「わ、私が旗艦ですか!?」

「高雄、声裏返ってる」

 

例によっていつもの平和な鎮守府。その第一作戦会議室での様子。

次の作戦における旗艦の指名に驚いた重巡洋艦高雄型一番艦 高雄に、横にいた妹の二番艦 愛宕がツッコム。

端的で容赦ないツッコミにも聞こえるが、愛宕が始終笑顔なのと仲良し姉妹として知られていることもあり本人たちも周りもじゃれあい程度に見ているので問題はない。実際そうだし。

むしろそのじゃれあいから緊張が解れたのか会議室の参加者から小さな笑いが漏れてくる。

 

まぁ、ピリピリしてるよりはずっといいわね。

と、思いつつも話を戻すために柏手を打って意識を会議に向ける本日の秘書艦を務める当鎮守府の頼れるみんなのお姉さんお伊勢さんは

「それじゃあ、今回の作戦の内容を詰めていくわね」

皆の視線がホワイトボードに戻ったのを確認して話を進めていくのだった。

 

平和な鎮守府、と何度も言って来たが何もお仕事がないわけじゃなく当然、深海棲艦との戦いがあったりするので完全な平和という訳でもない。あまりピリピリした雰囲気もなく、艦娘同士の仲もいいほんわかした感じなので平和、と称されるのである。

アットホームな職場です、なんて感じなのだが、その表現だけは辞めて、と何故か悲壮な表情をした大和に止められたので表現がほんわかになっているというのはその話題が出た時に談笑していた戦艦組だけが知っている事実。あまりに辛そうな、そして何かを思い出すような姿だったが、どことなく思い出したくない、という仕草であった為に追求することも出来なかったが大和にいったい何があったのかとちょっと心配なお伊勢さん。まぁその話は置いといて。

 

今回の作戦。

鎮守府海域から離れた場所になるが、哨戒目的の遠征から帰還した水雷戦隊の報告により複数の深海棲艦の姿が確認され、かなり遅い速度ではあるがこちらの鎮守府海域に向かっているということらしい。

正確には当鎮守府に向かって来ているわけではないような進行方向で、管轄内の海域を掠める程度だが、出張ればどうにかなる為放って置くわけにもいかず、と言ったところ。

進行方向の先だけを見るならお隣の鎮守府に任せてもいいんだとは思うのだが、

隣の鎮守府は現在実にしょーもない問題で揉めているらしい。平たく言うと提督の業。簡単に言うと扶桑型戦艦姉妹と金剛型戦艦姉妹が提督を取り合う痴情の縺れらしい。実にしょーもない。

実にしょーもないのだが戦艦姉妹の睨み合いとかマジやべぇ。あんまりヤベェのでそれに当てられて転属を希望しこの平和な鎮守府に逃げてきた者もいるというから笑えない。

もっとも逃げてきた者の話を聞けば危険という意味ではなく、「口から砂糖吐きすぎて虫歯になりそうなラブコメはもう嫌だ」だそうである。

まぁ、しょーもなさ半端ないが一応軍の提督と戦艦が主人公とヒロインになるラブコメなので大きな声で言えるはずもなく、一応極秘扱いなわけだ。詳しい話を知ってるのは逃げてきた者 を合わせても当鎮守府では数少ない。

その数少ない者の中に現在会議中の提督と本日の秘書艦お伊勢さんがいるわけなので、

隣の鎮守府はそっとしておこうぜ、的な流れからウチが対応するべ深海棲艦、と相成ったのである。深海棲艦が来ているというのに実に呑気である。

 

そんな事情の元、艦隊編成、作戦の決定となったわけなのだが、

 

「どうかした高雄? 何か気になるところがあるのなら言ってくれればいいのよ」

 

なんか高雄が難しい顔をしていた。気づいたお伊勢さんが話を促すも眉をひそめたまま歯切れが悪い。

流石に気になったのかあまり発言もなかった提督も高雄を促してくれてようやく思いを聞くのだが、曰く

 

「いえ、てっきり伊勢さんが旗艦で出るのかと思ってまして」

とのこと。

 

それを聞き伊勢は、やっぱり、と思う。ここ最近の本格的な戦闘を行う場合の艦隊編成は必ず戦艦が組み込まれ、加えて旗艦として動いていた為、今回突然高雄が旗艦に、さらに言えば戦艦抜きの編成になっている。

ここのところの戦果が鎮守府の歴史の中でも上位に来るくらい――敵の撃破数という訳でなくこちらの被害の少なさという意味になるが――極端に好評価なのだ。

当然そういう状況下、上手くいっているのだしゲンを担ぐという意味から考えても敢えて編成を変えるということが不思議に感じられたということ。

会議室を見渡せば同じように不思議そうにしている艦娘もいたわけだが、そこで空気を読んだのか、半ば空気になりかかっていた提督が口を開く。まぁ、空気になりかかってたから空気読めるとかカッコイイな、同化したのか。

 

「うん、最近ちょっと戦艦に頼りっぱなしになっていたからな、そもそもウチには4隻しかいないんだローテーションを組むにしても得手不得手もあるし、偏るとオーバーワークになりかねないんでね」

 

結局のところこれである。まぁ流石に頻繁に本格戦闘がある、というわけでもないので潰れそうになるほどの負担ではない。

が、ほとんど被害の無い戦艦組がメンテナンスレベルの入渠で済んでいる為基本出撃可能という状態。その結果の連続編成だ。しかも当鎮守府の戦艦は揃って姉属性強く艦隊を任せられると来ていた為ついつい提督も甘えてしまっていたというのが真相。

 

敵、深海棲艦がそれほど強くないのなら戦艦を使うまでもないのだが、数年前から当鎮守府を含む地域、鎮守府海域と呼ばれる近郊での敵艦隊の姿が減り、少し離れた区域にエリート級以上の存在がちらほら見かけられる 様になったとの報告が本営から流れてきている。

そのあたりが鎮守府海域に攻め込んでくれば流石に心配になって戦艦を付けてしまうというのも解るわけだが、なにぶん近くまで行かないことには敵の種類も確定出来ないので毎度の戦艦出動となっていたのだ。

 

ただ、今回は哨戒任務の艦隊が確認して来ているために戦艦抜きでも充分なんとかなる、という結論での編成となったのである。

 

「ほら、以前は良く高雄さんや愛宕が旗艦を務めていたじゃないか、最近戦艦に偏りがちだっただけでさ。 敵も編成が解っているし、今回は僕を信じて欲しい」

 

などとちょっと格好いいセリフで締めようとする提督。まだ提督としては若い方だがその実力は充分高く、傍で見てきた高雄たちも当然信頼はしている。加えて二枚目なのでまた格好いいセリフが似合うのが困りもの。

だが、そんな場を締める言葉もどことなく上滑りしているのはそれだけ戦艦に頼り切っていたんだと思わせる事実。

そんな空気を読み取って今回の旗艦となった高雄も、提督もどうしたもんかと内心眉をひそめてしまう。

 

そんなところでお伊勢さんから一言。

 

 

「あ、ちなみに高雄を旗艦に推したのは……多分今頃三号館の裏に住み着いた白い猫と戯れてる大和よ」

 

ああ―それじゃ問題ないね。

みたいな空気が流れる第一作戦会議室。

もしかしてーレベルで言ってみたところ本当にみんな納得した空気になったことにどうしたもんかと呆れながら大和信頼されすぎじゃないのかと思う苦笑の伊勢。あれだこれがきっと戦艦大和補正だ。

 

そして高雄も、我ながら単純だと思いはするが、大和直々の御指名というのに気分を良くし、旗艦として今回の作戦を成功させようと気合を入れて声を上げるのだった。

 

「はいっ、旗艦高雄、期待に応えられるよう精一杯頑張ります!」

「高雄、声裏返ってる」(←愛宕:笑顔)

気合入れ過ぎたらしい。

 

 

 

居もしない大和にいいところを取られた気分になった上、折角の恰好いいセリフをなんとなく流された提督がこそこそとしょんぼりしているのを見て、なんとなーくお伊勢さんがきゅんきゅんしていたのは内緒だ。 

 


 

みんなのあこがれやまとさん

 


 

 

三号館の裏。

にゃんにゃん言いながらすり寄ってくる白い猫に対し、地面に膝をついた体勢で猫じゃらし代わりに持ってきた棒にボールを糸でつるした小さな釣り竿のような玩具を振り回し戯れる大和。しかも真顔。

ついた膝が汚れるがそんなことは気にしてる場合ではない、お猫様優先である。

一見とてもシュールであるが、見直してもやっぱりシュールな光景。なお、この玩具は大和自作だったりする。

よもやこんな真剣な表情で猫と遊びながら、よし、この猫の名前はエラーにするか、とか考えているとは誰も思うまい。辞めろ。

そんな他愛もないことをだらだらと考えながら猫と戯れる大和だったが、現在ちょっとばかり現実逃避中。

 

それと言うのも本日の朝食後の事。

基本戦艦は戦艦で集まっていることが多く食事の後もそのメンバーで談笑することが普通。だったのだが、本日のお伊勢さんの放った何気ない一言で唖然。

なんでもここのところ艦娘たちの大和に対する認識が司令官なのである。いやもうなんだそれな感じだが、要は大和のお墨付きなら間違いないだろうとかそんな認識。

詳しく聞いてみれば、下手すると本来の司令官、提督さんの言葉より優先される恐れがあるとかなんとか、軍としてダメじゃないのかそれレベルになりかかってるそうなのだ。

 

ええー、それはないわー的な反応を示した大和だったのだが、話した伊勢を含め、聞いていた他の戦艦達にも「ああ、そうみたいよね」程度で流された。あかんやろ。マジ。

てなわけで、現在どうしてこうなった状態である。いやね、なんかもうそれ相応のことをやっていれば納得も行くんだろうけどさ、正直自分視点で大和さんは皆の信頼を勝ち取るようなことしてないんだわこれ。

テンション上げて働いたのも最初だけで、その後は自分のヤバイくらいの燃費の悪さというか資源食いっぷりに上げ上げだったテンションを奈落まで落とされた現実からとっても大人しくしていたのだ。もちろん大和視点で。

ましてやこの鎮守府のメンバーの中では新参の部類、いかに戦艦とは言え後輩には変わりない、只でさえ今の状態は巨大戦力と言う称号引っさげたお飾りみたいな状況に甘んじているというのに。

という思考が既に例の記憶に引きずられたサラリーマン魂、と書いて社畜根性と読むアレだ。

途中入社とはいえ自分は新人と変わりない、とまあそんなノリで雑用するわ周りに気を使うわと下っ端気分満載。そしてそこに戦艦大和補正が加わり、そんな態度を「よく気が付く気さくなお姉さん」と周りに認識させていたというなんだあれだ、貴族が卵かけご飯食べてるとこ見かけて親近感湧くわーみたいなそんなノリが鎮守府内に浸透していたというそんな事態。

 

でもって、何気なーく作戦とかでも意見を求められた場合に答えたりしていたことが上手く嵌ったりとかで誤解は進む。当然彼女なりに真剣に考えての答えではあるのだが、戦艦として軍事関係の知識、格は当然あるが士官学校行ったわけでもないし現在の時代に合わせた軍の知識なんか今憶えてる最中、と言うのが現実。本当にたまたま上手く行ってるだけなのだ。

 

大和は思う。

 

 

―あれだ、これ、勘違い物だ!

 

例の記憶のサラリーマンはラノベとか好きだった模様。そこから照らし合わせ、意図せず過大に、好意的に解釈されている自分の状況を確認。

ラノベ世界の鈍感主人公とは違い、勘違いされていることに気づいているからこの流れを正常化するチャンスが私にはある。と妙な決意を固める大和だったが、あれだ、なんだそれフラグってやつだろと気づくことが無い当たりが勘違い物主人公たる部分なんだろう。

 

で、その勘違いを正す方向として実は自分はこんないい加減な子なんですよ計画を開始したわけなのだが、

それがこの、真剣になって猫の玩具作って、第一艦隊が作戦会議している中猫と戯れる。である。正直しょぼい。それだけ聞くとサボって遊んでいるようにも見えるが、先日出撃している大和は基本今はお休み中なのでまるで問題ない行為だったりする。

さらにダメ押しすると、たまたま見かけていた駆逐艦 吹雪は「大和さんにもあんな可愛いところが」となんか好感度上がっていたりした。まぁ、なんだ、世の中って上手く行かんよな。

ついでに言えば大和自身、途中から猫と遊ぶのに夢中になってそんな計画すっかり忘れているのだから始末に負えない。

気が付けば、真剣だった大和の表情も可愛く遊ぶ猫の姿につられて、にへらーと締りない笑顔になって来ていた、というところで―

 

「あの、大和さん? そんなところで座っていると汚れてしまいますけど……」

 

なんて不意に声をかけられて、振り向くとダイナマイトバディ重巡が二隻。高雄と愛宕だ。

黒髪を肩のあたりまで伸ばした出来るキャリアウーマンみたいな容姿の姉高雄に、もうこれ金髪じゃね?ってレベルの輝く様な栗色の長い髪を靡かせた愛嬌のある妹愛宕。どっちも嫁にしたいほど美人である。(例の記憶談)

てか、だらしない笑顔のまま振り向いてもーた、やっべ、超恥かいたこれ、目の前の高雄も愛宕もちょっと唖然としてね? なんてちょっぴり冷や汗をかく大和だったが、

あ、そうだ別に体裁整える必要とかないんだった、隙のない戦艦のままの印象よりは少しくらい恥かいてもいいからダメっぷりを見て貰おうと思い直し、そんなへにょへにょの笑顔で変に間違った方向に気合の入ったまま妙なテンションで二人に挨拶。

 

「あら、高雄さんに愛宕ちゃん、相変わらず立派なおっぱいね」

 

 

 

間違えた。何言ってんだ私。

ダメっぷりとか言って、なにも例の記憶のダメ方向に進むことねーだろこれ、明らかに失敗した感じじゃないの。高雄さんとかぽかーんとしてるし、愛宕ちゃんは、あれ声殺して笑ってるわ。ちゃうねん、今のちゃうねんな。

いや二人のおっぱいが凄いのは間違いないんだ、この姉妹が歩いているとなんていうかたゆんたゆんというかぽよんぽよんというかそんな擬態語が見えるのよ、マジで。

 

「え、え?」

「う、うん、ええ、その、まぁ……あれよ、お猫様の為なら汚れることとか厭わないといいますか、うん」

「え、えーっと……」

 

うっわぁ、高雄さん引いてる? 引いてる!?

てな感じでテンパる大和だったが、そんなよくわからん空気になった場で耐え切れなくなったのか肩を震わせていた愛宕が大きな声で笑い出す。

 

「あー、笑ったー。 ふふふっ、でも大和さんも……それ私たちより立派じゃないですか?」

 

笑った為凄いいい笑顔で、口の前で手を合わせて語る愛宕。なにこの子可愛い。暁型と違った方向で天使。

そして手を顔の前で合わせているために必然的に両二の腕で胸を挟む形になるわけで、ヤバイこれヤバイ。今むにょんって文字が見えた気がする。とちょっと錯乱中の大和。

だが、話を振られた以上、きちんと返さねばなるまい、と心を落ち着かせ話題に食いつく。何もこんな話題に食いつかんでもええのに、とも思うが錯乱中なのでまぁ許せ。

 

「いえ、これ実は立派に見えるのだけれど……九一式徹甲ブラにより底上げされております」

 

カーン

 

立ち上がり、おもむろに自分の胸を叩き金属音を響かせる大和。もうあれだ自虐ネタだ。

不意打ちだったのか耐えられなくなったのか、ぶはって感じでもう目尻に涙溜めて笑う愛宕につられて口を押えて肩を震わせる高雄。

なんやねん。そこまで笑わんでも。

 

「えっと……大丈夫愛宕ちゃん、何か呼吸困難に陥りかけてるみたいだけど」

 

息も絶え絶えになっている愛宕ちゃんがちょっと心配になる大和。まぁ、100%お前のせいなんだがな。

 

「い、いえ、大丈、夫ですよ……そ、それよりなんなんです? 九一式徹甲ブラって……ぷ」

 

笑いすぎだろーと思いつつも、その質問に関してだが、

正直、私が一番知りたいわ。と思う大和型一番艦。なにせ艦娘としてこの世に現れた時から着いてた装備である。てか装備なのか単なる服なのか判断難しい。明らかに金属で出来てて『九一』の文字が入ってる乳当て。

初めて見た時自分の装備ながら感想は「なんじゃこりゃ」だった程。名前は適当に付けた。パッドと言うよりはブラって言っておきたかった乙女心が付けた名である。

 

その辺を無駄に重々しく真面目に語り、最後にもう一回この九一式を叩いてみたら、とうとう愛宕が耐え切れなくなったらしく体をくの字に折り曲げてうつむいた。よし、愛宕轟沈。いや、よしじゃねーよ。

横を見れば愛宕につられて限界迎えたのか高雄もとうとう大笑い。大和さんってこんな変な人だったんだ……と切れ切れに言われてしまう。

 

はい、変な人頂きましたー、と一瞬喜びかけたが、違うから、変な人呼ばわりを望んでたわけじゃないからと目的がなんか間違っていた、というかそもそも自分はどういう方向を目指せば正しいのか解ってないことを今更ながらに悟る大和だった。

 

 

 

 

 

 

「んー、さて、準備よし、行きますか」

「ふふ、そうね」

 

鎮守府を背にし海に臨む形で、高雄は出撃の準備を整え軽く背伸び、気合を入れなおしたところで、妹の愛宕が横から相槌を打ってくれる。

実のところ妹艦という扱いにはなってはいるが、まだ物言わぬ軍艦であった頃、 計画の段階から高雄型、高雄が一番艦ということになっていたため姉という立場なのだが、建造着手も完成も愛宕の方が先なのである。 なのでその辺ひっくるめて愛宕とはまるで双子の姉妹のような関係。

けど、性格はまるで違うのよねー、とか苦笑していたら件の妹がニコニコと高雄の顔を眺めていた。

 

「どうかした?」

「んーん、いやほらぁ高雄、作戦会議中から暫く眉間に皺寄せてむつかしー顔してたわよー」

 

両手の人差し指で自分の眉間をぐいぐい押しながら当時の高雄のむつかしー顔を表現する愛宕。

そんなコミカルな妹の姿を見て軽く噴き出して思う、確かにさっきまでは随分と緊張していたものだと。

 

理由は単純、久しぶりの旗艦任命に関してのことだ。

別に編成に戦艦がいないことで戦力的な不安を感じていた訳ではない。なにせ高雄は今より更に戦艦が少なかった時からこの鎮守府にいる古株なわけで、過去戦艦無しの編成&自分が旗艦なんてのは嫌程こなしているのだ。実のところ経験値で言うなら今や鎮守府のリーダーみたいな扱いになっている伊勢と変わらない。それどころか上かもしれない。

妹の愛宕も同時期に配属されている為、同様であり、二人で一緒に出るというなら正直頼もしい。

だから何が問題だったか、と言うと。

 

旗艦が現場での各艦に対する細かな指示、戦況を見極め陣形やら攻撃やら敵の情報やらなにやらいろいろたくさん背負わなきゃならんのか。というアレだ。

 

ぶっちゃけ誤解である。まぁ、旗艦と言うだけあり当然指揮権はあるし艦隊の面倒を見なければならないのは確かなのだが、大和が旗艦を務めて以来旗艦というもののハードルが上がっているのだ。

旗艦の任務を全権任されたと認識した大和が提督の指示を待たずに事細かに作戦を展開→すげぇ戦果をあげる、を繰り返したためである。これに関して大和の言い分は変な記憶のせいで現状よく解ってなかったので仕事を丸投げされたと思い胃痛に苛まれながら涙を滲ませ味方の資料や敵の資料を引っ張り出して頭に叩き込んだうえ士官学校で使っている教科書を提督から借りて熟読、そのせいで寝不足になったので現場ではっちゃけた。だ。マニュアル利用の社畜根性のなせる業である。

 

なお、これに関してちゃんと解ってない大和が悪いんじゃないと思われるが、本当のところは

碌な説明もないままに、大和着任でテンション上がっていた司令官がいきなり大和を旗艦にし作戦実行したために起こった悲しい事故である。そんな状況なので本来旗艦より状況を確認し指示を出すはずの司令官を無視した大和の行動についても何も言えず、それを見ていた他の戦艦達が「本来旗艦の艦娘はこういう仕事を理想とするものなのか」というなんかそんな流れになったためである。そのくらい大和の指揮がリハーサルをちゃんとやってきたプレゼンの様に整然と行われていたのだ。ナイス社畜。

 

と、まぁそんなわけで、旗艦の理想形が「ウチの大和」で固定化されている当鎮守府においては、旗艦を任せられるということがプレッシャーに感じたというわけだ。

けれど、

 

「大丈夫、みたいねぇ」

「……そうね」

ころころといい笑顔で笑う妹の言葉に、高雄は自身が確かにいい感じの緊張、で収まっていることを自覚する。

あれこれと作戦は考えたし、会議でも充分に議論した、後は現場の臨機応変だけ、と解っていてもどことなく不安が付きまとっていたのだ。最近好成績を上げてくる戦艦達のような指揮が出来るのか、と。

でも、きっと―

 

「なるようになる、でいいのよね、後は全力で頑張るだけよ」

 

与えられた任務を全力でこなせばいいだけだと。旗艦が迷ったり不安だと艦隊の士気にかかわるから、と自分にしっかりと言い聞かせる。

 

「うふふ、そうよね、頑張りましょう。 で、帰ったら大和さんにお礼言いに行こうね」

「……やっぱりアレ、そうなのかな」

「どうかしら、でも、大和さんだしね」

「……うん」

 

愛宕の言いたいことは解る。事実先ほどの大和さんとの会話、というか一方的に笑わされたアレですっかり肩の力が抜け落ちたのだ。危うく必要な分まで飛んでいきそうだったのが問題だが。

あれはあれで旗艦に任命された自分をリラックスさせてくれたのでは、とそんな話だ。

そこから考えると会議中に伊勢さんが大和さんがどこにいるかを伝えたのも誘導だったのではないかと勘繰ってしまう。あの大戦艦が猫と遊んでるとか気になって見てみたくなっての訪問だったのだし。

 

「なんか、敵わないわね」

「でも、私たちの頑張りが、戦艦達の負担の軽減になるのは確かよ、頑張りましょう高雄」

「ええ、そうね」

そんな、今後の決意表明とも思える話を妹とし、気が付けば作戦開始の時間。周りには今回の作戦艦隊。

さて、一つここは気合を入れて任務に向かいましょう。と、気合を入れて号令をかけた。

 

 

「艦隊抜錨! 私に続いてくださーい!」

「高雄、声裏返ってる」

 


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2014/02/12

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