「山城、知ってるかい? 最近司令官に就任した艦娘がいるらしいよ」

 

なんか凄く嬉しそうに、物凄い笑顔で寄って来た上に語りかけてくる魅惑の僕っ子、白露型駆逐艦 2番艦の艦娘 時雨。

通常幼さ残る駆逐艦の艦娘達の中にありながら、この白露型というのはすっきりとした目鼻立ちとすらりとした体型からか少々年長に見える容姿をしている為に駆逐艦の中でも頼りになる、なんてイメージが先行する。

時雨はその中でも黒髪をお下げにした優等生風味の容姿に加え普段からにこにこした本当に落ち着いた性格をしているので実際にいろんな鎮守府にあって駆逐艦のお姉さん的立場に収まってしまったりするわけで、

まぁ頼りになる娘さんなのだ。

そんな頼りになる時雨さん。そうは言ってもその顕現した御霊の見た目通りにまだまだ少女の部分を残した存在で、どこまでも完璧と言う訳でも無く妙に西村艦隊愛が溢れて零れる娘さんなのだ。

いや、うん、全ての時雨がそうだと言う訳でも無い。無いのだが、

この最近「妹鎮守府」なんて呼ばれる何故か一番艦が殆ど配属されない鎮守府の時雨に至っては西村艦隊愛が、いや、扶桑姉妹愛とでもいうのか。

でもって一番艦がいない為にぶっちゃけ山城愛が溢れて零れてしまっている時雨さんなのだ。

 

そんな時雨の愛を一身に浴び、素敵な笑顔を向けられる扶桑型2番艦 山城。

 

毎度のことながら困惑。Amazonで取り寄せた小夏をはむはむ食べ歩きながら困惑。お行儀悪いですよ山城さん。

そしてそんな慕うな私は大した女じゃないんだぞ、とか心の中で訴えながら最初の時雨の質問に答えを返す。知ってる、と。

随分そっけない対応にも思う訳だが、何しろそこは山城だ。

 

艶のある黒髪を肩の上で揃えた大人しい感じのお姉さんな姿している現在の艦娘としての姿からは解り難いが、おおもとの本体のドックを占拠していたとか言われる過去から欠陥戦艦2番艦とか不幸姉妹の下の方とか素材はいいのにとにかく薄幸そうだなとか言われるあの超弩級戦艦なのだ。

その辺の過去がなんていうか心に残っている訳で、なんか自分なんぞどうしようもないダメな戦艦なんだって気持ちが先行し、

気が付けば引っ込み思案、周りと距離を置く様な娘さんになってしまっている、というのが珍しくない、そんな艦娘なのだ。

 

だから、それに漏れずこの妹鎮守府所属の山城さんも、あまり周りとは関わらないように生きて来たつもりなわけで、

要するに、一人でいたい自主的ぼっちのコミュニケーション不足が生み出した「気の利いた返しなんてわかんないわよ」状態なのだ。

 

簡単に言うとコミュ障である。

 

普通ならそれでますます孤立する、というのがコミュ障のコミュ障たるところなのだが、

そんなこと全く気にしていないこの愛溢れる時雨さんにしてみれば、こんな山城いつもどおりである上、そんな姿の山城を照れてるんだねで片付けている訳で気にせず話を続ける。というか自分が語りたいだけかもしれない。

 

「艦娘が司令官になれる時代なんだよ、うちの鎮守府もすべてを取り仕切っている山城が司令官として君臨すべきじゃないかな」

「君臨ってなによ」

「ああ、そうだったね、もう僕たちの上に君臨はしているんだ、あと足りないのはその立場を表す名だけだよね」

「落ち着きなさいよ」

 

熱に浮かされたように熱く語る時雨。

どうにもこの時雨は以前から山城を慕ってくれて、うん、慕ってくれているのはいいんだがなんていうか妙に持ち上げるのだ。本人に言わせると「これでも言い足りないよ」レベルらしく、実際彼女だけではなくこの鎮守府所属の者たちが口を揃えてここの纏め役は山城だと言うそんな状況だったりするのだが、山城からしてみれば過剰評価にも程がある状態。

だからこそだ、時雨の暴走を止める為に落ち着けと言い放ちながら山城は手に持っていた小夏の皮を折り畳み時雨の顔の前まで持って行き、ちょっと強く摘まんでその汁を飛ばす。

 

「あうっ」

 

可愛い悲鳴と共にちょっとオーバーリアクションとも見える動きで体を縮こまらせ手のひらをこちらに向けた状態で腕をクロスさせてガードする時雨。

もっとも、汁がかかってからのガードなのでもう遅いのだがなんていうかそんな姿も可愛い。

こちとら艤装を付けたときなんか蟹とか言われる身だと言うのになんだこの駆逐艦の可愛さは、いいなぁ駆逐艦いいなぁ、と、この世に存在する覆せない格差という物を目の当たりにした山城は困り顔の時雨を気にするでもなく数度続けて小夏ビームを浴びせる。

が、やっているうちに冷静になったのかなんかもうどうでもよくなったのか、いやこれ小夏で時雨とジャレついてるだけじゃないかと気づいた気恥ずかしさから手を止めて、

 

「こんな馬鹿な事してないで仕事するわよ」

 

と、まぁ、時雨を諌めて場を取り繕う。

でもその馬鹿な事してたのおめーだよ。

なんて山城大好きな時雨が言うはずも無く素直に仕事に向かう山城について行く、でも、それでもやっぱり不満があるのか前を歩いている山城の背に向けて改めて声をかけた。

 

「むぅ。 それでもやっぱり山城がここのトップなんだからそれを示したいよ」

 

時雨的には譲れない部分らしい。でも別にトップのつもりとかないんだけどなー、誰か変わってくれないかなーとか日々思っている山城としてはこの時雨の無駄に力の入った山城推しはなんなのかと思うわけで

そもそも時雨の中での私はいったいどうなっているのかと思ったりするわけで

 

思わず聞いて見ちゃったりしたのだが

 

「山 城 だ よ」

「……そうよね」

「軽い、軽いよ山城、山城は山城の事を解ってないよ、いいかい山城はこの僕らの鎮守府をほぼ一人で纏めて来た誰もが認める頂点であって僕たち妹艦隊の憧れ、妹のナンバーワンなんだよ。 更に言えばこの世に艦娘として顕現してそれほど時間も経っていないと言うのに『名前持ち』になるほどの実力者であり先の大規模作戦においては大戦果をあげた特務艦隊の旗艦までやっていたんだよ、そしてその見返り美人の様な容姿も相まって美と武を兼ね備えた正にさいky……」

「……」(←山城:小夏の皮を折りたたむ)

「あうっ」(←時雨:なんか嬉しそう)

「……」(←山城:眉間に皺)

「……」(←時雨:もう一撃来るのかな、来ないのかな?と期待)

「仕事、行くわよ」(←山城:仕事に逃げる)

「あ、うん、山城待ってよ」(←時雨:忠犬)

 

時雨の熱い山城上げに、なんでこうなっちゃったのかなー、とか思いながらなんだかんだで非常に不本意がらも本当に実質当鎮守府の纏め役をやってしまっている山城は、ため息をつくことしか出来ないのだった。

 

 

 

「そういえば山城、よく艦娘司令官の事とか知ってたね? 普段あまり他の人のことなど気にもしないのに」

「まぁ、その艦娘っていうか、大和……友達(?)だからね」

「……山城、友達いたのかい!?」

 

「……」(←山城:小夏の皮)

「あうっ」(←時雨:とても嬉しそう)

 

そんな2人の、以前山城がミカンを食べていたところに時雨がいらんこと言って始まったこの意思の疎通が出来ているのかいないのか解らない凸凹コミュニケーション。最近の山城の悩みはみかんの皮絞り過ぎて指が黄色くなることであり、

一方、時雨は柑橘系の香りを漂わせて色気が増したと評判である。この格差よ。くっそう駆逐艦め。

 


 

みんなのあこがれやまとさん改(あらため)
山城さんは胃が痛い

 


 

みんなのあこがれやまとさんを読んで来た人たちには特に説明する必要もないと思う妹鎮守府である。あいつらだ。

読んでない人たちに説明をするならば、面倒だから読んで来てください。小ネタもだぞ。

という身も蓋もない話になるので本当に至極簡単にだけ説明をすると、戦艦の二番艦 山城、武蔵、陸奥、日向が中心となった鎮守府のお話であり、キャラ的には前から「不幸の女帝」「力こそパワー」「色気担当」「冷静沈着な天然」である。

そしてそんな戦艦達だけでなく、何故か解らないがこの鎮守府、所属する艦娘達が少なくはないそれなりの規模の鎮守府なのだが、極端に一番艦という存在が少ない。

なんかもういっそ意図的にそう集められているのではないかと疑う程に2番艦以下の妹たちで溢れているのだ。

困ったらお姉ちゃんに相談しよう、なんて意識がある各艦妹たちであったが、ここではその頼れる長姉がいないわけで、そこはかとなく不安に駆られていたそんな時、一番頼りになりそうで年長っぽい姿をしている戦艦頼ればいいんじゃね? 的な事から戦艦達がみんなのお姉ちゃんポジションを確保。

望んでいた訳でも無いのに、なにより自身がこの世に現れてからそんなに経っていない、全体で見ると新参扱いされるそれだというのに当鎮守府所属戦艦達の中で最も古株となってしまった山城がお姉ちゃんポジの戦艦達の中で更にお姉ちゃんに、こうして生まれた最お姉ちゃん山城がトップに君臨してしまっているわけなのである。

 

もちろん、山城さんだ。あの扶桑型2番艦 ドックの帝王と自称するあのネガティブ系艦娘として海軍内で知らぬ者はいないとされる程にダウナースタイルを貫く山城さんだ。

今の自分の立場に大いに不満がある。トップと言う立場に立って何言ってんだって感じではあるのだが不満があるのだ。あるのだが、元々期待されて作られた軍艦であったと言う過去もありせめて今生ではお役にたてれば、なんて思ってしまう持ち合わせた生真面目さと優しさ、そしてなんでこうなったと言う現状から目を背ける逃避から、黙々と誰よりも真面目に仕事をするお姉さんが出来上がってしまっているから山城がトップであることに対し鎮守府内に殆ど不満はない。

なお殆どから外れる反対派は山城の事であるのは確認するまでも無いと思われるが、実はそれ以外にも少数派「山城は鎮守府トップなんかじゃない、全国艦娘達のトップなんだよ」連合が存在すると言う困った噂がある。あくまで噂であるのだがそんな些細な噂も山城の耳に入って来てしまい今日もドックの女王は精神的プレッシャー、曰くストレスにより胃が痛い。

 

元より、この山城、鎮守府着任時に戦艦が他に二隻いたので自分は隅っこで引きこもろうとか思っていた。ところがその二隻が移籍ということから仕方なく仕事の引継ぎをしたのだが、その二隻が鎮守府の纏め役をしていたというのが問題だった。

何が問題って、仕事を引き継いじゃったからそのまま済し崩しに纏め役に就任。なんとこの世に現れたばかりの艦娘が鎮守府の艦娘達を取り仕切る立場になろうとはどこかの大和さんが着任すぐに旗艦になっていたとかもう可愛い話であるのだ。ガッデム。

 

でも山城は諦めなかった、そう、先任の二隻が居なくなり今は戦艦は自分一人だがその内自分なんかより頼りになる戦艦が着任して私は引きこもれるんだと、いや、うん、艦娘として活躍出来ない不甲斐ない自分とかに心が締め付けられるけどここにいるのは私には分不相応なんだ助けてくれ、誰か早く来てくれと思っていた。そんな山城、途中どうせ真面目にやっててもこの山城と言う身であるのだからどこかで問題起こしてリコールされるに違いない、なんて非常に後ろ向きな自分に対する信頼感から好き勝手やってバトンを渡す次の戦艦が来るのを待っていたのだ。

したらなんか高評価を得てしまい、後から来た戦艦達もまぁなんだ、気がついてしまえば山城に従う、という事で話が付いたのだ。待って話付いてない、と思うのは例によって山城だけである。

 

至極簡単に説明すると言っておきながらちょっとばかり長くなったがこんな感じの山城鎮守府。

 

 

そんな鎮守府の中、談話室のようなみんなが寛ぐ多目的室というかなんかそんなところで、今一人の駆逐艦が眉間に皺を寄せて、とても可愛らしく真剣に悩んでいた。

 

「うーん」

「……」

「ううううーん」

「……どうしたのよ清霜」

 

悩んでいたのは清霜。

夕雲型19番艦というかなりの妹艦であり夕雲型の末っ子にあたるいつも元気でとても一所懸命な姿から周囲に好印象を持たれるこの妹ばかりの鎮守府だと言うのになんだかみんなの妹みたいな存在になりつつある愛らしさ溢れるお姉ちゃんの理性駆逐艦だ。

そんなお嬢さんが、いつもの元気で明るい姿ではなく滅多に見せない困ったような表情でうろうろしていたので、普段は滅多に寄り付かない談話室の前をたまたま通りかかった山城が見つけてしまい、や、もう放って置いてもいいんだけど放って置くと後味悪いし……なんて消極的理由でわざわざ自分に言い訳してから声をかけたのだった。優しくて面倒見いいね山城さん。

 

「あ、やましろさん……」

 

実に元気がない。ひらがな表記なのは言葉に覇気がない表れだ。

いつも (`・ω・´)キリッ みたいな勇ましい眉もハの字になり、靡かせたグレーの長い髪の頭頂部にそびえるアンテナみたいにピンと立った一房の髪もいつもに比べて心なしか萎れている。あと夕雲型特有といいつつなんか陽炎型の19番艦も着ている艦娘服はそのままなのだが特徴的な胸元の青い大きなリボンもシュンとして見えるから今日の清霜はとてもしょんぼり気味。

醸し出すオーラがキヨシモー(↓)なのだ。いつもはキヨシモー(↑)である。

そんな清霜らしくない清霜の状態を前にして山城は清霜のグレーの髪の毛の内側が緑色に見える謎が気になってしょうがなく、そちらに気を取られて話が続かないので、何となく二人で見つめ合う状況になってしまう。

なお、現在どっちの眉もハの字だ。

お互いションボリ表情で見つめ合うこの不思議な状況。同じ談話室にいた艦娘達が何事かとヒソヒソ話し出したところで、難しい顔をしたままに当の清霜が口を開く。

 

「戦艦になりたくて……」

 

知ってる。

この清霜と言う子はこんな子なのだ。

いつも楽しそうに「戦艦になるんだ!」とか騒いでいて、特に武蔵に縁でもあったのか彼女の後ろを着いて回って戦艦のなんたるかを吸収しようとしている姿が見られ、改修に改修を重ねていつかは戦艦に! とそんな野望を抱いている可愛い小動物系駆逐艦なのである。

しかし、

 

 

ねーよ。

駆逐艦がいくら改修しても戦艦になるわけねーだろ、と思ったりはするのだが、話を聞く山城自身、前世というか生前というか艦だった時代とは打って変わってこの艦娘と言う身に成り果ててしまってから只の戦艦だったはずなのに改修重ねて航空戦艦なんてよく解らんものになってしまったという謎展開があった為に一概に無理だと言い辛くなってしまっている。本当なんなんだよ私。扶桑型どうしたいんだよこの国の大いなる意志は。これ以上欠陥戦艦苦しめるなよ日本。だいたい航空戦艦って名前なんだよ空飛ぶのかよとか思っちゃったじゃないか私。

つーか艦娘自体がよくわからん存在だし、なんかこうあれだ、どっかで秘密のアイテム「戦艦魂」とか見つけて改修すれば戦艦になれるのかもしれない、とか思っちゃう山城は自室で世のしがらみを忘れ一人の時間を満喫しようとヨドバシドットコムで買ったゲームとかしていた弊害からか頭の中にフィーバー合体とかメガ進化とかいう単語が飛び交うのだ。

なお、後者のゲームをしていた時には「通信しよう」と同じゲーム(色違い)を持って部屋にやって来た日向のおかげで一人を満喫することは出来なかったのだが、まぁ、通信でしか手に入れられないものが手に入ったから良しとするかと山城の中では特に問題が無い話になっている。山城の図鑑はもう直ぐ埋まる。

 

ちょっと話が逸れたが、そう、話を戻すと当鎮守府の最も妹である清霜ちゃんは戦艦になりたい系駆逐艦なのである。ということだ。

まぁ戦艦戦艦言ってるけど彼女自身本当になれると信じているかどうかは別として、どうにもニュアンス的には「戦艦みたいにかっこよくなりたい」的な意味っぽい感じでもある。

だからなのだろう、ちょっと前、二日程前だったか元気な姿で、対照的に気怠そうに惰性だけで活動しているような風貌の山城の元に訪ねて来たのだ。

その時の話が――

 

「山城さんみたいな立派な戦艦になりたいんですけど、どうしたらいいですかねっ!」

「……立派?」

「はいっ!」

「武蔵とか……陸奥とか日向みたいなのを立派で凄い戦艦っていうのよ、だからそっちに聞いた方が為になる、と思うわよ」

「……えー」

 

こんな感じである。

誤解なきよう言っておこう。別に面倒くさいとか清霜がうっとうしいとかそんな理由じゃなく、山城は心底自分がアドバイスなんかしても立派にはなれんと思っているのだ。

謙遜とかじゃなく、山城は自分が立派だなんてこれっぽっちも思っていないのだから。

例え鎮守府を纏めて、司令官並みの仕事をしていたとしても、彼女は自分がダメだと頑なに信じているタイプなので、このくらいの仕事誰にでも出来る、私じゃなくてもいいじゃない、とか思っちゃっているのだ。

実の所、今の山城の立場を他の戦艦達に任せたら要求される仕事が高度すぎて泣いて謝る、山城と同じレベルでの仕事を期待しないでくれ助けてくれと叫ぶ、そんな事態なのだが、山城は絶対に信じないのだ。だからそういう意味でも、他の誰かが山城の代わりをしようものなら「私ごときが出来てたことをなんであなたが出来ないのよ」とか無茶振りをされるのが目に見えているので山城をトップから降ろすなんてこと出来るわけないのだ、他の子の死活問題的に。

実際に先の大規模作戦で山城、そして武蔵が決戦艦隊として招集された際、鎮守府は纏め役が居なくてオロオロする羽目になった。臨時で陸奥がなんとかしたのだが山城の帰還が中破の為本部で修理ということで遅れたことから陸奥を泣かせるという事態になったとか。あとサポートしてた日向がちょっと痩せた。

だから

そんなわけだから元々武蔵の所に戦艦の心得を聞きに行って「そういうのは名実ともに立派で凄い戦艦である山城の所へ行くべきだろう」と促されてきた清霜としては、どうしよう、と悩みながらも残る2戦艦の所へ向かい

 

「やっぱり、立派な戦艦なんていう物を体現しているのは山城なのよね」(←陸奥:超笑顔)

「うちの山城以上に立派な戦艦などいるものか」(←日向:真剣)

 

という有難い言葉を頂戴し、山城の所へ行くべきだろうと促されてきたのが今の状態、というわけなのだ。

俗に言うたらい回しである。

ただ、よく田舎の市役所とかで見られるたらい回しと違い、この鎮守府における立派な戦艦の押し付け合いは各艦本気で思ってることなので悪気はこれっぽっちも無い。

そしてまたそれを解っている清霜としてはもうなんというか誰のいう事聞いたらいいか解んないよ、と言う感じにいい迷惑でなのである。

結局誰を参考にすればいいのか、というところで頭を抱えているわけだ。

 

「まったく……あの娘たちは、なんで私なのよ。 もっと自分に自信持てばいいのに、本当なんなのかしらアレ」

 

お前が言うな。

 

件の3戦艦が聞けば口を揃えてそう即答するだろうことを、腕を組み、至極真面目な表情で呟く山城の衝撃発言である。だって清霜だってツッコミそうになったレベルなのだ。

清霜にしてもこの山城の凄さは当然知っている、山城が所属する前から鎮守府にいる清霜としては当初からその活躍、当時鎮守府内で巻き起こったと言われる「お前本当に山城か」事件を見て来たわけであり強さはもちろんこなしてきた実績などそのカリスマ性は充分に知っている。そして当然、その頃彼女を見て来た鎮守府の面々は山城を認め喜んでその下に着いている訳だ。つまりこの鎮守府に所属する者で山城をダメだなんて思っているのは山城1人。

だからこそ、周りとしてはこのダウナー系の山城の言動にやきもきしたりするのだが、頑なに信じない山城の心の装甲を貫けた説得と言う徹甲弾を放った艦娘は未だ現れないために山城は山城のままなのである。

 

もっとも、頑なに信じてない、とは言っても山城も山城で別にアホな訳ではない。いやむしろ優秀なのだから自分のしでかしたことぐらい解っているのだ。

仕事をこなしていることも、なんかこう、実戦でなんでか解んないけど活躍しちゃってることも、最近の大規模作戦ですっげぇ戦果残しちゃったことも解ってしまっているのだ。

解っているんだよ!

自分が逆の立場でこんな肩書のヤツいたらそいつにリーダー任せて寝るよ!隅っこで大人しくしているよ!

という状態なのだ。

 

つまり山城のやっているダウナー系艦娘というスタイルは自分自身に対するネガティブキャンペーンであり、後に武蔵とか陸奥とか日向とかに今の立場を明け渡すための布石である、と自分に言い聞かせている毎日。

そんな自己暗示、それを毎日寝る前に布団の中で続けているからこそ山城は胸を張れるのだ。

 

私はダメだ。

 

と。

 

実際問題自己暗示とか関係なしに、こんな責任ある立場とかマジ逃げたいと言うのが本音なのだ、だって胃が痛い、そろそろ胃壁がヤバい。中間管理職とか嫌でござる。

だから、

目の前で何言ってんだコイツ、的な目で見ながらもポカンとしている清霜に対して言葉をかける。

 

「清霜、あなたが戦艦になりたいと言うのは解ったわ」

「山城さん?」

 

なんか急に清霜に向き直して真面目な雰囲気で話し始めた山城に、これはひょっとして自分を立派な戦艦と(諦めて)認め戦艦の心得でも教えてくれるのか、と期待する清霜だったが。

 

「でも私は駆逐艦になりたい」

「衝撃発言ですよ山城さん」

「本体、交換しない?」

「何言ってんですかアンタは」

 

でもやっぱり山城はアレなのではぐらかされるんじゃないかなとちょっと身構えた清霜の予想を超えた謎展開に流石の妹オブ妹sの清霜さんも思わず間髪入れずにツッコム。でも山城の表情が思いの外真剣なので困惑。

そして山城、割と嘘偽りの無い心の叫びがそのまま口を出た言葉である。いろいろ重症だ。

 

「いいわよね、駆逐艦、『くちく』って響きが愛らしいわよね」

「山城さん、落ち着いてください」

「戦艦は何を持って戦艦と言うのか、もう自分で駆逐艦名乗ってもいいんじゃないかしら、よし、私今から駆逐艦ね、だから清霜も遠慮せずに戦艦になってもいいわよ」

「は、排水量の定義ありますから……」

 

戦艦になりたい駆逐艦、駆逐艦になりたいというか逃げたい戦艦の不毛な会話が続く。というか無茶を言う駆逐艦の相談に戦艦が乗っている姿だったはずなのに気が付けば無理を言う戦艦を駆逐艦が宥めると言う状況に変化。

ちょっと暴走している感じも見受けられるが結構真面目に考察している山城に対し、誰か助けてよ気味に涙目になる清霜。

周りもコレどうすんだ、助けてやりたいけどこの会話にどう絡んでいいか解らない、すまん清霜、山城の哲学的な話に付き合ってくれと、半ば清霜を人身御供にささげたところで

談話室にまた一人、新たに艦娘が入って来る。

 

「お、山城と清霜とか珍しい組み合わせだな、あれか清霜、山城に戦艦のなんたるかを教えて貰ってるか?」

 

大和型二番艦 武蔵。日本人なら誰もが知るあの大和の妹であり、姉に負けず劣らずの大戦艦様だ。正直山城としてはコイツにこの鎮守府の艦娘トップを譲りたくてしょうがないそんな相手なのだ。

私に仕事押し付けて気楽に過ごしやがって、あっちで司令官始めた姉を見習ってここでも司令官しやがれよこの褐色おっぱいメガネ娘が。と憤る山城な訳だが、武蔵にしてみればなんとか先輩であり頼りになると信じている山城の手伝いをして彼女の負担を軽減し力になりたいとか思っているんだが、山城が思いの外優秀なのとなんでも一人で抱え込んでしまう性格の為に上手く力になれず心苦しい思いをしている、という事実はあるのでなんともすれ違っている2人だったりする。

 

「むさしさんー、やましろさんがおかしいー」

「何したんだ山城……」

 

気軽に声をかけてみた武蔵。まぁなんだかんだ言いつつ面倒見のいい山城と明るく皆に愛される清霜だ、それなりに楽しく会話しているのだろうと思っての事だったのだが、予想外にも清霜が涙目である。

一体何をしたら清霜がこうなるんだと思いつつも件の山城に事情を聞こうと声をかけた武蔵だったのだが。

 

「駆逐艦、山霜です」(←山城:キリッ)

「……えっと……」(←武蔵:助けを求めるように清霜に視線を移す)

「え。あ、あのっ……戦艦 清城です!」(←清霜:空気を読んで山城に付き合う凄くいい子)

「そ、そうか……」(←武蔵:上手い返しが出来ない)

「これで、駆逐艦となった以上、後の事は戦艦に任せるわ、後を頼んだわよ清城」(←山城:大真面目)

 

遠回りした感じこそあったものの、山城が言いたかったのはこれである。

戦艦と言う立場を棄て一介の駆逐艦としてひっそり生きる、出来ればちょっと小さくて可愛いとか言われてみたいという願望も相まってのささやかな宣言。もう自称でもええやんけ、私駆逐艦。もう仕事したくない。という心の表れを纏めてみたと言う山城の精一杯の現実に対する抵抗。実に回りくどい。

 

しかし、山城は忘れていたのだ。

 

山城が辞めたいのはこの鎮守府のリーダーであり、戦艦ではないという事を。

秘書艦という司令の補佐をする役職ならともかく、艦娘の纏め役としてのリーダーなんて立場は役職でもなんでもなく集団という物、群れが出来ればそこに立ち位置という物が自然に出来てしまうというその産物であり、必要とされて生まれ出る立場なのである。

そしてなにより、たまたまここでは戦艦がそのリーダーに収まっているのだが戦艦である必要などまったくない。事実今でこそ違うが本部のリーダー役などは長い事駆逐艦 吹雪が勤め上げて来たと言うから艦種などまったくもってどうでもよく、

 

当たり前だがこの鎮守府では既に戦艦を所望している訳ではなく、リーダー山城、もう今や『DX山城』として全国の鎮守府に名が売れてしまっている我が鎮守府の誇りである彼女に君臨していて欲しいという個を名指ししている状態であるのだ。

 

だから山城が山霜になろうとお前の立場は別に変わらんぞ。という事実を武蔵から伝えられ、

 

 

 

知ってる。

 

と悲しく呟き、そもそも武蔵がここに来た理由である「他の鎮守府から演習の依頼が来ていて山城に編成を頼む」というお仕事を聞き、なんで私が、と悪態をつくもどうやら相手側からの山城を旗艦とした優秀な艦隊に胸をお借りしたいという要望だったそうで、他の戦艦達はなにしてんだこらとか訪ねるも山城から声をかけられるのを心待ちにして演習準備だそうで、もっとお前らリーダーシップとか芽生えてくれと心で咽び泣き、なんかこうなんで私がこんなことをなんて胃がシクシク痛むのか左手でお腹を押さえ遠くを見つめながらもふらふらと幽鬼のように仕事に向かう山城の姿を眺め

清霜は思う。

 

もうちょっと山城さんに優しくなろう……。

 

 

 

「駆逐艦 山霜か……。 いやそのつもりなら白露型として編入してくれないものかな、僕の妹とか、いいよね、うん……いい、白露型三番艦 山雨 とか」(←時雨:真剣)

「待って、ねぇ待って」(←村雨:白露型三番艦)

「どうしたんだい、村城」(←時雨:いい笑顔)

「落ち着いて!?」(←村雨:戦艦(仮))


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2016/05/31

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