URAファイナルズ

 

ウマ娘達の集大成をもってして臨む一大レース。

業界を、ウマ娘達の未来を盛り上げようと、トレセン学園理事長秋川女史が、半ばそれ思い付きじゃね? くらいのノリで発足したイベントなのである。

当初、各マスコミからも本当に大丈夫なのか、道楽でやってるのではないかと疑問視されていたが、蓋を開けてみれば大盛況。

レース自体はもちろん、出走者に選ばれる為の過程すら熾烈を極め

望みを賭けて疾走するウマ娘の姿が感動を呼び、

 

最終レースとなるURAファイナルズ決勝、その栄誉あるターフを先頭で駆け抜け、数多くの熱狂と感動をばら撒き大成功という結果をもたらした芦毛のウマ娘は――

 

 

「いやー、もうなんていうかね、あれよ、あれ。エデンは近くにあったんだよ……、わかるか!?」

「……え、えーっと、それでは今後の目標などは……」(←マスコミ)

「ああん、コンゴ? コンゴっつーたらオメー国土に広がるその広大な熱帯雨林を活かして経済成長を、とか言う前に治安の改善が必要だよな」

「?……あ、いえコンゴ民主共和国じゃなく……」

「しょーがねーな、おい、このゴルシ様にコンゴの未来を託そうってことだろ? 任せろよ、新たなエデンにしてやるぜ! あの辺のクワガタとか高く売れそうだよなぁおい」

「えぇぇ……」

 

 

ものすごーく調子に乗っていた。

もうあれよ、マスコミからの取材にも嬉々としてよくわからんことしゃべる、しゃべりまくるこの大柄なウマ娘はそのお名前をゴールドシップと言ってはっきり言って問題児。

ちょっとくすんだ色をした白い髪と尻尾を実にテキトーにほっぽって、まるでアメリカンコメディアンみたいに肩をすくめながらマスコミ対応するその姿は無駄に活き活きとしている為、

状況を見守っていた秋川理事長はじめ学園関係者も「まぁいいか、どうせよく解らん事言っててマスコミも困るだけだろうし」くらいのノリで放置。

『まぁちょいとパリコレ制覇しにフランスとかかな、行くなら』『つまり!凱旋門賞ですか!?』『パリコレだっつってんだろ! 人の話はちゃんと聞けよ!』

なんてアホみたいなやり取りを、マックイーンあたりが「あなたが言わないでくださいまし」とでも言いたげな表情をしているのを横目に、URA杯が成功して感無量な理事長もさすがに苦笑。

少女とも言ってしまえる小柄な容姿だというのに肩にかかる重責は人一倍、頭に猫乗っけて毎日毎日頑張ってたんだ。

だから、まぁその成功の立役者であるゴールドシップが浮かれていてもしょうがないとして、さすがに疲れを自覚して来たのかちょっとウトウトしながらマスコミ達を追い出したゴールドシップを眺め……

え。追い出したの、力ずくで? マジで?

 

ポカン、と頭が追いつかないながらも状況を把握しようと問題のウマ娘の方を見るが

 

「よー理事長、冗談はさておき今後のことだけどな」

 

なんか目の前で偉そうに突っ立っていた。秋川理事長からするととっても大柄な存在なので顔をかなり上げないと視線が合わないわけでちょっと辛い。猫落ちる猫落ちる。

 

「む。 今後、というとやはり世界にでも打って出る気かね?」

「世界、世界か、いやまぁそれも通過点の一つだとはわかっているんだ。 エデンの件では一杯食わされたがこれで黙ってるゴルシ様じゃねーぞ。 アンタの目的はわかってる。 そうわかってるんだ……

 

 『宇宙』! 宇宙だろ最終目標! 宇宙のウマ娘達と繰り広げるデッドヒート! 映画化決定主演ゴルシちゃん、助演マックイーン! ゴールドシップ、星の大海に出航だぞコラァ!! URAのUは『UCHU』のことだってわかってんだぜ!!」

 

両こぶしを握り締め、高々と宣言するゴールドシップ。

「そこはuniverseって言うべきじゃない?」

「いや、ボケとしては甚だ正しいでこれ」

「まぁ。存在がボケみたいなもんですからねー」

「ほんま、美味しいやっちゃでコイツ……」

と話を聞いていた自分に自信無い系ウマ娘ナイスネイチャと、ちびっ子貧乏ウマ娘タマモクロスがボソボソ話し合う。

もっとはっきりツッコンでください、とゴルシに巻き込まれ系お嬢様ウマ娘メジロマックイーンがツッコミ属性の二人に目で訴えるが、元より巻き込まれたくないネイチャは目を逸らし、関西系だからツッコンでくれそうなタマモに至っては『あいつ、ボケが高度なのに乱雑すぎて迂闊にツッコムとこちらが恥をかく』という理由から静観。

方向性は違えど揃ってマックイーンの訴えを心の棚にしまい込む。

 

ともあれ、実のところURAお疲れ様会をしていたこの会場で、URAのあり方をとんでも方向に理解していたゴールドシップの発言を受け、会場は静まり返る。いつかどこかの安田記念でイクノディクタスが2着入った時のように静まり返ったのある。

 

そんな静寂を打ち破ったのは我らが理事長。こんなよくわからんこと言ってる可笑しなウマ娘にも律儀に答えるウマ娘愛溢れる理事長だ。

 

「……え。 違うぞ」

 

とは言え、疲れていて半ばボーっとしていた秋川理事長は思わず普通に、そして無慈悲な程端的に言葉を返してしまう。

 

「理事長が素で答えよった! いつもの漢字二字熟語は旅にでも出たんか!?」(←タマモ)

「普通に喋れたんだあの人……」(←ネイチャ)

「ああしていれば可憐な少女ですのにね」(←マックイーン)

「つまり、いつも疲れさせておけばええんやな」(←タマモ)

「やめたげてください」(←ネイチャ)

 

ちらほらと状況を見守る外野の声も聞こえてくるが、当の本人はそれどころではなく、いつだってハイテンションだったはずの秋川理事長の余りに平坦な受け答えに流石のゴルシも知りたくもなかった真実を悟り、そして絶望を――

 

「……な、なん……だと……嘘だろ、ウマ娘の宇宙世紀が始まるんじゃねぇのかよ、『トレセンの白い奴』とか呼ばれる気だったこの期待はどこいっちまうんだよ……………………ま、いいか」

 

してなかった!

 

「いいのか!?」(←理事長)

「いいよいいよ、あれだ、ゴルシちゃんの時代はエデンに辿り着いた時に終わりを告げたんだよ、後は若い人たちに任せてサザエでも焼こうぜ」

「遺憾! もったいない、実にもったいないぞまだまだやれるだろうに!」

「てーか、幼女理事長よぅ。 一時代築いちゃったゴルシ様に頼るのは解るけど、よく見りゃデビューしてもよさそうなウマ娘ゴロゴロしてんのにどうなってんだこれ、そこのスペウィとか今G1出してもいいとこ行くぞ、それこそもったいないだろ、資源の無駄だぞ」

「ふぇっ!?」(←スペシャルウィーク:ケーキ頬張ってる)

「うむ! 実績あるゴールドシップがそう言うなら間違いないのだろうな! 実際いい成績だと把握はしていてデビューさせてやりたいのはヤマヤマなのだが……いかんせんトレーナーが、足りなくてな……」

 

ゴールドシップから聞かれたことに関して、実情自分の力不足で人材を集めきれていないことに心苦しさを覚える理事長。急に受け継いだ立場とは言え、それを言い訳にするわけにもいかず、スタッフ、そして何よりウマ娘に負担をかけている事実が心を苦しめる。あと幼女理事長言われたことも心を苦しめる。やめて。

 

そんな、ちょっとしょんぼりした秋川理事長をじっと見て、突如真剣な表情をしたゴールドシップが、

 

 

 

またいらん事言い出した。

 

「ははぁなるほど、そう言うことか……このゴールドシップ様がトレーナーデビューをすればいい、と、なるほどこれが新しい世界、エデンか! してやられたぜ幼女理事長! よし、スペウィ、今日からこのゴルシ様がお前のトレーナーだ、よろしくな!」

「え。え!? どういうこと!? 何がどうなってんだべええぇぇ!?」

 


 

それいけ!ゴルシトレーナー!

 第1話「坂路」


 

「取ってきたぞょー」

 

ウマ娘を育てるトレーナー。

育てるのがなんだかよくわからん生物であるウマ娘であるとは言え、ほぼ人と変わらんわけであるから普通に教育である。

彼女らを指導する立場ともなれば当たり前だがそれに適した人材でなければならないわけで、ここトレセン学園に所属するトレーナー達も当然のことながらそれ相応の研修を受け、試験を潜り抜け資格免許を得てトレーナーとなっているのである。

なのでそれを確認したURAファイナルズ王者ゴールドシップは「じゃあちょっと貰ってくるわ」程度のひっじょーに軽い意気込みでしばらく姿を消していたわけなのだが、

結果冒頭のそれである。

本当に取ってきやがったのか、そもそもウマ娘が取れるんかいよ、という懸念点もあろうが、ウマ娘を指導するのにウマ娘を誰よりも理解しているウマ娘本人がやるのは別に問題ないどころかむしろいいことなんじゃね?

ってノリで、急なことでもあった上に、ゴルシのよくわからんノリに翻弄されたトレーナー育成センターの皆さんから「じゃあとりあえず仮免あげるね」って追い出されて来たのが本当の話である。ご迷惑おかけしております。

 

そんなこんなで実にいい加減な感じでトレーナー(仮)と成り果てたゴールドシップ氏。

どうせこいつのことだからすぐ飽きるだろ、と思っていた関係者一同の予想を裏切り清々しい笑顔で右手をスペシャルウィークの肩に置き、左手でサムズアップ。

ゴルシ的には「行くぜ、俺とお前でダブルライダーだ!」な感じ。

純朴田舎娘のスペ的には「逃がさねぇ、ゴルシ沼に頭まで連れ込んでやるぜ」な感じに見えるわけで。

 

「す、スズカさん、たすけっ」

 

スペは黒に赤みが入る黒鹿毛を田舎出身を強調したようなおかっぱだと思わせて頬にかかる白毛部分を編み込み後ろでまとめている案外おしゃれさんな髪を振り乱し、寮の同室であり尊敬する先輩のサイレンススズカに助けを求めるのだったが。

 

「スぺちゃんも、とうとうデビューなのね……よかった」

 

なんて、歩く姿は百合の花、みたいな素敵なスズカ先輩に本当に嬉しそうに、両手を口の前で合わせ綻ぶような笑顔で言われて言葉が詰まる。

いや、スぺにしてもトレーナーが付くのはありがたい。デビューを待ち望んでいた一人であるから実にありがたいのだが、

いろいろと規格外というかなんと形容していいかわからないゴールドシップに目を付けられたという事実に困惑しか起こらない。

 

学園関係者も「ああ、うん、トレーナーが増えてよかったね」程度の認識で、全力で目を逸らしている為もうスペシャルウィークのゴルシトレーナーは確定路線である。

 

普通に考えればかつての覇者がその指導をしてくれる、破格の条件、憧れる指導で間違いないのだが、

なんというか一部(マックイーンとか)から憐みの目で見られているのが心にクる。

 

そうだ、ここは学園の頂点、全権を担う秋川理事長なら、秋川理事長ならなんとかしてくれる!

一縷の望みを賭け、ちびっ子理事長の言葉を期待するスペシャルウィークだったが。

 

「承諾! スペシャルウィークには光る物がある! どうか立派なウマ娘になるよう指導してくれたまえ! 田舎者だけどな!」

「ああ、任せてくれ! このスペウィを熊をも倒せるフルコンタクト系ウマ娘に育て上げて見せるぜ! 田舎者だけどな!」

「はーっはっはっは!」

「ひゃーっはっはっは!」

 

退路を断たれたスペウィ氏は後にこう語る。

 

「田舎者ですけど、田舎者ですけどユキノさんよりはマシだと思うんですよ……」

 

どっこいどっこいである。

 

「じゃ、いくかスペ」

「ふぇ!?」

 

後にこう語る、を挟んで時間が飛ぶかと思いきや、強引に話を続けるゴールドシップ。

状況を理解しきれていない、っていうかしたく無いスペシャルウィークに、またしても唐突な呼びかけ。

そしておもむろにスペシャルウィークを担ぎ上げ、意気揚々とどこかに行こうとするわけで。

 

「待って、待ってください! え、何、なんで米俵みたいに担ぎ上げられてるんですか私!」

「そりゃおめー、トレーナーになった以上スペウィをどこに出しても恥ずかしくないアルティメットウマ娘にするために、特訓に行くからに決まってんだろ」

「アルティメット!?」

「前から考えていたんだ、神の座に辿り着くためにはどうしたらいいかってな!」

「神!? ゴールドシップさん何目指してたんですか!?」

「そう、だから、特訓だ! 明日への為の特訓その一! 『坂路調教』だ!」

「『坂路調教』!? …………あ、普通だ」

 

 

状況。

ゴールドシップがスペシャルウィークを肩に担いだままの状態での会話である。

何されるかと当初抵抗していたスペちゃんだったが、案外普通の訓練っぽいこと言い出したんで行動はおかしいけどちゃんと結果出してる人だし大丈夫なんじゃないかなーとか思い始めて、担がれたまま抵抗を止めて体から力を抜いた。 ――のだが。

 

 

「じゃあ、行くぜスペウィ。 静岡へ!」

「……しずおか……?」

「ああ、あるじゃねぇか最高の、そしてこの国が誇る至高の坂路がよお……静岡からが上り坂、そして山梨へ向かう下り坂、

 その名もアルティメット坂路調教!

 

 『富士山 大・爆・走!!』」

 

「ちょ、まっ、それダメなヤツ! ダメなヤツですから!!」

 

再びゴールドシップの肩の上で暴れ出すスペシャルウィークだが、無駄に力強いゴールドシップに阻まれ、そのまま外まで連れていかれ。その場で成り行きを見守っていた関係者達もどうなるのか気になり後を追いトレセン学園の玄関口に向かう。

そして、関係者達が外に出て見た物は、白く輝く一台の軽トラ。

見る間にも勢いよくスペちゃんを荷台に投げ込むゴルシ。

流れるように運転席に乗り込みエンジンをかけるゴルシ。

窓を開けアメリカ映画に出て来そうな態度で右腕を外に出しサムズアップするゴルシ。

投げ入れられて痛かったのか転がるスペウィ。

トレセン学園入り口。ブルンブルン唸る軽トラのエンジン音に唖然として無言になる関係者だったが、

 

「あー、スズカ? 止めんでええんか?」

 

一早く正気に戻ったのか達観したのかは解らんが、タマモクロスが先ほど助けを求められていたサイレンススズカに『可愛い後輩助けんでええんか』っていう意味で声をかけ、

その声にハッとして気を取り直したスズカが軽トラに駆け寄る。

 

「ゴールドシップさん!」

「サイレンススズカじゃねーか、なんだオメーも来るか!?」

「いえ、それより大事なことです」

 

ス、スズカさん助けに来てくれた! やっぱり素敵なウマ娘ですスズカさん! ってな感じで百万の味方を得た気分になりスペシャルウィークがスズカの方を見ると、『解っているわ、私に任せて』とでも言うようにスズカもスペシャルウィークと視線を合わせ、力強く頷く。

スズカさん、あなたが女神か、と祈りを捧げようとするスペちゃんの目前で。

 

「大事な、ことだと?」

「ええ、ゴールドシップさん、あなた……自動車免許持ってます?」

「それも取って来た!」

 

懐から、ニヒル笑う写真が付いた自動車運転免許証を取り出すゴルシ。まぁマルゼンスキーも車運転してたし、あるんだろうウマ娘も免許。

それを見て、心配そうだった顔から一転、笑顔になるスズカは

 

「安心しました、それではお気をつけて、いってらっしゃいスペちゃん」

「スズカさん!? スズカさんマジで!?」

「おう、土産は青木ヶ原でなんか採って来るから期待してろよー! 待ってろよサイレントヒル!!」

「スズカさん!? スズカさーん!!」

 

快く、軽トラで去っていく二名を送り出したのだった。スペウィ、スズカとコミュニケーションが取れていなかった。

 

「いってらっしゃい。 でも青木ヶ原は山梨ですよー!」(←スズカ:笑顔で手を振る)

「アカン、こいつ真面目な天然や」(←タマモ)

「いい人なんですけどねぇ」(←ネイチャ)

「基本孤高ですから、ちょっとコミュ障気味なのが問題ですわよね」(←マックイーン)

 

 

なお、事態をある程度重く見た一部(マックイーンとか)のウマ娘達が、曲がりなりにもあのゴールドシップを制御して育て上げた彼女担当だったトレーナーに話を聞いたところ。

 

「富士山かー、山なんだねー今度は。 僕の時は海だったなー。 大丈夫だよ僕の時は袋被せられてどこ行くかも解んなかったしね。 それに比べりゃ温い温い。 そのうち今度はどこ行くんだろって楽しみなるからアレ」

 

とても温和な笑顔で宣う彼に、こいつはこいつでおかしいがゴルシのトレーナーやるにはこいつしかなかったんだろうな、と周りに実感させた一幕であった。

 

 

 

 

二か月後

 

長く栗色の綺麗な髪と、同色の尻尾を整えながら、トレセン学園寮の自分の部屋を眺めるサイレンススズカ。

目に入るのは自分のではないベッド。

同室のスペシャルウィークの物だ。

もうかれこれ二か月程このベッドに主は帰って来ていない。

流石に、寂しい、という感情が胸に湧いてくるスズカ。 以前はよく言えば孤高、一人で走っていることが多く、余り周りと関わらずに生きていたような気がする。

思えばスペシャルウィークが同室にやって来てから、彼女の明るさ、人懐っこさに当てられて自然に交友関係も増えていったような気がする。

そんな、太陽のような笑顔を振りまいていた彼女が姿を消して2か月。

よく考えたら結構長い。行方不明2か月だ、正直ヤバイ。ヤバいんじゃないかと思って流石のスズカもどうしたものかと学園関係者に話をしに行ったのが昨日のことだったのだが。

 

『あ〜、2か月、2か月かー。 まぁ大丈夫じゃないかな、4ターンだし』(←ベテラントレーナー)

『4ターンですからねー、ちゃんと特訓してるなら問題ないでしょ。 『なまけ癖』治らず、保健室通いで消費した2か月とかに比べれば……ううっ』(←新人トレーナーA)

『わかるー、くっそうけるー(涙目)』(←新人トレーナーB)

『誰もが通る道さ、だから2か月なんて、あっという間なんだよ……』(←ベテラン)

 

甚だ役に立たなかった。

 

昨日の果てしなく不毛なやり取りを思い出し、トレーナーにも色んな苦労があるのでしょうね、と、綺麗に自分の中で締めくくり、今日もスペちゃんの無事を祈ってから学園に向かおう、としたところで

スズカのスマホが鳴る。

 

電話の通知であり、発信者はスペシャルウィークだ。

よかった、無事だったと思い、急いで通話を開始するスズカ。

 

 

『あー、スズカさん!? やっと電波の繋がるところまで来れました! 青木ヶ原樹海で迷ってましてどうにか遊歩道っぽいところに出れました! 無事です私生きてます!』

「スぺちゃん! よかった無事だったのね、どう特訓は? 帰って来れそう?」

『はい! なんかよくわかりませんけど、氷の上を走れるようになりました! レースにいらないですけどね!』

 

流石はアルティメット坂路である。

 

『で、このまま帰りたいんですけど……実は静岡側に軽トラ置いて来てしまったので取りに帰らないと行けないのでもうちょっとかか……何してんですかゴルシさん!!』

『おい、見ろよ、見て見ろよースペー、これ凄いぞタイキよりでけぇぞ、ここまで来るとおっぱいの暴力だよな』

『なんでエロ本拾ってんですか! 中学生ですk……うっわ、すっご、ナニコレ!?』

『ウマ娘が驚異の肉体とかも言われるけど、コレに比べりゃまだまだ人間よりだよなウチら』

『……』

『スズカ―、スペ無言でエロ本に齧り付いてんぞー』

『うわー、止めて、止めてくださいゴルシさーん! あ、あの、スズカさんもうすぐ帰りますから、お土産に青木ヶ原で捕れたオオクワガタ持って帰りますね!』

 

田舎者のスぺには珍しくもないが、なんか都会の人はクワガタとかカブトムシを有難がる、という微妙な情報を地元で得ていた彼女は、土産物に女の子が喜ばないようなものをチョイス。とりあえず彼女の女子力は低いと思われる。

そして、そんな言葉を最後に電話が切れてしまったスズカは思う。

 

お土産は……そのタイキより凄いって言うそれを見てみたいから持って帰って来てくれないかな、と。

 

 

 

――今後もゴールドシップに振り回される未来の見えるスペシャルウィークのデビューは、まだ遠い。


でもまいだと思ったか! あれは嘘だ!!

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2021/04/01

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