。

まぁ、きっとエンターティナーとしてネタがかぶったことでも気に病んでいるに違いない。

「……なんていうかアレだよね、最近矢追純一特番に出てこないよねぇ」

「話に脈絡ねぇっ!?」

まぁ、良くも悪くも佐祐理さんは佐祐理さんで、

常人には着いていけない斜め方向に高速回転している思考回路でどうやら『あゆ=天使ネタ→あゆ=宇宙人ネタ』に自動変換されたらしい。

まぁ、でも、変に重い話になるよりこういうのもいいかなぁ、なんて思ってしまった舞の誕生日一日前の夕日に包まれた商店街での出来事でした。

 

 

いや、ダメだろ。(←正気に戻った)

 


でも、やっぱりまいがすき☆


 

まぁそんなこんなで舞の誕生日当日だったりするわけで。

おそらくはゲームなら既に舞ルートに突入しているであろう俺は本日のイベントで好感度大幅アップ、という未来が待っているのだろうが、

なんていうか今日はそんな浮かれた気分も少し落ち込み、朝から終わりの無さそうなループ思考で頭を抱えていた。

いや、まぁ頭を抱えてはいるが別に上に乗ってるマコトのせいではない。 多分。

なんだかんだでいつものことなので結構自然の乗っかっているのだ。

最近マコトを頭に乗せる為に髪型を変えて更に商店街にファンを増やした秋子さんが自分の頭に乗ってくれなくて結局俺の上を定位置にしている狐さんに向けてちょっと悔しそうな表情をしているけど、まぁ、それが理由で頭を抱えているわけでもない。

一番今日悩みそうなのが舞に対するプレゼントとかその辺のことだろうが、

確かに得体の知れない生き物のぬいぐるみを渡すとはいえ頭を抱えるほどでもないだろう。

なんせアリクイらしい、そのぬいぐるみ。

実は俺はアリクイなんてドラクエでしか見たことないからこのぬいぐるみが正しくアリクイなのかどうかは解らない。(←情報源がおかしい)

でもまぁ、きっとそれでもなんとかなるだろう。

何しろ、佐祐理さんの渡すプレゼントに比べればマシだから。 おそらく。

じゃあ、何で頭を抱えているかというと昨日の帰りのことだ。

佐祐理さんと一緒に舞へのプレゼントを買った帰り。

あゆについて天使だの宇宙人だのとのたまわった元生徒会長様だったが、別れ際に理解するのが難しくて反応しきれない台詞を残して行ってくれた。

『聞き覚えあったのよ、月宮あゆって名前』

その台詞だけなら、大したこともない話。

何しろこんな田舎町だ、向こう三軒両隣どころかほとんどの家が互いの家族構成から歴史まで知ってたりしてもおかしくない状態。

そんな中、人の名前に聞き覚えなんてあっても不思議でもなんでもない。

同じ市に住んでいるんだ、どこに接点があってもそんな神妙な表情で言う程のことでもないだろう。

だから、腑に落ちない。

そんな表情で言う理由があるということなのだろうが、特にそれを説明するわけでもなく佐祐理さんは帰途についてしまった。

はじめに、その台詞を言う前に、自分でもよくわかっていないが、という前置きが付いていただけあって、本人も何が言いたいのか解っていなかったのかもしれない。

つまり、『聞き覚え』というのが、所謂その辺で耳に入ってきた名前、とかではなく、何かしらの印象に残ることに付随してのものだったということなのか。

結局、そんな感じで俺に解ったことと言えば『月宮あゆという人物は謎だらけ』ということだろう。

いや本当栞のことでいっぱいいっぱいになってる俺たちの前にまたよくわからない問題が降りかかっているというかなんというか。

まぁでも先日も同じようなことを考えただけあって俺の結論は早く、

『とりあえずあゆのことはこっちに置いといて』

で結末を迎えることになった。

何しろわけわかんないから悩みようもないっていうのが現状。

よくよく考えれば昔、7年前に出会っていた時もあゆのことはほとんど何も知らないままだったんだよな。

何しろ当時の記憶も普段のことさえ曖昧で、極端な話、一番記憶してるのがこの街での出来事だ、いや、記憶してたというより最近思い出した、が正解。

ならば一度ゆっくりと思い出してみようと、改めてその時の光景を思い浮かべる。

あゆと出会い、舞と再会して一緒に遊んだ商店街。

記憶の中にある商店街は大抵赤く夕日に染まり、その光の差す遠くの方には小高い丘と街全体を見下ろすように大きくそびえる一本の木。

意外と、不思議と覚えているものだ、とも思うが、単純に今の商店街を思い出しまぜこぜにしているだけかも知れないのでなんとも言えなくなる。

じゃ、なくて、風景じゃなくてあゆとも思い出を引っ張り出そうとしてたんだろうが、俺。

「祐一さん、朝から随分と何か悩んでるようだけど、どうかしたの?」

と、食卓で上にマコトを乗せたまま若干俯き気味に頭を抱えてる姿を見て食事の用意を済ませた秋子さんがにこやかに話しかけてくる。

まぁいつの間にか話し方が敬語っぽかったのがすっかりフランクになっているのは先日の舞踏会のこともあったりUFOキャッチャーで一緒に遊んだりといろいろあったためだろう。

そんな感じなのでこちらとしても話しやすいというか、世話になってる家主さんから頼れるお姉さんに親しみ度がUPしていたわけで、

勢いに任せてなんとなく、さっきこっちに置いといて、なんて考えも早速無駄に、抱えていたことを自然に口に出してしまう。

「あー、秋子さん、あゆのことって何か知ってます?」

正直答えを期待したわけでもないが、

前に舞と一緒に俺の部屋の片付けもしたし別口で朝食にも混ざっていたから、もしかするとあゆ本人から何か聞いているかもしれない、というのと

7年前の俺から繋がりで何か当時のことででも知っていればラッキーかな程度の質問。

だったのだが、秋子さんは俺の台詞に小さく首を傾げて一言。

「塩焼きにすると美味しいわよ?」

「淡水魚ーっ!?」

俺の聞き方が悪いのか、秋子さんの思考回路がステキ天然仕様なのか、悩むところとツッコムところの区分けが非常に難しい。

そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、微笑んで小首を傾げる最近髪型を変えた家長さんはとってもキュート。

いやもう、本当幾つなんだかこの人は。

「あとはそうね、4つ駅向こうから出ているバスで行ける一級河川で釣れるわね、けどこれがまた中々に難しく……」

「いやもう、そうじゃなくってあゆって魚じゃなくてアイツです、あのチビっ子です」

なんかもう、話はいつの間にか鮎釣りスポットから戦い方まで伸びてきそうになったので半ば強引に話題修正。

夏になったら一緒に釣り行きましょうねってな形で締めくくられたのが驚きだが、本来の話題、あゆについてってことで俺の思ったことを秋子さんに何とか伝えきった。

「……昔の、友達?」

「ええ、あの頃、ココに来ていた頃に仲良くなったってのが縁で」

でも、何にも知らないんですよね、

と続けようとしたのだが、秋子さんの表情を見ると眉間に皺を寄せて怪訝そうな顔をしていたのでなんとなく言葉が引っ込む。

何かあるのかとしばらく待ってみたが、特に何を言うでもなく、目を閉じて軽く首を横に振るとこちらに向き直りいつも通りの笑顔に戻って『特に何も知らない』ということを呟く。

どーもそんな風には見えない表情をされたので気になるのだが、っていうかあからさまになんか隠してますみたいな態度取られてもこっちもどう対処していいかわからない。

とりあえず、こう言われてしまえば多分つっこんでも教えてくれないだろう、ってことはわかった。

でも、だからこそやっぱり、あゆには何かあるんじゃないとか疑ってしまう。

もっとも、確かめる術なんてのはあゆを捕まえて直接聞く、くらいしか思いつかないのだが。

……ああ、なんだそれでいいんじゃないか?

なんていろいろ考え込んでいるうちに秋子さんは朝食の用意を済ませていて、名雪が起きてこないまま二人とマコトで食事にすることになる。

まぁ、あれこれ考えてても始まらないのは確かだし、ここは舞の誕生日だとも言うことで頭をそっちに切り替えようと、食事というキリのいい変化点で思考を中断。

あのあゆが混ざった時より和食率が高くなった朝食だったが実際問題俺自身は和食の方が好みなのであゆと作ってくれた秋子さんに感謝しならがもきゅもきゅと食べて行く。

あゆの混ざった食事、ってなんか焼き魚定食みたいに聞こえるのは考えないことにして名雪が遅いと思いつつ食事を進めていると秋子さんが俺の方を見たまま不思議そうな顔をしていた。

いや、正確には俺の方というか、俺の上。

「マコト、ご飯食べないの?」

そうだ、マコト頭の上に乗ってたんだった。(←忘れるほどに自然に乗っかっている)

秋子さんの言葉を受けてキッチン内を見渡してみると俺たちがいる食卓のすぐそばにマコト用の食事が用意してある。

しかし当のマコトさんはそんな目の前の食事などどこ吹く風といった感じで『ふぁ』とあくびを一つ返事代わりに返してまた俺の頭の上で目を閉じる。(推定)

乗せると言っても、実際問題マコトは子狐ってわけでもないのでそれなりの大きさと重さがあるので、正確には体の前半分を俺の頭に引っ掛けてうなじから背中にかけて後ろ足を放り出してる感じなのだ。

正直、こんな不安定なところで本当に寝ようとするマコトは凄いキツネだと思う。

以前冗談交じりに話していたが実は妖怪一直線ルートだというのもあながち間違いではないのかもしれない。

なんて、

くだらないことをしみじみと考え込んでいると目の前の秋子さんは今度は可愛らしく眉間にしわを寄せてマコトの方をじっと見つめていた。

なんだか箸も止めての思案顔なのでちょっと気になって話しかけてみるが、帰ってきた答えは子供っぽいというかなんというか、

「やっぱりマコトは祐一さんの頭の上の方がいいのよねぇ」

とか、まぁありていに言って拗ねていた。

あ、いやそれだけならまだしも、『折角マコトが乗れるように髪形まで変えたのに何がダメなの?』なんて訴えるような目でこちらを見てくる。

……いやまぁ、困ったもんだ。

さすがに相手に相手は気まぐれな小動物、言い聞かせるわけにもいかないし、実際マコトが何を好んで俺の頭の上に飛び乗ってくるのかなんてこっちだって分かっちゃいない。

傾向の調べようも対策の練りようもないのだ。

まぁ、傾向も対策もあったってしても普通はどうもしないんだがなこんなこと。

ただまぁ、なんつーのか、

それでもなんとかしてやろう、なんて気になってしまうほどに、秋子さんは寂しそうに意気消沈していたのだ。

――アホ違うか。

なんて言葉が頭を一瞬だけ掠めるが、あえてそんな考えは無視して頭を働かせ、

ぽつぽつとつまんなそうにご飯を箸で摘む秋子さんにいつもの笑顔を取り戻してもらおうと打開策を模索。

水瀬家は謎とジャムで出来ているとは誰の言葉だったか。

そんなことを考えながら、事態を好転させる一言を俺は言い放つ。

「秋子さん、マコトを頭に乗せるのではありません。 頭をマコトの下に入れるのです!」

無駄に偉そうに何言ってんだ俺は。

好転とかってそういう問題でもなんでもねぇよ。 ていうか事態を好転どころか混乱させてカオスに向かってるような気もしてくる。

「な、なるほど!!」

納得!?

マジで!?

神妙な表情を作りつつも、何かを悟った瞳の輝きを持ち、秋子さんは静かに言葉を重ねる。

「つまり……『そこに山があるから登る』という真理と同時に『登るからこその山である』、と」

ていうかこの人も何言ってんだ。

しかし、しかしながらもなんだかよくわからないけど不思議と盛り上がって来てしまっている心と会話。

ここで水を差すのは無粋の極み。

ならばこそ、俺に出来ることは更なる真理の追究と解明でしかないわけで、

「そうです、先ず、始めにマコトありき、マコトをどうにかするのではない、そこにマコトが居て、こちらからの何かがあって初めて成り立つのです!」

……自分で言っててなんだが、何がだ?

「う、迂闊っ、この水瀬秋子、この世に生を受け早19年、まだまだ真理には遠かったようですね……」

え? 何それ、ツッコムの? ツッコんでいいの?

俺の中のエンターテイナースピリッツが『ツッコめ』、『ノれ』と心を揺さぶってくるが、

以前の迂闊にツッコム名雪の朝食ピーマン事件を思い出し、どうしたものかと思案。

思案の挙句に出した結論は。

「いえ、真理はいつもすぐ傍に、俺たちには理解できないかもしれないけれど、目の前の真実こそが真理の姿なのです、さぁ、秋子さんマコトをっ!」

まぁ、なんだかよくわからんけど話進めちゃおう、だった。 チキンとかいうなソコ。

でもって、頭の上のマコトを両手で脅かさないようにゆっくりと持ち上げ、

秋子さんに向かって差し出す。

―――何の戴冠式だ。(←セルフツッコミ)

すると秋子さんもノリがいいのかどこまで本気なのか、頭を低くし俺に向かって軽く差し出してくる。

そのまま、流れるような動きで手の中のマコトを秋子さんの頭の上に、まるでシロツメクサで編んだ花冠を載せるようにそっと優しく……

「……お母さん、いくらなんでも19は無いと思うよ、もう本当はお母さんも……」

載せようとしたんだが、なんか扉のほうから聞こえてきた眠そうな声に遮られなんとなく手が止まる。

というか、名雪よ、お前は先日のピーマン事件の教訓を活かすつもりはないのか。

とそんな思いに駆られてしまう俺の後ろで、さらに寝ぼけ半分で言葉を紡ぐ半眠り姫。

いや、紡ごうとした、だ。

おそらくは、先ほどの言葉の後に『本当の年齢』でも言おうとしたのだろう。

しかし、

突如として食卓の空気が重くなる。

いや、もう原因なんて考えるまでも無いだろう。

無理をして、キッチンの中を見渡せば、その空気の質に気がつかない寝ぼけた従姉妹。

空気の中心の上に鎮座し、何かを悟った表情で遠くを見つめるマコト。

そして空気の根源たる、いつも笑顔を絶やさない我らが水瀬家の素敵なお姉さん。(←ヨイショ)

祐一は思った。

ここから先は、俺の心の中に仕舞っておこう、と。

 

 

後の世に発見されることになる相沢祐一手記によれば、この日、水瀬家のキッチンに

声にならない叫び声が響いたとか響かなかったとか。

 

 

 

つづく


あとがき

エイプリールフールの為だけに書いた(`・ω・´)

 

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2020/04/01

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