「……で、朝っぱらから苦虫噛み潰したような顔してるこの子、どうしたのよ」
朝、教室に着くなり眉間に皺を寄せたまま自分の席にたどり着きそのまま物言わず着席、暗い空気を振りまいた名雪の姿を見た香里が何事かと一言。
まぁ、なんと言っていいのやら。
「ふむ、苦虫つーか、むしろ酸っぱいんだと思う」
とりあえず、事実のみを簡単に伝える。 ところで苦虫ってどんな虫だ?
「……朝っぱらからレモンでも丸かじりしたの?」
「うむ、的確ではあるが、ビタミンCではなく胃腸によさそうな酸っぱさだな」
俺の言葉に『胃腸にいい酸っぱさってなによ?』と言いたげな表情、要するにきょとんとした顔で小首を傾げる美坂姉。
苦虫についてはとりあえず置いておくことにして周りに気を配れば視界の隅でそのレア表情やられたのか香里信者の北川が悶えるのを我慢しているような気もしないでもないが、見なかったことにして疑問顔の香里に解答を伝える。
「梅肉を……イチゴジャムに似せて加工するってのは匠の技だよな、きっと……」
「……ああ、甘いジャムだと信じてパンにたっぷり塗って齧り付いた、と?」
なんとも言えない、呆れたような無表情になって香里がなんとなく程度の事情を察したのかよりいっそう呆れ返る。
折角なので重々しく、うむ、とか頷いてみるわけだ。
「俺は、まだ水瀬家を侮っていたようだ」
「なにがどうなってそんなもの食べるハメになったのよ、いったい」
心底驚愕しました、みたいな表情と声色で語ってみたのだが、対して香里は『いーから早く言えよ』というオーラを全身から気だるそうに発していた。
もっともだ、実際匠の技っていうより子供っぽい悪戯だと言ってしまえばそれまでだ。 だがな、もっともな話だがノリ悪ぃな香里。
そんな香里をちょっと不満に思った為、俺は多少興味を持ってもらおうと重々しく口を開いてみることにする。
「世の中には、知ってはいけない真実ってものがあるんだよ、きっと」
「は?」
もったいぶる感じの調子で語る俺に、眉をひそめ、なに言っとんじゃ沸いてんのかコイツ? みたいな目で問い返す香里に、まぁ、ここまで引っ張ったので真相を伝えることにしてやろうではないか。(←えらそう)
「秋子さんがな……自分は19歳だと言い張った」
そりゃーもう、無駄に、重い話だと思われるように声を低くし、かみ締めるように言い放つ。
うむ、くだらないことにかけては天下一品なんて以前名雪に言われたが、名雪め、今更だが俺のことを良く見ていたんだな。
そんなこんなで、この一言にさらにより一層呆れ、細めていた目も線のようになってもうどうでもいいや、なんて突き放してくれるだろうと思っていた香里だが。
俺の予想に反し、当の香里を顔を上げて見て見れば、
目を閉じ、何かを噛み締めるように真剣な表情で、しっかりと腕を組みこちらもまたそれは無駄な程に重々しく口を開いた。
「それは……それはきっと、秋子さんがそういうのだから、きっと秋子さんは19歳なのよ」
突如目を開けたかと思うと、その瞳は遠く窓の外、雲が掛かっているがおそらくはその先にある空を見つめているのだろう、無駄に遠い目をして窓に近づき、ガラスに手を当てて、
温度差により結露した窓ガラスに「の」の字を書いていく香里。 なんかちょっと可愛い。
いや、それでいーのか、と思いつつも、香里のやけに悟った態度に、コイツも何かあったんだな、と感じさせてくれる。
俺のそんな視線を感じたのか、窓に書いた『の』はいつの間にか文字が伸びてあれだ。花札とかにあるあの短冊の文字「あのよろし」、その文字を矩形で囲み短冊にしながらとつとつと過去の自分を語り出す香里。
「昔……私も母が年を誤魔化したときに栞と二人でツッコンだことがあってね……」
「……ツッコンじまったのか……」
なんだかんだで仲いいよな、この姉妹。
そして、最早至極自然に栞の名前を澱みなく口にする香里に対し微笑ましく思いながら話の続きを促して見ると
「ええ、そして、その日の夜……カレーに大量のタマネギが、ね」
それ普通じゃん。
「? カレーにタマネギ、普通じゃないか? 多ければ甘くなって美味いだろ?」
「言い方が悪かったわね、相沢くん、カレールーとタマネギの比率が3:7くらいだったのよ、あえて言うなら地球表面の海が全部タマネギのようなものなのよ」
「そいつぁ恐怖だ! っていうか既にカレー味のタマネギでしかないだろソレは!」
「以来、私も栞もちょっとカレーが苦手に……」
「可愛いなっおいっ!」
「ぁぅ……」(←香里:照れ)
そんなよく解らない話をしながら、香里はガラス窓に指でタマネギだのカレーライスだのそれは見事に描きあげていったのだった。
いや、とてもあの栞の姉とは思えない程に上手く、
その後ギャラリーとなっていたクラスメイト達からのモビルスーツを描いてくれなどという戯けたリクエストに答え、
さらさらとアッガイを仕上げた姿は、とても輝いていた。
そして名雪は酸っぱさに眉を顰めて居眠り、頬を伝うよだれは、びみょーに輝いていた。
「ちなみに相沢くん」
「なんだ?」
「この、『あのよろし』に見える花札の短冊の文字、これ『あかよろし』って読むのよ」
「なんですと!?」
でも、やっぱりまいがすき☆
「舞、誕生日おめでとう、これは俺からのプレゼントだ」
真剣に、しっかりと相手の目を見ながら、手にしていた昨日買ったばかりの誕生日プレゼントを目の前に持っていく。
「祐一くん……これ、あたしの為に?」
呆然とした表情で、でも、どこか嬉しそうに、そしてすぐにその顔を喜びの表情に変え恥ずかしそうにうつむき、
両手を胸の前に持っていき、その指先をそっと合わせて上目遣い。 正直反則技だ。
「舞……」
その表情にほだされ、つい口をつくその名前。
感極まったの相手も「くんっ」っと音が聞こえそうなほどに勢いよく顔を上げ飛び込んで来そうな状況。 ばっちこい。
「祐一くんっ!! ……てな感じで舞が祐一くんの胸に飛び込んでってシナリオでどー?」
「……いや、どーとかじゃなく、いくらなんでもコリャいろいろ端折りすぎじゃないですか佐祐理さん」
ぼやく俺の言葉に『むつかしいもんだねー』なんて眉間にシワを寄せ、口元に指をやり悩んでます、な仕草をしている佐祐理さんは
本日授業が終わり次第俺を拉致にいらしたかと思うとそのままいつもの場所へ連れて行き、
土曜とは言え昼食時なので誰か居るのかと思いきや、誰も居ないので不信に思っていたところノートの切れ端を俺の手に持たせ、そこに書いてあった指令どおりに行動させた、といわけで。
要するに先の状況は、佐祐理さん相手に佐祐理さんが考えた対舞用の本日の誕生日イベントシナリオだったのだ。
いろんな意味で大丈夫かこの人、と疑いたくもなる。
だが、いろいろとネタ要素満載のこの人ではあるがどういうわけか少なくともココまでの言動、行動を見る限り、明らかに俺と舞の関係を応援してくれているような感じなわけで、
正直ちょっとありがたい。
ぶっちゃけ「祐一くんでは舞は幸せにできません!」とか言われてもおかしくないと思っていただけに素直にかなり嬉しかったりする。
あ、いや、単に親友さえネタに楽しんでいるだけ、ということも考えられたりするわけだが、
それでもこの人、少なくとも他人の不幸は望んでいない、
相手をからかいはするが、それでも結果的に、周りも相手も楽しそうなのは間違いない。
一番被害を被っている久瀬でさえ、なんだかんだで佐祐理さんとつるんでいるのが楽しい風に見える、あ、いや、俺の勝手な見解でそう見えるだけかもしれないが。
でも、それでもやっぱり、この人の周りは皆総じて笑顔なのだ。
「と、まぁ冗談は置いといて、祐一くん」
「冗談だったのかよ、あ、いや、いつも冗談みたいな人だと思ってたが」
突然、ここまでのコントが嘘のように表情を引き締めて話を仕切りなおす佐祐理さんのセリフを受け、ついつい軽口で返してしまうが「 歯ぁ食いしばれ☆」なんていい笑顔つきのステキなお返事を頂いた為に大人しく黙る。
おうよ、チキンって呼んでくれて構わないぞ。(←何か悟ったように開き直っている)
そんな風に静かに話を聞く体勢に居直った俺の空気を感じ取ったのか、佐祐理さんは再びちょっと真剣な、それでいてどこか困ったような表情を浮かべて「んー」なんて首をかしげて眉を寄せていた。 言うまでもないが、可愛い。
しかしまぁ、察するにだ。
「舞のことで何かあったんですか?」
この状況で考えられることなんてコレくらいしかないだろう、でもって「んー、まぁね」なんてそのままの表情で答えを返してこられたりするもんだから、ちょっと、そんな洒落にならない状況なのかと不安になったり。
ただ、困った様子、であって慌てた様子でないのでそう大事には至らない程度のことだとは予想がつく。
それでも何かしら困ることなんだろうなぁ、と、「舞、あれでプレゼントを『ものすっごく期待してる』」とか「男子生徒からいやほどプレゼントを貰って荷物が多くなって困っていた」などとどうにも微妙に困るような候補をいろいろ考えていると、バっと勢いよく顔を上げた佐祐理さんが、綺麗な眉をハの字にしたままで、予想を上回る衝撃の事実を言い放った。
「いや、ね。 今日舞学校休み」
「空気読めよ、舞ー!!」
「あー、もう舞のことだから自分の誕生日忘れてるとかありそうで、っていうかむしろありすぎてツッコムところも難しいよね、もう」(←佐祐理:非常に困った表情)
「……風邪でもひいたんですかね?」
「舞だよ?」
「何気にひでぇ!」
「じゃあ、祐一君は舞が風邪引いてる姿とか想像出来る?」
……風邪引いてる舞、か……
……こう、なんだ、その、熱っぽい感じで普段は新雪のように白い肌を薄っすらと赤く染めて、
焦点が合っているんだかないんだか、とフラフラする様子の潤んだ瞳。
いつもは後ろで纏めている長い髪を下ろして布団に横たわり、早いペースの呼吸で小さく切なげな息を漏らし、その僅かに濡れた目で寂しそうにこちらを見つめた上
弱々しく、きゅっと布団の間から手を伸ばしてこちらのシャツなんか掴み、
自分の行動にハッと気がついて恥ずかしそうに目を少し逸らし布団を口元まで引き上げその顔を埋め、でも手に絡めたシャツの裾は決して放そうとはせず「傍に……いて?」なんて言われた日にはアンタもう……なんか、イイナァ、チキショウメ。
イイんだが……。
「ありえねーな……」
「でしょー」
「……でも、もしかして夏風邪なら……」
「な、なるほどっ!」
っていうか今冬です、と、まぁこんな結論で2人でうんうんと頷く。
ちなみに上記の病気舞の描写は考え込む俺の横でとつとつと語った佐祐理さんの創作だ。 チクショウ何者だこのお嬢様。
しかし、確かに無意味に健康優良児というか、要するになんとかは風邪引かないと言いたいんだろうけど、今まで佐祐理さんと舞も付き合い長いんだからもうちょっとなんかこう言いようもあるだろうに。
「うんまぁ、私も舞と付き合い長いけどね、舞って毎年皆勤賞だったし、出会った頃から元気いっぱいだったから正直想像つかなくて」
俺の考えを読んだのか独り言のように呟く佐祐理さんの言葉は、何のことはない滅多に風邪を引かない友達が風邪引いちゃったよ珍しいね、くらいのセリフと口調だったわけだ。
実際、俺もそういうノリだと思ったわけなんだが、ちらっと見たそのときの佐祐理さんの表情は視線が少し下を向き、眉間に小さな皺が寄っていた。
だから気づいた、普段から笑顔の印象が強い人だから、こういう表情では隠そうとしても普段との差がありすぎて表情を隠しきれないんだろう、
なんだかんだで、やっぱり、舞が心配でならないんだ。
「……見舞いにでも行って見ます?」
ほんの少し悩むフリをした後に、佐祐理さんに切り出して見る。
次の日に学校に来るかどうかと様子を見てもいいのだが、よりによって今日は土曜日。 明日なんて日はないのさ。 いや単に日曜日なだけだが。
それに、誕生日プレゼントを用意しているわけだから様子を見に行く為の口実があるといえばあるわけなので気になっているのならどうよ、という提案。
まー、やっぱプレゼントは今日中に渡したいもんじゃないか?
そんな思惑もあったりする俺の方を小さく難しい表情をしたままチラリと見ると、また視線を前方ちょっと斜め下に戻し、一息溜めた後におもむろに顔を上げ天を仰ぎ、思案の為に顔の近くに持ってきていた左手をぎゅっと握り一言。
「なるほど、舞を見に行くから、見舞い、か」(←佐祐理:真剣だがどこか爽やかな雰囲気)
そんな俺たちの後ろを雪国特有の冷たい風が吹き抜けていくのだった。
さみー
「そんなこんなでやって来ました舞の家、もとい、川澄家です」
「非常にお約束なセリフにこれまた非常にお約束で返すのもなんですが、まぁ、一応言っておきましょう『誰に説明してるんですか?』」
俗に使い古された表現というヤツで、主に場面転換などに使われるお約束、主にネット小説などに使用頻度が高いとされる『そんなわけでやって来ました』を披露してくれた佐祐理さんにとりあえずツッコム。
この辺はアレだ、世界には逆らえないってやつだ。
そんな世界のあり方に対し心を遠いところに飛ばしながらも、佐祐理さんが舞の家だと言い張る家屋をざっと眺めて見る。
それはどこにでもありそうな塀に囲まれた一軒家、言ってしまえば水瀬家もそうなのだが、水瀬家と比べると一回り小さい感じでこじんまりとした雰囲気が漂う。
確かに玄関先には『川澄』の表札が光る。 比喩じゃなくマジ光ってる。 金属プレートで作ってある模様、やるな川澄家。 ちなみに水瀬家は『MINASE』とヘボン式ローマ字表記だ。 しかも最近替えた、何があった秋子さん。
そのまま視線を輝く川澄に取られていると、金具がしきむ音と共に玄関の扉が内側からゆっくり開いていく。 んや外側から開いても困るけどさ。
「あらー、佐祐理ちゃん、相変わらずね」
セリフから考えるに佐祐理さんの『やって来ました』を聞いて表に出て来たと思われる舞(似)の人が苦笑気味に玄関から顔を覗かせて、我が校が誇るハイテンションプリンセス(片割れ)に声をかける。
っていうか、相変わらずとか言われてますよ佐祐理さん。
「いえいえ、どうにも人を連れてきたならコレをやらないと落ち着かないんですよー」
本当に『変わらず』なんですかアンタ。 っていうか、いろんな意味で落ち着いてください。
そんな身も蓋もない発言を堂々と胸張って言い切るお嬢様を前にして『ふふふ』なんて上品に口元を左手で隠して笑みをこぼす舞(似)の人。 おそらくは川澄さん。
舞同様、すらりと高めの身長、っていうか多分舞より高く170cmあるんじゃないかって姿で上が藍色のセーター、下が黒のジーンズと趣味も黒めの色を好むあたり舞に似ている、違う部分は髪を肩ほどで揃えているあたりといったところか。 無論、胸も 井村屋だ(謎)。
そんな俺の視線に気づいたのか、顔をこちらに向け、俺が佐祐理さんが連れてきたという人物だと把握したのだろう、軽く会釈をして自分が舞の母だと名乗る。
なるほど、確かに舞(似)と表記しただけあってよく似ている、舞(似)というより、実際にはいい感じに年を食った目つきの悪くない舞だ。 いや若い。 っていうか美人!
そりゃ例外中の例外みたいな秋子さんに比べればそれ相応に年を重ねているのが解るが、それでもまだ、年の離れた姉でも通用する。 恐るべし川澄家。
と、そんなことを考えて呆けていても仕方ないのでこちらも会釈しながら名乗ることにしたわけだが。
名前を聞くなり、む、と腕を組んで暫し目を閉じて何かを考える仕草。
そのまま『ぐるん』と擬音が付きそうな勢いで顔だけを佐祐理さんに向き直ると、
「さ、佐祐理ちゃん、も、もしや、こちら様は……」
……こちら様? とその不思議な発言を疑問に思うも、佐祐理さんが更にマジメな顔になりうんうん頷いて言葉を返す。
「お察しの通りです」
何が?
すっかり置いてきぼりになっている感じのどうやら話題の中心らしい俺を尻目に、少しこわばった感じだった川澄母の表情は一気に崩れ、その柔和な目元から始まり徐々に満面の笑みになるとテンション高みに至ったのか、なんと佐祐理さんの肩をぽんぽんと叩きながら実に愉快そうに笑った。
「なるほどー、そっかそっかー、いやーあの子もスミに置けないねー。 川澄だけど」
「そーですねースミに置けませんよねー。 川澄ですけど」
話を促すべきなのか、どういう状況なのか聞くべきなのか、そもそもその微妙な川澄ギャグに突っ込むべきなのか、と悩みつつも唖然とするしかない俺はきっととても無力な人間なんだろうな。
なんか、本気でこの街の人たちは寒さを高いテンションで退けているような気がしてきた。
「うんうん、祐一くん、ね。 話は舞から嫌と言う程聞いてるわよ、改めて始めまして」
俺がこの街の真理に辿り着こうかとしているのも構わず、佐祐理さんとの話が終わったのか再びしっかりとこちらに向き直り、その笑みを隠そうともせず嬉しそうに俺に話しかけてくる舞母。
というか嫌と言う程なのかよ。
「舞ったら、ちょっと前から学校から帰ってくる度に『祐一くんが、祐一くんが』って可愛らしいこと言い出してね〜」
俺のどうしていいか解らない空気にまとわりつかれた微妙な表情も目に入らないのか無視してか、俺の存在と名前を知った原因をつらつらと語ってくれたりするのだが、
それに佐祐理さんも加わってなんと言うか。
とても居辛い。 いやもう恥ずかしくてだな。
「毎日のように話題が出るんだけど、学校で毎日会ってたりするの?」(←母:視線は祐一に向かったままだけど言葉は佐祐理に)
「あー、私も意外だったんですけど、舞ってばなかなか積極的で、むしろ隙あらば一緒に帰ろうなんて画策して、本当にやっちゃってるくらいです」(←佐祐理:いままでほとんど見たことない程に真顔)
「心配したのよ、ホント」(←母:ため息)
「……祐一くんが、です?」(←佐祐理:眉をハの字に)
「いいえぇ、なんて言うか……舞って異性に興味なさそうだったから」(←母:遠い目)
「……あー……」(←佐祐理:酷く納得顔)
「学校じゃ部活で竹刀振り回して、家でも時々練習だって木刀振り回して、このままストイックなお侍さんになっちゃうんじゃないかと……」(←母:目を伏せて過去を思い出す)
「木刀を持ってる理由が『魔物退治』とか真顔で言い切ったことありましたからねぇ」(←佐祐理:昔の出会った頃を思い出す)
「でも、ですよ、お嬢さん。 舞ったらなんでも昔から一途ーな感じでソレでコレだったらしいから、いゃん、もう、我が子ながら可愛らしい」(←母:表情一転嬉しそうに)
「ははぁ、その一途ーが祐一くんだったわけで」(←佐祐理:わけわからんセリフに対してもツッコミとかせずに冷静に分析)
「やっぱり、そうなのね、話を聞く限りじゃそうじゃないかと思ってたけど〜」(←母:今にも語尾に音符がつきそう)
などと、どう見ても当事者の片方を目の前にしての恋話。
敢て恋だのなんだのの単語は出てないが、ここまで言われれば都合のいいゲームやアニメの主人公でもなければ内容が把握出来てしまう訳で。
むちゃくちゃ恥ずかしいです。 ホント勘弁してくださいお二方。 多分俺真っ赤。
「でも、アレよね、まだ舞の一方通行っぽいんだけど、舞の話ぶりからすると」
「祐一くんは、ほら、主人公体質っぽいですから」
「鈍いのかー、祐一くん、ダメよそれじゃ〜」
マジ許してください。
そんな半泣き状態で天に居ますゴッドに祈りを捧げる1月29日のお昼過ぎ。
積もった雪がキラキラ輝き綺麗だなーと、現実逃避することすら許されない状況下で、ただただ2人の間接的からかいに身を委ねるのであった。
いや、舞どうした。
「で、佐祐理ちゃん、彼すっかりリンゴみたいになってるけど、この様子からして舞に勝ち目は充分ある、ということでいいのかしら?」
「勝ち目どころか勝ってます、勝ってて気づいてない出来レースですね」
「鈍いのは……あの子だったのね」
「まぁ、ストイックな侍(お笑い系)ですから」
どんなだ。
つづく
あとがき
やぁ、みんな。二年ぶりだね(`・ω・´)
2022/04/01