「えー、僭越ながら私伊勢から一言。最近は頼りになる重巡洋艦の活躍もあり、また他の船達の成長も著しい中、近郊の敵脅威レベルもぐっと下がって来ています。 その為――

 

 

 

 私たちがいらない子になりかけてます、乾杯っ!」

 

『乾杯っ!』

 

カチン。とそれぞれが手に持ったグラスを合わせ中に注がれていた液体をくいっと飲み干す。

注がれていた液体はビールでは無く、いきなりの純米酒であることから、こいつらもう酔っぱらう気満々である。

 

いったいこりゃ何事か、というと

伊勢をはじめとした例の平和な鎮守府における戦艦組の集いである。名目は伊勢の口上通りで『最近出番ないよね私ら記念』だ。

戦艦は資源の食いっぷりも多いから彼女達が必要になる程の脅威でもない限り提督達がなるべく出撃を控えたがるっていうのは枯渇していく資源を見るに理解出来てしまう。それゆえに文句も言えないのが現状。

演習なりなんなりもあるし、まったく出番が無い訳でもないのだが、最近妙に暇な時間多いよね、という話の中、ちょうど4名とも揃って休暇となったため、もう飲んで騒ごうぜという方向に走ったのだ。実にいい身分である。

 

一見、暇を持て余して、がきっかけの様だが

最大の引き金は大和が工廠で大きな土鍋を作って来たという謎の開発作業をこなしたせいだ。またお前か。

なので、名目上、これは飲み会ではなく鍋なのだ。4人が囲む机の傍にいくつもの一升瓶が並んでいるがあくまで鍋がメインなのである。

 

宴会場所は鎮守府内、というか鎮守府併設の艦娘用寮内伊勢の部屋。

個人の部屋ということで少々手狭にも感じるが、所詮は4人の小さな宴会。いくら巨大な戦艦とはいえ艤装を外した艦娘は普通の娘さんなのである。普通の娘さんなのである。(念押し)

 

ともあれ、本日の楽しい戦艦会。

珍しく頭の角みたいな飾りを外して黒のジャージ姿で白菜を頬張る長門や、女同士ということで楽にしているのか上は黒のインナー、下は黄色のジャージ姿でくつろぐ伊勢、そして我らの大戦艦大和はいつものポニーテールじゃなくて首の後ろで髪を結った対鍋戦の戦闘態勢整っている赤いジャージ、とそれぞれの普段と違い気が抜けている彼女たちの様子を眺めながら、自身もいつもの艦橋型髪飾りを外してピンクのジャージに身を包んだ扶桑型戦艦 一番艦 扶桑は何ともいつもの戦艦組らしくない緩い雰囲気をしみじみ楽しむ。

もっとも最近は、この4人だけで集まるときは割とこんな空気が増えてきている。いつしか随分と仲間意識を強く持ち、そして気軽に付き合えるようになっていたものだと、この今の空気を感じ取りながら改めて思う。

 

正直な話をしてしまえば、こんな宴会を開いたり、明け透けで本音で語り合う仲になるとは思っていなかった。

同じ戦艦として、それなりの連帯感、使命感みたいな繋がりはあったし仲も悪くはなかったのだが、他の鎮守府などでは戦艦同士の繋がりよりも姉妹の繋がり、そこから来る他戦艦姉妹への対抗心などというものが出てきてしまっているとか。

事実、扶桑にしても、特に伊勢型に対しては歴史のあれこれというか過去の思いというかなんかそれで小さな、どころかかなりの対抗心があったものだ。話によれば他の鎮守府の扶桑姉妹には公言して対抗心を露わにしているものもいるとか。

 

心当たりが無くもない、状況によってはそんな自分もあっただろうと思う。が、少なくともこの鎮守府では戦艦それぞれ姉妹艦無しの状態で居るために、お互い派閥も何もなく、言いようによってはそれぞれが孤立状態だったのだ。

ただし、大和が来るまでは、である。

 

扶桑は、かつての大戦でまるで役に立たなかったと自分を顧み卑屈になっていたという自覚は十分にある。そんな気持ちで、表面上笑顔で取り繕いながら、もともと扶桑型三番艦になるはずだった伊勢や、世界に名立たる長門を前にして自分の不甲斐なさを何度嘆いた事か。

そんな中、鎮守府に配属された大和型一番艦。押しも押されぬ最強の名に恥じない大戦艦。そんな彼女が現れれば、自分などますます必要のない艦娘に、なんてそりゃもうどこまでも卑屈になったものだ。

 

が、実際にやって来た大戦艦は

最初こそ落ち着いた大人の女性っぽい立ち振る舞いだったのだが、数日後何故か長門と連れ立って歩き、嫌に泣きそうな顔をしていた。

 

『た す け て く だ さ い』

『……ど、どうしたのかしら?』

『あ、扶桑いいところに、いや、あれだ、大和いきなり旗艦に任命されてな』

『それは、流石、とでも言うべきなのかしら?』

『新人にやらせることじゃないと思います……』

『と、まぁ、流石もなにもいきなりの旗艦のプレッシャーで憔悴してるみたいなんだ、これが……提督も何考えてるんだか』

『……プレッシャー?』

『旗艦って何したらいいんですかー!』

 

着任早々の旗艦任命に、流石に私とは存在その物、そして周りの期待感がまるで違う、なんて思考が暗黒面に落ちかけた扶桑だったが、よくよく状況を見れば当の大和がなにやら取り乱しかけていて、長門と二人でなだめたりなんか、気が付けば伊勢も巻き込んでいつの間にやら旗艦とは何ぞや、とか言う勉強会。終わりごろには『はじめての旗艦』なんていう企画で末の妹をお使いに出すような気分。

 

なんだそれ、なんて思う。思うのだが、

多分、それが今のこの鎮守府の、戦艦達の最初の繋がり。その後も当鎮守府における後輩、ということで何かと相談など話しかけてきた大和につられて、いつしか自然に、ごくごく当然の様に4人でつるんでいるのが普通、今ではもう親友と言っていいレベルの関係になっていたのだ。

おそらくは、他の鎮守府から見ても不思議な関係、事実自分でも意外な流れだったし、ほぼ間違いなく伊勢も、長門もそう思っているだろう。

しかし、言うまでもなくこの、現在のこの奇妙な関係は心地いい。

そんな不思議な状況を作り出すきっかけとなった大和、話によれば余所の鎮守府の大和とは何か性格が違うとか言われているらしいウチの大和に目をやると、

 

恐ろしいほど真剣な表情で

 

せっせと鍋の灰汁取りをしていた。

 

「あー、大和? そんな必死にならなくてもいいからねー」(←伊勢:純米酒手酌)

「いえ、自分、一介の後輩ですからっ!」(←大和:敬礼付き酔っ払い)

「伊勢は伊勢で飲んでばっかりにゃにゃにゃにゃ」(←長門:お酒弱い)

「て、手伝うわ、大和……」(←扶桑:お酒強い)

 

あ、これ、後始末私になるのかなー、なんて一抹の不安を覚えた扶桑さんであった。

 


 

みんなのあこがれやまとさん5

 


 

 

戦艦、扶桑型一番艦 扶桑。

当初はかなーり期待されて作られた戦艦ではあったのだが、もろもろの事情とかなんかいろんな失敗により、二番艦の山城と合わせて欠陥戦艦だのドックの守護神だの言いたい放題言われたアレな船である。

そんな彼女だが艦娘になって以来、近代化改修や兵装の載せ替えなどもあり、そこまで言われるほどのものでなく、充分に戦艦として活躍できる存在になっていた。

 

が、過去の実績による風評被害と本人のちょっとネガティブよりな思考、更には使い勝手のいい金剛型と比較されることによるスペック不足などにより残念美人の名を頂いている。

というのが現在の扶桑型の一般的な評価。

 

ネガい感じが無ければ優しい頼れるお姉さん一直線なんですけどねー。と評したのはどこの鎮守府の青葉であったか、少なくともウチの青葉でないことは確かである。

なぜって、

ウチの、この平和な鎮守府における扶桑は実際に優しく頼れるお姉さんであるからだ。

鎮守府のお姉さん、というよりは戦艦組の面倒を見るお姉さん、というのが正しいのだろう。リーダーシップと言う意味では伊勢になるのだが、なんというのか、お姉さん的な立ち位置になっているのが扶桑なのだ。

ドラクエで言うなら戦艦組は戦士:長門、勇者:伊勢、僧侶:扶桑、最後の鍵:大和である。なお大和の立ち位置がおかしいのは今更なので気にしない方向でお願いしたい。

 

そんな、聖職者職業でありながら即死魔法とかエゲツナイものを使うあの世界の僧侶と評されるウチの優しい扶桑姉さんは鍋会後始末を終えて一息ついているところ。

 

他の3名はというと

鍋の時は上着を腰にくくっていた伊勢だが今は着込んで丸くなって寝ている、いつもの短いポニーテールは下ろしていて見た目の印象も違う為なんか可愛い。

長門はジャージ上着の前を開け放して寝ていて、呼吸に合わせて胸が揺れ動く無防備な姿をさらけ出している。仰向けで転がっていても張りがあり大きいと分かるそれに通常なら女性として嫉妬の一つもあるのだろうが、いかんせんここにいる戦艦組は揃って皆同じような胸部装甲であるため余り気にしていない。これが富裕層というやつだ。

そして大和はまだ起きているのだが、壁を背もたれにして足を延ばしポヘーっとしている。手には酔い覚ましの水の代わりにラムネを持っているが落とさないか心配になる。なんていうか飲み過ぎたらしい。

 

片付けは手伝ってくれたのだが、なんとなく危なっかしかったので座らせてある、というのが真相。

 

そんな大和を眺め、やっぱり奇妙な戦艦だと改めて思う。いやもう伊勢や長門と嫌という程話題にしたことだから今更も今更なのだが。

今回の事にしても大和が工廠で土鍋を作ってくるという謎の偉業をなしたことから始まったわけだし、先日も長門と一緒にスカート作ってきたり、その前にはやたらと立派な釣り竿作ってきたりと最早工廠が日本の誇る万能下町町工場と化している。

で、素材が燃料・弾薬・鋼鉄・ボーキサイトだから出来上がってきた品物が謎すぎる。錬金術かよ。大和に聞いても妖精さんが頑張ってくれました、で済まされるので謎は深まるばかりである。何者だ妖精さん。

そんなことをしでかしてくれる大和なので、変わった人、という評価がじわじわ鎮守府内に広まって来ているが、戦艦達の間で一番衝撃的だったのは、多分、今4人で着ているこのジャージの一件だろう。

大和が配属して、その実力と周りに好かれる人柄からのカリスマ性を見せて評価がガンガン上がっていた頃のことだ。最初の旗艦勉強会からこっち仲良くなっていた戦艦組の集まりの中で不意に大和が発した一言

 

「部屋の中くらいラフな格好でくつろぎたい」

 

みんなの前では頼りになる戦艦、伊勢ならキャリアウーマン的な秘書、長門は先陣を切る凛々しい姿、大和に至ってはその存在が既に頼りになる心の支えといった切り札感、自分、扶桑にしてもみんなを優しく見守る姉ポジション、と正直言って身に余る評価な気がしないでもないが、その為他の艦娘達にだらしない姿とか見せるわけにはいかない、という認識が出来上がっていた。

それに肩でも凝ったのか、先のセリフというわけだ。

その言葉に、同じことを考えていたのか伊勢も長門も、そして自分も賛同。気が付けば立場的な事によるストレス、そしてそれから来る愚痴を言い合う会合に、

 

で、何故か出た結論が大和の提案『近くのゼビオでも行ってお揃いのジャージ買おうぜ(意訳)』だ。

 

揃って妙なテンションになっていた4名は、提案に対し特に反対も無いまま、というかむしろ『行くわよ!』『ジャージに戦艦って刺繍入れて貰えないかなぁっ』『ゼビオにそんな期待していいのかしら?』『ゼビオなら解らないですよ!』と、大和の中のゼビオに対する謎の高評価もツッコミどころなのだがそれすら無視して揃って楽しそうに街に飛び出そうとし、流石に軍事関係の艦娘、簡単に許可も下りずに鎮守府受付で止められて悲しい思いをしたというのもいい思い出。

なお、ジャージはアマゾンで買った。鎮守府まで届けてくれたが5日かかった。

 

それが私達戦艦の今の強固な絆になったのは間違いないだろう。届いたジャージを4人で着こんで笑いあったのが印象深い。以降、戦艦でこそこそ集まったりオフの時はこの姿になっているのが普通になってしまった。

 

冷静に、改めて考えると本当何やってるんだ私達、というところなのだが、

それぞれ今まで姉妹艦もいないから本音を話せる相手もいなくていろいろ溜めていたものもあるのだろう、いや、愚痴というのならみんな長姉であるこの集まりとしては妹に愚痴なんて零せず結局溜めた可能性も充分に高い。

だからこうして、こんな対等な立場として気楽に付き合える相手がどれほど有難いか。

 

『旗艦勉強会』だの『ジャージお買いもの事件』だの、今回の『鍋騒動』だの、きっかけはアレだがすっかり仲のいい友達づきあいどころか家族っぽいことをしている戦艦4名。

考えてみれば揃ってそのきっかけは大和が作ったものだ、実は狙ってやっているのではないか、なんて他愛もないことをふと考えてしまう。バカバカしいとは思うが、何しろ相手が大和だ、おそらく艦娘の中で最も神格が高いからこそ、もしかしたらそんなことあるのでは、と心のどこかで思う。

 

でも、天然っぽいのよね。

 

と、そんなことを考えていた扶桑の視線に気づいたのか、大和が扶桑の方を見て小首を傾げる。やだ、なに、可愛い。天使かこの娘。

ぽへっとした無防備な顔でコテンという擬態語が似合う動きの大和に、なにやら胸の奥がうずうずする扶桑だったが、深呼吸して気持ちを仕切りなおす。

超可愛い不思議そうな顔をしている大和を前にして、何か話題を、なんて考えるが、特に何か話すことも……と考えたところで、以前から少しだけ気になっていたことを思い出す。

もともと、戦艦組に対する疑問なのだが、特に大和に聞いてみたいこと。

曰く、

 

「そう言えば大和は、妹の事は話題にしないわね」

 

ということ、当鎮守府の戦艦組は先にも言ったように妹が配属されていない。今はもう4人仲良くやっているので妹、妹、言うこともないが、思い返せば大和は特に妹に関する話題を出したことが無かったのだ。

 

 

一方、質問された大和さんですが。

お酒の入ったぼーっとした頭で

 

妹?

 

と、一瞬だけ真剣に悩んだ。ああ、そう、うん、武蔵だ武蔵ね、武蔵いたよ武蔵。なんて脳内でこそあるが実に酷い姉っぷりを披露していた。

例のサラリーマンメモリーには妹なんざいなくて、むしろ姉がいたというあれなのでちょこちょこそっちに引きずられているこの大和としては妹というものに関する感覚が少々鈍くなっていて、いやもう下手すると時々自分が大和であることすらどうでもいいやとかなってしまっている。大丈夫かこの戦艦。

しかし、武蔵に対してどうでもいいとか思う訳ではない。

 

思い返せば、只の軍艦であったあのおぼろげな記憶の中で、姉妹並んで戦場へ向かったのだ、忘れるわけも、想いがないなどというわけでもない。

当然だろう数少ない一緒にいた記憶なのだ。確か、あの時は同じ艦隊に長門も居た。思えば、実に豪華な艦隊。

 

そんな戦場で、

物言わぬ、何も思わぬ船でしかなかった時の記憶だとは言え、

 

 

私は目の前で被弾し、動けなくなっていく妹の姿を見ているのだ。

 

 

 

只の記憶、今の自分たちからすれば前世、前身でしかない、と思っても、妹と言ってしまえばどうしてもあの姿を思い出してしまう。あの時、自分たちにココロがあればどうなっていただろうとありもしないことを考えてしまう。

あの大敗した戦争、姉妹艦を失ったものなど嫌になるほどいるのは解っているし、過去は過去、今はこうして再会も出来るのだと皆割り切っているのは見ている。

だからちょっと、自分メンタル弱いのかなぁなんてしょんぼりする大和。

 

そんな様子を心配してくれたのか扶桑が隣まで来てちょこんと座ってくれる。そういえば扶桑型は姉妹一緒に沈んでいたのだったか。

不謹慎かもしれないが、ちょっとだけいいなぁ、なんて思う。

 

そんな、大和の思いに気づいているのかいないのか、眉をハの字にした扶桑が黙り込んだ大和をみて小首を傾げる。マジ優しいお姉さん、天使かこの人。ピンクのジャージ似合うなおい。とか思う。

実際扶桑は静かになった大和を心配したのだが、

なんか黙り込んで変な空気作っちゃったのマズいなぁなんて思い直した大和。質問に答えも返してないし、こりゃあかんわとなんとかアルコールでふわふわしている頭を回転させる。

 

で、出た言葉が

 

「妹、うちの武蔵は……なんか怖い」

「はい?」

「いえ、ほら、艦娘名鑑(大本営出版)の写真見たんですけど、武蔵眼光ヤバくありませんか?」

「……とても強そうだな、と思ったくらいよ」

「あと、あれなんですかあの服。 もっとこう、なんていうんですか慎みを持って欲しいと思うわけですよあのおっぱい」

「サラシ、だったわよね」

「後最後にこれ、ここ重要なんですけど……あんまり私と似てなくないですか?」

「キャ、キャラクターの違い、なだけじゃないかしらね」

「なんか今のこんな腑抜けた私を見られたら『なんだお前』とか言いそうな写真映りしてませんか、あれ、姉を姉とも思わないような対応されたら私泣きますよ?」

「……考え過ぎじゃないかしら……」

 

ま、あれだ、これも前から思っていたこと、各艦娘の情報が集まっている軍が作った名鑑を見た時に感じたそのままだ。

言い方を変えているが実際のところ、例の記憶に引きずられている自分は多分、他の大和と違いちょっと変だろうは思っているし、噂でなんか思っていた大和と違う、というような話は聞こえてくる。

そんな今の自分を姉妹艦に見られれば、本当こう「誰だお前」扱いされる可能性もあるだろう、流石にそんなこと言われたらヘコムわ。

そして写真からだけの先入観だが、武蔵はなんか威圧感放ってそうな風貌である。すごく勝手な想像だがステーキとかナイフ使わずワイルドに噛み切って食べそうとか思ったもんだ。

もっとも、艦娘の大和としては、その記憶、記録の中には艦娘としての武蔵の知識があったりするので、確かに男前っぽい性格の様だがもっとソフトな感じなはずでそれなりに姉を慕ってくれている、というのは当然解ってはいる。解っているけど、今自分がこんなだからなーとか思っちゃうといろんなものが信用出来ない。

そんな思いを暗に込めて戦艦みんなのお姉さんにぶつけてみたのだが、困惑している模様。まぁそうだよね。

 

 

扶桑もこの反応は予想外だったためにどうしたものかと自分の妹の事を考えてみるも、いやにネガティブ発言する娘だったはずだと思い至り、この身ではまだ見ぬ妹に対してアレはなんとか直せないものかと悩んでしまう。
方向性は違うが、姉として、大和もこんな感じなんだろうな、

なんて思ったところで、

 

「わかるぞ大和、感じとしては大和とは逆かもしれないが、私も妹が……陸奥が……女子力高くて可愛いんだ、羨ましい。 陸奥に『もっと女の子らしくしたら?』とか言われたら私も泣く、私だって気にしてはいるんだぞ」

 

長門が起きて来た。

なんか彼女も妹に思うところがあるらしい。確かに長門は頼りになる戦力という意味での戦艦を体現しているので女性らしさという点より格好いい印象になるため女子力というのが微妙なのだ。

 

「名鑑見たらな、同じ服装の筈なのに、陸奥から出るあの壮絶な色気なんなんだろうな、なんで私の方はあの服装で『逞しい』って印象なのかな」

 

その後も語る話を聞いてみれば要するに妹がここに配属されてくれれば嬉しい、嬉しいとは思うが並ぶとなんか比較されそうで怖い。ということらしい。大和と扶桑とは違う方向性だが長門も長門なりに妹に対して思う部分はある模様。というか案外これで女の子意識があったりしたみたいである。

お酒入ってるから本音ぶちまけちゃってるんだろうなーと、なんか達観し覚悟する扶桑。

何を覚悟したかって、うん、なんか伊勢もぞもぞ起きて来たんだ。しかもちょっと目が座ってる感じがまた、なんだ困る。

 

「私としては、日向がむしろクールで頼れる戦艦っぽいのがね、あれなのよ、一緒にいたら日向の方が旗艦になりそうな性格してるじゃない? 姉をないがしろにする子じゃないのは解ってるんだけれど、なんか、なんかなのよねぇ姉より頼りになる妹とか、なんか立場なくない? 秘書艦取られたら私泣くわよ」

 

お前も泣くんかい、とツッコミたくなるのを我慢して伊勢を見るが、起きているのかいないのか、寝ていたところから起き上がりかけた腕立て、みたいな状況でうつむいたままブツブツ呟くみんなの頼れる秘書型戦艦イエロージャージ。

 

「わかります、いい妹を持ってこう、誇らしいんですけど、自分がちゃんと姉しているかというそういう不安、ありますよね」

「それよ、それ、大和でもわかるのね」

「私も色っぽいとか可愛いとか言われてみたいんだ……」

 

やべぇ、お酒が入った状態での愚痴大会になりかかってる。これを見ているとなんだか自分が妹、山城のネガティブ思考の事で悩んでいるのが至極真っ当な姉妹で姉らしいことをしているということに気づく。

特に思い返しても過去の事ではお互い入渠戦艦だし一緒に沈んだし、と姉妹の隔たりはない。現在のみんなの話題の艦娘名鑑に関しては、山城の写真が、なんで見返り風やねん、あれか、お前綾波型にでもなりたいんか、程度の感想である。

同じ戦艦としてこの会話の流れに混ざりたいんだけど、話題的に混ざれない不思議な悔しさ、だが、みんなの思考がネガティブ方向に行っているので、ポジティブ方向に話題を持っていって明るく宴会締めようといいきっかけを探すみんなの良心ジャージ戦隊センカンピンク。

 

「でも、姉妹艦が配属されていない今の私達って、姉妹みたいなものじゃないかしらね」

 

ま、あれだ、ちょっとだけ、以前から思っていたことだ。話題が姉妹のことだから苦し紛れと言えば苦し紛れなんだが、話題を逸らすにはちょうどいいだろう。

もういい加減気心知れた仲、親友の様で家族の様、そんな関係だからこそ、この際姉妹でいいんじゃないか、なんて思った発言だ。

その言葉を聞き、伊勢が静かに顔を上げて何かを思い出したように語りだす。

 

「あー、そうね、青葉から聞いたんだけど、北にある鎮守府でね、『夕張と島風が義理の姉妹艦』やってるみたいよ」

「なんだそれは?」

「なんでも、あの二人、お互い姉妹艦の無い船じゃない? それで服装も似てなくもない、ということで夕張が島風の姉って言い出したらしいわよ、島風凄く夕張に懐いているんですって」

「へぇ、なんかいい話ですねー、それ」

「だから、私たちも妹が配属されない姉同士ということで、もうその島風夕張にあやかって義理の姉妹艦ってことでいいのかもしれないわね」

 

その話は扶桑もちらっと聞いたことがある。島風は姉妹艦もなくかなり特殊な船だったということもあり、その稀な性能から特に孤立しがちだとかそんな話から流れで聞いた話。うちにはその両艦ともいない為にそういった展開は見られないのだが、たまたま聞いた『しまかぜちゃんと夕張さん』の話はなんでも各鎮守府の青葉同士で話題になっている、とか言っていた。

確かに、そんな優しい話ならあやかりたいと思うものね、なんて考える扶桑の横で、

話題を義理の姉妹艦に切り替えた三名が盛り上がりを見せ

 

「つまり、最後に配属されて来た私が、末の妹ということで」

「いやいや、貫禄を考えれば大和には勝てない私が大和の下だろう」

「待って、二人とも、それならこの中では弱い私が末ではないかしら」

 

必死に妹の立場の取り合いをしていた。

解らなくもない、只でさえ頼られる戦艦という立場、それに加えてそれぞれが長姉。扶桑自身も思う。甘えることが出来る側の立場というものになってみたい、そんな欲求があるのだ。

だから、だから扶桑も盛り上がる三名に便乗し、笑顔で胸の前で手を合わせながら楽しい気分で話に混ざった――

 

「なら、ほら、ここは私が末の妹、ということでどうかしら?」

「……ない、それだけはない」

「扶桑さんそんな姉オーラ全開で言われましても」

「ほら、うん、私本来扶桑型三番艦の予定だったこともあるし、それは何があっても認められないわね」

 

――んだけれど、これって酷くない?

 


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2014/03/24

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