「潜水艦はなんて言うか、こう、えっちぃ」

「突然何言い出すんですかお伊勢さん」

「と、そんなことを潜水艦の子がここに配属された時に大和に言われたのだけれど、私はどう返せばよかったのかしらね」

「えー」

 

例によっていつもの平和な鎮守府。

数日前に配属された潜水艦組の演習が近郊の海域で決定され、その見送りをした後の伊勢と吹雪の会話である。

海を臨む軍港で、遠く水平線を眺めながらの会話にしては酷く俗っぽいなぁとか思う特型駆逐艦、吹雪型一番艦の吹雪。戦艦ってこんなキャラだったっけ? とちょっと頭を傾げる。

そして考える。自分が同じ立場で、大和にそんなこと言われたら――

 

「……そうですね。 くらいしか言えないと思います」

「そうよね、そういう反応が普通よね」

 

吹雪の回答に、はあ、とため息をつきながら遠い目で呟く伊勢。

妙に暗い雰囲気を醸し出し、何か悩んでそうな言葉尻だったのでついついツッコンで話を聞いてしまうとてもいい人吹雪。

まぁ実は吹雪、現在の鎮守府メンバーで一番の古株だったりする大先輩なので面倒見がよかったりとかなんとか。なので戦艦という最上位の船である伊勢だったが、まだ艦艇の少なかった頃には吹雪には随分と世話になったという過去がある。

その為、こうぼそっと相談事というか愚痴を零すというか、なんかこうちょっと今でも頼りにしていたりする。

なので、何事かと優しく話を促す吹雪に甘えて、こう、なんだ、この心に引っかかっていた何かを吐き出したわけなのだが。

 

「『阿賀野型の胸の谷間も負けてないと思うわ』、と返した私は大和に毒されて来ているのかしら……」

「うわぁ」

 

お伊勢さんってこんな人だったっけ? と一瞬悩む吹雪だが、話の流れからむしろ大和がそんな人だったのかというべきなのか、いろいろどうしていいか解らなくなる。

吹雪から見て大和や伊勢も含め戦艦組というのはしっかりした大人の女性像というかクールなキャリアウーマンというか頼りになる姉ポジションの存在だっただけに何と言ったらいいのか、って感じだ。

しかもお伊勢さんの言い方から、あの日本の軍艦の頂点に君臨していると言っても過言ではない大和さんが元凶っぽいのがまたなんともなんともな話である。

 

「大和さんってそんな、えーっと、そんななんですか?」(←吹雪:言葉を選ぶ大人の対応)

「ええ、変よ」(←伊勢:ストレート)

「……」

「……」

「……ま、真面目で優秀な方だと思っていたんですけど」

「間違ってないわ、とても真面目で優秀よ、面倒見もいいし、優等生の模範みたいな子」

「矛盾してません?」

「でも、たまに、妙な事言うし、妙な事するのよ。 狙ってじゃなくてアレ素よ間違いなく」

 

伊勢のセリフから誉めてるのか貶してるのか判断しづらい、つーか、貶してる訳では無いな、なんか眉間に皺寄ってるし、これ困ってるんだ。けれど、たまーに妙な事を素でやるというならいっそ可愛げがあるという形で受け取れるのではないだろうか、そんなことを吹雪が考えていると。

 

「ええ、可愛げはあるのよ、むしろ好印象だと思うわ。 けどね――」

 

やっているのが大和だから。

ということらしい。

どういうことかと首を捻る吹雪だったが、その仕草を感じ取ったのか伊勢は海を見つめたままであったがその理由を語る。

曰く、

みんなが影響される。

と。

 

どんな影響あんねん、とか思う吹雪だったが、伊勢の話によると仕事の面では、最近旗艦に求められる仕事のレベルの高さは大和のせいだとか。

いや、まぁそれは何となく理解している。吹雪自身も大和が旗艦を務める艦隊で出撃経験あるわけなのでアレを基準にされるとそりゃハードル高いとかは思う。

大和のせいと言えば大和のせいなので言いたいことは解るが、それでも仕事が上手く行く方向ならいいんじゃないかと思う。が

 

――いやほら、ね。最近司令官の影薄くなってないかしら?

 

という言葉を聞き、なるほど大和による悪影響か。と思い直す。確かに実害出ているもんだなーと。

ただ、伊勢が気にしているのは、それに関して、艦娘たちが、司令官ことうちの提督の影が薄くなってもあんまり気にしていないということだろう、と。そらアカンわ。

事実、吹雪も時折司令官の存在を忘れるくらいである。いやこれは最近吹雪の出番がないからというかなんというかも含まれているのだが。

でも、だ。確かに大和が居ればなんとかなる。みたいな風潮はある。

 

「そうですね、大和さんに負担かけすぎでしょうかね」

「あ、心配するのそっち?」

「はい?」

「いやそこって普通、提督の立場を心配するところじゃないかしら」

「……あ」

 

というような感じで吹雪も毒されていることが発覚。伊勢の言うとおり、大和基準で物事考えていたらしい。

 

「うちの提督、若い割に優秀なんですけどねー」

「だから不憫に思うのよ……」

「でも、大和さんが悪いというには……」

「大和は大和で、真面目なだけだからねぇ……」

 

作戦前には、真剣に資料を何度も熟読するわ、たまに資料室に籠っていたりするわと、そんなところを見たこともある二人なだけに大和に自重しろという訳にも行かず。なんとももやもやした感じになってしまう。が

 

「で、まぁその辺はいいわ」

「いいんですか!?」

 

影が薄い提督なんていう割合大事だと思うことをバッサリどうでもいい感じで横に置く伊勢に驚く吹雪。ええのか、とは思うが、実はこれ、伊勢が最近うちの提督ヘタレ可愛いからこのままでいいやとか思ってるとかそんなだ。だからよし。

 

「最近は、大和の遊び場が、工廠らしいのよ」

「工廠でいったい何して遊ぶんですか」

「工廠の妖精さんと仲良くなって、なにかいろいろ作ってるらしいわ」

「それ、只の開発じゃないんですか?」

 

遊び場、とかいう表現にちょっと吹き出しそうになるが、大和が工廠で何かしてるなら凄い兵装を開発してそうなイメージ。なので遊びというかそれ仕事なんじゃないかと吹雪は疑うが、伊勢は軽く頭を振った後、思い出すように呟く。

 

「それが釣り竿持って帰って来たのよね、最初の時。で、この間とかなんていうのかしら、あの工事現場で交通整理するような光る棒? あれの小さいの作っていたわよ」

「そ、そんなもの作れるんだ、うちの工廠……、て、そんなん何に使うんですかね」

「来たるべき日の為、とか言ってたわ、時々大和が解らない」

「……いやほんと、わかんないですよね」

 

交通整理のアレがケミカルライトの事であり、来たるべき日が那珂ちゃんデビューの時だということは今のところ大和を除くと青葉と川内しか知らないことであるので、まぁなんだ、悩む伊勢と吹雪はむしろ被害者である。

 

「そのうち真似する娘が出てくるんじゃないかと心配だわ」

「いいんですかね、空いてる工廠ならともかく、資源を勝手に使うのは」

「あ、それ、大和自費で仕入れた資源使ってるわよ、領収書も取ってた」

「なんて言ったらいいか解らないくらい凄い方ですねぇ……」

 

なお、艦娘は実はそれなりにお給料がある。領収書うんぬんはあれだ、例の記憶の社畜根性のアレだ。

本当に凄い女なのだが、凄い方向、努力する方向を全力で間違っている感じがどうにもこうにも。

なんだかなー、という感じでしばらくお互い無言になってしまう伊勢と吹雪。

状況だけを見るなら、提督以外は誰も困ってない、鎮守府は平和で今後も安泰である。と言える状況であるため、問題だ、と言い出すほどかどうかと悩むところ、なわけだ。

 

実際問題、大和も仕事を頑張っているだけであるし、本当に提督をないがしろにしている訳でもない。若い提督だしまだまだこれからという面もある。他の鎮守府には秘書艦に実権握られてお飾りになっている提督もいるくらいだから、うちはまだまだ平和な方。

正直、単なる伊勢の愚痴だったりするのだ。

 

だから、これは、古株二人が自分たちの誇る平和な鎮守府の、しょーもない問題に頭を悩ませるという、ある意味実に平和な時間を満喫しているという話なのだった。

 

 

「そして今も、大和ってば新しく来た潜水艦の子達にスカート穿かせるとか言って工廠行ったわ」

「工廠でスカート作れるの!?」

 

開発妖精さんと要相談である。

 


 

みんなのあこがれやまとさん

 


 

 

吹雪型一番艦 吹雪。

かつての大戦より少し前の時代に、日本の誇る特型駆逐艦の最初の船として開発された超駆逐艦である。

以降妹として二番艦 白雪、三番艦 初雪、などと続き、また特U型として綾波型、特V型として暁型と発展していくわけだが、まぁ昔の話なので今の鎮守府では割とどうでもいい話。

 

そんな生まれの吹雪ちゃんであるが、現在艦娘としていろいろな鎮守府でご活躍中。

もちろん当鎮守府においても素直で明るく、そして真面目な性格から駆逐艦組の頼れるお姉さん的立場とか。

背中のあたりまで伸ばした髪を首の後ろで纏めて尻尾にしたキュートな髪型だが、その体躯が小柄なのがちょっと悩みだったりとか、服がセーラー服なので女学生、といえば聞こえがいいが実際見たまんまを言うと田舎の中学生にしか見えないので、もうちょっとなにかこう女性らしさというかそんなんが欲しいなぁと思っていたりする。白露型に先輩扱いされていると、なんだ、その、もうちょっと自分の体を改造したくなるわけだ。

で、現在の吹雪さんですが。

 

工廠に居たりします。

 

理由は単純で、最近暇。というか実際平和な鎮守府で、他の艦娘達の戦力も高くなって来ているので吹雪が頑張るという場所もそんなになくなっているという、ちょっと大人の事情も含めた理由の余った時間があったからだ。

いや、あのね、別に吹雪さんの戦力外通告とかじゃなく、編成のバランスや、駆逐艦たちの練度の都合、そして敵の脅威レベルなどを考えると、練度が恐ろしく高いと思われる吹雪が出るまでもない、という意味なのだ。

実は吹雪、しっかりした性格が功を奏し、まだ大型軍艦を扱いきれないような若い司令官たちにとって有難がられるチュートリアル駆逐艦などという位置づけに収まることが多々。現に軍の上層部にいる人たちの中には、吹雪に世話になったという提督が少なくない。

だが、その為、頼ってしまう為に各鎮守府で吹雪の練度が上昇、後に他の船とのバランスが取れなくなってしばらくお休み状態というのは実に珍しくないどころか、初期に吹雪に出会った提督が通る通過儀礼ともなっているとか。

 

そんな頼れる我らの吹雪型一番艦。

工廠で何をしているのかと言いますと――

 

「ですから長門さん、彼女たちの水着姿から伸びる生足が、という理由から始めたことなので、この丈の長いスカートがいいと思うんですよ」

「しかしだな大和、彼女たちの魅力はあの活発で健康的な部分だと思う、だからこそ動きやすさを重視してその健康的な魅力を押し出した短めのスカートがいいと思うんだ」

「むふー」

「んむー」

「あ、あの二人ともちょっと落ち着きましょうよー」

 

工廠の隅で行われている、長門と大和のスカート議論の仲裁である。なお、おめーら二人ともびっくりするほど短いスカートでエロいじゃねーか、とかツッコミたいのを我慢している吹雪は立派だと思う。

お伊勢さんの話を聞いて、ちょうど暇だった吹雪が大和が本当にスカート作成なんてやってるのか気になって来てしまった為に起こった事態。

本当にスカート作ってるという意味わからん状況に唖然としたのだが、何故か大和と、同じ戦艦である長門型一番艦 長門が一緒になって遊んで……いやいや新装備を開発中だったのだ。

 

大和がたおやかな美人だとすると、長門は少し目尻の上がった凛々しい美人。

双方綺麗な長い黒髪で、方やポニーテールにしている大和に対し、後ろにストレートのまま腰のあたりまで伸ばした長門。

雰囲気としては、落ち着き悠然と構えた大物の雰囲気を醸し出す大和と力強さを前面に押し出しす頼もしい長門。と、違った方向性ではあるが両方とも譲らぬ大御所っぷりだ。

 

が、何やらこの度、目指す方向性の違いから衝突した模様。ビッグ7と謳われた世界の長門と日本の誇る超巨大戦艦大和の衝突とか、マジで怖いんですけど。

いや本当なんだこの状況、とか思いながら、二人に気づかれないようにため息をつく吹雪はマジ苦労人。そんな彼女の心境を知ってか知らずか、長門が真剣な表情で振り向く。

 

「吹雪はどう思う? このくらいのスカートが可愛いよな、な」

 

両手でしっかりスカートを持って詰め寄ってくる長門。なんというか、あれ、長門さんってこんなんだっけ? なんてぼんやり考える吹雪。

見た目通りにクール、というかむしろ男前というか、なんかそんなキャラだと思ってたのに、必死になって短いスカートの可愛さをアピールするとか、なんだろう私戦艦に対して偏見でもあったのかなーとか思ったりなんかしちゃう。

が、心の中で一言言わせて貰えば、色こそ青だがそのスカート長門さんのとお揃いじゃないのか、っていうかこうしてスカートだけで見ると本当短いなそれ。

 

「でも、やっぱりお淑やかな、というか慎ましいのがいいかと」

 

なんて言いながら大和が見せてくるのも青のプリーツスカート。双方最近配属された潜水艦が着ているセーラー服の色に合わせたのは解るが、大和押しのこちらは丈が長め。見た目的には吹雪型のそれとよく似ているのだが多分太ももを隠し、膝の少し上までの長さになる。

けどね、心の中でアレですけど言わせてください。お淑やかだなんだって言っていますけど、大和さん自分のスカートが私のより短いです。

 

ただ確かに二人の主張はともかく、やろうとしていることは解らなくも無い。

吹雪も当鎮守府に配属された潜水艦、伊58と伊168の姿を、スクール水着の上に上半身だけのセーラー服を着込んだそのまま公共の場所歩いちゃダメだろうってな姿を見かけただけにスカートを用意しようと言うこの戦艦達の行動は至極真っ当であると思われる。

ただ、

 

「でもですね、『提督指定の水着』って言ってましたから、あれが正式な制服みたいですよ。 勝手なことするのはどうかと」

 

ということ。実際演習に行く前に吹雪が伊58から聞いた紛れもない事実だ。

その言葉に戦艦二人。神妙な顔をして見つめあい、ポツリと一言。

 

「何も知らん新人にセクハラ、か?」

「私の46cm砲が火を噴きます」

「だ、ダメですー!」

 

結果吹雪は、まぁ確かにちょっとアレな話だとは思うのだが、目の前の今にも司令官執務室に乗り込みそうな二人を、いやただ乗り込むならいいのだが艤装着けようとしだした二人を必死に押しとどめようとするのだった。いや本当、この二人が本気出したら鎮守府無くなる。 デストローイ。

 

 

 

 

「もうっ、二人とも自重してくださいよ。 悪ノリだとは思いますけど、お二人だとシャレにならないんですからっ!」

 

吹雪ちゃんに怒られ中なう。

いやここはやっぱり「吹雪さん」だな、うん、吹雪さん。吹雪さんマジお姉さん属性、しっかり者で可愛い&怒ってても可愛いとか流石日本の誇る特型駆逐艦。肩を怒らせて眉を吊り上げている表情とか堪りませんなぁ。などと大和が心の中でフィーバーしているとは吹雪さんも思うまい。なにせ表情はしっかりと怒られてションボリしているのだ。大和マジ多芸。

と、心の中でいろいろ遊んでいるように見えるわけだが、別に大和は吹雪をバカにしているわけではない。

むしろ一目置いているというのかなんというか。やはり一番古株ということもあり駆逐艦のみなさんには頼りにされている存在。なんとなーくみんなの頼りになってしまった大和とは会話の機会なんてのも少なくなく、その人となりは理解している。

頑張りやさんの純朴な主人公という表現が一番似合う、なんて大和は思っていたりする。

その姿は微笑ましいし、嫌味もなく、見ている周りも頑張ろうという気にさせられる、そんな存在だ。

ただ、そういう主人公というと物語なんかではスペック不足のポンコツだったりドジ踏んだりするわけなのだが、この吹雪、特型駆逐艦という上位の駆逐艦でありながら、その練度、経験値は鎮守府随一であるために、只の軍艦ではない艦娘という存在としてのその能力は駆逐艦のスペックをぶっちぎっていたりするのだ。

実のところ、駆逐艦としてはこの鎮守府内では敵無しの最高レベル、更に軽巡洋艦最上位クラスの阿賀野型に迫るスペックで、事実以前川内型1、3番艦が配属されたばかりの時には演習指導を行っていた過去があり1対1で勝ってしまっていたとかそんな話もあるスーパー駆逐艦だ。

というだけの情報でも尊敬に値する先人だったりするので、大和も、実は隣で怒られている大和よりちょっと前に配属された長門も揃って吹雪に対しては敬意を表しているという状態だったりする。

というかこの隣で怒られている長門さん、見た目は凛々しいカッコイイ女なのだが実は可愛い物大好きなので、まぁ怒られているというのはアレだがこうして駆逐艦と絡めるのがちょっと嬉しいなんて思っていたりなんやかんや。

 

そして大和さんに至っては、例の記憶、あれのせいで実は吹雪に対してちょっとなんていうか思うところといいますか、

 

ああ、うん、一番最初に手に入れた艦娘って吹雪だったんだよね。でも気が付いたらなんていうの、このキャラの立ってる白露型四番艦 夕立とか暁型四番艦 電ちゃんとかに旗艦奪われて、そのうちこうなんだその『風』の文字が入ってるレア駆逐艦なんかに意識奪われて次第に埋もれていくというよくあるそんなアレだよ、ほらそのソレ、その……ごめん、マジごめん吹雪ちゃん。ちゃんとレベル上げたから、後からになってレベル上げたから。

 

という涙無しには語れない悲しい話が吹雪に対する負い目として心の隅に残っている上、この鎮守府でも最古参でありながら最近ほとんど出番がないというこの状況から、おのれ提督、お前も『あの記憶の中の提督』と同じなのか、なんてことを考えてしまい、やたらと吹雪に好意的なのである。なお提督の所業に対しては激しく誤解である。

 

ちなみに、結局まるでレベル上げとかそんな意識どころか存在すら忘れられかけていた綾波型姉妹に対する例の記憶の酷い仕打ちに彼女たちが配属されたらどんな顔したらいいんだろうとかちょっと悩んでいたりもするがこの際ここでは関係ないので割愛する。マジごきげんよう。

 

ともあれ、そんな負い目や尊敬があったりするのだが、いやまぁ、それ無視しても目の前でぷんすか怒っている吹雪は可愛いのだ。大和視点で。いや、以前隣の長門とも「吹雪は可愛い」の話題で盛り上がったこともあったので長門視点でもそうなのは間違いなかったりする。

なお、長門が思う吹雪のイメージは「ヒマワリの様なカントリーガール」。

聞いてなるほど、と思う程にいつもニコニコしていて周りに気を遣い、鎮守府をいい場所にしようと走り回っているのだ。最近あんまり出番ないけど。そしてなんとなく垢抜けてないというか野暮ったいというか。

――なんてちょっと吹雪の事を考えて現実逃避しかけていたのだが

 

「もうっ、いいですけどね、お二人が本当に暴れるわけは無いとは解ってますが……影響力があるから周りがつられるんですよ?」

 

まだ怒られていました。

 

 

 

 

「うん、本当ごめんなさい。 でも……『提督指定』って本当なの?」

 

なんとなーく、ひとしきり怒ったというタイミング見計らって話題を逸らすべく、というか元の話題に戻すべく吹雪に話しかける大和。実際いいタイミングだったしこの騒動の元になった質問、吹雪もちょっと言葉がつまり、まぁこれ済し崩しにお説教終了なのだろう。

見事なものだ、と感心しながら大和に続いて件の話題、疑問を口にする長門。

 

「ノリでセクハラとは言ったが、流石に、なんだ、スクール水着を指定してくるとか、いくらなんでもじゃないか?」

 

その言葉にちょっと悩んだような表情を見せる吹雪だったが、しばらくしてその所見を述べる

曰く、別にウチの提督の指定という訳ではないと思う、とのこと、なんでも吹雪は他の鎮守府の潜水艦にも会ったことがあるとかで、その連中も変わらずあの服装だったとか。

それを聞き長門は、どこの提督もアレがいいのという指定をしているのかという疑惑も湧き起こったが、どうにも吹雪の話から以前から水着着用のあの姿だそうだとのこと。

確かに、潜水艦だから潜るわけだし水着という概念で服装がああなるのも解る気はするんだが……と、隣を見ると難しい顔をしている大和が先ほど工廠で妖精さんに作ってもらったスカートを振り回していた。

 

やっぱコイツちょっと変。

 

と思う長門は悪くないと思う。今日のこれの事の発端も朝食後の大和の一言だったわけで、突如先日配属されたばかりの潜水艦の服装がえっちぃとか言い出したのがきっかけである。

そのあと何故かいつも冷静な伊勢がちょっと大和の不思議な一言に惑わされたのか話に巻き込まれ、気が付いたら、あのスク水にセーラー上だけってのはねーわ、みたいな話になり、

そのままの勢いで工廠で時折遊んでいたという大和に付き合い、仲良く潜水艦の為のスカートを作成するという、今考えるとよく解らんことをしでかすことになった。

 

いや、本当にスカート出来ると思わなかったんだがな、工廠。これ、大和が凄いのか、大和の要求に答えた妖精さんが凄いのか。なんとも得体のしれないヤツだ、なんて大和の事を考える。

実は長門、自分も日本が誇る巨大戦艦であるということもあり、この日本国民なら誰でも知っていて歴史では大事にされすぎたせいか結果碌な活躍の場もなく終わってしまった大和という戦艦に対し、思うところもあった。というか正直な話をすると僅かばかりながら対抗意識を持っていた。

 

持っていたのだが、今ではすっかり毒気を抜かれている。

聞いていた、知識として知っていたので大和のそれ相応の姿は理解していた。伊勢に言わせればそれに加えて人当たりがいいとか面倒見がいいとかそんな評価が付くのだろう、が、長門の見解は少し違い

 

なんか可愛いのだ、大和。

 

その実力は言わずもがなだし、見た目、立ち振る舞いなどから上品なお嬢様を飛び越えてむしろお姫様と言っていいレベルの可憐さと貫禄。タツノコプロのアニメから出て来たような長門とはキャラが違いすぎる。

なので、そんな大和、もっとこう毅然とした淑女的にスマートな存在かと思っていたのだが

 

『な、長門さん、旗艦って何したらいいんでしょうっ、やっぱり戦況見極めて指示とかなんかしなきゃならないんですよねっ』

 

なんて涙目で訴えられたのが長門と大和のファーストコンタクト。超可愛かった。いや、配属時に挨拶はしていたが、まともに会話らしい会話をしたのがこれだったのだ。

長門の感覚としては、正直そこまで必死にならんでもドンと構えていればいいんじゃないか、というところだったのだが、その後ワタワタしながら資料を探して情報を集める大和をなんとなく見捨てられず、一緒に勉強したのがきっかけ。

お互いこの鎮守府で新参ということも相まって、いつの間にやら気軽に会話するような仲に。だからこそ見えてきた可愛らしさ。暁型を抱きしめてニコニコしている姿とか、鎮守府新参の新人としてのスタンスを変えない後輩キャラしてるところとか、おおよそ戦艦らしくない態度に、苦笑も漏れるというもの。

 

なにより、あれほどの存在だというのに、澄ました感じもなく、いやに感情豊かなところが自分も含め周りからの高評価を得るところなんだろう。

そして現在も

 

 

「そもそもなんでスクール水着、学校か、ここ学校ですか、確かに重巡までは制服っぽいですけど、戦艦仲間はずれですか」

「大和さん、論点ずれてます、落ち着いてくださいよう。 それに空母も制服じゃないじゃないですか」

「空母はお母さん枠だからいいんです、鳳翔さんとかあの貫禄は最早理想の奥さんです」

「えー……」

いったい何がどうなったのか、膨れて拗ねてやさぐれて、吹雪を微妙に困らせていた。もうどっちも超可愛い。

 

 

 

 

「潜水艦の服はアレが正式だとして、このスカート……折角だし吹雪さん穿いてみません?」

「いや、まぁ、いいですけどね、工廠で作ったスカートとかこれもう装備扱いなんじゃ……」

「あ、似合うな吹雪、なんていうか、郊外の女学生が、昭和の女学生になった感じだ」

「それどう聞いても誉めてないですよ長門さ……うわっ、なにこれ!?」

「どうかしたの?」

「こ、このスカート……装甲+1です」

「すげぇぇぇぇぇ!!」

 


戻る

2014/02/23

inserted by FC2 system