「まぁ、なんだ……相変わらずだな『絶対無敵』」

「その呼び名はちょっと恥ずかしいんで止めて頂けると嬉しいのですけどね……」

「褒められているんだぞ?」

「解っているんですが、なんでしょうこの過分な評価というか」

「……矢矧は過分だと思って無さそうだが」

「……ですよねー、私もそー思いますー、そもそも言い出したの矢矧ちゃんだって話ですし……」

「まぁいいじゃないか、『名前持ち』に格上げか、いや、元から最上位だったから不動の頂点か」

「そんな名誉いらないですよ、長門さんいります?」

「遠慮するよ、まぁなんだ、矢矧に纏わりつかれても困るし、いや彼女は大和にしか興味なさそうだからいいけれど」

「いい子なんですよ、いい子なんですけどね、最近ちょっとエスカレートしている感じが否めないといいますか」

「なにかあったのか」

「髪型を合わせてきたり頬を染めて話しかけてくるのはいいと思いますよ、慕われてるって感じは正直嬉しいですよ、嬉しいですけど……下着まで同じものを揃えて合わせなくてもいいと思うんです」

「マジか」

「まぁ、私も青葉さんに聞いただけですし……確かめる勇気もありませんから……」

「確かに、それはないわー」

「ですよねー」

 

くっく、と笑いながらそんな会話を繰り広げるのは長門、対して困った表情で受け答えするのが大和である。

この2名、片方はいつものお姉ちゃん鎮守府で活躍中の長門さんであり、そして大和さんはいつものアレなやつでなくて戦艦棲姫をはじめ幾多の深海棲艦を海の藻屑にしてきた最前線で大活躍中のあの大和さんである。小ネタでぼっちだったあの大和さんである。ぼっちだったはずなのだが先ほどまで彼女と同じ鎮守府所属の矢矧に纏わりつかれてたりしたけどとてもすごく強いあの大和さんなのである。

そんな2人。

気軽に会話をしているところから解るかもしれないが、実は以前からの顔見知りであったりするのだ。

 

例の緩い弱小鎮守府。弱小と所属している本人たちも思っている鎮守府だけに、戦艦組を除けば本当に小規模なところなのである。

そもそも本来はあそこ、戦艦はお飾り的に伊勢一隻のみの予定だったはずで、長門、扶桑は急なイレギュラーとも言うべき移籍組なのである。

それぞれの理由は異なるのだが、こと長門に関しては元いた鎮守府内で勃発した派閥争いと言えばまだ聞こえはいいのかもしれないが、実情金剛型と扶桑型による提督の取り合いというラブコメに砂吐きすぎてどこでもいいから移籍させてくれなんて訴えた精神的疲労から来る緊急移籍だったのである。

まぁ頼りになるはずの戦艦たちのほとんどが提督争奪戦に明け暮れた皺寄せで長門は黙々と深海棲艦と戦闘を繰り広げ、気が付けば大規模鎮守府のエースに登り詰めていたわけであり、

その鎮守府在籍中に起きた深海棲艦の大規模侵攻に於いて選りすぐりの精鋭艦として主力艦隊に編成された過去があるのだ。

 

その時、そしてその頃に演習でも顔を合わせたことがあるこの長門と大和、なんだかんだで長門が移籍してから顔を合わせる機会も無くなりなんとも久しぶりという状況になっていたわけだ。

なのでこうして、先日また発見された深海棲艦の侵攻に対し集められた艦隊としての再会なわけだが、気を引き締めるより先にしばらく会っていなかった間にこの大和につけられていたあだ名を思い出し、からかい半分で話しかけた、という状況。

 

なのだが

 

「それでも慕われていることはいいことじゃないか、私たち戦艦はどうにも他から一歩距離を置かれることが多いだろうに」

「まぁ、そうなんですが……私の場合一歩どころか、その間に深ーくて暗ーい海溝がある感じでしたけどねー、いや私のコミュニケーション能力が低いせいなのは解ってるんですけどー。 火力下げてもいいからそっち上がらないものですかね」

「いや、戦艦が火力下げてどうなる」

「『艦』」

「『戦』取るな」

 

なんかこう、ちょっと知っていた大和より随分と緩ーい感じの会話になる。何というかあれだ、若干ウチの大和に近い。そんな感想が脳裏をよぎる。

そもそもこの大和、以前に会った時はもっと超然としていてどう形容しても真面目な優等生、加えて最強、と現在の艦娘の代表ともいうべき看板を背負った孤高の存在だった。それでもキツイ、固いというイメージではなく物腰は柔らかで人当たりもいい社交性の高いものだったのだが、

少なくとも今日のこんな妙な受け答えをするような娘ではなかったのは確かだ。

 

まぁ、一歩及ばないとはいえほぼ同格扱いの自分に対して気を許し、気を抜いている状態なら嬉しい話だが、それでも以前との変わりように疑問が生じるわけで、いくらなんでも変わり過ぎだろ、てなことを問うてみたのだが、

 

「……お互い様だと思いますよ、長門さんだって以前は深海棲艦を沈めることしか興味ないって顔してたじゃないですか」

 

だそうだ。割と酷い評価である。

 

確かに長門、以前は厳めしい表情だったのに今回は笑顔で周りに話しかけてるわ、艦隊合流の為に随伴していた暁型の雷と軽くじゃれ合っていた姿さえ見た大和としてはこの変わりようこそ驚きの種だったとか。

正直そんな評価を頂ける心当たりがあり過ぎる長門。あれだ、金剛型扶桑型姉妹の提督レースに嫌気がさして絶賛現実逃避中だった頃の事だろう。なんていうか、あの鎮守府から一時だけとはいえ離れられた対大規模侵攻でストレス発散してたのは懐かしい思い出なのである。真面目に 侵攻してきた深海棲艦超不憫。

でも、だ。

そのストレスから解放された移籍とはいえ、今の、その大和の言う『変わりよう』ってものは多分、いや間違いなく

 

「……ウチの大和、のせいなんだよなぁ」

「……噂には聞いてますよ、なんでもいろいろとアレでソレな大和だとか」

「アレで、ソレ、か。 まあそうだな。 なんていうか、うん、可愛いヤツだぞ」

「あー、可愛い、ですか」

 

神妙に頷きながら、大和はそんなもう一人の、目の前の長門が嬉しそうに話す大和への評価に対し、自分もそんな可愛いなんて扱いされてみたい、とかふと思ったり。いやもうなんか自分には似合わないな、なんて苦笑したりしたのだが、

そんな雰囲気を読んでか読まずか、長門は胸の下で腕を組みながら、目の前の大和を見据えて笑顔で言葉を続ける。

 

「でもだな、最初こそ私の会ったことのある大和と随分違う変わったヤツだと思ったが……今日の大和を見るとあながち違うとは言い切れないな、やっぱり根幹は同じなのかもしれないな」

「いやいや、流石に私は駆逐艦捕まえて頬擦りしたりしないですからね」

 

眉間に皺寄せながら苦笑する素敵な美人さんは、それは褒められているんでしょうかね、なんて思いながら、方や凛々しいお姉さんは、なんだ、そんな情報まで届いているのか、なんて思いながら、2人で顔を見合わせて軽く笑い合う。これから大きな戦いだと言うのに緊張感も随分と薄いものだ、と感じながら、それでも気楽に行けるのはいい事だろうと思う主戦力の2名だった。

 

 

 

「いやー、ウチの大和さん頬擦りこそしないですが最近はそちらの大和さんの話を聞いた影響か『ライトニング大和』なんて呼ばれる程頻繁に電ちゃんを抱えて鎮守府内うろうろしてますよー」(←青葉:大和の随伴&連絡係で来てたあっちの青葉)

「青葉さんはあっちに行っててください!」(←大和:恥ずかしい)

 

そんな微笑ましいコミュニケーションを眺め、私も雷を抱えてうろうろしてみようかなんて思ったりする長門、緊張感のすっかり無くなった決戦前の一コマであった。

 

 

 

 

後の『サンダー長門』である。

 


 

みんなのあこがれやまとさん10

 


 

「高雄は」

「ん?」

 

「そんなにおっぱいなのに、おっぱおっぱしい感じが足りないと思うの」

 

 

何言ってんだこいつ。

 

 

朝一番、いつものアレな鎮守府で食堂に向かう道すがら妹がご乱心となってしまった高雄型重巡洋艦1番艦 高雄の心情はこの一言に尽きる。

 

しかも妹の愛宕と来たらそのおっぱおっぱしいという謎の形容詞を使う時にわざわざ自分の胸を持ち上げるわけで、以前からなんというかゆるふわな妹だと思っていたが実は頭の中身豆腐なんじゃなかろうか 、と思う今日この頃。

っていうかそのままおっぱい揺するの止めて。

そして困ったことに、愛宕の表情は割と真剣なのだ。

てーか、開口一番姉をおっぱい呼ばわりとかマジどうかと思う。おっぱいだけどさ。

 

そんなどう返事していいか解らない高雄を尻目に件の愛宕は言葉を続ける。

 

「高雄は、確かにこうなんていうのかな立派なおっぱいなんだけど……そう、自己主張が足りないのよ」

「……何の」

「おっぱい」

 

どうしよう、愛宕の頭が故障してます。明石さんは修理してくれるでしょうか。

 

良い子なんだよ、良い子なのは解ってる。姉の欲目贔屓目があるのは確かなのだが高雄から見て愛宕はいつも笑顔で愛想もよく、誰とでも分け隔てなく対応する社交性の非常に高い自慢の妹なのだ。言動が若干緩い感じなのはアレはみんなの緊張を解したりムードメーカー的な感じでわざとだと思われる。っていうか思ってる。でも言葉がいちいちピンク色なのはちょっとどうかとお姉さん心配。

だから今回も緩い感じのピンク系ネタが飛び出したよこの子。だと思ったわけなのだが

 

思いの外真剣なので困惑する。

 

ただまぁ、もともとほんわかした感じの子なので真剣な表情をしていても、なんだこう、妙に可愛いから困る。

 

なんて、珍しく真剣な表情をする愛宕を見てほんわかと現実逃避しかけていた高雄だったのだが、

愛宕という現実が全力で追って来る始末。

 

「いい? 高雄、高雄も私と同じでおっぱおっぱしいはずなのよ、むしろ私たち高雄型姉妹揃って皆おっぱい」

 

助けて摩耶、鳥海。いや違う、来るな、今この鎮守府には配属されるべきではないぞまだ見ぬ妹たちよ。なんて愛宕の言動に錯乱しながら心の中で当鎮守府には着任されていない高雄型3番艦、4番艦の2名に心の中で語りかける高雄は

 

「……高雄、大丈夫? 何か遠い目をしているけど」

「あ、扶桑さん、大丈夫、大丈夫です、ただこの世の不条理を噛みしめていただけですので……」

 

同じく食堂へ向かうだろう通りかかった扶桑から見ても、なんかこう、解脱しかかっていたとかなんとか。

 

 

「あ、扶桑さん、おはようございまーす。 今日もおっぱおっぱしいですねっ」(←愛宕:超笑顔)

「おはよう、愛宕も、ええ、その、立派ね」(←扶桑:いつも通り)

「通じるの!?」(←高雄:ツッコミ)

 

 

 

と、まぁそんななんやかんやあったわけだが

実のところ扶桑は別に愛宕のアレな形容詞を知っていた訳でも無く、なんとなく言葉のニュアンスを持って大きな心で受け入れただけである。あれだ、こんなんでいちいち突っ込んでいたら戦艦組の会話では過労死する。主に大和のせいで。だから球磨が最近のいろいろ大和に毒されて来ている戦艦組の会話に混ざったらきっと死ぬ。ツッコミのしすぎで血を吐いて死ぬ。そんなノリだから割合常識枠の扶桑さんとしても

 

なんとなく

 

で話を流して繋げるスキルを手に入れていたのだ。

生真面目すぎる高雄にはそこに至れない、そんな話。亡き球磨の後継者になれるかもしれん。いや、あかんまだ球磨生きてる。

 

ともあれ、そんな3名、アホな話をしながらも廊下を歩いている目的は朝食。

だったのでそのまま済し崩しに一緒に朝食をとることに。いつも戦艦は戦艦で固まっている為割と珍しい組み合わせだと周りからちらっと視線が刺さるが、

現在の情勢を考えて今日は特別か、と思い至りそれぞれ普通に朝食に戻る。

 

情勢とはあれだ。

深海棲艦の大規模侵攻。

何て言うか、ときどき発生するアレである。

なんやかよくわからんがたまーに現れる凄い強い深海棲艦が率いる主力級艦隊。そして理由もよくわからんけどなんか毎度毎度こっちに向かってくるわけで大規模戦闘に。言っちゃなんだがこう、もう何度目かになるわけなのである種の風物詩。いい加減皆慣れてきた感じなのは否めない。

どこぞの精神的にいろいろ疲労している山城さんなんかは一報入った時に

 

『そういうのもういいから』

 

で流した。眉間に深いシワを作りながら流した。

流したんだけど根が真面目なのか流しきれなくてぶつぶついいながら自分のところの武蔵を選りすぐり決戦艦隊に推しておいた。でも自分は行かない。弱いもん(自己申告)怖いもん(本音)。

 

そんなアレ。

なお、うちの大和はアレに関して「はー、イベント海域ですか、ペース早いですね」なんてのたまった為に、鎮守府内でアレはイベント呼ばわりになったとかそんな。

 

まぁ確かにイベントだよね、なんて思う当鎮守府の面々も一因なのだがとにかくイベント中なのである。

 

そして話はそこから繋がって、扶桑が珍しく一人でふらふらと食堂に来て高雄たちと一緒している理由が、その対深海棲艦作戦の余波。

今回の敵性体の数がこれまでよりも異様に多く、またその群れも二種類存在するとの報告から緊急で集められた艦娘達もこれまでよりずっと多くなり、過去経験したことのない作戦に各鎮守府てんやわんやという状態。

それでもまぁ、弱小の鎮守府。本来ならまったくもって蚊帳の外になるはずだったわけなのだが、実のところ全国クラスで並べても上位に位置してしまうと言う事実の発覚したうちの長門の出勤が決定。それに伴い参加鎮守府という事でなんやかんや忙しくなって秘書艦歴の長い伊勢と吹雪がワタワタと交代で働いて忙しい、そんな状況な為、現在扶桑が一人でふらふらと食堂。というわけだったのだ。

 

と、そこで愛宕がきょろきょろとあたりを見回して扶桑に質問。

 

「大和さんはどうしたんですか? まさか大和さんも決戦艦隊に選ばれた、とか」

「いいえ、大和なら、急なことだったのだけれど少し遠方の哨戒任務に就いて今朝方帰って来たところなの、それで今は部屋で幸せそうに寝ているわ」

 

というわけで我らが大和さんも遊んでいた訳で無く、本来ならいつも水雷戦隊あたりがやっている近海の哨戒任務をそこそこ遠くまで伸ばして警戒にあたるという任務に切り替えた為、夜間という事もあり緊急事態に備え火力要員として川内率いる夜型水雷戦隊に参加していたのだ。

なお任務の前に、水雷戦隊なので私も魚雷が積めるようにしてくださいなんて夕張を困らせる一幕があったとか無かったとかそんな噂が流れるが、ガセネタだとしても実際言ってそう、なんて評価になるのが最近の大和なので正直真実はどっちでもいいような気がする。

そしてそんな哨戒任務から帰って来た大和さんですが、扶桑の言うとおりに現在はお部屋でお休み中。朝食はどうかと思い扶桑が一応様子を見に行ったわけだが掛け布団を両腕両足を使いしっかりホールドして抱き枕にしてすやすや寝ていた為にそっとして置いて来たのだ。なんかピヨピヨ音が聞こえそうなくらい幸せそうに寝ていたので起こす気にもなれなかったのが真相。

 

というわけで、戦艦組の状況を整理すると

長門:イベント中

伊勢:緊急発進に備えて夜間待機→現在お休み

扶桑:伊勢と交代で待機

大和:哨戒任務終了後のお休み

という状況。

ぶっちゃけ現在の扶桑はぼっちで暇だったりするのだ。

 

もっとも、ぼっちなんて言ってはいるがいつのまにやら鎮守府皆のお姉さんポジを確保している扶桑さんであったりするので、実際に高雄たちに会わずに一人で食堂で食事していた場合などほぼ間違いなく誰かが寄ってくる為になんやかんやでぼっちになれなかったりするのだ。マジお姉さん。

 

と、まぁそれはそれとして愛宕の質問に対し大和の状況を答えた扶桑だったのだが、話の内容には横で聞いていた高雄が食いつく。

 

「しかし、今回はまた随分と警戒が厳重と言いますか……いえ、警戒は当然かと思いますけど、以前はもっとこう……」

 

もっとこう、他の意識高い系の鎮守府に任せ、この小さい鎮守府なりに隅っこでお気楽にイベント消化していたはずなのである。そう言うなれば仕事を請け負った大企業の球技大会に呼ばれた中小企業の若手社員の様に妥協点見つけてとりあえず参加していたのだ。

と、まぁそんな様な事を、どう言っていいのかも考え纏まらず途中で言葉を切ってしまった高雄。要するになんだ、あれだ、後は察しろと。

 

そんなつもりだったのだが

 

「そうよね、うち弱いのにねぇ」

 

なんて身も蓋もない一言が何の遠慮もなく扶桑の口から飛び出す始末。

空気読めよ、と言いたくもなる。

元々お気楽で半分哨戒任務メインの鎮守府だ。確かに弱い鎮守府である。今回、大規模作戦の参加艦を保有する鎮守府となったわけだが参加したのは移籍してきた元々がトップクラスのスペックを持つ長門だ、鎮守府自体の力が上がったわけではないのは皆重々承知だろう。

ここ最近他鎮守府との演習などでの勝利も重なり「ちょっと強い」的な扱いをされて来ているが、戦艦組の力によるところなのは言うまでもないことなのだ。

大規模作戦に参加する長門、そしてこちらも移籍して来て経験値の高い扶桑、この鎮守府を支えてきた伊勢、そしてもうなんかよくわかんないけどとにかく凄い大和。

鎮守府全体が今、彼女たちに頼りきりの状態になっているのは事実であり、だからこそ、本来戦うための兵器である、その御霊である自分達巡洋艦や駆逐艦等は悔しく、力の及ばぬことを申し訳なく思っていた。

 

だからそんな弱いとかズバっと言われると……心が痛いなぁ、なんて高雄さんとしましては思うところだったりするわけだったのですが、

 

「大丈夫です、まだ戦艦の皆さんから見れば頼りないかもしれないけれど、前回に比べればうちも強くなってますよ、私もいろいろ改装してますし」

 

なんて、胸の前でぐっと握り拳を作りながら強気に語る愛宕。

なんとあざとい、と思う程に可愛い姿の妹の姿にいくばくかの嫉妬を憶えながらも考える。確かにこの鎮守府は微々たるものかもしれないが強くなっている。何より、強くなろうとしている。

元々所属する艦娘の数が少ない事から大きな実戦も無いためにそうそう成長も見込めないという悪循環もあり、まぁなんだ、そんなもんだしね、程度の認識で自分たちの立場を受け入れていたという節はある。実際そういう鎮守府は他にもいくつもあるし、酷いところでは艦娘数名しかいないとかそんな場所さえ存在するのだ。

そんな自分たちに強くなるという意識改革があったと言うのは、間違いなく現在の戦艦組のおかげだろう。

伊勢だけの時にはそこまで考えなかった。戦艦だから強い、浅はかにもそう考えていた。

何の因果か気が付けば4隻。それも余所の鎮守府で第一線で活躍していた扶桑と長門の参入に加え、全国見渡しても数隻しか存在しない大和が現れたのだ。

当時、この弱小の哨戒用鎮守府にいったい何が起きたと思ったものだ。

実際、何があって、軍の中でどんな思惑があってこんな状況になったのかは解らない。

解らないが、彼女たちが来たおかげか管轄海域が広がり、出撃任務が目に見えて増えた。

 

平和を望む軍属とはいえ、元々はかつての軍艦から生まれ出た兵器の御霊。誇りもあれば、当然活躍の場を望むこともあり、遂に自分たちも本来の姿を、なんて思ったものだった。

 

 

だからこそ、戦艦組の強さ、覚悟の程が身に染みた。

 

伊勢は元々この鎮守府の頂点に居てしっかりしたリーダーだったから。

扶桑、長門は外での経験から。

普段あれだけ優しく、言い方を変えると緩い大和ですら、戦場に在っては「司令官」なんて冗談でも言われる程に、

 

在り方が、覚悟がこの鎮守府でのんびり過ごしていた自分たちとは違い過ぎた。

 

実は伊勢よりも先にこの鎮守府に居た高雄と愛宕。心の中で自分たちは主力だと思っていたし、実際そうだった。出撃も少なく期待も無かった為に成長する機会すら無かったのは間違いない。それは彼女たちが悪い訳ではないのだが、

なんともぬるま湯に浸かってしまっていたものだと考えさせられたものだ。

 

そんな過去があったからこその先の愛宕の反論なのだろう。

加えて自分たちだけでなく、食堂で話を聞いていた周りの娘達も何となく神妙な顔をしているところからいろいろと思うところはあるのだろう。

 

「そうよね、前回の大規模作戦の後からみんな張り切ってたものね、少しづつ、少しづつだけど確実に強くなっているわよね」

 

そんな周りの空気を感じたのか、皆の心を見透かしたのか、笑顔で、見守るようににこにこと静かに語る扶桑。

その言葉を聞いて高雄は感じる。

 

なるほど、無理するな、背伸びするなってことか。

 

と。

 

今回、一部とはいえ大規模作戦に関わる鎮守府となった為、緊張も相まってか鎮守府全体がピリピリしていた感じはあった。多分、扶桑としてはそんな空気を緩やかに、気負いすぎるなとみんなに言いたかったんだろうと、思ったんだ、うん、多分。あのにこにこ顔から本当何が真実か解んないけど。単純におめーら弱いから無理スンナって事かもしれないけど。(高雄主観)

 

「あははは、でも結局大和さんに負担かけちゃったみたいですけどね、知らない間に深夜に遠征してたなんて」

 

一瞬だけの食堂全体に広がった硬い空気がほんわかに戻ったのを感じ取ってか、愛宕が明るく扶桑に話しかける。まぁ自分の力不足は確かに力不足だと認めるのも大事なことだものね。

そんな頭を軽く掻きながら話す愛宕に笑みを深めた扶桑は、さらりと深夜の大和出撃の秘話を楽しそうに語ってくれた。

 

「まぁ、夜遅くまでふらふらしてたところを伊勢に捕まった、というのが本当のところらしいわよ、ちょうどいいから行って来いって」

「わぁ、なんか目に浮かぶ」

「夜のお出かけ、って嬉しそうに行った大和も大和でどうかしているのでしょうけれどね」

「どこまでも大和さんですよね、大和さんは」

「大人しければ非の打ちどころの無い娘だと思うのだけれど」

 

扶桑と愛宕のそんな他愛もない会話。もう最後は笑い話になってしまうレベルだけれど、恐ろしいのはこの一連の大和の行動が多分盛った話じゃ無く100%真実なんだろうな、と感じてしまうあたりか。

あんなに頼りになるのになんともエンターテイナー気味な戦艦さんとして定着してしまっているなぁ、としみじみ感じる高雄。

でも、そんな愉快な会話の終わりに、妹の愛宕、笑顔のままなのだけれどもどことなく決意の籠った瞳で扶桑に語りかけた。

 

「けど、次はそんな大和さんの代わりに、負担をかけないように私が出れるように強くなっておきますから」

 

そうよね、流石に大和さんの互換というのは言い過ぎかもしれないけれど、そのくらいのつもりで私たちは前を向いて行かないとダメかもしれない。と高雄は妹の向上心溢れる意識に喜び、また自分も置いて行かれる訳にはいかないと心を新たにするのだった。

 

 

 

 

 

「つまり愛宕は、次の機会に夜遅くまでふらふらするという事かしら」

「いやいやいやいや、なんていいますのか、お世話になっているだけに、こう何とか力になりたいという気持ちが溢れているのですよ」

「そういえば、2人は大和と仲いいわよね、主に大和が2人に絡むという流れで」

「扶桑さんもよく見てますね、大和さんよく抱き着いてくるんですよー、ですから、私も負けずに飛びついたりしているんですけど、大和さんってば喜んでくれるものですからつい嬉しくなって」

「大和はよく言っていたわ、『2人はとてもおっぱい』だって」

「え、えへへー」

「……照れるところなの、それ?」

 

と、高雄が真面目な事を考えている横でなんともほんわかな会話で盛り上がるおっぱい2人。いかん、今日の登場人物おっぱいしかいねぇ。

そんな3人目のおっぱいこと高雄。なんとなく会話から外れているのも寂しくなってきたので、照れくさそうにしている妹にからかい半分で声をかけることに、したんだけど

 

「愛宕ってば大和さん大好きだものね、むしろ愛しているレベルで」

「え……」

「へぇ、愛宕も大和の信者なのかしら」

「かもしれませんよ扶桑さん、この間なんかお風呂で一緒になったんですけど、愛宕ったら何故か照れて私の後ろに隠れようとして」

「ふふ、愛宕もなかなか可愛らし…………愛宕?」

「…………」

「…………あ、愛宕?」

 

なんかたいへんなことになった。

と思うくらいに真っ赤になって目が泳いでる愛宕が居た。

小さく口がもごもごと動いているような感じなので何を言ってるのかなぁとか見ていたのだけれど、どうにも「いや、あの、好き、なんだけど、その、あ、あれ? あ、愛……?」みたいな感じでなんだそう、あれだ、もうなんかちょっとお姉ちゃんどうしよう いらんこと言っちゃったかな、かな、愛宕の後ろにピンク色の背景ととてもリリィが咲き乱れ。

いやちょっとどうしよう、とか思ってしまうこの状況で、内心それはねーだろと思った(願望)高雄もつい「いやお前大和さんに『やーまとさん♪』とか言いながら後ろから抱き着いておっぱい揉んでたけどあれガチか(意訳)」とか思い出したことを口走ってしまったわけなのだが――

 

 

 

「……………………………………ゃぁん」(←愛宕:肩をすくめ俯いて真っ赤)

 

 

 

な に こ れ か わ い い (←扶桑&高雄)

 

突然のことではあったが、鎮守府内に愛が芽生えた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『うふふ、捕まえてごらんなさーい』」

「『あはははは、まてぇ、こいつぅ』」

 

「という風にあの姿が見えるなら大したものだと思うわよ」

 

「「ねーな」」

 

という謎の会話を繰り広げるのは上から阿武隈、北上、高雄である。

 

時間は夕方。場所は鎮守府近くの砂浜であり、3人の視線の先には『半泣き状態で走り回る愛宕』と『真剣に前傾姿勢で全力疾走中の大和』が居た。前者の擬音はぶるんぶるんで後者はシュタタタタである。何ともスタイリッシュに走る大和に驚きだ。

状況としては何が起きているかよく解らないだろうけど、少なくとも上記のあぶきたのアテレコの状態ではないのだけは解る。

解説すると昼過ぎに起きて来た大和がいつものように愛宕にフレンドリーに話しかけたところ何故か逃げられた。逃げられた上にその後も何かと避けられた、避けられまくったのだが、なんか距離を置いた愛宕から視線を感じた。

なんかしてしまったんだろうか、と真剣に悩んでみんなのお姉さん扶桑さんに相談してみたところ、ちょっと複雑な表情をしながらも「当人たちの問題だけれど大丈夫、嫌われているなんてことだけは無い」と断言していただいたので、

大和さんってば、思い切ってとっ捕まえて聞いてみよう、と決心してしまったわけだ。なんて極端な。

一方それで被害を被る愛宕さんですが、芽生えてしまったというか気づいてしまった感情にまだ折り合い付かずモンモンと悩んだり、悩んでいる最中に大和のいいところとかカッコイイところとか過去のスキンシップとか思い出して「えへ」ってな感じに真っ赤になっていやんいやんしていたところ

 

「見つけた……愛宕ちゃん、観念なさい!」

 

というセリフを引っさげた想い人(仮)に突撃されたものだから

とりあえず逃げた。

 

そして現在の状況に至る。という訳だ。

その為実際に砂浜を走る2人の正しいセリフは

 

「ま、待って、待ってくださ〜い……まだ、心の準備が〜!」

「まてぇい」

 

である。

 

そんな青春の一幕を眺める軽巡、雷巡、重巡の3名。スペックの違いから段々と縮まる2人の距離に、あ、これ時間の問題だ、と遠い目をしていた。

 

「……貴方達はいいの?」

「なにがっすか?」

「大和さんよ、信者って聞いているけれど、こう、なんていうのかしら、ああして愛宕とイチャイチャしていても」

「ああ、そういうこと。 だって、ねぇ、あぶくまー」

「うん、私たちはねー」

「信者だからねぇ」

「愛の方向性の違い、よね北上さん」

「おう大和っちが幸せならそれでね」

「クラッカー持って飛び出すくらいはするけどね」

「いいねぇ、それ」

 

「……そーなんだ」

 

と、本物の信者の姿に、そうとしか返せない鎮守府良識派の高雄さんでした。

 

 

 

 

 

 

愛宕が大和に捕まり真っ赤になって幸せそうに気を失いかけているんじゃないかと思われる頃。

 

「博士! その、あの……そのですね! 胸が……胸が大きくなるような改装とか改造とか……!」(←朝潮)

「出来たら私が自分に施しとるわっ!!」(←夕張)

 

工廠は今日も平和である。

 


戻る

2015/08/03

inserted by FC2 system