「あぶくまー、醤油とって、しょうゆー」
「もう、手を伸ばしたら自分で取れるでしょう、はいこれ」
「ありがとー、相変わらず声高くてロリ系アニメキャラみたいだよねー」
「声はどうでもいいでしょ、声はっ!」
「えー、怒んないでよー、褒めてんだよ?」
「北上さんの褒めるポイントほんっと解んない」
「照れんなよぅ、あぶくまー」
「北上さん頭沸いてるんじゃないの!?」
時間は昼。
長良型軽巡洋艦6番艦 阿武隈と球磨型重雷装巡洋艦3番艦 北上。
食堂で対面に座り一緒に食事をとりながらの会話だ。一見北上が阿武隈をからかっているような言動だが、少し阿武隈が眉をひそめる表情をしているとはいえ基本二名は笑顔で言葉を交わしていた。
妙な光景なのは間違いないはずなんだが。と思うは同じく食堂で四川風麻婆豆腐を頬張っていた重巡洋艦青葉である。超辛い。
青葉が知っている情報だと北上は黒髪三つ編みの大人しい感じの容貌なのだが飄々とした性格で浮いた感じの存在である上に、駆逐艦を蔑視するような言動からとっつき難いと思われがちだがなんだかんだ言いながら出撃時には駆逐艦を気にかけたりするなどして人当たりは悪くない。
阿武隈の方は見た目からしても今時の女の子、みたいな結び目に変な輪っかを作ってる不思議ツインテール姿と可愛い声からなんとも先の北上の言葉通りアニメキャラの様な娘。合わない人はひょっとした ら合わないかもしれないが特に嫌われたりするタイプでもない。
無いからそれだけを見ればこの二名が仲良くしているのは別に不思議じゃないんだが。
歴史にある北上阿武隈衝突事件のせいでどの鎮守府でも顔を合わせると言い争い、まさしく衝突する。はずなのである。
ウチの鎮守府がおかしいのかな、もしかして他の鎮守府の青葉が言う二名の衝突ってのは微笑ましい感じなのかなと思い問い合わせてみたが、ウチがおかしいという結論だった。
まぁ流石に砲撃始めて大ゲンカするとかそう言う訳ではないが、仲良く談笑しながら一緒に食事なんて光景は甚だ珍しいとのことだ。
一般に、他鎮守府の状況から、
北上と阿武隈は顔を合わせると罵り合う
↓
球磨型4番艦 大井や綾波型10番艦 潮が止めに入る
↓
二名のとりなしでぶつぶつ言いながらもなんとかなる
↓
とりなしが上手く行かない場合は頭突き合戦になる
↓
大破
↓
修理で予定外の出費になり提督が泣く
↓
ここぞとばかりに提督Loveな艦娘が慰めに行く
↓
別の対立が勃発
の流れが通常の関係らしい。いや終盤はマジ関係ないが。
ただ問題はウチに北上を止める大井がいないのだ。潮がいるにはいるが、彼女はちょっと気弱な感じの駆逐艦なので二名を止めるのには正直苦労するはず。
なのだが、ウチではコレだ。コレなので潮の出番がないのだ。
んなもんだからウチの阿武隈北上事情を話すと他の青葉たちから「うそだー」と声を揃えて言われるという始末。
言いたいことは解る。いや本当解りすぎるくらい解るんだ。実はこの鎮守府でも当初は二名、例のごとく少しとげとげしい対応で衝突していたのだから。
それがこうなったのはいつだったか、そう昔でもなかった気がするのだが、あの大和配属のごたごたあたりから最近まで話題を彼女一人に取られていた為どうにもはっきりしないのだ。いや、今でもほぼ彼女一人に話題を取られているんだけどね。
ええい、こんなことまでまたあの人のせいか。なんて見当違いな怒りをぶつける青葉。あ、いや、別に見当違いじゃないような気がする。
て言うか私たち艦娘は軍艦の御霊だし、八百万の神とか付喪神的なアレだから人じゃなくて柱って言うのが正しくなるのかとか半ば関係ない事まで考えるが、他の鎮守府でも一人二人で数えてるとこもあるしどうでもいいやとスルー。
ともあれ、いつからだったかはよく解らないが、目の前で仲良く、ともすればいちゃいちゃしてるようにも見えなくもない二人が居るのは事実。
気になったら聞いちゃえばいいんですよねー、とか考え食べかけの麻婆定食のトレイを手に持ち、行儀悪くスプーンを咥えながら件の二人に近づく青葉。それに気づいたのか阿武隈が声をかけてくる。
「あれ? 青葉さんどうしたんですか?」
「いやいや、ちょっとばかり気になることありましてー、お二人に突撃取材をと思いましてねー」
「いやー、まいったねー、こまったねー、しょうがないねえ、私の魚雷40門……一本一本に『きたかみ』ってマジックで名前書いてあることがとうとうバレたか〜」
「マジですか!?」
「嘘だよ」
「嘘か!」
いきなり出鼻をくじかれた感じになる青葉。くそう強敵だ北上。
しかし何とか気を取り直して本来の目的の取材を行わねば、と決意新たに二人を見据える。
「いやほら、あれですよ。他の鎮守府じゃ不仲と評判のお二人が妙に仲好さげなもので気になったんですよ、何かきっかけとかあったんですか?」
「あー、それね」
「あー、それかー」
青葉の質問を聞き、一瞬考えた二人はちらりと視線を合わせ頷き合い、そしてぽつりぽつりと北上が言葉を紡ぐ。
「あれは……そう、まだ私と阿武隈が子供の頃の話だった」
「いや、私達艦娘ですから子供も何も」
「あれは……そう、まだ私と阿武隈が駆逐艦の頃の話だった」
「リテイクはいいですけど正直そっちの方がおかしいです」
「それは暑い夏の日こと」
「もう、無視か」
「ザリガニ ア級を取ろうと用水路で遊んでいた私は足を滑らせて用水路にはまり、溺れかけた」
「……ああ、アメリカザリガニ」
「その時、近くを通りかかった阿武隈が私を助ける為に用水路に飛び込んで来てくれて……二人で流されたのが友情の始まり」
「どこからツッコンでいいか悩むところですが、先ほどから黙って聞いている阿武隈さんからコメントありますー?」
「その時に北上さんと衝突して艦首折れたのよね」
「ここで史実回収した!?」
いやもう、北上は北上でアレでソレな感じの性格なので予想より酷かったがまぁこんなヤツだとそれなりに覚悟していたが、阿武隈まで乗って来るのは予想外。
ましてや本来犬猿の仲とも言われるのにこのフレンドリーさである。
こりゃ本当に仲いいんだな、とは実感する青葉なのだが、こう見事に連携まで取られて話をはぐらかすとも受け取れるわけで
仲良くなった原因というものが彼女達二人にとって人に言いたくない事件でもあったのか、などと考えてしまう。
ならば不躾に聞くのは流石に問題かなーなんて青葉が内心頭を抱えたあたりで、北上がひらひらと手を振って気楽に答える。
「あー、あんね、別にきっかけを話すのは問題ないんだけどねー」
「おや、そうですか? でもなんか歯切れ悪いとこ見ると、あれですか大事にとっておきたい二人のロマンスでもあったんですか?」
「流石にそれはないわよ、北上さん的に考えて」
「そうそう、あたし的に考えてロマンスとかないわ〜、って阿武隈酷くない?」
北上の言葉にちょっとからかった感じに返してみた青葉だが、阿武隈に見事に回収されてコントに繋がる。
やべ、マジこの二人仲いいわー。と、少しばかり嫉妬したくなるほどの掛け合いを眺めながらもそのきっかけとやらを促すのだが、どうにも自分たちはともかくある人のイメージを壊してしまう事件だったそうで、んー言っていいのかなぁ、でも他にも知ってる人はいるしなー、と頭を傾げる北上。
そんな北上を眺めながら、定食のデザートについていたプリンをスプーンで掬いながら阿武隈が一言。
「まぁ、北上さん大和さん信者だしね」
「へ、大和さんって、あの大和さんですか? ウチの司令官の」(←違う)
「そう、その大和さんが切っ掛けなのよね」
「大和さんか……」
流れからしてそのイメージ壊れる人ってのが大和なんだろうけど意外な名前が出て来たもんだ、と青葉は一瞬思う。が、あれだ、なんだかんだで最近ちょっと大和と関わることもあったわけで、それからは気さくに話しかけたりしていたのでうちの大和さんの人となりは知っている。変だよねあの人。
で、そんな感じに知っているからこそ、「あれなら何するかわかんない」って思いも湧き出て来たりするために、あれ?そんな意外でもない?とか思い直してしまう。悪いのは青葉なのか普段の行いがアレな大和なのか。ほぼ間違いなく後者だと思うけどね。
そんなことを考えている青葉を尻目に
「ああ、あぶくまー、言っちゃったよ。 ていうかなにさー信者って」
「……普段は『大和っち』なんて言ってて気軽な感じで仲良くしたいのに本人の前に行くと緊張と失礼かなーという思いで『大和さん』呼ばわりになってやきもきするくらいには信者じゃないのよ北上さん」
「ちょ、ま、なんで知ってんの!?」
「見てたら気づくわよ」
呆れたような表情の阿武隈から北上の可愛い性格が暴露されていた。
「な、なにさー、阿武隈だって、一人部屋の中で『推して参ります!』とか大和さんごっこしてるくらいにファンじゃないのさー!」
「ちょ、ま、なんで知ってるのよ!?」
阿武隈も可愛かった。
みんなのあこがれやまとさん6
「で、結局大和さんが何かしでかした、ということでいいんですか」
驚くことにタイトルを挟んでも場面が変わらない。初である。
なのでまだ舞台は食堂、登場艦娘も先ほどの三名で、時間軸はとりあえず皆食事が終わったくらいか。用は済んだのに食堂を占拠しているというわけだ。迷惑な。
で、上記の青葉のセリフになる。とりあえず落ちつくために急いで麻婆豆腐食べた為にちょっとまだ口の中が辛いのがアレだ、うん、山椒で舌が痛い。
「あー、うん、まぁ、あれだよ、調べれば解ることだけど実はあたしと阿武隈って大和っちのデビュー戦一緒してるんだよね」
北上の言う大和のデビュー戦。
大和が配属してほぼ直ぐの出撃となったアレ、配属直ぐの旗艦任命とかいう曰くつきの出撃。
青葉はその勇姿を見てはいないのだが、当時話題になった驚きの戦果を叩きだした出撃だったと記憶している。
そうだ、確か、先に入って来ていた敵情報の他、まるで輝く様な雰囲気を纏う戦艦ル級、俗に云うフラグシップクラスの敵戦艦の姿があった。という事件。
正直、中規模とはいえその中でも小規模扱いの当弱小鎮守府には手に余る相手になる。ましてやその時の艦隊の構成では相手取れるのが来たばかりのまるで経験値の無い大和だけだった、という話。
相手取れると言っても実際のところ『格』として並ぶだけで、配属直後の練度のまるでない大和では未知数もいいところ、なので事態としてはマイナス要素がてんこ盛り状態だったのだ。
しかし、蓋を開けてみれば大和が大暴れしたとかで皆元気に帰って来て、大和スゲー! な評価になった、そんな出撃だったはずだ。
その時を思い出してか、しんみりと目を閉じ、天を仰ぎ見るかのように背中を椅子の背もたれに沈めて顔を天井に向けた北上が当時の「きっかけ」とやらを語り始める。
「そうねぇ、あの時、まだ阿武隈と当たり前のようにぶつかっててさ。 当然一緒に出撃したアレでも海上だというのに火花散らしてたんだわこれが」
「今考えると酷い話よね、敵が近くに居たって言うのによくやってたわよね私達」
「んだねー、で一緒に居た那珂とかにやんわり止められてはいたけどむしろヒートアップしちゃってさ、そうこうしているうちにさ、そう、あの時……
回想めんどくせぇや
平たく結論を言うと大和っちにめっちゃ怒られた」
「え!?ちょ、今の間なんですか!? その流れだと回想シーン入る流れじゃないですか!?」
「あ、青葉いいとこ目を付けたね、あたしもそうしようかと思ってたんだけど……急にめんどくなった」
「自由だな、おい!」
「ははは、残念だったな、大和っちのデビュー戦はあたし達の心の中に大事にしまっておく思い出なのさー、ぶっちゃけ怖かったし」
「何したんですか大和さんは」
おちょくるような北上の言葉だったのだが、最後の一言の時には妙に真面目な表情で言うものだからよりいっそう気になるわけで追及、そんな疑問に北上の正面にいた阿武隈が軽く両手を広げながら、こちらも思い出すようにちょっとだけ眉をひそめて答えてくれた。
「私と北上さんの争いが敵が来ても続いてた上に、敵がまた戦艦ルf。 で、大和さんあの時初陣の上に旗艦でしょ、それなりに気負いしてたらしいのよね、それでなんかプチンと来たらしくて……まぁその、ね、名指しで怒られたんですよ」
「マジ怖かったよね」
「泣くかと思ったわよ、ほんと」
二名の話によるとその時関係ないのにお怒りオーラの余波を食らった那珂ちゃんが本当に涙目になっていたそうで。いやはやこないだの事と言い不憫である。
いや、それ以前に青葉が感じたのは、「大和が怒った」という事件に関しての違和感である。
なんやかんやでいろいろと話題の多い戦艦。気さくで優しくおおらかな性格に見えて、その上でとぼけた感じが垣間見える愛嬌たっぷりのお姉さんキャラである大和が怒った姿というのがどうにもイメージわかないのだ。
それでも無理やり怒ってるイメージを構築してみるが、どう考えても眉を吊り上げて「ぷんぷん」怒ってる程度の姿で頭打ち。これじゃ北上阿武隈が怯えるように話す内容とは噛み合わないどころかむしろ愛らしさが漂う始末 であり、そんなんならいっそ怒ってー、私にも怒ってくださいーとか言う馬鹿が出て来てもいいはずだ。敢えて誰とは言わんが。
いやそもそもあれだ青葉の中の大和像から考えると、あの人怒るのか? という感想に行きつくのだ。
そんな青葉の不思議そうな表情から何かを感じたのか阿武隈が頬杖をつきながらむつかしー顔で言葉を紡ぐ。
「気持ちは解るわよ、正直な話今の大和さん見てるとアレ嘘だったんじゃないかと思うくらいだし」
「そんなマジメに怒られたんですか? イメージ湧かないですねー、なんかあの大和さんが声荒げるってのがそもそも」
「あー、いや青葉っち、そこは声を荒げるとかじゃないんだ、だからこそ余計に怖かったというかなんというか……あん時ね、あたし達がギャーギャー言ってるのを遮って大和っちが言ったのがさ
『北上、阿武隈、後にしなさいね』
だよ。しかも笑顔だったんだけどね、うん、笑顔だったんだけどね、いやーあれがホンモノの貫禄ってヤツかと今更ながらに思うわ」
「あるのよね、怒った笑顔っていうの……あの、私怒ってますオーラがまた、呼吸忘れたわよあの時……ぶっちゃけ迫り来るル級fより怖かった……」
「大和っちと同じようにいつもニコニコしている鳳翔さんからも笑顔が消えて引き攣ってたからね、マジやべぇと思ったわー」
「正直あの後、大和さんの砲撃一発で沈んでいく戦艦ルfに手を合わせたわよ」
「あり得ないとは解ってたのに、次はあたし達の番かーさよなら現世、とか思っちゃったわ」
「生きてるって素晴らしいわよね」
「まったくだね」
なんていうか、思い出したのか青ざめながらも盛り上がる2名の話は正直青葉にはにわかに信じがたい内容である。いや、戦果は当然残っているので解る。
実際あの時、ここまで二人が言ってきた艦隊メンバーに駆逐艦を一隻加えた6隻による編成で―
戦艦ル級フラグシップと称される深海棲艦を『2隻』含む敵艦隊を撃滅して帰って来ている記録があるのだ。
編成、練度から考えると這う這うの体で逃げ帰って来る展開が当然であり、甚大な被害を受けていてもなんら不思議ではないレベルの状況だったはずなのである。
だが、当時敵情報に慌てた司令部を尻目に旗艦大和が矢継ぎ早に指示を出し、とんでもねぇ戦果を上げたというのが例の裏の司令官の始まりであるとされる。
結果、彼女のデビュー戦はそれだけの深海棲艦を相手取り、被害が『大和の中破』のみで相手を全部沈めたという関係者を唖然とさせたものだった。
しかも中破の理由も足が遅く装甲が薄い軽空母 鳳翔の盾になる形で回避行動もとらずに鎮座した結果だというから脱帽するしかない。いや、旗艦だけが損傷してどうすんだって話はあるのだがね。
もっとも本人は、デビュー直後に長時間入渠でドック占領した為に申し訳なさそうにヘコんでいたのだが。
しかしだ、当時大和が怒った、なんて話は聞いていない。情報通の青葉をもってしても初耳なのだ。
目の前のノリのいい2名の冗談か、などともちょっと思うのだが、話の大元である北上阿武隈が仲良くなった理由がこの出撃での大和に怒られ仲間であって、帰投後いつもの笑顔に戻った大和に許されたという緊張感の解放から抱き合って安堵した、という流れでの友情物語。ということらしい。
まぁ話に誇張はあるだろうが、要約すると『もう大和さん怒らせるような真似辞めようね』と和解したということなのだろう。
と、そこで一つの疑問が青葉の中に湧き起こる。
「んー、二人がそれで仲良くなったとして、ですね。 北上さんの大和さん信者はまたなんでですかね? こっぴどく怒られたんですよね」
心底怒られたのなら、むしろあの人怖ぇとか思ってても不思議じゃない。
まぁ状況から大和の言い分は正しいだろうから、顧みて反省からの尊敬への流れもあるのだろうが、それにしたってほぼ初対面で怒られれば苦手意識なんてのも湧くだろうと思う。
それがどーなってこう信者なんだ、と。思う青葉の前でなんか北上はにへらにへらしながら言う。
「いやもう、だから信者違うってー。 アレよ、流石にあたしと阿武隈も悪かったと反省してさ、帰投した後に二人で頭下げに行ったんよ。 したらさー」
「酷く真面目な顔をしてたと思ったら急に花の咲く様な笑顔になって『二人ともお疲れ様、今回の出撃では助かりました』よ。 むしろ小言言われるんじゃないかと思ってたから驚いたわよね」
で、その後に二人して大和に頭を撫でられた、とからしい。そんなことを気怠そうに左手で頬杖つきながら、右手で前髪を弄っていた阿武隈が北上を見ながら話す。
それに対して、えへへ、というより、うへへ、ってな感じで頭をかきながら笑う北上。
どーも、その辺の詳しいやり取りはボカされた感じの説明だったのだが、北上が信者に向かう決め手はそこからだったらしい。
よく見ればなんだかんだで阿武隈も大和信徒らしく、声真似が妙に上手い。さすがアニメ声。
しかし、まぁなんだ。あれだ。
青葉は知ってます、それ、あれです。
自分で怒っておいて前提を用意した吊り橋効果からのニコポとナデポってやつの合わせ技です。
そして成功して北上と阿武隈がこうなってるわけですから、侮れませんね大和さん、主人公ですか。
ともあれ、そんな感じで大和さんの凄さを一所懸命説明してくれる二人を見ながら、青葉は『別に大和さんのイメージ壊れるなんてことねーじゃん』とか思っていた。むしろカッコイイじゃねーですか。
が。
「という話を聞いたんですけど、そんな感じだったんですか? 那珂ちゃん」
「……まぁ、その、だいたいあってるよ」
舞台は変わってあれから数時間後、今日は演習が終わり時間が空いていたという那珂を見つけ確保した青葉。
第五会議室に連れ込み、問題の大和デビュー戦参加者ということで当時のことを那珂に問いただしたという流れ。
突然なんやねん、てな態度をとられはしたが話の内容を聞き、神妙な顔つきになって呟く。
そんな表情から、北上阿武隈の話が『だいたい』あってるの部分に問題があるのだろうとあたりをつけ、さらに詳しくツッコム青葉だったわけなのだが。
「……あのね、本当に、その、大和さんのイメージが壊れるよ」
「マジですか、あの二人の話はフィルタかかってるんですかね」
「フィルタじゃなくて、その後があったの、大和さんが二人を黙らせた後」
「後って、アレですよね大和さんが司令無視して指示出した事件ですよね?」
青葉の言葉にその時を思い出してか眉を顰め目を閉じて難しい顔をして唸る那珂。
しばらく「んー」って唸ったのち、思い切ったのかゆっくりと口を開くのだが
「それなんだけど、どう無視したか知ってる?」
「どうって……司令の命令を……無視ってなんかイメージ出来ないですね、大和さんからは」
「うん、でしょ、でもね……」
『北上、阿武隈! そんなことをしている場合じゃないぞ! 今そっちに深海棲艦がむかtt』(←司令:焦って)
『うるさい、ちょっと黙ってろ』(←大和:低い声)
『あ、はい』(←司令ことヘタレ提督:姿勢を正す)
「って」
「マジですか」
「ちょうど二人を叱ってた時で、敵が来てることも解ってたから大和さんもテンパってたみたいだよ。 でもさ、そんな流れなんだよ、私たちもう逆らえるどころか意見を言う気概も無くなるよね」
「……それが、裏の司令官の真相ですかねー」
「うん、裏の司令官って言い出したの怒られたあの二人だもん」
意外な事実を知ってしまった。というか、大和がそんなセリフ言うんだ、と一瞬疑う訳だが、なんていうか那珂の表情があまりに悲壮な為に冗談を言っている風にはとても見えない。
那珂にしても一字一句憶えている訳でもないし、あの時の大和マジ怖い補正もある為に正確かどうかも解らないのだが、とにかくそんな流れだったのは間違いないとか。
ただ、まぁ、冷静に考えるとウチの大和さんが普段ああなのでイメージ湧かないだけであって、実のところ戦艦大和は日本の誇る元連合艦隊旗艦。現在の艦娘としての御霊であっても信仰心からその存在は別格だろう。
ともすれば戦場においては無類の強さ、指揮能力を持っていて当然であり、その時のことも納得が行く。
いくのだが
それでも
先ほど那珂を捕まえる前にちらりと見かけた
スカートを持って伊58を追い掛け回す大和の姿が目に焼き付いているだけに、あれが連合艦隊旗艦か……と妙な気分になってしまう青葉だった。
「とりあえず青葉さん、この話は那珂ちゃんがしたとは言わないでください」
「あ、はい」
一方その頃、鎮守府内で何かと話題沸騰の我らが大和さんは
「ゴーヤちゃん、行きますよ!」
「合点承知でち!」
『合体!』(←大和が58を背負う)
「潜水戦艦大和58!」
「推して参るでちっ!」
追いかけっこの末に伊58とすっかり仲良くなっていた。何故だ。
2014/04/24