「これでイベントも一段落、と言ったところかな吹雪」

「そうですね元帥、事後処理も終わりましたし、海域も通常通りとのことですよ」

「……よかったー」

「安堵しすぎです」

 

司令本部。大本営とかなんとか言われたりする、まぁなんだ海軍の中核における場所での今回の深海棲艦大規模侵攻関連総責任者である例の内心テンパっていた元帥と『長老』吹雪様の心温まる会話である。

というか大規模侵攻が既にイベント呼ばわりになっている訳なのだが、言うまでもないあの大和のせいである。

実はあの戦いの後、もう満身創痍状態の第三艦隊はなんとか助けに来てくれた第二艦隊の活躍によりどうにかこうにか本部にまで辿り着き、

中破の山城、大破の比叡、そしてなんでそれで沈んでないんだお前らレベルの大和と加賀はそのまま緊急ドック入り。

だったのだが、本部の立派な施設が気になって仕方ない、ただ修理を待って暇になってしまった大和さんがあちこちふらふらしていた時にいつの間にやら浸透してしまった「深海棲艦大規模侵攻=イベント」なのである。

いくらなんでも簡略化しすぎじゃん、とか思うところなのだが実際発音すると16字が4字である。なんと驚きの4分の1。これまで適当な略称が無かっただけに大和に影響されて使い始めた本部の関係者達。もうこれでいいんじゃね的ななんかアレでソレな勢いであの一連の深海棲艦の進軍は最早イベントなのである。

そして後に全国でイベント呼ばわりになるのだが、まあ余談である。

 

そんなわけで、現在、あの戦いから幾何かの日数が過ぎ、ほぼすべての鎮守府で日常が取り戻された状況になった訳だ。

もっとも、日常と言っても深海棲艦との戦いは続くのだが。

 

「それで、あの大和と加賀の修理は?」

「ほぼ完了しているとのことです、ほとんど総取り替えレベルの損傷でしたが妖精さん達が頑張ったみたいですね、現在は大和さんの艦首に取り付ける御紋をあの大和のものなんだから半端なもの作れるか的な意気込みで職人妖精さんが本気出してます」

「職人……あー、そういや大和艦首から突撃したんだよね」

「そうですね、かなり無茶なアレでしたけどね、傍で見ててビックリしましたよ」

「……職人妖精さん、その御紋に変なギミック付けていたりしないだろう、ねぇ?」

「……」

「……」

「……後で確認しておきますね」

「うん、よろしく」

 

と、まぁそんな冗談交じりの会話が繰り広げられる本部。まだ大和も加賀も修理完了待ちでのんびり本部を楽しんでいる状態だとか。

問題があったとするなら無傷だった夕立が修理でここにとどまる皆と離れるのが寂しかったのか不満気だったとかで、実は同じ鎮守府出身の島風が宥めて連れて帰るのに苦労していたとかいうそんな話なのだが実に微笑ましいレベルである。

同じ無傷だった吹雪は本部付きの艦娘なので修理中の皆の様子をちょこちょこ見に行ったりしていたが、あの大和はなんともじっとしていないというか社交性高いというのか、お世話になる妖精さんや本部の職員さんにあいさつ回りをしていた為に妙に本部内に顔見知りが増えていると言う事態を引き起こして無駄に人気者になっていた。

 

そんな中。改めて真面目に元帥が考えるに、今あの戦闘の資料を見ても大和、そして特に加賀の被害が明らかに沈んでないのがおかしい状況なのだ。

だからこそ、それを何とかした大和の評価は高く、むしろその技術をものにして今後の被害を抑えたい海軍な訳で、そしてまた実は本部に所属する大和がいないことも相まって、この不思議な大和を本部付きにして研究も、なんて思いも湧き出てくる程。実際研究対象にせねばならない程のおかしなことをやってのけていた。

しかし例の加賀引っ張り上げ事件に対しての大和の回答が「努力と気合と友情と根性」という100%精神論な為に謎は深まるばかりである。

本当なんなんだあの大和。ここに滞在している間様子を見ていたのだが別段これと言っておかしなことも無い普通の大和に見えた、それこそ例の『絶対無敵』と比べてもそう変わらない、というかあっちより社交性の高い真面目で一所懸命な姿ばかりが目につく。

 

 

目につくのだが、なんだろう、なんかこう付き合ってみると妙なのだ。ただ見ているだけなら解らなかったが会話をしてみると何かおかしい。

何というか、その、あれだ、今気づいた、昔のまだ『長老』と呼ばれる前の頃の吹雪とちょっと似てるんだ。ぶっちゃけ可愛い。なんて感想。

そんな思いからくすりと笑う元帥。その姿を見て訝しげな表情を浮かべる件の長老様。なんとも平和な状況か、いや本当みんな無事に戻って来てよかった、と改めて思う元帥だった。

 

「ともあれ、めでたしめでたし、かね」

「いい話で締めようとしてますね元帥、本当大変だったんですよ」

「言いたい事もありそうだね、確かに吹雪にしてみれば久しぶりの激戦だったろうし、まぁなんだ折角だから今回の総評を『長老』様から頂いて締めにしたいところだね」

「……いいんですけどね、えっと、特に何かと言われても困りますが、それじゃあ敢えて一言だけ

 

 

 

 

 このヘタレが」

 

 

 

 

 

「おぅ……酷くね?」

「状況からテンパってたのは解る、テンパってたのは重々承知している、していますけど――なんか指示くらいしやがりましょうよこのヘタレ提督」

「うっわ、昔の吹雪さんだー、初陣で『私がやっつけちゃうんだから!』って意気込んでわざわざ甲板に出て来て足滑らせて海に落ちた吹雪さんが帰ってきましたね」

「ちょ、提督、人の黒歴史語りだすとか、それもう戦争ですよ、戦争! なんですか、昔如月ちゃんのピンク色トークにあわあわして逃げ出してたような人が良くもまぁ元帥なんかに出世したもんですよね」

「……そんな睦月型の愛らしさを見習いたいとか睦月にこっそり相談してた硬派なはずの特型駆逐艦は誰でしたっけね」

「……くっ……如月ちゃんに迫られた時のセリフ『ぼ、僕には故郷で待ってる人が……』でしたっけか」

「げふっ」

「待 っ て な か っ た ん で す よ ね」

「や め て く だ さ い お ね が い し ま す」

 

そんな平和な本部の一室。2人の話し合い長いから様子を見に来た吹雪様とほぼ同期の睦月型駆逐艦1番艦 睦月さんは、2人のそんな罵りコミュニケーションを当時のまんまだと懐かしく思い微笑ましく見守っていたのでした。

 

 

 

 

一方その頃

 

「……大和さん、櫛持って歩いて、何してるんですか」(←青葉@本部:またなんか始まったかと興味津々)

「朝霜と早霜の両目を見てみようキャンペーン」(←大和:胸を張って)

「浜風は?」(←青葉@本部:やっぱり妙なこと始めてたと食いつく)

「もう完了しました」(←大和:やり遂げた感)

「大和さん、朝霜確保しました」(←加賀『提督』:朝霜を小脇に抱えて)

「おい、なんなんだ、なにが起こってんだよこれー!」(←朝霜:突然加賀に拉致されて暴れてる)

 

 


 

みんなのあこがれやまとさん1 3

 


 

「や……大和さんが本部移動だって!」

 

いつもの平和な例の鎮守府、半ばミーティングルームというか談話室と化している食堂内に突如入って来て叫んだ吹雪の声でその場にいた艦娘達に衝撃が走る。

あれからそれなりに時間も経ち、沈みかけると言う大事件で鎮守府内を阿鼻叫喚にしかけた大和も、本部を出発するときに何がどうなったか妙に懐かれてしまっていたビスマルクに「えぇ〜帰っちゃうの〜……」って寂しげに言われたりしたとかドックの妖精さんたちが正装して整列しに来たとか一悶着もあったのだが無事鎮守府に戻って来ていて、真実いつも通りの愉快な鎮守府の日常になっていた矢先のことである。

なお、一応ちゃんとした談話室の様なものも鎮守府内にあるわけなのだが、最近そこのテーブルが妙な位置取り&近くにキムワイプの空き箱が積んであると言う何か談話できない系の部屋になってしまっていたので食堂に皆が集まると言う事態になっていたのだ。犯人は夕張。

 

という余談はともかく。

問題は冒頭の吹雪の叫び声である。

内容が突然の人事異動。いや艦事?

ともあれいきなりそんな話が舞い込む事態に大和何かしでかしたのか、と思う周囲だったがしでかした何かの心当たりが多すぎて困惑の空気に包まれる食堂。

いやそもそもからして移動先が移動先である為にこれ左遷じゃなくて栄転なのは間違いないんだけど、

それでもまぁ、なんだ、この鎮守府の面々と致しましては簡単におめでとうとは言い辛い、そんなくらいに大和が居るのが当たり前な環境、言い方変えれば大和に毒されまくっている状態なのである。

 

何かの間違いじゃないのか、とか思い複数の艦娘が同じ食堂内に居てとろけるプリンをとろけそうな表情でもにゅもにゅ食べている大和に視線を向けるも、本人はきょとんとした表情で小首を傾げるばかり。

 

「ひーてまふぇんよ?」

「大和、はしたないからスプーン咥えたまま喋るのやめなさい」

 

てな感じで扶桑に窘められながらも「はーい」なんて可愛らしく返事した後に改めて吹雪の持って来たその情報が初耳であることを周りに伝える。

内示を貰って黙っている、という訳でも無さそうな表情の大和から、これガセか吹雪の勘違いじゃね、的な空気が流れるが、

問題は本日実はこの鎮守府に本部からのお客様が来ているとのこと。変に信憑性が高い状況なのだ。

 

いったいどういう事なのか、何があって突然鎮守府の中核を隔離するような真似に至るのかとざわめき立ちあーだこーだ話し合いを始める面々、気が付けば厨房にいたはずの間宮まで混ざっている始末であるから大和移動の話の影響は大きなものだと思われる。

 

「でさ、大和本当に何にも知らないの? あっちに結構長い事居たんでしょ、その時に何か話は無かったの?」

 

いつもの戦艦4人組で固まった席で、伊勢が頬杖つきながらこの大和なら隠してるとかじゃなく何か言われたことを誤解しているとかそんな可能性がありそうなので何かそれっぽい事を思い出さないかイベント後の修理中の話を聞いてみるのだが。

 

「ん〜。 あ……あっちに大和型居ないから、所属する気無いかって言われたことは言われましたよ、元帥に」

「元帥に!?」

「言われてるんじゃないか!」

 

軽く、かなりどうでもいいことのように小首を傾げたまま思い出すように呟く大和の言葉の内容は、待てそれかなり重要だろがってな話で、驚きながらも言葉を返す伊勢と長門。

そして更にそれに大和はどう答えたのかと扶桑が尋ね、なんだかんだで話を聞いていたいつの間にか静まり返った食堂内の皆が固唾を飲んで大和の言葉を待つ。

 

「『そんなことより外出許可ください』って、答えたからその話はそこで終わってますよね」

「「「おい」」」

 

元帥閣下の質問を『そんなこと』扱いして言いたい事言い放つ大和の謎メンタルに思わず綺麗に揃ってツッコミを入れる戦艦姉さん達。

それでもなんというか、周りで聞いていた面々も含め、「ああ、大和だなぁ」とか思ってしまうのはこれまでの実績のたまものである。

 

「つーかさ、あたしら艦娘に外出許可とかでんのー? 流石に厳しいんじゃないの」

 

大和の余りな受け答えに苦笑しながらも割と普段から戦艦組の近くに陣取っている北上が苦笑交じりに大和にそっち側の話の続きを促すのだが、

 

「取れましたよ?」

「マジで!?」

「ええ、その時修理であっちにまだ居た私と、加賀さんと比叡さんで湯河原温泉行ってきましたけど」

「そこゼビオじゃないんだ!!」

「ツッコムのそこじゃねークマ!!」

 

と衝撃の事実に方向違いのツッコミを入れて姉に怒られる北上だったが、状況から言って多分みんな混乱している。というかどこから突っ込んでいいか解らないのだ――

 

「えー、ずー(→)るー(↑)いー(↓)」(←伊勢)

「おい大和、その話は初耳だぞ、いいなぁ」(←長門)

「いいわね、まくら投げとかしたいわね」(←扶桑)

 

――戦艦以外は。いや違うこれ別にツッコンでねーや。

いやまぁ、中には「温泉……温泉……大和さんと、温泉っ」って胸の前で手を組んで段々と頬を赤らめていく重巡が居たりその前で半目で呆れかえるというかどうしたらいいか解らず頬杖ついて何か諦めている重巡が居たりなんかしていたが甚だ余談である。

そしてそんな周りの困惑を尻目に、別段何でも無いように話を続ける大和達。

 

「頑張ったご褒美なんですかね?」

「それだったら第一艦隊にいた私にも温泉外出があってもいいと思うぞ」

「ですよね、こっちも第三艦隊ってわけじゃなくて修理長引いてた3名だから……大破すればいいんですかね?」

「よし、次のイベントでは私も大破して本部の世話になるか」

「「待て待て待て」」(←伊勢&扶桑)

 

などといつも通りのとぼけた会話を繰り広げる素直な天然と真面目な天然戦艦に比較的常識的な戦艦達がツッコミを入れると言う日常業務になった訳なのだが。

 

 

 

「えっと……その外出許可が、移動の条件だった、とか?」

 

ぽつりと呟いた潮の言葉でなんか頭の中が温泉に支配されかかっていた一同が現実に引き戻される。

温泉よりも旅館の料理が気になってしょうがないどっかの白露型や卓球台は現代も健在なのか聞きたくてしょうがないどこぞの夕張型、そして先日普通に鎮守府内の部屋でまくら投げして遊んでいた謎の暁型姉妹たちもしっかりと現実に引き戻される。

 

そもそもからして問題はそれ、なんかよく解らんが大和の移動話だ。

 

いくらなんでもウチのエースがいきなりと言うのと、流石にそれはやめて欲しいという願望とが相まってガセだろうで落ち着きたいところだった各位の心情なのだが、

潮の話から考えても

確かに鎮守府の要の引き抜きは考えられないレベルの大事だが、大和クラスの軍機密存在がふらふら温泉旅行とかそれに匹敵するレベルの大事件なのである。

だからこそ、皆はじわじわと話を理解していき、何となく気づいてしまう。

 

あれ、これマジか。と。

 

 

 

「おおおおおお、ちょっと、ちょっと、待ってくださいよ。 吹雪、吹雪さん、マジで?」

 

現状を理解し、最初に再起動したと思われる青葉、珍しくオロオロとしながら、言葉から解るように落ち着きない様子で最初に話を振って来た吹雪に確認。

 

「は、はい。 今あの、本部の大淀さんが来てまして……」

 

大淀。大和さんから「ああ、あの読子・リードマン」と言わしめたメガネ大淀型軽巡洋艦1番艦 大淀のことである。

なんか旗艦用に作られたとかいう過去はあるのだが、現在その読子・リードマンしている容姿からなのか別名メガネ「任娘」と呼ばれる程に任務を扱う秘書型軽巡洋艦として猛威を振るっている。違う、猛威振るってどうするメガネ

長い黒髪に黒縁眼鏡、いつも背筋が伸びキャリアウーマン然としているが、艦娘服がセーラー服である為にどう見ても生徒会長か風紀委員長である、が秘書なのである。

ともあれそんな秘書さんが、それも本部から来ました状態な話だとすると

そらもう大事なんだろうな、と思う訳で。そもそも普通の任務なら連絡よこせばいい訳でして、本部から大淀さんが来ると言うのはそれだけの話を持って来た、と思うべきなのだ。

だからこそ、余計にこの吹雪の話は信憑性を帯びて来ており、

 

「なるほど……つまり、大淀さんを倒せばいいんですね」

 

愛の重戦士キンパツオッパイことラブリー愛宕ちゃんが何やら間違った方向に目覚めかけ真顔で椅子から立ち上がり、

 

「お供します」

 

と、実は隠していたのですがあの大和デビュー戦でその身を守られ彼女の頼もしい背中にキュンと来ちゃって普段から大和を自然と目で追っていた鳳翔さんが珍しく笑顔の消えた表情で愛宕に続く。

おいちょっと待て、と良識派が暴走しかけている2名をなだめようとするのだが、

 

「あぶくま、甲標的いける?」

「今なら持てるんじゃないかと思う」

 

悪乗りチームが後押ししようとしたりしてもう事態は悪化、更には、大和さんがいなくなったら困るじゃない! いやなのです! なんとかしないと。 なんて暁型姉妹も立ち上がり始め、気が付けば何だか

 

大淀倒そうぜ

 

的な流れに収束していく普段とても平和なはずの鎮守府。

今、大淀がヤバイ。

 

と、そんなところで、当鎮守府の我らが誇る良識派No1暁お姉ちゃんが皆を落ちつける為にバン、と机を一叩き、それにより一旦動きを止め暁を注目した周りを見渡して言葉をかける。

 

「もう、何言ってるのよ、馬鹿ね」

「でも、このままじゃ大和さんが居なくなるかもしれないのよ、暁はそれでいいの!?」

 

暁の言いように反論し、食って掛かる妹の雷だったが、その言葉を受け止めた暁は力強く雷を睨め付け、そして周りを窘めるように、言葉を紡ぐ。

 

 

 

「大淀はただの連絡係よ、倒すなら『本部』じゃないの」

 

「お前真面目な顔して何言ってるクマー!!」

 

良識派だったはずの暁お姉ちゃんが遠くに行ってしまった衝撃に傍で大人しく成り行きを見守っていた球磨さんも思わず全力ツッコミである。暁、なんだかんだで実はこの鎮守府一番最初の大和信者であった。

ただ、こうなると非常に困ったことになる。

 

何が困るかと言えば

 

「なるほど、本部か……腕が鳴るな」

「長門が動いたら大惨事だから大人しく座ってろクマー!」

 

球磨さんがツッコンでくれるわけなので

 

「イベントに参加出来なかったこの身としては、ここで挽回ね!」

「元々伊勢がここのまとめ役だったのに、お前どうしてこうなったクマー!」

 

みんなが安心してボケられるという事となってしまい

 

「球磨、大変だと思うけれど頑張ってね」

「他人事か、手伝えクマー!!」

 

いや扶桑は天然かもしれんが戦艦組までボケ倒すのが許可されたという免罪符を得てしまった状況に

 

「本部の構造は暫く滞在していた私が把握してます、行けます!」

「よく解ってない当事者は黙ってろクマー!!」

 

なるわけなのでもう球磨さん的にはそろそろ労働基準局に相談した方がいいレベルの騒ぎに発展。

上を下への大騒ぎ、とでもいうのか、とにかく食堂内がどうすんだこれ状態のカオス、なのだがその中でも着々と進んでいく『本部襲撃計画』。あかん、これただのクーデターだ。

しかも全体的に見てしまえば弱小鎮守府でそれほど脅威でも無いように見えるが、イベント参加済みで既に歴戦の長門、そして実はそれに準ずる実力を持っている扶桑に今回大活躍の大和、数歩劣る伊勢だがそんな3名に囲まれて引きずられていれば自然とそれなりの存在にはなっているわけで、

本来格上のはずのあの妹鎮守府と演習しても勝ってしまう戦艦組が出来上がってしまっていた訳だ。

なので割とシャレにならないクーデター。

ノリと勢いで大暴れしちゃいそうなこの鎮守府の面々から考えると、ある意味、先の深海棲艦の侵攻よりも厄介な存在になるのではないかと危惧される。そんな大事件

 

を食い止めた本日のMVPは皆様の予想通りアホな事言う艦娘達を一人残らず的確に口から血を吐きそうな勢いでツッコミ叫び叩いて回った当鎮守府一の苦労人、球磨先生であった。(←出世した)

 

 

 

 

 

 

 

「……これは、いったい何がどうなった騒ぎなんですか?」

「ツッコミの王者、球磨先生を称える会? ですかねー」

「いやまぁ、解ったような解らないような……」

「でしょうね、正直私たちもよく解りませんから」

「いいんですか、それで」

「いいんですよ、楽しいですよー」

 

メインの仕事も終わり、他の用事も兼て鎮守府内を歩いていた本部所属の大淀。何か妙に騒がしい食堂を覗いてみたところ

 

食堂の真ん中で死んだ魚の様な目をして胴上げされている球磨を見かけて困惑。

 

そんなもん見かけたら誰だって困惑するわ、レベルの事件である。が、困ったことにこの鎮守府ではただのお祭り騒ぎコミュニケーション。

力無く弛緩した姿で舞い上がる球磨の姿にマジなんじゃこりゃと食堂の入り口で桃屋のおっさんみたいにメガネずり落ちた姿で唖然と見ていた大淀。近くで、あの中央の集団から離れて記念撮影係をしていた青葉に気付かれて声をかけられたところ、上記の問答になった訳である。

大淀にしてみれば、なんとも噂通りに変な鎮守府だと実感。まぁ確かにあの大和を育んだ鎮守府なら普通じゃないんでしょうね、なんて感想を持つのだが、実際問題大和がこんな鎮守府にしたというのが正解のため大淀の感想は的を外れていた。

 

「お、大淀だ、大淀がいるぞー!」

「覚悟しろー!」

 

状況がいまいち呑み込めず、ため息をついて物思いにふけり始めたところで大淀に気づいたらしい食堂中央の集団。

叫び声を上げたのは白露、そして続いたのは北上であるのだが、そんな叫びと共にわらわらと食堂入り口に向かう一団にあれよあれよという間に囲まれてしまうメガネ。

いったい何事かと思う本人半ば置いてきぼりで、ここで大淀を倒してしまえば、とか、この状況なら勝てる、とか何とも物騒な会話が飛び交い流石の秘書型軽巡洋艦もオロオロして近くにいる青葉に助けを求めようと顔を向けるのだが、

 

そんな、せっかく相手側からここに来てくれたんだ、もうここで大淀倒そうぜ、風味な状態の中、「もう、みんな本当に馬鹿なんじゃないの?」なんて我らが暁さんが柏手を打って皆の動きを止め、

先ほどの話もあり、今回も暁さんが素敵なアドバイスくれる筈だと妙な信頼を得、固唾を飲んで見守る当鎮守府艦娘達を従えて言い放つ一言は

 

「倒すより人質の方がいいに決まってるじゃない」

 

流石暁様、冴えてるぜー! 的な盛り上がりを見せ、第二の胴上げ大会が始まる流れに結びつくのだった。

なお、ツッコミは不在ではなく、死にかけている球磨の代わりに申し訳程度の物ではあるのだが鎮守府の良心アイドル那珂ちゃんの「お、大淀さんにちゃんと話聞きましょうよ〜」なんてか細い声が響き、そして掻き消されていた。

 

 

 

 

「いや、本当になんなんですか、これ」

 

まったくもって非常にわけわかんない状態に、もうどうしたもんだと大淀は比較的冷静に見える青葉に話しかけ、青葉としてもこのままお祭り続けるよりはきちんとした情報仕入れたいという思いに至り事の起こり、というかそものそも問題を詳しく聞いてみることにしたのだが、

 

「……大和さん、を、ですか? いえ、確かに来て頂けるなら有難いような……なんでしょう、この不思議な気分は」

 

大淀の脳裏には何故か妙に大和に懐いてしまった普段気難しく妙にプライド高くて扱い辛い海外戦艦の姿がよぎるが、それとは別に本部滞在中の大和が明石を捕まえて、その穴から覗く腰骨が素敵ですね、なんてセクハラして同じことを思っていた大勢の男性職員達に勇者扱いされ称えられていた姿を見かけていただけに本当にこれを所属させても問題ないのだろうかと悩むことになる。

なるのだが、そもそもからして大和移動の話なんてのは大淀は知らない。

知らないので、その旨を今大淀を囲んでいるこの鎮守府のほぼフルメンバーに言って聞かせた訳なのだが

 

「……ってことは、あれ? 吹雪の勘違い?」

「じゃ、ないですかね?」

 

冷静に話の内容を分析し、結論を出そうとする青葉と大淀。

しかし吹雪としては確かに聞いた話、だからこそ、自分の話は間違ってないのだと、2人の前に出て来てそのことを訴えた、のだが。

 

 

「で、でも、私聞いたんですよ! 大淀さんがさっき……『司令官が本部栄転』って言っていたのを!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あ、大和さん司令官じゃないやー…………ごめんごめん」

 

 

 

「いや、うん、ごめん普通に大和さん司令官だと思ってた、吹雪さんが気づかなければ今の話で違和感無かったわー」(←阿武隈:引き攣って)

「……(笑)が足りなかったのか」(←北上:真剣)

 

自分の発言と盛大な勘違いに照れくさそうに縮こまって頭を掻きながら周りに頭を下げる吹雪、そして阿武隈の言葉に同意するもの多数。

でもって、気にするな吹雪、とか、いやー勘違いでよかったよなーなんて一安心する姿を見せ、なんとなく場が解散状態になり、事態は収束していった。

 

 

 

 

 

 

「おい、お前らちょっと待つクマ。 普通に考えて司令官人事は大事クマー」

 

 

ホ ン ト だ。

 

 

と、球磨先生のツッコミがあってなお、全員の理解に少しの時間が必要になったいろいろおかしい艦娘達ではあったが、どうにかこうにか事態を把握。

確かに大事だ、どうする? 司令官の人事とか何すりゃいいんだ、っていうか司令官って何してる人だっけ、いやちょっとまって、私司令官に暫く会ってないんだけどどんな人だったっけ? なんてあんまりな司令官の扱いに大淀の目頭も熱くなる。

ここの司令官、つまり提督は若い割にしっかりとこの鎮守府を運営、そして弱小だったはずなのにいつの間にか強く、そしてあの大和を育て上げた的な評価で言わば出世移動ということなのだが。

なんかここの大和がこんなんなのは実は提督関係なかったのかなーとか思い始める大淀だった。

 

 

「で、だ、司令官の移動とか、本当どうすればいいんだろうな」(←長門:真剣)

「えっとー……壮行会?」(←大和:まだプリン持ってる)

「つまりお祭りね」(←扶桑:壮行会は楽しい物だと思ってる)

「よーし、じゃあ緊急会議ー」(←伊勢:ヘタレ可愛い提督がいなくなるのはちょっと寂しいけど 大和>提督)

「お前ら本当に事態解ってんのかクマー!!」(←先生:過労)

 

 

そんな平和ないつもの鎮守府。

わいわいと騒がしくも楽しいみんなの集まる食堂内で

4つ目のプリンに手を伸ばし、いい加減にしとけと伊勢に怒られる大和さんは、今日も無駄に元気でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで大淀さん、新しい司令官の人事ってなんか決まってるんですか?」(←青葉:好奇心)

「……まだ正式には決まってないのですが、何故か解りませんが、こちらの大和さんの名前があがってるんですよね……流石に冗談だと思いたいですが」(←大淀:眉間に皺)

 


おしまい。

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2015/11/03

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