「那珂ちゃんはもうダメかもしれません……」

 

「どうしたのよ、そんな恰好でそんな死にそうな声出して」

「短い間でしたがお世話になりました、美人薄命とはこのことなのですね」

「おいおい」

 

とある鎮守府。

夜間の哨戒任務から帰って来た軽巡洋艦 川内型一番艦 川内が体を解すように背伸びをしながら朝一番の食堂に入ると、自身の妹である三番艦 那珂がなにやら隅っこのテーブルに突っ伏して黄昏ていた。

いつも必要以上に無駄に明るい、ちょっと喧しいかもしれないと評判のムードメーカー的な妹だけに、こんなしょんぼりした姿をしていれば流石に心配になって声をかけてしまう、突っ伏していて表情こそ解らないもののどんよりとした雰囲気を漂わせている。おかしい明日は雪でも降るのだろうか。

まだ時間が早いために食堂に他にある影と言えば、川内と一緒に哨戒任務に就いていた駆逐艦が数名、となるが外に出ていた為にこれがこんな風になっている事情を知るはずもない。

どうしたもんだか、と、とりあえず那珂の向かいに腰を下ろしてこの下の妹の様子を見るが、なんとも落ち込んでいる。どことなく、どことなくだが頭の左右にあるお団子にした髪がいつもよりふわふわ感が無い。いや川内主観の気のせいレベルかもしれないが、髪の毛からすらしょんぼり感が漂う。

 

「で、何があったのよ?」

 

しばらく様子を見ていたが、突っ伏したままで進展がなさそうな事にしびれを切らした案外気の短い川内が、自分の少し乱れたツインテールの片方を指で弄りながら声をかける、 しかし肝心の那珂はその言葉に小さな唸り声で返してまともな返答がない。

まぁ、悩んでるんだろうとは思う。普段の言動からこの行動も笑い取ってるだけなようにも見えてしまうから解りづらいけど。

でも、こんな時間から食堂で突っ伏してたのも実のところ哨戒任務から帰って来る姉を待って相談しようとしてのことなので那珂自身もこの状況を待ってたはず。なのだが、相談内容が厄介過ぎて言っていいのやらで困っているのだ。

 

そんな風に、ぐりぐりと机に額をこすり付けていたら、ふ、と頭に軽く何かが乗る感触。

左右のお団子ヘアーの間に川内の手が置かれ、よしよし撫でられているようだ。

 

夜戦夜戦騒ぐのが目立つ姉だが、実際のところ仕事に意欲的なだけで、普段の鎮守府でのんびりしている時などは穏やかな性格でしっかり姉をしていたりするため那珂は頼りにしていたりする。傍からは解りにくいけど。

 

それに気を取り直したのか、ゆっくりと那珂は顔を上げ、その頭を撫でてくれる姉を見据えて言葉を絞り出す。

 

「……那珂ちゃん、大和さんに目を付けられちゃったかもしれません」

「へ?」

「なんか、最近、じーっとこっちを観察するように見てるんだよ、何度も視線を感じて、その先にあの大和さんがね!? 目を付けられたのかなぁ……艦隊のアイドルとか騒いでて生意気だったんでしょーか那珂ちゃん」

 

あ、涙目の那珂ちょっと可愛い、とかいう思いを少し横に置いておいて那珂の言葉を頭の中で繰り返し、なんだそりゃ、と思う川内。

那珂は身内の贔屓目もあるのかもしれないが見た目も中高生くらいの外見で可愛いし性格も明るくいい子だと思うので件の大和に関しては、川内の中のイメージだと駆逐艦に対する態度を見ている感じからむしろ文字通りの意味で可愛がられそうなのだが、いや、そもそもあの大和さんに限って誰かを生意気だから、なんてそんな態度取りそうもない。

得意任務の都合上、あまりそう頻繁に関わる相手でもないが、川内の中では頼りになる優しい戦艦なのでどうにも那珂の言う感じがイメージ出来てないのである。

 

「目を、かけられた、じゃなくて?」

「いやほら〜、大和さんの目をかけるって、暁ちゃんみたいなあれでしょー? 私に対しては遠くからじっと見てるって感じなんだよね……」

 

言われて思い出せば、暁型姉妹は大和に可愛がられているが、直接的に抱きつかれたり下手をすると頬ずりされたりしている。もはやマスコット扱いに近く、そこから考えると、じっと遠くから見てるってのは確かになんか別の思惑があるようにも見える。

ましてや、『あの』大戦艦大和と言うこともあり並々ならぬプレッシャーなんだろう、那珂はすっかり憔悴しているようで力なくいやに長いため息が半開きの口から垂れ流すように漏れている。よく見れば目の下に隈もあり、これ昨日寝てないんじゃないかと。

 

「な、那珂ちゃんは……ここに早い段階で配属されたから、大和さんのデビュー戦は見てるんだよね、あれを敵に回すとか、0.05秒で沈む自信があります」

「那珂、那珂! しっかりして、目が虚ろよ!?」

「あははは、大丈夫、大丈夫だよ、那珂ちゃんが沈んでもきっと第二第三の那珂ちゃんが艦隊のアイドルの座を引き継いでくれるはず」

「うわごとみたいに言ってるけどそれ私たち艦娘じゃシャレになってないからね!?」

「ごめんねお姉ちゃん、先に神通お姉ちゃんのところに行くね」

「いや、神通まだここに配属されてないだけだからね!?」

「おねーちゃん、次の那珂ちゃんのことを頼みます、大和さんに菓子折り持って挨拶に行くように教育しておいてね☆」

「那珂!? 那珂っ!?」

 

朝一番の食堂で起こる小さな騒ぎ、そんな平和な我らの鎮守府。

これは、まさか件の大和が「那珂ちゃんはー、みんなのものなんだからー、そんなに触っちゃダメなんだよー?」のセリフを真に受けてアイドルを遠くから行儀よく眺めているダケだったとは知らない川内型姉妹の朝の一コマである。

 


 

みんなのあこがれやまとさん2

 


 

 

青葉型一番艦 青葉。

古鷹型三番艦とも言われることがあるが、れっきとした青葉型である。

その艦娘である青葉だが、なにかこう、取材取材騒いで新聞記者みたいなことをしたりもするらしいのだが、別に取材用の船とかじゃなく、普通に重巡洋艦である。

かつての大戦時、その青葉に従軍の記者が乗っていたという話もあり、そこから来る影響とのことだが、だからって言ってもお前は軍艦だからな。とか言いたくなる提督が青葉が艦娘として出てきて以降後を絶たない。だが可愛いから許されている、ある意味差別社会だ。

 

で、例に漏れず、この平和な鎮守府でも記者っぽいことをやってる青葉だったわけなのだが。

 

現在鎮守府の人通りの少ない廊下にて、引き攣った笑顔で背中に冷たい汗をかき気を付けの姿勢で直立していた。

 

青葉は柄にもなく緊張している自分に気づく。いやそれもそうだ、何しろ今目の前には真剣な表情をしてこちらを見据える大和がいるのだ。

青葉自身、小さい体躯ではないが、それでも見上げる形になってしまう相手。あまりこんな近くでマジマジ見る機会も無かったから今気づいたが、大和は整った顔立ちに長い睫、意志の強そうな瞳に控えめな口、更には烏の濡れ羽色とはこのことかという感じの長く美しい髪。なんだこの規格外超美人、これが神格の差か、知名度の差か。おっぱいもヤバい、マジやばい。ちょっと触ってみたい。

自分も短いとはいえ同じポニーテールにしているのだが、なんだジャンル的には同じなはずなのにこれなんか根本的に違うぞ髪型。生物学上同じ仲間だというヤドカリとタラバガニくらい違う。と理不尽を噛みしめてしまう始末。

で、更に言うならこの大和、一部で裏の司令官とか言われちゃうほど才女っぽい。これが完璧超人というヤツか!

 

そんな存在に突然廊下で呼び止められ、真剣な表情で前に立たれているというと緊張するなという方が無理である。加えて青葉は、今朝方ちょっと仲のいい軽巡川内から彼女の妹に関して相談を受けていて、その内容に大和が絡んでいた為余計に緊張。なんだ、私にもなんか飛び火しましたか? 巻き込まれましたか? という心境である。

 

「で、な、何かありましたでしょうかっ?」

やっべ、声が裏返った。とか思うが出てしまったのはしょうがないし、そもそも呼び止められたのだから話を聞かないとどうにもならないと開き直って大和に話を促す。せめて、どうかしょうもない話でありますように、と願う彼女の心情は察するに余りあるだろう。が

「ええ、うん、実は那珂ちゃん、川内型の那珂ちゃんのことなんだけど」

来たよ、来ましたよこれ、ハイ、那珂ちゃん来ましたよー。川内ちゃんから聞いた話マジなんですかねー。これ、なんか那珂ちゃんが睨まれてるとからしいけど大和さんそんな人に見えないっていうか、なんか嫌に深刻な顔してるしツッコムの怖いですけどこれは真相を求めるべきですよね、私が、記者ですから! という考えが青葉の脳内を駆け巡る。いやお前だから軍艦だよ。しかも結構強い軍艦だよ。そんなことしてるから改二を妹に持って行かれるんだよ。

 

「はいっ。 大和さん何やら那珂ちゃんが気になる様子ですけど、えっと……何かあったんでしょーか!」

真相を究明すべきという意気込みと緊張から言葉尻強くなってしまったが、大和は別段気にした風でもなく、那珂が艦隊アイドルと呼ばれていることに関して聞いてくる。これはアレですか、やはり自分を差し置いてアイドルとか何様だと言うことなのか、と一瞬警戒するも大和はそのあとちょっと黙り込んでしまい、というか何やら続きを言い辛そうな雰囲気になる。

あれ、なんだろやっぱ川内ちゃんの心配は的外れなのかなーと思い、やっぱ人間関係つーか艦関係とでもいうのかそれがギスギスするような鎮守府とか勘弁なので那珂の印象悪くならないようなハートフル那珂ちゃん情報を大和に伝えてみることにする。

 

「自称アイドルとはいえ、あのちょっと無駄に元気で喧しいかもしれませんが、その明るさからみんなのムードメーカーとしてですね……」

「え? 自称なの!?」

「え?」

「え?」

 

え、何それ、なんか妙なとこに食いついたぞこの人、と青葉が思ったのも束の間。大和は周りをキョロキョロと見回して誰もいないことを確かめると、更に青葉に近寄ってもう耳打ちに近いところでコソコソと言葉を紡ぐ。いや、近い、近いですよ大和さん。おっぱい、おっぱい当たって……あれ?固い? とか青葉が割と失礼なこと考えてるのは内緒だ。

「えっと、じゃあ、那珂ちゃんって別に、その……歌って踊ってな感じのアイドル活動とかって、してたりとかは」

「…………わ、たしの知る限りでは、この鎮守府ではそんな催し、聞いたことないですねぇ……」

「そう、なんだ……」

 

うわ、なんだこれ、大和さんめっちゃ残念そうなんですけど!? え、ホントなにこれ、もしかして那珂ちゃんのアイドル姿を見たかったとか? いやもしくは自分も同じように那珂ちゃんと歌って踊ったりユニット組んでアイドルとかしたかったりとかだったりしたら……ヤバ、見たい。

などと大和の言葉からアレこれ実は那珂ちゃんにスーパー好意的な感じじゃね? と思いついた青葉、もうここは一気に川内ちゃんの相談事の内容の確認をすべきだともっとツッコンで聞いてみることに。

 

「最近、大和さんが那珂ちゃんを気にしてる、という話を聞いたんですが、もしかしてそのアイドル活動のことですか?」

「え? そんな話になっていたんですか?」

「はい、なんか大和さんが那珂ちゃんを見てるーとかいう話がですね、で、大和さんと那珂ちゃんなんかあったんではないかというそんな噂が(ごく一部で)」

「……まぁ、その、それですよね、アイドルって言っていたからてっきりコンサートとかそんなのがあるのかと、でも私がここに着任してから噂も聞かなかったのでちょっと気になってまして……」

 

うわぁ。マジだった。

青葉の心境は別の意味で戦々恐々である。那珂に思いっきり期待されてたと伝えるべきか、大和の思いをここで、いやもう半分以上潰したけど期待を裏切るかというなんかそんな。

既にそんな活動してないよ、と言ったようなもんだし大和も解ってるとは思うけどアレだ。なんだその、この人マジでしょんぼりしてるんですけど!

まぁ青葉も自称記者してるからいろんな情報を持ってるわけで、他の鎮守府の那珂でそれっぽい活動をしているのはいるらしい。もっとも、真面目に世に言うアイドル様というより軍のポスターのモデルだの広報に関わってるとかそんな程度。自称なので歌を作ってくれる作家さんも、プロデューサーもいるわけでもないですしね。

それでも、なんかこう、「そっかぁ……」と残念そうに、そして時間とらせてごめんなさいね、なんて伝えて去ろうとしている大戦艦の背中があまりに寂しそうなので、なんとかならんもんかと悩んでしまうっていうか、艦娘関係的なメンドクセェ展開になるかと思ってたら別の方向にメンドクセェ事態になったと思う青葉だった。

 

が、当の大和としては

そっかー、あんな可愛いから本当にアイドルしてるのかと思ったよー。

と言う感じに『例の記憶』の中で弄られ系アイドルとして君臨していた川内型三番艦の姿から、実際にこうして鎮守府で出会った本物も艦隊のアイドルとか自称していたために特に疑いもせずに那珂ちゃんイベントを楽しみに待っていたのだ。記憶の中ではちゃんと歌ったりしてたんだもん。

ちくしょう、やっぱり使えないじゃないのこの記憶。と、愚痴の一つも零したくなる大和。

アレを思い出してちょっと鏡に向かって「艦隊のアイドル大和ちゃんでぇす、きゃは☆」とかやっちゃったとかそんな黒歴史はこの際おいておいて、なんだ、ほら、コンサートとかなら合いの手入れるタイミングとかあるじゃない、物によっては踊ったりとかなんかほら、野球の応援みたいなアレ!アレが解ってないとコンサートの楽しみも半減というかこのアイドルとの一体感がないわけじゃない? そこを確認したかったというかなんというかー……またか、またなのかこの『記憶』……。と

ここまで本人視点では例の記憶はろくでもない方向の知識ばっかりなために現在の生活においてマジ実害ばかりであり、今回もこうしてアイドル那珂ちゃんを無条件に信じて青葉に唖然とされると言うえらい恥かいた状況を作ってしまったわけである。もうヤダ。

ああ、もういっそこんな記憶、無くなってしまえばいいのに。なんて思うのもしょうがない。そしてまたしてもこんなダメ戦艦は解体なり近代化素材にでも、なんて思うが「ダメね、ハイパー北上様のヘソ出しルックを見るまでは」とか考えてネガティブ思考をスルーしてしまう自分に自己嫌悪。ほんとダメであるこの戦艦。

そんなわけでちょっとしょんぼり気味に、主にアイドル那珂ちゃんのことより自分の記憶に振り回された不甲斐なさにしょんぼりな感じ、で話を聞いてくれた青葉に礼と時間とらせた謝罪を伝え、その場を去ることに。

まぁ、ぶっちゃけ恥ずかしいから逃亡しようとしてるわけなのです。が

 

「あっ、や、大和さん!」

去ろうと振り向いた先に那珂ちゃんのお姉さんにあたる、川内さんが駆け寄って来るのが見える。こう、元気な大型犬みたいで可愛いというのが彼女に対する大和の感想。

そしてそのつぶらな瞳のピレネー犬、じゃねぇや彼女が大和の目の前まで来たとたん

「ウチの那珂がなんか、こう、その、目障りかもしれませんが、悪気はないんです! よく言って聞かせますんでどうかご容赦願います!」

綺麗に、実に綺麗に腰をほぼ直角に折り曲げすごい勢いで頭を下げて来たのだった。

 

 

 

 

「……えっと、話を要約すると……私が那珂ちゃんを虐めてるという疑惑が?」(←大和:超苦笑い)

「あははー、私としては大和さんの純粋さに驚きましたけどね」(←青葉:超苦笑い)

「……いや、本当に申し訳ありません……うちの那珂のいい加減な発言のせいで」(←川内:超苦笑い)

 

結局、川内は那珂と話していろいろ思いつめてしまったようで、お姉ちゃんがなんとかするから! みたいなとこまで来てしまっていたらしい。

止めてくる那珂に「大丈夫、夜戦なら大丈夫だから!」とか意味不明の供述を繰り返し真昼間に大和に突撃したというわけなのだが、まぁ、ある意味なんとかなったのかな。

そんな感じで思いっきりグダグダになりかけた事態の収拾をはかる為、青葉の提案で鎮守府内第五作戦会議室を利用し、じっくり話し合いを持ち、お互いがお互いになんかしょーもない思い違いをしていることが解ったという流れ。なのだがなんだろう、この微妙な空気。

誤解は解けて揃って苦笑い状態なのだが、なんつーか、この話の流れというか、川内の主張から行くと那珂ちゃんが全部悪いみたいになってしまうのだ。いや、事実発端も誤解も那珂ちゃんのせいだから間違ってないんだけどね。なんだ那珂が悪いんじゃん。

 

しかし、半ば暗黙の了解だったんじゃないかと思われる那珂ちゃん自称アイドルの件は、良く調べもしないで素直に信じてしまって本人を恐怖に陥れてしまっていたという大和からみれば、こっちが加害者なんでねーのかなとか思う次第。てか、恐怖されるってどういうことなの私そんなに怖いんかいな。というのが本音だが敢えてそこから目を背ける大戦艦。だって悲しいもんね面と向かって怖いとか言われたら。

なので、こう謝罪されるよりもなんつーかその、素直に信じて勘違いしてたことをネタに笑ってサクっと済ませて貰うくらいがいいんじゃないかと思うのだ、だから笑ってよ。笑えよ、ちくしょう。盛大に勘違いしてたんだよ、ほじくり返すなよ。やっぱ 那珂ちゃんが歌う曲はけいおん型駆逐……じゃねぇや、白露型が担当したりとか、ライバルはがきデカみたいなポーズしてる初音なんとかっぽい五十鈴ちゃんなのかなーとか夢膨らませてたのよ、もう許してよ。

 

と、心中で嘆く、サイリウムなんて呼ばれたりするケミカルライトをどう仕入れたものかと悩んだ挙句工廠に住む開発妖精さんに相談までしていた大和の心境は筆舌尽くしがたい。
 

 

そんな空気を読んでか読まずか、川内は件の発端が自分の妹ということもあり、何事もなく穏便に済みそうな話の流れを見て取ってほっと溜息、ついでに場を和ますためか、はたまた妹に対する呆れからくる愚痴なのか、つい、ぼそっと言葉を零してしまう。

 

「いっそ解決策として、この事態を作った那珂に言葉通りアイドルしてもらうのもいいかもね」

ははは、これもうこの話で終わってるんだから解決策も何もないじゃないの、という感じのツッコミくらい来るんじゃないかと思った川内。あれ? なんかリアクションないぞ、滑っちゃった? と顔を上げて二人を見ると

 

 

 そ れ だ みたいな文字が後ろに浮かんでそうなくらい真顔で、それでいてなんかテンション上がってるっぽい大戦艦。

結んだ口を出来るだけ横に広げて笑顔になりこちらにサムズアップしている似非新聞記者な重巡洋艦。

 

「そうね、よし、じゃあ那珂ちゃんをプロデュースしましょう、これから私のことは大和Pと」

「……P?」

「いえ、なんでもない、なんでもないわ、青葉さん忘れてください……」

「はぁ……でも、いーですねーその案、大和さん、大和さんが思ってた那珂ちゃんのアイドル像とかどんなんでした?」

「フリフリの可愛い服を着て、歌って踊る正統派アイドル」

「おお、王道ですね。 あ、でも大和さん。 最近はフリフリって言うより制服っぽいアイドルが主流じゃないです?」

「あ、そうね、そういえば昨日テレビで見たのも阿賀野型の子みたいな服着たアイドルグループだったわね」

「それ多分京都のアイドル『ローリング三年坂』ですね」

「寿命短そうなアイドルね……」

「ま、それはともかくとして、アレじゃないですか? 那珂ちゃんってなんていうかこう……アレでソレで、天然っていうか、いや違いますね、なんていうのかー」

「……弄られキャラ?」

「!? そ れ で す ! それで売ってみてはどうでしょうか」

「だとすれば余計にフリフリの可愛い系がいいんじゃないかしらね」

「なるほど、言われてみれば、流石ですねーなんたる慧眼」

 

あ、滑ったつーか、口が滑った、になるのかな、これ。やべ、二人が思わぬ方向で盛り上がってるよ那珂にどう言おう。とか思う軽巡洋艦。

 

青葉はこの話し合いの中で大和がとても話しかけやすい相手だと理解したのか笑顔で、とても気軽に談笑。大和も気にした風でもなく真面目な顔だがどこか楽しそうにそれに付き合い、なにやら那珂の方向性を模索中。

川内としては自分の迂闊な一言の為に妹がアイドルになってしまうという流れにいったいどうしたものかと思ったりも――

あれ、別に困らないな。

と、更に思い直し、アイドルアイドル言ってるからきっとアイドルになりたいんだろうと、可愛い妹の望みを叶える方向にシフト。

いっそもう二人の話に混ざって、じゃあ歌はどうしましょう、とか切り込み那珂ちゃんアイドルへの道談義を加速させるのだった。

 

こうして、名前は第五作戦会議室だが、正直作戦会議に使われたことのないこの部屋が、後の那珂ちゃんアイドル活動推進委員会の活動ルームになっていったりとかなんかそんな。

 

 

 

後日、平和な鎮守府において。

大和、青葉、川内の三名が真剣な表情で那珂を観察するという事態が発生し、その視線に、数が増えたことに、そして何故か自分の姉まで混ざっていることに事態が解らず那珂ちゃんはガクガクブルブルするのだった。

 

「あ、那珂に話すの忘れてた」

 


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2014/02/7

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