んなのこがれやまとさんの小ネタ


――なかちゃんあいどるかいいんかい――
――みんなのりーだーおいせさん――
――でも、やっぱりかんちがい――
――あぶきた――
――やまとさんのゆううつ――
――よそのちんじゅふやまとさん――

――うちのちんじゅふにはこんごうがたがいない――
――たよれるせんかん、やましろさん――
――うちのくまさん――
――ゆーばりさんとしらつゆちゃん――
――いもうとさんたちのにちじょう――
――おねえちゃんぴおん――
――よふかしやまとさん――
――くーでたーだよ、ごーやといむや――
――たたかえぼくらのでらっくすやましろさん――
――あさゆうあぶきた――
――あさしおん だいひゃくじゅうにわ そのかなしみのむこうに――
――ふぶきちゃんとむつきちゃん――
――はいぱーにゃっしぃ――
――しれいかんかっこかり――
――ひしょかんけっていせん――
――しまかぜちゃんとゆうだちちゃん――


2話の後くらい

――なかちゃんあいどるかいいんかい――

 

 

「那珂」

「あ、おねーちゃ……ん、と、大和さんに青葉さん……」

 

鎮守府内の廊下を、鼻歌を歌いながら歩いていた那珂。食堂からの帰り道、カレーのじゃがいもが美味しかった為ちょっと気分がよかったのだ。が

不意に呼び止められ、その声が川内であることに気づき笑顔で振り向いてみたのだが、追加で件の二人がいたのだ。

 

あれだ、うん、最近こう遠くから眺められている感じのするあの二人、姉も入れて三人だ。

 

その様子をよく見ていたら三人で談笑しているような様子が見受けられたために最初はビクビクしていたのだが、最近はもうあまり考えないようにしていた、という感じに心の平穏を図っていたところだったのだ。

 

しかし、いざ、その三人に目の前に詰め寄られるとそりゃもうやっぱり緊張してしまう。

自分はいったい何をしでかしたのか、そして、何か解らないけどとうとう来たか、と。見てみれば三名ともに何やら真剣な表情なのである。

 

さあどうしたものか、と内心慌てながら相手の出方を待っていたところで、川内が口を開く。

 

「これ着てみて」

「……はい?」

 

真剣な表情で渡されたソレは、なにやらフリフリの可愛い服。なんじゃこら、と服をじっと確認した後に改めて前にいる三人を眺めるのだが、

 

「私が那珂ちゃんの今後の為に(工廠で)作りました」(←大和:凄いいい笑顔で胸を張る)

「あ、着替えたら写真いいですか? 将来の為にも可愛く撮りますよ」(←青葉:カメラを構えて)

「那珂には、夢を追って欲しいから」(←川内:理解のある姉)

 

よく解らん回答が帰って来た。

 

え?え?え? とおろおろするも、川内は何やらうんうんと頷いていて、

まったくもってさっぱり解らないのだが、何かこの目の前の三人の意識の中で、那珂の将来とかいうヤツが既に決まっているらしかった。

 

とりあえず服は貰っちゃおうと思います。

 

 


1話の後くらい

――みんなのりーだーおいせさん――

 

 

「吹雪ちゃん吹雪ちゃん」

「あれ? 大和さん、どうかしたんですか?」

 

鎮守府内資料室、よく気が付く娘さんと評判の駆逐艦 吹雪がなんとなーく自主的に資料室の整理をしていたら今しがた部屋に入ってきた戦艦 大和が吹雪を見つけちょっと小走りで声をかけながら近寄ってくる。

なお、1話後あたりなので吹雪に対しての呼称はまだ「ちゃん」付けである。

 

時折この資料室で出くわす大和とは何度か話す機会もあり、それなりに気軽に会話出来る仲ではあると思っている吹雪だったが、なんかこう、嬉しそうに子犬みたいな感じで駆け寄って来られるとちょっと困惑する。

妙に可愛い時あるんですよね大和さんって、なんて失礼かなとも思いながらもそんな感想を持つ。

で、呼ばれた以上何か用があるんだろうな、と整理していた書籍を一旦傍の机に置いて大和に向き直る。

 

「伊勢さん」

「……はい? ここにはいませんけど……」

 

伊勢さん探しに来たのかなーと小首を傾げながら言葉を返す吹雪だったが、それに対しぶんぶんと首を横に振る大和は

 

「『いせさん』、って言いにくくないです?」

「……へ?」

「いせさん」

「……いせさん、いせさん……いせさ、ん?」

 

困った、大和の言いたい事ってなんじゃ、って思うところなのかもしれないが、言葉にしてみて言いたいことが解ってしまった。なんだろうこれ、微妙に言いにくい。自分は無理ない感じで行けるけど、滑舌怪しい人にはこれ「せ」から「さ」にかけてちょっとアレだ。

割とどうでもいいことだ、とは思いつつも、大和の話に妙に納得してしまう。いやだからなんだと言われればそれまでなんだが。

なんて思っていたのだが

 

「で、これがですね『お伊勢さん』だと違和感なくないですか?」

「……おいせさん、おいせさん……おいせさん……本当だ!!」

「ですよねー!」

「はいっ!」

 

と、こんな話が、たまたま資料室に(昼寝に)来ていた北上さんによって鎮守府内に広められることになるとは私も大和さんも全く思っていなかったのでした。

そして、この頃はまだ、大和さんのことを人の呼び方を真剣に考えている素敵な人だなーくらいに思っていたのでした。よもや天然だったとは、うごご。

 

 


3話の後

――でも、やっぱりかんちがい――

 

「やーまとさんっ」

「あ、愛宕ちゃん、おかえりなさい、出撃お疲れ様……高雄さんは?」

「はい、ただいま帰りました。高雄ならちょっと被弾しちゃいまして、入渠中ですねー。あ、かすり傷程度なので心配はないですよー」

 

例の隣の鎮守府の代わりに出撃となった件の暫く後。

大和が給糧艦 間宮直営喫茶店で出撃後の疲労回復という名目でよく艦娘達に好まれているアイスクリームを楽しんでいたところ、件の作戦に出ていた愛宕が店に現れて話しかけて来た。どうやら作戦終了して帰って来たところの模様。

一緒に綾波型の潮を連れて来ているのは今回無傷だった二人で先に来たかららしい。

出撃は六隻だったはずだが、無傷が二隻ということでちょっと心配になった大和だが、二人に話を聞くとどの娘も小破にも至らない軽傷程度でそっちは高雄が連れて修理に向かったとか。

心配してくれたのか大事が無くてほっと胸をなでおろす大和を見て、にこにことしたまま同じテーブルについてアイスを注文する愛宕。横で潮はちょっと緊張気味の姿。

潮にしてみれば目の前の大和が優しいお姉さんであることは解っているが普段あまり接する機会もないし、自身ちょっと引っ込み思案な為に苦手意識が先行しておろおろしているのだ。

 

「潮っちー。そんな緊張しなくても大和さん駆逐艦を取って食ったりしないから大丈夫だよー」

「え? いえ!? あの……はい、大丈夫です!」

「スーパー北上さま、駆逐艦を虐めるのはいけない。というか、私の扱いそれどうかと思う」

「えー、ウチで大和さんに逆らったら46cm砲で海の藻屑じゃん? ねぇ潮っち」

「はい!? いえ!? え!?」

 

何故か大和と一緒に居た軽巡洋艦 北上にからかわれて慌てる潮。前にはくすくす笑う愛宕に、その横でなんだか困ったような笑顔で北上を窘める大和。けど止まらずに更に軽口を叩く北上。

潮としては急な話の流れにただただあわあわするしかない。

そんな可愛らしい駆逐艦の姿を見て、愛宕は思う。

愛宕から見て、北上はあまり他の船とコミュニケーションをとるタイプではなかったはずで、特に駆逐艦相手にこんな風に名前を呼んで気軽に話しかけてくるなんて姿は考えられない、とまでは言わないけれど実に珍しい。

そもそも大和さんとこうして一緒に喫茶店に来ている時点で少々驚くところだ。

なのだが、相手がうちの大和ってところで、ありかなーと考えてしまう。きっと何か、北上さんにとっても大和さんがいい影響になったのではないかと思うのだ。

 

何をしたのか解らないけど、相変わらず周りにいい影響を与える凄い人だな、なんて思いながら、愛宕は今回の出撃前のことを思い出す。

結局、出がけに緊張を解いてもらったおかげで高雄も充分に、しっかりと旗艦が出来た。事実そのおかげで二隻の無傷、残りもほとんど無傷と言えるレベルの損傷で終わったという成果なのだ。

そのことの感謝を込めて、横に座る、じゃれ合ってる雷巡と駆逐艦を優しい笑顔で眺める戦艦に言葉をかける。

 

「大和さん、ありがとうございました。 あのおかげで高雄もいい結果を残せて自信もついたみたいです」

 

愛宕の言葉に、一瞬呆けた大和だったが、

少しだけ目を閉じた後、気にするなとでも言いたいのか、なんのことか解らないけど私は何もしていないわよ、と、笑顔でフルフルとほんの小さく首を振った。

 

 

そんな大人の貫禄漂う姿に、愛宕は出て来たアイスをスプーンですくいながら、なんだか本当この人には敵わないなぁ、なんて思い、苦笑するのだった。

 

 

 

が、当の大和さんは愛宕の言う「あのおかげ」の「あの」がなんのことかさっぱりわからんかった、考えてみたけどやっぱりわからんかった上、実際何もした覚えがないので何もしてないと言っただけである。

意思の疎通というのは案外難しいものである。

 

 

 

あと潮ちゃんの髪型を見て「ナスビみたい」とか思っていたのは内緒である。

 


6話を読んでからどうぞ

――あぶきた――

 

「じんぐるべー、じんぐるべー、すずっがなるーっとくらぁ」

「北上さん、今夏よ」

「甘いなーあぶくまー、知ってるか? 南半球では冬なんだぜぇ」

「……日付は変わらないわよ」

「なん……だと……」

「馬鹿な事言ってないで演習行くわよ?」

「あいよー、今日は大和っちーむだから楽出来そうだねぇ」

「そうね、相手は阿鼻叫喚なんだろうけど……大和さんすっごい真面目だから……」

「くったくたになるまでやるもんねー、ところであたしらの他は誰が大和っちーむ?」

「確か伊58、ゴーヤちゃんだっけ」

「あー、でちっ子かー、最近みょーに大和っちと仲いいよねー、シット!」

「それは品の無い方? 言葉通り嫉妬の方?」

「両方!!」

 

 

なお阿武隈、南半球の話で一瞬騙されかけた。


6話を読んでからどうぞ

――やまとさんのゆううつ――

 

「……ふぅ……」

 

自分だけしかいないドックで深ーいため息をつく大和。

デビュー戦を終えて、そこそこ結構な損傷をしたとあっての入渠なのだが、見上げれば自身の本体である天下の超弩級戦艦、当然修理にも時間がかかってしまう上に修理中は流石に御霊である艦娘も本体の傍にいなければならないと言う訳で暇を持て余してしまっている状態だ。傍にいるだけで修理自体は妖精さんが行うわけだからね。

いや、でも、ただ暇を持て余してると言うだけならいいのだが、その暇のせいで先だっての出撃を思い出してしまうのだ。

 

何をかっていうとアレだ、いろいろな要素が重なってテンパってたとは言え、阿武隈北上を叱ったことだ。

 

自分は旗艦だからしっかりしなきゃ、なんて考えたのも一因。それに加えなんか敵が増えたり凄い強い敵だったりとかそんな状況で

更には件の二名が言い争いなんかしてて艦隊のまとまりが悪くて内心おろおろしていた訳で。

 

まぁ、あれだ、つい、なんだ、つい怒っちゃったんだ。

 

結果皆無事に帰って来れたからいいけれど、艦隊の空気悪くなったかなぁ、件の二人に嫌われたかなぁとか考えてしまう大和。

状況からの行動としては大和のやったことは実に正しいし、例の記憶のゆとり社員を叱ったりしてた経験を活かしたりしたわけなのだが、大和ってばこの鎮守府新参であって要は新人のくせに生意気だ状態だったんじゃないかと心配になっているのだ。

任務終了後に北上阿武隈が謝りに来てくれたのだけれど、大和としてはむしろこっちが謝りたいとかなんかこう反省してるというかアレなので何と言っていいか解らずにテンパった挙句頭を撫でていたのだ。

あれだね、男親がまだ小さい娘にどう接していいか解らずにとりあえず頭を撫でて誤魔化す感じだよね。

 

なので、ため息。

 

考えれば考える程、もっといい方法があったんじゃないかと悩んでしまうのだ。正直考え過ぎだと思うけどね。

 

「ふぅ……」

と、再び出てしまうため息をついたところで。

 

「えいっ」

 

不意に後ろから楽しそうな声が聞こえたかと思うと大和の首筋にぬるっとした、それでいてひんやりとした何かが押し付けられる。

 

「ぴぃやぅぃ!?」

「あら、可愛い叫び声」

 

何とも形容しがたい不思議な声を上げてしまった大和が心臓バクバクさせながら声のした方に振り向くと、割烹着の似合う髪の長いお姉さんの姿が

 

「……まーみやさん?」

「はぁい、まーみやさんです」

 

給糧艦 間宮。物資を運んだ船であり主に食料を扱っていたということからその艦娘である目の前の女性は各鎮守府の食堂や喫茶店などの運営を任されているとか。確かそんな感じのにこにこしたお姉さん、しかも間延びした大和の呼びかけに合わせてくれるノリのいい感じである、モテるんだろうな。

で、そんな彼女が普段縁のなさそうなここ修理用ドックで何をしているかというと――

 

本当に何してるんだ。と思う大和。だって間宮さん右手を頬に当てて微笑みながら、空いた左手に「糸で吊るしたこんにゃく」を持っているのだ。ああ、首筋に当たったのコレか。

いったい人を驚かせて何してるんだと言う思いが湧き立つが、そんな大和の思考関係なしに間宮は横に置いてあった包みを手渡してくる。

 

「はいこれ、差し入れですよ。 入渠中は暇でしょうから甘いものでも食べてのんびりしてるといいですよ」

「差し入れ、ですか」

「はい、ちょっと多いかもしれませんけど。 それですね、一緒に出撃した皆さんからの差し入れです」

「……え?」

「皆さん心配してましたよ? 自分たちが不甲斐ないばっかりにって」

 

受け取り、あれひょっとして私嫌われてなんていない? ってな感じでちょっと表情が明るくなる大和。それを見てなんかこうくすくす笑う間宮さん。

 

「では、私も凄い戦果を挙げたという大和さんに細やかながら差し入れを一つ」

 

そしておもむろに、先ほど左手で振り回していたこんにゃくをそっと大和に手渡すのだった。どうしろと。

 

 

間宮の去った後。

再び手持無沙汰になった大和が皆からの差し入れの包みを開けてみると、そこにはとても美味しそうな芋のきんつばが大量に入っていたのだった。

 

「…………飲み物、無いわよね…………あれ? これ嫌がらせ? 実は嫌われてたりするの?」

 

いもきん、喉詰まるよね。

そんなことを考えながら。

大和は、いもきんを一切れ頬張り、間宮に貰った糸で吊るしたこんにゃくで

暇そうにしている妖精さん達を追い掛け回して遊ぶことにした。

 

そしたらなんか仲良くなった。何故だ。 

 


7話の後にお読みください

――よそのちんじゅふやまとさん――

 

「……えっと」

「は、はいなのです!」

「これはどういう状況なのでしょうか?」

「わ、わかりません! あ、あの、その、青葉さんに頼まれたのです」

「青葉に? 何を?」

「や、大和さんの前に座っていて欲しいって……」

「……」

「……」

「なんなんでしょうね?」

「な、なんでしょうね?」

 

場所は鎮守府内の小さな談話室。

通常、多くの艦娘が使っている談話室とは少々違い手狭な部屋なのだが畳敷きの和室である。その為大和が好んで使い、よくここでお茶を飲んでいる姿が見られる。

だが、群を抜いて強く、また、ため息の出る程の美人であるこの戦艦がよく陣取っているということもあって、この部屋に入って来るのは大和に気後れしないような胆の据わった連中のみになる。

なので今、何故かよく解らないのだが大和のすぐ目の前に礼儀正しく正座で座っている電の様な駆逐艦が居ることは実に珍しい事態なのだ。

なのだが、まぁ、どう見てもこれ電ちゃん緊張しているなぁと手に取るように解るわけで。大和としては表面上平静を装っているもののそんなに怖れんでも、とちょっぴり寂しくなるのだ。

というか、大和自身、皆に頼りにされているのは解るのだが、どうにも遠巻きに、それも駆逐艦、軽巡中心に遠巻きに見られていることに気づいている。

日本の誇る決戦兵器だし、いろいろ威圧感出してるのは理解してるし、そんな頼られる立場だから、下手な姿見せられないからこんなんだけどちょっとやっぱりなんだか思う、私友達いない、と。

ましてや先日、例の深海棲艦大規模侵攻に於いて海域最深部に進撃し、その要たる「離島棲鬼」に止めを刺したとあって以前にも増して他の艦娘達からの尊敬というか畏怖が増えている気がするのだ。特に駆逐艦達の遠巻き距離がちょっと増えた気がするのだ。泣くぞ。

いやそれでも唯一気さくに話しかけてくれるなんか変なノリのいつも無駄にテンションが高い金剛型一番艦の金剛という同僚がいるが、彼女は彼女で誰にでもあんな感じだし 、同じ戦艦だしなーとか思う訳だ。

いや他に気さくに話しかけてくれると言えば阿賀野型軽巡の矢矧がいる! そう、軽巡なのよ。なんて思うが、彼女も彼女で「大和さんと同じ髪型にしてみたんですけど」なんてちょっと頬染めて来るのでなんか違うような気がするのだ。 深くは追及しないが。しないぞ。

妹の武蔵はここに配属されていないし、他の戦艦は姉妹同士でいつも一緒にいる感じだし。そう、あれよ、しばらく前から気づいていたけど、私ぼっちだ。

と、ちょっとそんな自分に悲しくなる大和だったが。

その小さく変化する悲しそうな表情を見ていたのか目の前の電があわあわと「や、大和さんどうしたんですか? わ、私何かしてしまいましたか!?」なんて慌て始める。

なんでもない、なんでもないの、自分が不甲斐なかっただけよ。なんて思うのだがこれ言葉に出してもいいのやら、そんなことを悩んでいると。

 

「ちわー。 青葉です―、大和さんどうですか、電ちゃんは」

 

なにがいったいどうですなんだ、とツッコミたくなる物言いでこの謎の状況を作ったと思われる青葉が部屋に入ってくる。

 

「……いや、青葉、どうってなんなんですかこの状況」

「いえね、我が鎮守府に限らず、各地のほとんどの提督達が認める守ってあげたい小動物系駆逐艦 電ちゃんを前にして大和さんが抱き着いて頬擦りする姿を確認してみたくなりまして」

 

なんだそれ、と思う大和。いや、確かに可愛いと思う。電ちゃんはこう、なんだ確かにそう抱き着いてみたいというか抱きしめてみたいなとは思うんだ、頬擦りはやりすぎだと思うんだけど。

でも、突然すぎる話だろうと思う、そもそも何がどうなって私が抱き着くなんて話になるのか、と電ちゃんを見てもポカンとした表情で青葉を見ていたのだが

 

「ちょっと別の青葉からですね、面白い情報貰いまして。 その彼女の鎮守府の大和さんが、第六駆逐隊を始め気に入った駆逐艦を捕まえては抱き着いて頬擦りをしているという話を聞きましてね、いやー、ならばウチの抱き着きたくなる系駆逐艦一番艦の電ちゃんに一つこう力を貸して貰おうかと」

「え、なにその大和、うらやましい」(←大和:本音が出る)

「……」(←青葉:嬉しそう)

「……」(←電:ぽかーん)

「……」(←大和:やっちゃった)

「ささ、どうぞ大和さん、抱き着いてもいいんですよ、そう、こんなふうに」

「へ? え? は、はわわわわ!?」

「…………青葉、馬鹿な事やってないで、電ちゃんが困っているでしょう」

「ありゃりゃ、からかい過ぎましたかねー、では青葉はこれで出て行きますが……さっきの、別の鎮守府の大和さんの話は本当みたいですよ?」

「……」

「……」

「……行っちゃいましたね」

「……そうね」

「……えっと……」

「……電ちゃん」

「は、はいです!」

「………………………だ、抱き着いてもいいかしら?」

「は、はい!」

「あのー写真撮ってもいいですかー?」(←青葉:扉の隙間から)

「あっち行っててください!!」

 


人に書けって言っておいて本当に書かせた作品のパクリタイトル

――うちのちんじゅふにはこんごうがたがいない――

 

「一応、みんなに聞いておこうと思うんだけどね」

 

いつもの鎮守府。いつもの戦艦4人組が集り、今日もお仕事が少なく半ば干されているような状況でだらだらしていたところ、なんやかんやでリーダーしている伊勢がふと思い立ったことがあったらしく口を開く。

 

「もし、次に戦艦がここに配属されるとするなら、だれがいい?」

「金剛」(←長門)

「金剛さん」(←大和)

「金剛よね」(←扶桑)

 

即答である。

 

3名の返答に「そうよねー」なんて軽く返した伊勢だが、よく考えれば、いや考えなくても普通ならこれ自分の姉妹艦に来て欲しいとか思うところじゃないかと思う。

思うんだが、なんだ、あれだ、ここにいる4名が4名とも各姉妹の長姉であり、誰一人妹が配属されないという状態なので上手くバランスが取れているというか、なんかそんな感じだ。

まぁ、妹の前でないからいい格好する必要もないのでダラけることができるとかいう思いもあったりする。自堕落ばんざい。

 

その為、伊勢もこれはもし新しい戦艦の配属の話でもあるなら金剛型一番艦の金剛が適任かと思うのだ。問題があるとするならあの謎のテンションについていけるかどうかくらいデース。

なので、この場の質問と言うのは他の3名の意見も聞いておいてそのことを提督に伝えておくか、ということから来たものである。

 

ぶっちゃけ、金剛が来る予定どころか戦艦配属の話なんて今のところまるで無い。

あくまで希望というところだ。正直空母が必要だこの鎮守府。

 

が、そんな伊勢の考えが届いたのかいないのか、何やら大和がむつかしー顔をして考え込んでいた。

それに気づいたのか扶桑が声をかけるも

 

「どうかしたの、大和? 何か心配ごとでも?」

「んーむー。 もし金剛さんが配属されるとしたら、やっておかなければいけないことがあるんですが」

「ん? なんだ?」

 

「いえ、金剛さんのパーソナルカラーって何色でしょうかね?」

「……金?」

「金、かなぁ」

「金じゃないかしら」

 

 

 

「金色のジャージってあるのでしょうか」

 

 

 

悩んでたのそれかい。と、伊勢がツッコミそうになる、そんなところで

 

「今度こそ、ゼビオ行きましょう」

「いや、待て扶桑、気持ちは解るがやはりここはお揃いにしなくてならないだろうからまたアマゾンの世話になるしかないんじゃないのか?」

「アマゾン……なんか味気ないのよねぇ、ちゃんと手に取って見てみたいわ」

「だよなー」

 

程よく大和に毒されているなぁ、なんて感想になってしまう二人が何やら真剣に話あっていた。

そんないつもの平和な鎮守府の緩い戦艦仲間を見ながら伊勢も軽い気持ちで、隣で眉をハの字にしている大和に一言。

 

 

「もう、あれよ大和、いっそ工廠で作って来ちゃう?」

『そ れ だ』

 

伊勢もたいがい毒されていた。

 


8話の後にお読みください

――たよれるせんかん、やましろさん――

 

唐突だが、

 

誤解である。

 

いや、何がって

 

例の妹艦隊所属の普段しっかりしてリーダー的な山城は、コレ単に鎮守府着任時に他に戦艦がいなかった為に一応戦艦だし、くらいのつもりでいろいろと秘書艦とかスケジュール管理とか引き受けていたらそのままリーダーに収まっていたという気苦労ばかりが溜まる誤解の産物なのである。

他の鎮守府を見渡す限り、なんとなくリーダーに収まってるのは頼れそうな戦艦か正規空母である為、正直山城さんとしてはその辺が着任したら後は任せて隅っこで大人しくしていよう、くらいの考えで気軽に、そして気だるげにやっていたのだ。

 

どうしてこうなった。

 

これでもかって言うくらい切実な山城の心の叫びである。

あ、うん、いや違う、実は着任時には他にも居たんだ戦艦、それも2隻。ただまぁその2隻が配置換えで余所の鎮守府に移動になったという流れから山城が入れ替わりの配置 、そんな訳でその2隻とは引継ぎ関係で暫く一緒した程度なのだ。

でもってこの鎮守府、その2隻が中心、リーダーで動いていた為にそれを引き継いだ山城がそのまま役割をこなしているという、なんだ、いいのかそれで、的な状況なのだ。

いやそもそも

 

2隻でやってたこと1隻に任せんなよぅ。

 

というのが山城の着任時の叫びである。ただし心の中。

 

その他、実は正規空母とか居たり、頼りになりそうな重巡洋艦とか居たりしたわけなのだが、なんだかもう「山城に任せておけば大丈夫」みたいな空気になってるのはどういうことだこの鎮守府。

私は欠陥戦艦だぞ、ドックの女王だぞ、もっと疑え、信用していいと思ってるのか扶桑型2番艦だぞ私は。と声を大にして言いたいわけだ山城さんは。

いや、実際言った。言ってやった。

 

言ってやったんだが、そこはそれだ、過去のあれとかそれとかで妙に山城に好意的な白露型駆逐艦2番艦 時雨という名の僕っ子に怒られた。

怒られた上に山城は凄いんだ的な事を言われた。言われたって言うか講義を受けた。いやそれ私のことだからね。落ち着いて時雨。あとそんな褒めないでこっ恥ずかしい。

 

そんな何かを激しく誤解している時雨の事はともかく、この鎮守府の自分に対する扱いに関して最初は使えない戦艦に対する遠回しなイジメじゃねーのかなんて疑ったものなのだ。この妙な高待遇というか頼られっぷり。

いつ「お前やっぱダメだわ、ドック行ってろ」とか言われるかビクビクしていた、いっそ早く言えと待ってた。胃痛と戦いながら心待ちにしていたんだ。

しかしなんかこう、時間が経つにつれ、あれ?これマジで頼られてね?的なことに気付いて来たわけだ。

時雨の世迷い言だと思っていただけにこの展開は困惑するしかない。

するしかないのだが未だに先の台詞がその内飛んでくると淡い期待をしている山城さんなのだ。往生際が悪いと言うか現実から目を逸らしているというかそんなアレなのだ。

 

「……武蔵……やっぱりあなたのように頼りになる大戦艦がこの鎮守府の柱であるべきだと思うのよ……」

「……戦力ではそうあろうとは思うがね、というか山城、そのセリフ何度目だ」

「5回目くらいまでは数えていたんだけど……8回目、くらい?」

「10は超えてる、まったく、しょうがないリーダーだな、おい」

 

半ば恒例になった弱音を吐く山城を前にして、『いつものあれか』程度で苦笑して話を聞く武蔵は

 

頼りになるウチの山城が遠慮なしに愚痴を零してくれる位には自分は頼りにされているんだろうな、なんてちょっと嬉しく、そして照れくさく感じていた。

 

 

意思の疎通とは実に難しいものである。

 


8話後にお読みください

――うちのくまさん――

 

いつもの我らの鎮守府。通称「アレな大和の鎮守府」の食堂にて、いつものコミカルな姿からは想像できないほどの真剣な表情をして何やら悩んでいる軽巡洋艦の姿があった。

 

「何が、どうなってこうなったクマ」

「いや、うん、なんていうの? 自業自得?」

 

テーブルの上に両肘を付き、口の前で手を組んで眉間に皺を寄せて悩む球磨に対し、正面に座り片肘を付き頬杖にして呆れるように相手をする暁。最近妙に仲のいいお姉ちゃん2人の会話である。

 

「自業自得って、球磨はなんにもした覚えがないんだけど……」

「あー、知らぬは本人ばかりってヤツ? 球磨はなんか尊敬対象になってるだけよ」

「尊敬、アレ尊敬? 今まで皆から『球磨ちゃん』呼ばわりだったのが急に『球磨さん』になったんよ!?」

「あー」

 

最早語尾にクマを付ける余裕すらなくなるほどに困惑している球磨。それを見て本当に心当たりが無いんだと納得するも尊敬対象だと気づいてなかったのかと呆れる暁。

実際今までは周りから球磨ちゃん呼ばわりである。愛らしい顔立ちと緩い言動で駆逐、軽巡の間で人気のほんわかお姉さんだったわけなのだが、ここに来て突然駆逐艦連中から『球磨さん』呼ばわりである。

球磨にしてみれば駆逐艦に「ちゃん」づけされていたことも親しみからということでむしろ喜んでいた訳なのだが、この仕打ちに何か距離を取られるような失礼な事でもしたのかとおろおろしているという流れだ。

 

「とうとう北上にまで『球磨ねーちゃん』とか呼ばれたクマ。いや、嬉しいんだけど、呼ばれて困るわけじゃないんだけど、なんで『背筋を伸ばして敬礼付』クマ」

「それ、一緒に居た阿武隈さんも同じノリじゃなかった?」

「……暁はエスパーか……その通りだったクマ……」

「そりゃねー。彼女たちにしてみれば、憧れの立場かもしれないわね」

 

ん? と暁の言葉から現在の事態を考えてみる球磨。簡単に言うと阿武隈と北上が揃って憧れて、駆逐艦が自分のことを尊敬するような状態。

 

なんかそんな人知ってるぞ。

 

という形で出て来た存在はただ一名。

 

「……大和がらみ、クマ?」

「この間の演習で一緒だったんでしょ? 噂は聞いてるわよ」

「……球磨はあのメンバーでは戦力外だったので隅っこで大人しくしてただけクマー……」

「ん? でも電が青葉さんに聞いたって言ってた話では、球磨が――

 

 

『む、武蔵でっか!でっか!! 何アレ、超でっかいんですけど!?』(←大和:大はしゃぎ)

『お前もあんなもんクマー』(←球磨:手の甲で大和の胸を叩こうとしたが身長の違いから脇腹を叩く)

『……てへっ』(←大和:嬉しそう)

『うわぁ、腹立つくらい可愛いクマー』(←球磨:半目で大和の頬をつまんでぷにぷにする)

 

 

 という、大和さんを『お前』呼ばわりの上ドツキ漫才、大和さん側も不快に思っておらず仲は良好だとか、そりゃ尊敬の一つもされるってもんでしょ」

 

「待て、待ってください。 誤解です、それ、球磨は最初のセリフを誰にも聞かれないように呟いただけです。特に最後のセリフとか知りません、言ってません。 ましてや叩くと か無いですしぷにぷにとか恐ろしくて出来ません、はい」

「球磨、キャラ保ててない、慌て過ぎよ」

「知らんクマー!! 何言ってんだ青葉ー!!」

 

暁は思う。

そりゃ、あの大和さんをお前呼ばわりの上にドツキ漫才した軽巡洋艦となれば、尊敬くらいされる。つーか、いっそ畏怖。

ましてやほっぺぷにぷにとか、同格扱いのうちの戦艦組くらいしか許されないレベルだろう。とか周りの連中は考えてるはず。

暁にしても大和とは仲がいいので抱きついたりくらいはしているが、流石にそれは、ねぇ。

自分のところに妹がこの話を持って来た時はもういろいろ尾ひれがついていたんだなー、と。恐るべしは伝言ゲームか。いや、もしくは青葉か。

実は更に先ほどの話の後に『仲良く肩を叩きあう大和と球磨』って話もあったが流石にそれも尾ひれだろうと黙っている暁は実に大人である。

 

しかし、まぁ、なんだ。目の前で自分の無実を訴える球磨だが、

これ、もう多分修正不可能な事実として広まっちゃったんだろうなー、とか既に自分の妹が『球磨さん』呼ばわりしていたのを思い出してしみじみ感じ、そしてちょっとばかり同情する理想のお姉さん暁型一番艦であった。

 


9話後にお読みください

――ゆーばりさんとしらつゆちゃん――

 

「あのね、夕張メロンの場合の夕張は『ゆー(→)ばり』なんだけど、土地の名前の場合は『ゆー(↑)ばり(↓)』だって、北海道出身の人が言ってたんですよ」

「……白露……それを私に聞かせてどうしたいのかと」

「夕張さんの夕張はどっちの夕張なのかと気になって夜も眠れず」

「寝なさいよ」

「大丈夫、昼間に結構寝てるからっ」

「ダメじゃない」

 

なんて工廠で半分趣味なんだけどほとんど仕事で開発業務に勤しんでいる夕張に、なんか暇なのかなんなのかふらふらやって来た白露型駆逐艦1番艦 白露が真剣な表情で話しかけて来た、と思ったらこれである。

でもまぁ、夕張も言葉だけなら辛辣に返しているようにも聞こえるが、割と笑顔、というかちょっと困ったような表情ではあるが苦笑気味の受け答え。

実は、今までどっちも登場こそしていなかったがこの工廠で顔を合わせたりしていた為に仲がいい2人なのである。

そして流石に戦艦とかあの辺の方たちと違い、白露は夕張をちゃんと夕張として認識していた側の駆逐艦だったりする。

そんな白露。一部でなんかバンドとかしててギター持って歌いそうとかそんな疑惑もあるが、大和あたりからは『トップアイドルのくせに下手な芸人よりはるかに面白いどんがら系アイドル』に似てるなぁとか思われる下手すると自称艦隊のアイドルよりアイドルっぽい可愛い娘さんだったりするのだが、 この度、たまたま軍関係者の北海道出身の人に聞いた話を思い出し、夕張の発音について確認しに来た、という訳である。

 

訳なのだが。

 

「発音なんてどっちでもいい気もするわよね」

「そーなんですか?」

「だって、ほら……私最近、『大妖精』とか『博士』とか呼ばれてるし……もう名前で呼んでくれるだけでありがたいって言うか……」

 

遠い目をする夕張。どうしてこうなった、とか思いはするが、どうしてもこうしても単に大和のせいなのは考えるまでも無い。

大妖精は、例のあれだ、大きな妖精さんをそのまま短く、そしてなんだかわからんがそれ聞いて当の大和さんが「緑の髪だしいいよね」って納得してたし、

博士はなんだそれだあれだよアサシオンを作り、そして改造してるあの博士だ。いやもう話は聞いたがなんだアサシオン。っていうか私どう聞いてもそれマッドじゃねーか、という感想しか出てこない夕張な訳で。

 

それだけならまだしも駆逐艦数名から連名で白衣をプレゼントされた時はマジどうしようかと思った。

加えてあれ以来どうにも工廠に来ると妖精さんがわらわらと自分の周りに集まってくるのを感じている夕張。いや集まって来た上に敬礼とかされるんだ。もう本当このまま開発大妖精 夕張博士として工廠に君臨してやろうか、なんて自暴自棄になりかけたところで

 

「いーじゃないですかー、可愛いですよ『大妖精』、なんか凄そうですよ『博士』っ!」

 

凄く楽しそうに、両手でサムズアップして笑顔ではしゃいで声をかけて来る白露。

なんというか、この子はいつも無駄に明るいな、なんて苦笑しならその姿を見るも、なんだかんだでそんな前向きな姿に元気を分けて貰ってる、とかそんな感じ。

なので夕張、いろいろ考えこんじゃう性格もあってか、くだらない悩みを吹き飛ばしてくれる元になってくれている白露と一緒に居るのは好きなのだ。

だから、そんな彼女の無邪気に称賛する言葉を顧みて、

まぁ、陰口で言われてるわけでもバカにされてるわけでの呼び名じゃないし、別にいいかな、なんて楽しそうな白露を見ててつい思っちゃう夕張さんなのでした。

 

 

 

「で、私も改二クラスに強化とか出来ませんかね?」

「妖精さんに聞いて」

「妖精の親分さんじゃないですか〜夕張さ〜ん」

「誰が親分かっ!」

 

そんなことを話しながらも、夕張の作業服に2名の妖精さんが貼り付いている状況だったりして『ニャンまげ』は候補に挙がらなかったのかな? なんて思う白露だった。

 


これは8話後でいいや

――いもうとさんたちのにちじょう――

 

「……ん〜」

「……どうしたんだ陸奥」

 

例の山城さんがリーダーやってる鎮守府。平たく言うと妹鎮守府な場所、その食堂で昼食を取りに来た武蔵が見たのはエビフライを咥えて何やら考え込んでいる陸奥の姿だった。今日もむっちむちである。

いや、うん、むちむちは置いといてだ、何事か、と思い声をかけた武蔵。その姿に気づいてか咥えていたのを皿の上に戻し律儀に答えを返してくる。いや食べていいんだぞ。

 

「あ、武蔵。 大したことじゃないんだけどね、ほら、私昨日演習行ってたじゃない」

「ああ、南の方の鎮守府と合同、だったか」

「そう、それ」

 

そこでまたちょっと眉をひそめる陸奥。

武蔵は思う。演習で何かあったのか、と。

結果は確かこちらの勝利だと聞いている。いやそもそもその手の演習は勝敗はそれほど重要じゃなくいろいろな経験値を得てくるものだ。というのが本来の目的。

でもまぁ勝敗がある以上拘ってしまうのはしょうがないし、その成績如何で鎮守府の、そしてその鎮守府を率いる司令官の格に影響するともあって結構熾烈な争いになったりもするのだ。

ただまぁ、なんというか、ここの鎮守府では割合『山城が旗艦の時に勝敗にこだわる』ものが居たりするから笑い草ではあるのだが。

ともあれ、今回に関しては旗艦 陸奥で山城は参戦していない演習だったはず。いやそもそも勝利して帰って来ているから勝敗が問題なはずはないだろうと、とりあえず陸奥の話を促してみたのだが

 

「いや、ほら、向こうの艦隊に長門が居たのよ」

 

陸奥にとっての姉だ、基本そういった演習はほぼ同格の相手が出てくることが多い。だから陸奥に対して長門が出てくることなど珍しい訳でも無 い、もっとも艦娘として現れるのが物凄く稀な存在であるために珍しいと言ってしまえば珍しいのだが、でもそれのいったい何が問題なのかと続きを聞くと

 

「長門にね、言ってみたのよこの間の武蔵のマネをして」

「マネ?」

「勝った方にお酒を奢るとかどうかしら? って」

「……ああ、あれ、か」

 

以前の合同演習で、『あの』大和に武蔵が言った言葉だ。当然よく覚えている。

言ってしまえば妹が、ちょっと素直に甘えられない妹が姉に零したわがままだ。

だったのだが、あれだ、その、なんかその後が妙な事になったむしろある意味事件だ。あの一幕を思い出し、思わず苦笑する武蔵。それにつられたのかあの騒動を思い出したのか陸奥もクスリと微笑んで、言葉を続ける。

 

「ええ、あれ、なんだけど、それに対して長門ね。 『そうだな、そう言うのも面白い』って了解してくれて、まぁ、その後私たちが勝ったから交流も兼て飲み会になったんだけど……」

「……なんだ、楽しめなかったのか?」

「いえ、まさか。 楽しかったのは楽しかったんだけど……なんていうのかな、なんだろう、その、ほら……

 

 

 『なんかちがう』

 

 

 って思うのは私がズレてるのかしら?」

「……すまん、私も『ちがう』というのは解る、言いたいことは解るんだが……ズレてる、な」

「そーよねー……」

 

実になんとなく、なんとなくの話だ。微妙に話のキモを抜いた感覚だけの会話だが、間違いなく二人の会話はきちんと噛み合っていて、

長門の対応が至極真っ当で理想の返答であることは間違いないし期待通りの反応だと理解しているのだが、

なんだろう、なんていうか、なんといっていいかなんだけど、

 

『物足りない』のだ。

 

そんな思考に至る自分に呆れ、ふぅ、とため息をついたところで、目の前の陸奥からも、はぁ、なんてため息が聞こえてお互い気づいて視線を合わせ笑い合う。

 

「まぁ、原因は解りきってるんだがな」

「そうよね、単に……」

 

 

「「『お姉ちゃん』のせい」」

 

 

「よね」

「だな」

 

 

妹鎮守府は今日も平和なようである。

 

 

 

 

 

そして真っ当なはずの長門に対する謂れの無い非難である。酷い。

 


上の後くらい

――おねえちゃんぴおん――

 

「むっちゃんのむちむち具合を見て改めて思いました、長門さん、その服はエロいです」

 

最近すっかりジャージ姿が当たり前になりつつある戦艦組だが一応仕事中はいつもの艦娘服ということで例のタツノコ系の姿をしていた長門、

それに向かい大和が言い放った言葉である。いきなりにも程がある。

 

「そうは言うが大和、お前も……潜水艦スカートの時に長いのがいいとか言いながら自分はそんな短さでヤバイくらいエロい、っていうか横の穴がヤバイ」

 

そんな大和に長門が返した言葉がこれである。

なお、2人とも艦娘服である為現在は仕事中、のはずである。

 

「んむ。 いえ、スカート短いのはお互い様です、私としては長門さんのそのヘソ出しがマジどうかと」

 

ビシっと指をさしてエロ部を指摘する大和。かと思いきやそのまま指を伸ばしてヘソ周りをちょいちょいつつく。

 

「ちょ、ま、くすぐったいから、くすぐったいから。 いや、なんだ、大和だって上半身は露出少ないように見せているけれどぴっちり体のラインを出しているから胸とかあれでそれだと思う」

 

身をよじらせながら反論をする長門。マジくすぐったいらしく妙ににやけているのがポイントだ。

 

「いやいや、長門さんの姿には敵いませんって」

「まてまて、大和から醸し出される雰囲気はもう一流」

「むむむ」

「ぬぬぬ」

 

「つまりあれですか」

「ああ、これはあれだな」

 

 

「「どっちがエロいか勝負!!」」

 

 

 

 

 

 

「という、無駄な争いが本日鎮守府内工廠で勃発した」

 

なんて話を突然に、遠い目をした伊勢に語られた吹雪としては同じように遠い目をしながら「うわぁ……」くらいしか答えようがない。

うちの戦艦組がいろいろアレでソレなのは知っていたけど、まぁ、いつもどおりのアレでソレなんだけど、なんだか「うわぁ」なのである。

解っているんだ。いつも一所懸命な大和と真面目な長門。ちょっと向かうベクトルがズレただけなのは解るんだけれど、実にいろいろと残念な結果になるのだ。

 

なんだかんだで普段はしっかりしてて頼りになる憧れの戦艦達なんだけどなぁ。なんて遠いお空に思いを馳せてしまうのは仕方ないと言うものだ。

 

ともあれ、結局そんなよく解らないエロ勝負、結果いったいどうなったのかと伊勢に聞いてみたのだが。

 

 

×大和&長門  35.6cmラリアット ○扶桑

 

「という扶桑お姉ちゃんによる主砲ラリアットが炸裂し暴徒鎮圧に成功という結果になった」(←伊勢:拳を握りしめ)

「ごめん、意味わかんない」(←吹雪:素)

 

 

実のところ、なんだかよく解らないけれども言い争ってる感じの2人を見かけ、間に入って止めようとした扶桑だったのだが、

工廠で艤装のチェックをしていた為にあの無駄に大きな主砲を展開していた、という事を忘れて2人の間に飛び込んだというなんだそれだ。結果言わずもがな。

 

 

扶桑お姉ちゃんが戦艦ヒエラルキーの頂点に立った瞬間である。

 


10話の後お読みください

――よふかしやまとさん――

 

「あれ、大和? どうしたのよこんな時間に」

 

現在深海棲艦の大規模侵攻に対する作戦が始まろうとしているところで、まぁなんだ、実際に参戦するのは長門だけなのだが過去の実績から近海の深海棲艦も活性化するだろうという事もあり警戒せねばという流れから緊急出動に備えて待機していた伊勢なのだが、

こんな時間、というだけあって夜更け、もう結構遅い時間に鎮守府内の廊下をふらふら歩いている大和を見かけて声をかけたのだ。

戦艦自体は決戦兵器というかなんかとりあえず一隻は緊急発進できるようにローテーションを組んで警戒態勢していた為にとりあえず今は大和は休んでいていいはず、そんな話で待機順番を軽く決めていただけに、こんなところでふらふらしているのを不審に思ったわけだ。

 

と、まぁ、そんなわけで休んでいると思っていた大和が、仕事着、つまりいつもの艦娘の服装のまま歩いていたので何かあったのかと思い問いただしてみた形になったわけなのですが。

 

「あ、はい、夕張さんとキムワイプ卓球してまして」

「……なによそれ」

「キムワイプの箱をラケットにした卓球です」

「いや、なに、その、競技の詳細を聞きたかったわけではなくてね」

「負けました」

「いやそーでもなくてね」

 

上記の話だけだと遊んでたのか、ともなるが、実際のところ真面目で社畜根性極振りの大和が仕事中に遊ぶわけ無い訳で、

イベント向けに強い装備を夕張博士の助手として開発していたのである。で、お仕事終わった後に遊んだ、という流れなのだがなんというか夕張も夕張で妙に凝り性だった為に白熱してこんな時間と相成ったのだ。

 

「……遊んでた割りには元気よね、大和」

「遊んでたから元気なんですよ」

 

伊勢としてはなんかこう、イベント関係でちょっとピリピリしていた自分がアホらしくなるなぁ、なんて思いながら大和といつものような会話。表情を見ればいつも通りの幸せそうな笑顔。

毒気を抜かれると言うか緊張が解れると言うか、見方によっては間の抜けた姿にも見えなくもないこのお気楽な戦艦、どうしてくれようかとも思うが、

 

まぁ、こんなんが居てくれると緊張しすぎなくて助かるものね。

 

なんていい方に考えて、今から夜間哨戒任務に向かう水雷戦隊の気負った姿を思い出す。イベント中だからという事でいつもより遠いところまでの任務。活性化しているだろういつもより強力な深海棲艦を相手取るのに軽巡、駆逐艦だけでは不安もあるのだろう、硬い表情をしていた彼女達。まぁ、なんだかんだで弱いからねぇウチ。

 

だから

 

「大和、暇? 出撃。 ゴー」

「突然すぎますが了解でっす! 詳細お願いしまっす!」

 

そんな彼女達の緊張をほぐす意味でも、いざという時の火力追加の意味でも、この暇そうな戦艦を水雷戦隊にぶち込んでやればいいかと軽く出撃を促したわけだ。提督には後から言っておけばいいや程度の認識で。いやこんなあっさり引き受けるとは思わなかったのもあるんだけど。

 

「――という訳で、まぁ、滅多なことないだろうからついていくだけでのつもりでいいとは思うけど、ちょっと状況が……まぁ、大和の言うところのイベントなんでよろしくお願いしたいのよ」

「ふむ、水雷戦隊に組み込まれるという事は、私も魚雷を搭載していいと」

「……アンタの砲撃は既に雷みたいなもんでしょ」

「おお。流石お伊勢さん、上手い事言いますね」

「いやいいから、とりあえず川内旗艦での編成になってるから合流しておいてね」

「はーい、いってきまーす♪」

「なんでそんな楽しそうなのよ」

「夜のお出かけとか滅多にないですから」

「……大和はもうちょっと緊張感持った方がいいと思うわ」

「そうだお伊勢さん、川内ちゃんの『川内』はああ書いて「せんだい」ですけど、仙台にある『川内』はああ書いて「かわうち」なんですよ」

 

言葉で聞くとよく解らん、そう思った伊勢であった。

ともあれ、これが大和がふらふらして夜間哨戒に行くことになった流れである。

 

 

 

なお、キムワイプ卓球。実在する競技である。

 


別にいつ読んでもいいような割とどうでもいい話

――くーでたーだよ、ごーやといむや――

 

「今こそ合体でち!イムヤ!」

「……仕事中に何言ってるのよ」

「このゴーヤとキャラ薄いイムヤが合体することにより、伊226に進化するのでち!」

「話聞きなさいよ、あと数字足すな」

「226……つまり、クーデターを起こし、ゴーヤたちが鎮守府の頂点に立つのでち!!」

「……二・二六は陸軍よ」

「……」

「……」

「……」

「……後、負ける」

「oh……」

「仕事、しなさいよね」

「はい……」

 

 

 

「……誰のキャラが薄いって!!」

「遅いでち!!」

 


11話の後がいいのかな、内容は11話の前の話。

――たたかえぼくらのでらっくすやましろさん――

 

「山城はなんであんなにやる気がないんだろうな」

「まぁ、言動と行動が一致してないだけなのだが、見ていると1人でなんでもこなしてしまうのにな」

 

武蔵の言葉、というか愚痴に日向が同意、うんうん頷きながら言葉を返す姿が、ここ妹鎮守府の一室で見られた。

見られたっつっても見ているのはその場に一緒に居る陸奥くらいなのだが、まぁ、2人の話には同意できる身なのでこちらもうんうん頷いている。

結局この三人の戦艦、山城に対し思うところがあるということでの集まりなのだ。

 

普段、この鎮守府に所属する戦艦4人組として固まっている場合が多い、どこぞの姉鎮守府みたいな状況になっているのだが、違いがあるとするならあちらは自然にふらふら集まるのに対し、こちらは確かに自然にではあるのだが山城に集まるのだ。

何しろ山城さんと来たら、放って置くと1人で悲壮感漂わせてたりオーバーワーク気味に黙々と仕事してたりするものだから放って置くと危なっかしいというかむしろなんか手伝うことないかというそんな感じで集まり始めたのだ。

とはいえ、危なっかしいと言っても別に山城の仕事っぷりや仕事の出来に不満があるわけでもなく、単純にもう休めとかもっと気楽に構えろとかそんな意味合いである。山城働きすぎなのだ。

なので、本日山城抜きで3名しかいないのはそんな山城をどうにか出来んもんかという会合。

だったのだが、あいつよく働く割りに見るからにその言動、態度にやる気というものが見られない。どころかやる気ない、もういや、とか普通に宣言している始末。

仮にもこの鎮守府のリーダーに収まっているのだ、他の艦娘達からも信頼されているのだからもうちょっとこうしゃきっとして欲しい、という

なんというか山城さん側近みたいになって来ている戦艦組の面々の願い。

 

でもこれ山城側からすると、仮なら仮でそろそろ降ろして貰えませんかねぇ、というところだ。

しかしそれをそのまま言えば多分「仮」の部分だけを降ろされること請け合いである。というか元より仮なんてついてない。

そもそもからして山城、あくせく仕事してたりなんやかんやは実の所自身のコミュニケーション能力がアレな感じというか元々陰気な感じの自分が解っている為に他の艦娘達と接するのがどうしたもんだか状態な為に割と逃げ回ってしまっている訳で、

効率のいい逃げ道って仕事に没頭することだよね。というヘタレコミュ障のワーカーホリックしているのが現状なのだ。要するにいろいろと目を逸らしているのだ。このヘタレが。

ただそれでもてきぱきと仕事をこなして、見事に鎮守府を回しているのだから大したものである、しかしそれによって自分のゆっくりする時間もないだろうに、と心配するこの3名だったりするのだが、

 

それ以上に山城のやる気の無さが解せない。

 

いややる気の無さというよりあの言動、態度のせいで、ウチ山城マジ凄いのにセリフ聞いてると凄く見えない、不思議! となる状態がなんとなく気に入らないのだ。

 

要するにあれだ。

 

「山城の凄さ、みんな解ってないわよねぇ」

 

なんて呟く陸奥に、同意する武蔵と日向。つまりは山城凄いんだ、もっと称えろ。ということなのだ。

なお、この場合の「みんな」であるが、鎮守府内の他の艦娘の事ではない。鎮守府内は時雨の草の根活動と噂される布教活動によりもう山城凄い、山城カッコイイ状態なのだ、主に駆逐艦の間で。

下手するとあれだ、あのやる気のない気怠い姿も中二病感あふれるあの気怠さで、鎮守府のピンチには「やれやれ」言いながら現れて隠していた本当の力を発揮、その後儚い笑顔で「みんな大丈夫?」なんてもうニコポコースになる予定なのだ。特定の駆逐艦の間では。

なので、陸奥の言うみんな、はこれ余所の鎮守府の連中のことであり、要するに「うちの山城かっこいいんだぜー!」って自慢したいのだ。本当なんだこの鎮守府、病気か。

ちなみにこんな状態を何となくだけど不幸にも察してしまった山城さんの心情は「時雨が増えた……」だったとか。

 

「山城の凄さをどう説明したらいいのか解らないからな、なんというか見た目も言動も、雰囲気さえも普通の山城と変わらないから」

「だからこそ凄いのだろうが、こう、普通の山城と違うということを解らせる方法でもないのか」

「渾名でも付けてみる?」

 

日向、武蔵の話を聞いて、なんとなーくの気持ちで陸奥が呟くと、もう「そ れ だ」って感じに食いついてくる武蔵。ぱっと見冷静な感じで傍にいるが日向も満足した顔でうんうん頷く。

 

「……凄いんだから、スーパー山城、とかどうか」

「日向、それはなんか生鮮食品とか売ってそうだ」

「ふむ……では山城スペシャルか」

「それはもはや必殺技だ」

「ゴージャス山城」

「芸人か」

 

と、まぁ、真面目な顔して冗談みたいなことを言い合う2人を前にして、遊んでるんだろうな感覚で、しかしそれでも山城の万能さ、立派さを表す言葉は無いかと考え、口を衝いて出たその案が

後に本部登録されてしまうことになるとは夢にも思わなかった陸奥さんなのでした。

 

 

でもちょっと自分の案なので誇らしい。

 


少なくとも11話の後にどうぞ

――あさゆうあぶきた――

 

「司令官(笑)かー」

「司令官(笑)ねー」

「(笑)」

「(笑)」

 

「「ぶははははははははは」」

 

という感じでいつもの平和なあの鎮守府の食堂で、例によって阿武隈北上が談笑して爆笑中なのである。なお、食事中である、はしたない。

見てわかるとおり話題は大和さんのアレである。

誰がどう見ても珍妙な名前を付けられたもんだと、というか元々司令官呼ばわりはこの2人がしていたのが発祥だが、流石に(笑)とか付くとは思わなかったわけで。

でも、そんな名前にこの信者2名当然ながらバカにしているわけではなく、

 

「いやー、流石大和さんだねー、こんな早くに名前持ちとか、驚きだねぇ」

「しかも(笑)とか、いや、もうなんというか流石ウチの大和さんよねっ」

 

と、何がどう流石なのかよく解らないけど本人達の中ではもう兎に角流石な感じに大絶賛なのだ。なのだが

 

「だというのに、朝潮っちは何そんな不満気なのか」

「(笑)のこと? ただ強いだけじゃなく、皆に笑顔をもたらしてくれるウチの大和さんをよく表した名前だと思うわよ?」

 

阿武隈の信者補正ではそういう解釈らしいが、ともかく2人の前に居る朝潮が、なんだかこう、不満気なのだ。

この真面目一辺倒な朝潮がこんな表情をするだけで実はなんとも珍しい。めっちゃしぶりんに似てる、とか思う巡洋艦2人がそんな朝潮が何考えてるのか話を促したところ、

 

「『大魔王』、『大魔王』こそ大和さんに相応しいのにっ……」

 

ということらしい。なんとも朝潮さんはいろいろと拗らせたままだった模様。

そんな朝潮さんに流石のあぶきたも「お、おぅ」くらいしか言えず、「解ってない、本部は大和さんの本質を解ってないっ」と呟くチャーハン目の前にして先割れスプーンを握りしめた朝潮をどうしたもんだかと悩む。チャーハン冷めるぜ。

 

「うむー、この傷心の朝潮っちに、なんとか言ってやってくださいよ、博士〜」

「北上、突然何か知らないけど私に振らないでよ」

 

困った北上、ちょうど自分の後ろを通り抜けようとしていた夕張を見つけ、せっかくなので巻き込むことにする。外道か。でもいいよな、アサシオン開発の博士だし。というかもう最近は博士で反応するようになったらしい夕張。

と、実に適当に夕張に話しかけた北上のフォローなのか阿武隈が変わって事情説明。それを聞き、そんなこと言われても、と思う夕張であったが、まぁ、なんだ目を閉じて、ため息をついて、いたら北上から「はっかっせ、はっかっせ」なんて囃し立てられる始末。コイツ殴ったろか、とか思うのだが、いつの間にか傍に来ていて同調する白露。なんなんだ本当。

まぁそれでもとりあえずその場を何とかしようと目を開き朝潮を見つめて、なんとか出来そうな言葉を思いついちゃったものだから、んんっ、と軽く咳払いした後についつい発してしまう夕張。

 

 

「朝潮、あなたはそれでいいの?」

「……え?」

「いい、大和さんが大魔王として目覚めてしまった場合……貴女は、戦い、彼女を倒せるのかしら、貴女が止めなければならないのよアサシオン」

「……博士……そうですね、それなら、これが一番いいのかも、しれません」

「そうね、そして、その来たるべき日、いえ、来て欲しくないその日に備えて、貴女は強くなっておきなさい……とりあえずチャーハン食べて」

「はいっ!」

 

 

 

なんて無駄にこう、威厳たっぷりに上から目線で朝潮に割とどうでもいい事実?を突き付ける夕張博士。それに対してギャラリーどものどよめきと、周囲の駆逐艦達からの「は……博士……っ」ってな声が聞こえる始末。

 

やっておいてなんだが、なんていうか夕張の心はなんとなくこう、あれだ、何かに負けた感じだ。場を収めたからいいんだけどさ。いやそもそも私が収める必要あったのかよこれ。

いや、うん、そうなんだ、これ私が悪いんだ、思いついちゃったから言ってみたくなったんだよ、解るだろ!?

 

「夕張すげー……とっさにあんなセリフ思いつかないわー普通ー」

「いやいや、もうあれよね、思いついても言えないわーこれー」

「朝潮ちゃんが心打たれる、そして周囲まで納得させるセリフ選びとこの夕張さんの意外な演技力、いやー、良いもの見ましたねー」

 

拍手する北上と割と辛辣な阿武隈の声が虚しく心に響き、最後の青葉マジ張っ倒そうかと真剣に悩む、

先ほどの一連のセリフを食堂のカウンターから貰って来た天丼を持ったままの姿で言い放った夕張博士だった。なお作業着。

 


何話の後がいいのかよく解らん

――あさしおん だいひゃくじゅうにわ そのかなしみのむこうに――

 

「……っ! 博士っ!!」

 

アサシオンの視線の先、

曰く博士の研究所、現在では半ばアサシオンの秘密基地の様な扱いになってしまっている隠された研究所の中で

無機質な床に膝をつき、力なく項垂れている博士の姿が見えた。

 

壁は砕け、いろいろなものが散乱してしまっている部屋の中で、

 

明らかに血だまりだと解るそれの中で座り込む姿の彼女に、アサシオンは急いで駆け寄る。

 

そんなアサシオンに気づいたのか、ゆっくりと顔を上げてその視界に彼女の姿を確認する博士だったが、その行為で重心がズレてしまったのか、そのまま糸が切れた人形のように横に倒れる。

なんとか辿り着いたアサシオンが彼女を抱き上げ呼びかけるのだが、顔はアサシオンに向きはしても、その身からは力は感じられず抱きとめるアサシオンに身を委ねるばかり。

そしてなにより、抱き上げたから気づいてしまう。

博士の傷がもう致命傷であるという事に。

 

「は……はか、せ……」

 

何と言っていいか解らないアサシオンの声に反応し、何とか声を出そうとするも上手く行かないのかその口からは息が漏れるだけ。

そしてそんな自分の状態に困ったように軽く苦笑する博士の姿が痛々しくて、

過去、自分をこんな身にした張本人だと言うのに、そして今もお互いを利用している関係だと割り切っていたはずなのに、自然とアサシオンの目には涙があふれて来てしまう。

 

 

そんなアサシオンの姿に思うところでもあったのか、もう言葉も出せない博士は、おそらくは無理やりなのだろう、最後の力を振り絞って、その右手をアサシオンの顔まで持っていき

そっと彼女の涙を指で拭き取ると、そのまま頬をなぞりながら

 

力無く落ちて行った。

 

「は、かせ? ……博士……目を開けてくださいよ……」

 

アサシオンの声に反応するものは無い。

思えば博士は自分の事を殆ど語ることは無かった。

強敵を倒した時に一緒に喜んでくれた、勝てない相手に出会った時は一緒に悩んでくれた、しかし終ぞ彼女が何故あの化け物たちを倒したいかは語ってはくれなかった。

自分の作り上げた物がアレらに対抗出来るのを確認したい、とは言っていたが、おそらく、それが本当の理由ではないとなんだかんだで付き合いの長いアサシオンは思っていた。

だから、いつかはそんな話もしてくれるだろうと、そんな未来を期待していた。

 

しかし現実はこれだ。

 

彼女は自分の目的の為に力を貸してくれた、それは間違いない、でも

私は、彼女の為に、彼女の目的の為に何も出来なかったのではないのか。

そんな思いと、

 

そして何より

 

ここまで一緒に歩んできた「友達」を失う苦しさを受け入れがたいアサシオンだった。

 

「ねぇ、はか…………ゆ、うばりさん、夕張さん!! 起きてくださいよ夕張さん!!」

 

奇しくも、アサシオンが、いや朝潮が彼女の名前を呼んだのはこの時が初めての事であった。

 

 

 

 

 

 

 

という夢を見てしまった潮さんは、この話を報告すべきかどうか、

いやそれ以前に私この話結構好きでなんだかんだで続きを考えていたんだな、と布団の中でめいっぱい悩み。

 

とりあえず心の中で夕張に謝りながら、現実逃避に二度寝をした。

 


13話の後かなぁ

――ふぶきちゃんとむつきちゃん――

 

「大和さんっ、大丈夫ですか!?」

「あ、吹雪さん……あのですね、その……私のUHFアンテナ知りません? どっかに落としたみたいで」

「お前のあれ測距儀じゃねーのかよ!!」

「そ……っきょ、ぎ?」

「お前本当に戦艦かよ!!」

 

 

 

 

「という事件が、ほぼ沈みかけてた大和さんを引き上げた時に起きたんだよ睦月(39)ちゃん」

「おいちょっと待って、どこから突っ込んでいいか解んない、けどとりあえずなんなのその括弧」

「あの大和さん、本当ツッコミどころが多いと言うかそれしかないというか……」

「話を聞いてよ吹雪ちゃん」

 

本部の海の傍、埠頭つーのか岸壁つーのかなんかそんな感じの場所で、遥か水平線を眺めながら『長老』吹雪とほぼ同期の睦月が語り合う。

雰囲気だけならなんか物悲しげな感じもしなくもないアレなのだが、会話内容はおかしい。一方的に吹雪の言葉がおかしい。

そんな吹雪に、実際問題今のお前がツッコミどころしかないわ、なんて思いながらも、睦月はこれをなんとなく懐かしい雰囲気だと感じる。

今ではすっかり本部付きの大人しい艦娘になってしまったが、当時の吹雪はいろいろと全力空回りのエンターテイナーだったのだ。もっともそれは本人的には黒歴史らしいのだが。

だから、そんな吹雪が先の戦闘、そして修理滞在中に関わって来た大和の話を聞いて睦月が思うことは一つ。

 

「なんか……昔の吹雪ちゃんみたいだよね、その大和さん」

「失礼な! 私もまぁその、結構アレだったかもしれないけれど、あそこまでアレじゃなかったよ!?」

「でもほら、吹雪ちゃん昔、酔った勢いで愛宕さんに「この駄乳がっ」っておっぱい横から叩いてたじゃない」

 

すごいぶるんぶるん揺れた模様。

 

「そんな昔の事忘れて!! っていうか、私酔った勢い! あの大和さんならシラフでやるから!!」

 

吹雪の叫びはほぼ正解に近いが、大和の場合叩くではなく愛でるのである。

 

「でも、大変だったんだろうけど、こないだの戦いから帰って来てから吹雪ちゃんちょっと昔のノリに戻ったよね、最近大人しかったから心配してたんだよ?」

「あのねぇ。 『長老』とか言われて他の吹雪型の尊敬集めちゃってるんだよ私……ちょっと自覚して立派にやっていこう、って頑張ったのに心配されるとか、とても複雑だよ」

「あははは、でも私の中じゃ『長老』と言うより『吹雪様』の方なんだけどな吹雪ちゃんは、なんで長老で落ち着いたのかなぁ」

「やめて、それ忘れて」

「えー、あの駆逐艦が戦艦を沈めた、という伝説を作った『吹雪様』を忘れるとか当時を知ってる人なら無理な相談だよ」

 

それは当時イギリス帰りでプライド高く調子に乗ってた上に言う事聞かない金剛にいらっときた秘書艦吹雪が彼女を諌めようとした時の事件。口論の末何がどうなったのか突然のステゴロ、決まり手は膝裏をローキックから 金剛を片膝立ちにしたところに間髪入れずに綺麗に入れたシャイニングウィザード。駆逐艦が戦艦を沈めたという今も本部内で語られる伝説の一戦であり、彼女を『吹雪様』と(金剛に)言わしめた恐怖の下剋上であった。

 

通称シャイニングブリザードである。

 

 

「げふっ」

「こうして思い出すと、本当いろいろやらかしてるよね吹雪ちゃん」

「も う や め て」

 

今もなお本部内でシャイニングブリザードと言えばその一単語で上記の事を意味すると言う程浸透してしまっている過去の自身の英雄譚を聞き憔悴する吹雪の横で、あの頃を思い出してくすくすと笑う睦月。

当時から、本当に長い事一緒に居てこうして語り合う戦友にして親友。お互い古株として大人しくしていた為にこんなじゃれあいも随分と久しぶりで、とてもいいものだなぁ、なんて笑みを浮かべ今この時を心に刻み込もうとする睦月だった。

 

 

「なによー。 そっちだって最近大人ぶっちゃって、もっと以前みたいに『にゃしいにゃしい』言ってもいいんだよ睦月(39)ちゃん」

「よーし、その喧嘩買っちゃうぞ☆」(←黒歴史らしい)

 

 

期せずして、突如始まるシャイニング吹雪 vs ボンバー睦月の無制限一本勝負。当時を知る関係者からしてみれば夢の一戦の幕が切って落とされた。

 


上の睦月の過去

――はいぱーにゃっしぃ――

 

「よーし、みんな集まったかにゃー☆」

『はい!』×いっぱい

「これから私たち睦月型は決死の覚悟で近海に向かうんだよー。 でもー

 

 命令は出ていませんので軍規に違反しております。 加えて状況を知っていると思うのですが当然危険、帰って来れるかどうかも怪しいのです。 ですからー

 

 

 

 

 

 覚悟のある子だけこの睦月に付いて来るがいい!!」

 

 

今は昔。

当時まだ艦娘たちの配備も充分とは言えず、そして鎮守府の数も少なく、それでもなんとか過去から受け継がれる情報により敵深海棲艦と熾烈な戦いを繰り広げていた頃の話である。

端的に言ってしまえばこの頃は敵深海棲艦の侵攻が苛烈であり、鎮守府の役割としては近郊での一方的な防衛戦がメイン。

打って出るにしてもそれが可能な艦隊編成が難しく、なにより敵の行動も攻めて来るまで解らないなど常に後手に回っていた状況だった為に防衛戦しか選択肢がなかったのである。

 

とはいえ、それでも近年充実してきた味方戦力の艦娘達。重巡洋艦も増えたことに加え、巨大戦力の長門型、そして高速戦艦の金剛型の配備が目立って来た為に火力にモノを言わせる傾向になり戦況も安定し始め、ここから巻き返しだと軍関係者の士気は上がって来ていた。

その矢先のことである。

 

連続して鎮守府近海における被害報告が上がる。更には敵船影を確認出来ずとのこと。対策を講じるも何しろ敵が見えないということから一方的な被害状況、軍上層部が頭を抱える中で出た結論は敵性体が潜水艦であるという事。

それまでろくに対潜水艦装備も無いままだった状況で急遽準備、対潜水艦作戦を開始するも思いの外成果は上がらず、近海は支配され対潜水艦能力を持たない艦船は出撃さえ出来ない事態に陥ってしまっていた。

 

と、そんな中でのことである。

火力重視になって来た軍の方針と特型駆逐艦の能力の高さからどうしても見劣りし、なるべくしてなるというのか特型の二軍扱い、普段は哨戒任務か遠征要員としての立場になってしまっていた旧式の睦月型、その一番艦である睦月が何を思ったのか突然立ち上がったのだ。

普段緩い雰囲気を持つ彼女なので「何を思ったか」という扱いになってしまうのだが、彼女とて国を守るための軍艦だ。自分たちの能力が今一線で働いている連中に比べずっと劣っているのは理解しているからこんな立場に甘んじていたが

自身が戦うための船である、という誇りを忘れるような真似はしない。

 

元より二軍。ならばこの身が沈もうとも、自身を表すその名の通り潜水艦を駆逐して来よう。と思い立ってしまったのが冒頭の話。本部所属、そして近くにいた睦月型すべてに声をかけ 司令部に黙って出撃という凶行となったのである。この頃の睦月ちゃんは若かった。

 

「ねえ、睦月ちゃん」

「なに? 如月ちゃん」

「その……みんなに爆雷を用意しろとは言ってたけど……睦月ちゃんそれ、何?」

「およ? 爆雷だよ」

「そ、それは解るんだけど……なんで爆雷が扶桑さんの艦橋みたいになってるの……かなって」

「やだなー如月ちゃん、潜水艦はいっぱいいるんだよ?

 

 

 

 全部沈めるつもりでいっぱい持って来たに決まってるにゃしぃ!!」

 

 

 

そんな睦月の『もう狙いとか大まかな感じで持ってる爆雷を手当たり次第にばら撒いてみたらたくさんいた潜水艦をぼこぼこやっつけちゃったのですよ』的な活躍により圧倒的不利に陥っていた戦況は覆されることとなり、更には軍規に違反した罰として睦月型全てで日本全国の近海を回り潜水艦を潰してくることになったのだが、最初の睦月の作戦をリスペクトした他の睦月型による『あの辺に潜水艦がいるぞー!ばら撒けー!!』を合言葉とする作戦が各地で大々的に展開され、

いつも明るい伊号潜水艦に「あいつ頭おかしいでち」と血の気の引いた青い顔で語らせたり、後にドイツからやって来た潜水艦がガッチガチに緊張しながら菓子折り持って涙声で睦月に挨拶に来たりと言う事件に発展することになったこの通称『くたばれ潜水艦』大作戦により――

 

 

 

 

その年、この国の食卓から海の魚が無くなったのはこんな作戦考えた睦月のせいである。

 

 

またこの作戦により延々と爆雷を作り続けた工廠妖精さんが過労で倒れた。睦月のせいである。

 


後日談、あるいは未来の可能性の一つ

――しれいかんかっこかり――

 

「司令官って何したらいいんですかー!」

 

あの戦いから暫く後、すっかり落ち着いてしまったはずのあの鎮守府内執務室から突如響き渡るアイツの叫び声。みなさんお久しぶりです。

何のことは無い、最終話からこっち司令官バイバイしたのはいいんだが後任の人事が決まらなかった為に「ちょっと暫く大和司令官やってくんない?」的な暴挙ともいえる打診が本部から来たこともあって現在大和司令官(笑)さんが大和司令官(仮)さんに臨時昇進中という訳だ。

何のことは無いとか言ったがいろいろ問題である。

問題ではあるのだが、実は過去の経験から深海棲艦の大規模侵攻ことイベント後は暫くあいつらも大人しくなり暇になる、ということがなんとなくだけれど解っているので本部としてももうちょっとだらだらしてようぜ、な状態。そんな時の人事に巻き込まれた大和さんマジとばっちりである。

 

という訳なので冒頭の叫びは「あ、今日天気良いから布団干しておいてね」レベルのノリで鎮守府のトップを放り投げられた大和さんの悲痛な心の表れなのである。

 

「あ、なんか懐かしいな、これ」

「そうね、あの時は旗艦だったから……凄い出世よね」

「違いはあるんだけどね、大和の表情とかさ」

 

そして同じ部屋に居た戦艦お姉さん達は、そんな大和を見ながら来たばかりの頃の突然旗艦事件を思い出してほんわかしているという砲火後ティータイム。ちなみに大和の表情の違いというのはあの時が涙目だったのに対して今回は半ギレ状況なあたりである。お前らもっと親身になってやれ。

とはいえ、司令官の仕事とは何か、と言われても戦うばかりの軍艦である彼女たちは解らんのだ、その圧倒的な実績とカリスマで鎮守府内の統制を取ったり(長門)、現場で指示出して艦隊を勝利に導いたり(大和)、深海棲艦の侵攻に対して鎮守府を切り盛りしたり(伊勢)、その穏やかな空気で皆を安心させ落ち着かせたり(扶桑)と実質司令官のお仕事を取っちゃってた割りには解らんのだ。

そんなんなので、本部としては司令官仕事してたこいつらに任せておけばいいんじゃね、という形で現在の状況なのだ。もっともそんな意図は知らないからこの大和は困っているわけなのだが。

 

だからいつもの頼りになるお姉さん方に助けを求めている訳だったりするのですが。

 

「とはいえな、旗艦の時とは違い、私も流石に司令官をやったことはないのでアドバイスしようもないのだが」

「そうよねー、むしろ経験ある方がおかしいと思うんだけどさ」

「あー、こないだ一緒したDXさんにでも聞いてみるしかないですかねー」

「それなんだけど、あの山城に聞いてみら、『正式にやってるわけではないし出来ることなら辞めたい助けて』って物凄く悲痛な声で言われたのよね……」

 

 

「…………まぁ、なんだ、その、とりあえずウチの司令官が何やっていたか思い出すあたりからでいいか」(←長門:露骨に話題を逸らす)

「……ですねー…………っていうか、その、ですね、ウチの司令官って……どんな人でしたっけ……」(←大和:汗)

「え、えっとー、へ、ヘタレ?」(←伊勢:その印象しかない)

「影、薄かったものね」(←扶桑:悪気は無い)

「……何したらいいんだ」(←長門:真顔)

「……漣ちゃんといちゃいちゃ?」(←大和:真顔)

「問題があるわ、漣は司令と一緒に本部移動したのよ」(←伊勢:真顔)

「ならウチの愛でたい系駆逐艦暁型といちゃいちゃしてみてはどうかしら」(←扶桑:真顔)

「雷は私のだぞ」(←長門:真剣)

「残り三択か……」(←大和:真剣)

「いろいろおかしい」(←伊勢:ちょっと冷静になった)

「じゃあ他の鎮守府を参考にしてみるというのはどう?」(←扶桑:真剣)

「私の元居た鎮守府では……司令官は金剛と扶桑に板挟みにされると言う仕事がだな」(←長門:悲壮)

「大変だ、ウチには金剛がいないわよ」(←伊勢:そうじゃない)

「私の1人勝ちね」(←扶桑:それでもない)

 

4名の会議は羅針盤を無くしたまま大海原へ出航したというかそんな感じの間違いだらけの展開になって来ていた。でもきっと、何が一番の間違いかと言われれば、このメンバーの真面目な会議に球磨先生を呼ばなかったことであろうと思われる。

その為、何がどうなったのかよく解らないけれど会議の途中「時期も時期だし鎮守府上げてクリスマスパーティーしようぜ」という話になりサンタコスチューム(那珂ちゃん用)を夕張に発注。そのままお正月イベント企画に雪崩れ込みそうになったのだがここで頼れるお姉さん扶桑さんがそもそもの問題を思い出し脱線していた話を軌道修正、でも年末大掃除企画は練り終えていた。

 

 

 

 

「まぁ、確かに詳しい人に聞くしかないよな」

「そうね、経験者とかに聞く、というかそもそも何もない状態で司令官やらせられるこの状況が変よね」

「ところで、大和は誰に電話してるのかしらね?」

「『提督』なんて言われている加賀とかじゃないのか? この間のアレで仲良くなったようだし」

「あー、確かに彼女なら司令官経験者扱いでいいかもねー」

 

結局、このまま自分らで話していても埒が明かない、ということに思い至った大和。知り合いの提督業に詳しそうな人に聞いてみることにする、という事で一旦話は収束、戦艦姉さん達が見守る中、司令官用の電話を取っておもむろにコール。

知らん間に大和も顔が広くなったんだなーとか受話器を持つ可愛い妹分の姿を保護者的な視点で眺める三名のその目の前で

 

 

 

 

「あー、元帥ですか? 大和ですにぃ、にょわー☆」

『おっすおっす☆』(←受話器から漏れる元帥の声)

 

 

 

「おいコラ待て!!」(←長門:驚愕)

「元帥軽ぅ!?」(←伊勢:爆笑)

「確かに誰よりも詳しいのだけれど……」(←扶桑:唖然)

 

 

 

でっかわいい系アイドルのファン同士という事が発覚し仲良くなった『長老』さんたちの元提督さんに助けを求める大和さんなのでした。

 


上の後

――ひしょかんけっていせん――

 

「秘書艦……ですか?」

「そーそー、大和さん秘書艦ってどーすんのかなって」

 

夜。

愉快な大和司令官とその仲間達鎮守府、いつもの皆の交流場である食堂に於いて、

夕食のあんかけかたやきそばチャーハンをもにゅもにゅ食べていた大和を捕まえ前の席を陣取り北上がいつもの締りのない顔で嬉しそうに問う。

なお、あんかけかたやきそばチャーハンとはかたやきそばとチャーハンを大きな皿に並べ、その上からドバっとあんかけを遠慮なく両方にかけた大型料理である。というのはまあ正直どうでもいい話であり、今の話題の焦点は「秘書艦」である。

 

秘書艦。

文字通り秘書である。艦になっているのは艦娘がやるからというそのまんまの意味。壁を塗り上げる艦娘がいたらきっと左艦になるのだ。その程度のものである。

では、今なぜこんな話題が出て来るのかという事だが、現在の鎮守府に於いて秘書艦と言えば司令官の補佐的な立場であり、そのサポートとして雑務をこなしたりスケジュール調整をする役割の、まぁ、どこまでもそのまんまな秘書なのであるが、

ここに来て、この度運命のいたずらで司令官なんていう物に成り果ててしまった大和さん。もう就任してしばらく経つというのに秘書艦を設定していなかったという状況がそうさせたのである。

他の鎮守府を見ても、そしてここの以前の提督を見ても秘書艦と言えばその能力ももちろん要求されるがどうにも司令官のお気に入り艦娘を傍に着けると言う傾向が存在するのも確かなのだ。

 

だから、誰だ、誰が来る。誰が秘書艦になるのだ。というちょっとした賭け事と、数名の「大和さんに気に入られてるのは誰なのだ」というなんだそのこういろいろ渦巻くあれとかこれとかで鎮守府内の空気がちょっとだけ変な風にピリピリしていたのだが。

 

「…………秘書、つけていーの?」

「いいに決まってんじゃん……」

 

当の大和さんはこの調子である。

まぁ、問う北上もそーじゃねーかなー、くらいには思っての質問だったので呆れながらも笑って済ませる。その辺はあれだ、信者だけあってよく大和を見ていたと言うところなのだろう。

しかし、北上はじめとする信者はともかく、それで納得しないものもいるわけで、というか期待しているものがいるわけで

 

「……私の出番ですよね」(←愛宕:立ち上がろうとする)

「いえ、ここは私が」(←鳳翔:先手をとられてなるかと対抗)

「馬鹿ね、私に決まってるじゃないの」(←暁:信仰心と愛を併せ持つ勇者)

「お前ら座ってろクマー」(←先生:大忙し)

 

という一幕が食堂の隅で起こる訳だが我らが球磨先生の活躍により小競り合いで事なきを得る。

とは言え、当の大和の周りでは問題の秘書の話は続いていて、仕事を円滑に進める為にも秘書艦は付けるべきじゃないかと話は進んでいく。

 

「一番秘書艦してた漣いなくなったし、交代でやってたお伊勢さんあたりが妥当なんじゃないのー?」

「そーなんですけどね、戦艦はある程度自由な状況にしておいた方がいいかなって。 私がこうして縛られてる立場になっちゃいましたしね」

「おお、いろいろ考えたんだね大和さん」

「司令官、ですからね! あ、これ『司令艦』ですかね私は」(←大和:キリッ)

「あははは。 でも大和さん、誰か秘書艦付けちゃった方がいーでしょ、誰かやってほしい娘とかいないのー?」

「やって欲しい……ですか」

 

北上の言葉にちょっと考え込む大和司令艦。その姿に食堂にいる艦娘達が一斉に息を飲む。

こーなるだろーなーと思いつつの発言だった北上は、ちょっとニヤニヤしながら周りを観察すると、やはり予想通りにどっかの純情おっぱい重巡や母性溢れる割りに実は乙女な軽空母とか、頼れるれでぃーなお姉ちゃん駆逐艦、そして厨房から乗り出している割烹着のお姉さんとかが真剣な表情で……

待って、ちょっと待って、なんで混ざってんの間宮さん、間宮さん秘書艦なれるの!? とか少々予想外な状況も混ざりつつ大和の言葉を待つのだが。

 

「……加賀さん、かな?」

「……大和さん、ウチ加賀さんいねっすよ?」

「ほら、あの加賀『提督』、彼女みたいな艦が秘書艦してくれればいいなぁって」

 

そんな斜め上な大和の発言に、それは仕事丸投げって意味ですかね、とか思いつつ、何かを決意した表情の大和愛溢れる面々を叩いている球磨ねーちゃんの苦労を視界の隅に捕え

この情報は青葉に流しておこう、とそう思う北上さんなのであった。

 

 

 

 

 

「行って来ます、瑞鶴後は任せます」

「加賀さん! 突然どこ行くの!?」

「大和さんが呼んでいます」

「ちょ、ちょっと! 加賀さんがいなくなったらこの鎮守府どうなっちゃうのよ!?」

「瑞鶴、あなたも充分に立派になったわ、あなた達の事は心配していないわ。 そして、女にはやらねばならない時があるのです」

「落ち着いて加賀さん!! あなたが移籍認められる訳ないでしょーが!」

 


13話の後から痛城さん開始あたりまで

――しまかぜちゃんとゆうだちちゃん――

 

「がるるるるるる」

「どーどー」

「がるるるるるるるるるるるるるるる」

「……どーどー」

 

ある日のとある鎮守府の一幕。

『狂犬』夕立ちゃんの改二姿の犬耳みたいな跳ねた髪がさらに反り返って見える位にいきり立っている。そんな状況を例のイベント以降すっかり『狂犬の飼い主』と成り果ててしまっていた島風ちゃんが達観した奈良の大仏みたい表情で宥める。

あれ以来、なんかこうすっかり懐いてしまったのか友達認識してしまった夕立と一緒にいることが増えた島風。彼女をなだめる場面ももうすっかりおなじみとなっているような気がする今日この頃。なお、どーどーは馬用である。

 

割と戦闘になると演習でも全力出しちゃう突撃娘な夕立、以前はその暴走癖から鎮守府内の面々も頭を抱えていた事案だったのだが、島風が面倒を見るようになってからはそのあたりの問題も減って来ていた。

何しろこの島風、艦娘として顕現するのは割と珍しい部類の娘なので提督に可愛がられたのかこの鎮守府内ではトップクラスの練度を誇るガチ勢。

意味わからん夜戦補正のある名前持ち夕立には戦闘力で一歩劣るとはいえ機動力は彼女を凌駕している為に暴走しそうになる夕立を先手を打って止められる唯一の艦娘なのだ。でもって、夕立も島風の言う事だから話を聞く。という好循環が作用し

もう今ではすっかり夕立と島風はセット扱いになってしまってるというのがこの鎮守府の事情。イベント時に艦隊組んだ仲間と友達にもなったようだし、島風と仲良くなってから笑顔が増えたのでもう鎮守府内でもここのところ夕立は問題児から可愛い駄々っ子に認識が変貌しつつあった。

 

なので、今回また暴れている夕立に関しても島風がなんとかするだろう、という信頼感から放置。酷くね?と思う島風だったりもするが、夕立にしてもあれで結構いい子なのでわがままを言える島風相手に駄々をこねているだけだったりするのだ。

 

で、今回何を駄々こねているのかと言うと。

 

 

「温泉ー! 私も温泉行きたいよー!! みんなでー!」

「山城さんも吹雪長老も行かなかったんだしさー」

「でもー、ずーるーいっぽーい!」

「いや、だからあれはね、壊滅的被害を被った大破した皆さんへの息抜きだったんだしね」

 

以前の必殺艦隊大破組による湯河原温泉旅行が夕立の耳に入ったというわけである。

 

「じゃあちょっと大破してくる!」

「そうじゃない」

「だって、だってだってだってー!」

「うるさい」

 

駄々をこねるほんわかした空気の『狂犬』と、そんなワンコを辛辣なセリフで抑えながらも頭を撫でて慰める島風お姉ちゃんの姿は、最近のこの鎮守府に於けるとても素敵な癒し空間だった。島風以外。

 

 

 

 

 

「っていう感じで夕立暴れてるんですけど、どうにかしてくださいよ大和さん」(←島風:電話)

『わかりました、今からそっちに向かって主砲撃ちますんで上手く当たるように夕立ちゃんに言っておいてくださいね』 (←大和:最近夕張さんが試作51cm砲を作ってくれたので撃ってみたい)

「そうじゃない」(←島風:素)

 


 

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