「で、北川よ」

「なんだ相沢よ」

授業も全て終わり、流され続けて遭難していた思考の海からチャイムという名の救難船が俺を引き上げてくれた放課後。

青く暗い海の中で頭を抱えていた時に一つ浮かんだ疑問があった。

きっと、北川なら答えを知っているに違いない。

何故かそう確信しながら後ろに振り向きざまに声をかける。

北川はどことなく気だるそうに頬杖をついてはいたが声だけはしっかりとして返事を返してきた。

「うむ、少しばかり気になることがあってな」

「うむ、オレで答えられることなら答えてやろうではないか」

意味深に、事実まったく意味深くない状況でもこんな風に頷きあってくれるコイツはかなりいいヤツだ。

そう思い、正しい回答を期待して俺は北川に今日一番の質問をぶつけた。

「『全校一斉お嫁さんにしたいランキング』ってなんですか?」(←何故か敬語)

昼休み、佐祐理さんが漏らした言葉だ。

日本語的にもなんとなくビミョーな感じだが昨日会った確か『鹿島』先輩がランキング2位らしい。

心の中では佐祐理さんのノリで発言した在りもしないランキングなのか、佐祐理さん自身の心のランキングかもしれないと思ったが、もしかしたら本当にそんなランキングが存在するのかもしれないと考え、北川の回答を待った。

「ああ、あの2人から聞いたのか?」

「あ、ああ、本当に、あるのか?」

「ふむ」

驚いたことに、別に『なんじゃそら?』とかっていう反応も見せないで北川は言葉を返し、腕組みをして何かを考え込むように椅子に深く座りなおしてゆっくりと説明を始めた。

「アレは、夏休みが始まる少し前のことだった……」

「は、話長くなりそうだな」

「うむ、そうだな、夏休みが終ればすぐに文化祭が始まるんだウチの学校は」

文化祭、と言うと秋が多い。

この学校は進学校ということもあって準備で授業時間を大幅に潰すのもなんだと夏休みの期間に準備を進めてしまおうという形から9月の頭に文化祭を行うそうだ。

「みんな、夏休みのことを考えて、出来の悪かった通知表のことなどそっちのけで遊びに行く事に頭を働かせていた、実に夏休み3日前」

きっと、北川本人のことなんだろうな、と考えはしたがあえてツッコムことをやめて話を促す。

「突如、教室に入って来た文化祭実行委員数名、その手には多くの紙の束」

「そ、その紙が、もしやっ」

「そうだ、何の前触れも、説明すらなく全員に配られたその紙にはこう書いてあったんだ」

 

『校内一斉 アンケート』

 

「……アンケート?」

「問1・あなたが思うこの学校における一番の名物は誰ですか 問2・あなたが思うこの学校における一番お嫁さんにしたい人は誰ですか 問3・あなたが思うこの学校における一番強そうな人は誰ですか などなど、まるで……」

「そ、卒業文集みてぇだな……」

視線を合わせ2人で頷く、話を聞けば今年の文化祭の出し物(?)の一つだったらしく、上位3位までの結果は体育館に張り出されたそうだ。

何考えてるんだ文化祭実行委員。

そして、本当にそんなことがあったのかと香里の方を向くと。

「……恐ろしいことに、お嫁さんにしたいランキングでTOPを取ったのは名雪、よ」

「な、なにぃっ!?」

そりゃビックリだ、どう見てもお嫁さんとか似合わなそうだぞ、コイツ。

ヒデェ言い種とは思うが、仮に主婦にでもなってみろきっと一日中寝て過ごすぞコイツ。

恐ろしいことに、とか言ってる香里もヒデェがな。

「事実だ、相沢」

「マジか? 名雪って人気あんのか?」

確かに美人の類だ、人気があってもおかしくないだろう、

だけど、どうにもお嫁さんってイメージが沸かない、と思っていると気だるそうに頬杖をついていた香里が言葉を続ける。

「まぁね、名雪ってなごみキャラだし、それに」

「それに?」

「3者面談の時に秋子さんが来たのよ」

ああ、納得。

成長したらああなる、と思ったわけねみなさん。

「でもなぁ……」

「どうしたのよ」

「香里よぉ、名雪、成長して秋子さんになると思うか?」

「……」

香里にもイメージ沸かないらしい。

事実、確かに顔は似ている部分が多々あると思うし、性格も、似てなくもないと思う。

けど、何かが、何かが違う。

そんな考えが頭を回りショートしかけたところで香里の口から画期的な答えが紡ぎ出された。

「……そうね、さなぎの時間を越えたら、秋子さんになれるんじゃないかしら、ね」

「なるほど、だからコイツは食べると寝るの生活をしてるのか」

「2人とも、言い過ぎだろ」

 


でも、やっぱりまいがすき☆


 

「結局、栞ちゃん何してたの今まで」

「はい、学校を見てました」

舞の問に素直に答える栞。

時間は放課後、校庭の方では雪をそれほど気にもしない競技の部活動の声が聞こえるころ。

場所は中庭、学校で初めて栞を見た場所であり、今日午後から栞がいた場所である。

午後の授業の合間に俺と北川がココに栞が来ているのに気がついたが、

どうやら舞も佐祐理さんも同じだったらしくHRの後すぐにココに駆けつけていたらしい。

俺と北川は、お嫁さんランキングについて香里を交え熱く語っていたために少々遅れて来た。

途中、強そうな人ランキングで実は香里がランクインこそしなかったが多くの表を集めたという未確認北川情報で御本人が凹んでいたとかいうハプニングもあったが概ね問題なく俺は例のランキング問題についての疑問を氷解させた。

現在、辿り着いた中庭は風が冷たく、こんなところにずっと立っていたのでは体調を崩す恐れも大きいだろう。

そこまでして、栞は何をしたかったのかわからないが、今は笑顔で、舞と佐祐理さん相手に楽しそうに話をしていた。

風が吹く。

中庭に積もっている雪は、もう固まっていて表面は氷のように硬くなり風に粉雪も舞うことなくただただ寒い空気を俺たちに纏わりつかせてくれていた。

そこで話も一段落ついたのだろう、一応の終わりを向かえ、あたりが一時の静寂に包まれる。

「で、栞ちゃん、学校を見てたって、誰かを待ってた、とか?」

沈黙を破ったのは舞、珍しく真剣な表情を、というよりは表情のない顔で栞に問う。

かたや相棒の佐祐理さんは一歩引いたようなポジションをとり、こちらも無表情に近い表情で口を閉ざしていた。

雰囲気がいつもと違う。

おそらくは、コレがこの上なく真剣な表情、そして雰囲気なのだろう。

「そう、かもしれません」

栞もその舞の雰囲気を感じ取ったのか、こちらも少し悲しそうにも見える笑みを浮かべて話を繋げた。

「……待ってたのは、香里ちゃん?」

来た。

何度、触れようか触れまいか考えた部分だ。

姉妹の間の問題とはいえ、腑に落ちない点が多過ぎた。

好奇心が勝るなら訊いてみたくもなるだろう。

けど、優しさが止めて触れないでおこうとも思うだろう。

おせっかいならそれでも不躾に問うだろう。

賢明な者だったなら、ココまでの情報と姉妹の態度に不穏なものを感じて、あえて避けて通るだろう。

けど、やっぱり舞が訊いたのは、優しさから、

多分、俺の推測にしか過ぎないが舞は優し過ぎる。

だからこそ、いままで訊けなかったのに、ここで意を決して訊いたのだろう。

「……どう、なんでしょうね、お姉ちゃん、いるかどうか解りませんし」

栞はその悲しそうな微笑のまま視線を校舎に向けてそっと呟いた。

きっと、いろんな意味の込められた言葉なんだろう、何故かそんな気がする言い方だった。

「香里ちゃん、いたよね、祐一くんに北川くん」

ついっ、っと舞は俺たちの方に顔を向けて本日の香里模様を訊いてくるが、俺たちが答えを返す前に栞が見るからに辛そうな笑顔で言葉を制するように口を開いた。

「あのっ、その……みなさんの知ってる香里さんが、私のお姉ちゃんだと……限ったわけではないですから……」

一瞬何が言いたいのか解らない言い方。

美坂香里、恐らくはその人はあの香里しかしないだろう、以前に舞もわざわざ栞にキーワードを使って訊いたはずだからあえて間違ってるなどということも考えることすらおかしい話だ。

「……え? でも学年首席のかお……いたっ」

すぱーん。

といい音が静かな中庭に響き渡り、おかしな言動の栞の話に対してさらに追求しようとしていた舞の話が途中で止められる。

「さ、ここでこうしていてもしょうがないから、みんなで遊びに行こうか☆」

笑顔で、それこそ一見無邪気な感じのする満面の笑みで佐祐理さんが両手を胸の前で軽く合わせて声を張り上げた。

だが、その胸の前に合わせた手に『スリッパ』が握られているのが、舞の話を止めたのが誰か考えるまでもなく解ってしまうというものだ。

「あ、アンタねー、どこにそんなもん仕舞ってたのよっ!」

「女の子には秘密がいっぱいなの、きゃ☆」

舞が殴られた抗議の声を上げ、佐祐理さんがそれにさも当たり前のことのように笑顔で答える。

この2人が話をすると、どうにも漫才染みて来るから不思議だ。

結局この形で栞と香里の関係の話は流された訳で、

きっと佐祐理さんは気分も悪くなく話を流す最善の方法を取ったのだろう、なんだかんだ言ってこの2人、揃って人が良くて優し過ぎるのだ。

普段、バカなこと言ってアホなことをしているが、きっと、舞に限らず佐祐理さんも底抜けにお人好しだ。

「アンタのことだから、きっとその中途半端な胸の谷間に無理矢理挟んで来たんでしょう」(←舞:佐祐理の胸を指差して)

「む、中途半端ってなによ、コレでも結構立派なのよ、着痩せするのよ私はっ」(←佐祐理:そこそこ大きな胸を張って)

「ふふん、立派っていうのはこういうのを言うのよ」(←舞:なかなか大きな胸を張って)

「むむむ」(←佐祐理:悔しそう)

「ふふふ」(←舞:勝ち誇ってる)

「……」(←佐祐理:栞の方を見る)

「……」(←舞:佐祐理の視線を追う)

「……戦力、不足、だね」(←佐祐理:栞から目を逸らして)

「……80……ってとこかしらね」(←舞:目を逸らさずに)

「いえいえ、私はその一線は下回っているかと」(←佐祐理:右手で胸の前に線を引いて)

「ひ、酷いですー!!」(←栞:さっきと違う意味で辛そう)

……そ、底抜けにお人好し……だよ、た、多分。(←祐一:自信無くなった)

「なんか、とにかく女の子って大変そうだな」(←北川:ボソッと)

見てる方も、な……。

十数分後。

話をうやむやにしたのか別の方向にややこしくしたのか悩みどころだが、拗ねかけた栞をなだめるということもあり、5人で街へ繰り出すことになった。

街、といってもこんな田舎街だ。

いつもの商店街くらいしか行くところなんてないだろう。

この街に来て日の浅い俺には穴場などまではわからないが、一応それでも一通り見て回ったので適当にぶらぶらすることの出来る場所だということは理解できる。

もっとも、女性3人、男性2人の現状で出来ることと言えば小物屋とかを見て、喫茶店に入るくらいのことなのだが。

だから、この5人で先日行った百花屋でゆっくりと、穏やかな雰囲気の中で話をしたり、

日曜日に部活が休みだった名雪とココへ来て、いちごサンデーを頼んだ名雪がとても美味しそうにソレを食べていたを思い出し、俺も今日食べてみようとか思ったりとか

まぁ、そんな展開を予想していたのだが、

自然と主賓のような形になっている栞の主張で何故かゲームセンターに向かうことになってしまった。

何故だ?

そのチョイスは何故なんだ栞!?

冬でもアイスな栞なら絶対百花屋であのナントカデラックスとかいう化け物を頼むと思ってたのに!

いや、むしろ信じていたのにっ!!

「そうだよなぁ、舞」

「まったくよね、祐一くん」

悔しそうな俺の言葉に間髪要れず素直に賛同してくる何かを納得したような表情の舞。

周りは突然のそんな会話に何事かと振り返ったりしている。

途中経過の説明まったく無しで首を縦に振ってくれてるわけだから、周りの気持ちは解らんでもない、むしろ解らんのは舞だ。

正直ワケワカンナイヤツだ、けど快いほどに素敵なヤツだ。

「えっと……なにが、ですか?」

そんな意思の疎通が出来てるのか出来てないのか謎の2人に栞は意を決したように事の説明を求めて声をかける。

舞はそんな栞に対して軽く笑顔で説明。

「うん、北川くんと栞ちゃんてお似合いだねっ、って祐一くんが」

言ってねぇよ。

「えっ!?」

素敵な笑顔で答える舞の言葉に驚く栞、そして視線を俺に移して、さらに北川に。

ちょっと照れたのか身を縮めるようにしてストールを乱れてもいないのに直す仕草をする栞。

少し離れたところで話を聞いてなかったのか不思議そうな顔をして何かあったのかと寄って来る北川。

その寄って来た北川を隣において少しだけ頬を朱に染めてしまっている栞。

急展開か!?

「そうだねー、私もそう思うよ〜☆」

「うんっ、そうだよね、ボクもそう思うよ」

そんな栞を祝福するのかからかうのか判別難しい話にさらに2人の少女が楽しそうに同意する。

北川は相変わらず何のことかわからないようで不思議そうな顔でこちらを見ているが、栞はそんな北川の隣で赤くなってうつむいていた。

なんというか、微笑ましい……。

「って、ちょっと待て、なんであゆがいるんだ!?」

気付くのが遅れたが一人分多い声に視線を佐祐理さんの方に移してみるとまるで初めから居たような馴染みようで、さも当たり前のように会話に参加していた。

俺の言葉にきょとんと目を丸くしてミトンの手袋ごしに顎のあたりで手を合わせて小首を傾げて不思議そうな表情をしている。

この場合、不思議そうな表情をするのは俺だろうが。

そして、俺の質問に答えたのは笑顔の佐祐理さん。

「釣りました♪」

「つ、釣ったんですか」

もう、余りの素敵な笑顔と楽しそうな声に俺に出せる台詞はこんなところ。

いつもの笑顔で、いつもの両手を胸に合わせる仕草で、遠目にはまさかこんなよくわからない話をしてるとは思えない姿でいつも通りのわけわかんない倉田時空を展開する。

「はい、それはもう大変でした」

なにがどう、とかツッコミたかったが、言葉の勢いがそのまま続く雰囲気を持っていたので素直に続きを呆れながら促した。

「なんて言うかですね、ふと外の様子を眺めたところ、ふらふらとあゆちゃんがこの商店街を泳いでたんですよね」

「……ボク、歩いてたよ」

「そこで私は、心の奥底に眠っていた、そして今まさに不意に湧き上がってきた『鮎川魚紳衝動』に抗うことも出来ずに気が付くと右腕に竿を握り締めていたんです」

胸の前で合わせていた手をいつしか組んで祈るような姿で天を仰ぎ遠い眼をして語り続ける佐祐理さん。

あゆの呟きは無視された模様。

見れば舞も栞も、北川まで周りに集まって来ていてすっかり語りに入ってるお嬢様の弁論大会のようになっていた。

「岩から岩へ飛び移り、荒れ狂う日本海の波間の奥にポイント見定めて私はそれは舞うように右腕を振り上げて吹き荒ぶ風すらも味方につけて目的の場所へ業物の竹竿を流れるように振り回し針を投げ込み、私の勝利は見えたかに思えました」

「はぁ、あゆ釣りっすか……」

「あ、継ぎ目は印籠継ぎですよ」

「高級品だな、おいっ」

おそらくは彼女の中で盛り上がりも最高潮を迎えたところだろう場所でちょっと竿にこだわりなんか見せるあたりが釣りキチたる所以だろう。

と、なんかのエンターテイメント番組だったらそんなテロップが入りそうな台詞に俺の反射神経が電光石火の一撃を見舞うが、当の釣姫さまはそんなツッコミもどこ吹く風とクライマックスからエピローグまでのドラマを階段三段抜かしで駆け下りるように語り続けた。

「しかし、相手は不沈艦と言われた数々のタヌキの泥舟を沈めて来た『あゆ』です、死闘は時間にして約2時間、その時、波飛沫により全身を濡らした私が手に持っていたのは長年愛用してきた折れた私の竿と、今まさに釣り上げた『あゆ』だったのです……」

はっきり言って、もうココまで来るとどこでツッコンでいいか解らない。

もしかするとツッコミどころしか無いような気もしないでもないが、下手するとこれは言っている方もわけわかって無いんじゃないかと疑いたくなる。

そんな時!

「……鮎は、海にいないよ?」(←あゆ)

淡水魚、だもんなぁ。

あゆの呟きにどことなく頷く観客と化した一同、しかし当のお嬢様は、

「な、なんて的確にしてベストタイミングなツッコミッ!?」

などと、あゆの隠されていた才能を目の当たりにして驚愕していた。

こんなよくわからん感じですっかり違和感なしにこの場に溶け込んだあゆ。

先ほどの、おそらく本人はそれほど意識してない佐祐理嬢の心に響いたツッコミのために嬢に気に入られた様子で、

ことあるごとに何かと構われていた。

「ほらっあゆちゃん、音楽をよく聴いてっ」

「う、うぐっ、うぐっ、うっ!」

っていうかダンスゲームで踊らされていた。

おっかなびっくりルールに忠実にリズムを体いっぱいに現しながらなんとか踊るあゆの隣で佐祐理さんは音楽に合わせて華麗に踊る、なかなか芸達者なお嬢様だ。

必要ないのに腕のフリまでつけ気が付けばポツポツとギャラリーなんかも集めていたりする。

確かに、見た目も美少女だし、笑顔でこうしてる分には人目を引く存在だ。

あゆもあゆで愛嬌ある可愛らしい姿で踊っているため、客寄せの効果を増加している要因だろう。

成り行きとはいえ実に妙なコンビの誕生だった。

俺と舞は少し人だかりが出来たゲームから離れて屋内設置のベンチに座り傍にあった自動販売機で飲み物を購入してのんびりしていた。

落着いた様子で、年上ということもあるからだろうゆったりとベンチに腰掛けて優雅な雰囲気をかもし出しながら舞はそっと目を細めて左手で掴んだ缶を口に持っていく。

こちらはこちらで絵になるような佇まい。

近くを通る男が思わずそちらに目をやるような、そんな姿。

もっとも、

その左手の缶が『ほっ と おしるこ』で、

「……っくはぁ〜」

ってな粋なため息を後につけなければの話なんだがな。

少し苦笑しながら舞の隣に腰を下ろし、買ったばかりのコーヒーのプルタブを引き、開いた缶コーヒーを口に持って行く。

俺が一息ついたタイミングを見計らったのか、ベンチに深く座りなおしたところで舞が声をかけてきた。

「それにしても、ちょっとまぁ、なかなかの展開よね」

「? ああ、佐祐理さん、か? あゆ連れてああいうことするとは確かに妙な展開だよな」

なんだかよくわからないことを言う舞の言葉に、状況を考え少し離れたところの佐祐理さんとあゆを思い出して苦笑交じりに言葉を返すが、舞は首を振って言葉を続ける。

「ちがうちがう、まぁ、そっちも変な展開だけど、あっちあっち」

言葉に合わせて缶を持ってない方、右手の人差し指で指差した方向を見てみると2人の人物が目に入る。

いつの間にか場を離れていた北川と栞だ。

見れば2人でクレーンゲームを満喫している様子。

暫く舞と2人でその様子を眺めて見るのだが。

「……アレは栞ちゃんが『北川さん、上手いです〜』てな感じかしらね?」

とは舞の言葉。

正直、真似は上手くないがきっと栞のことだからそんなことを言っているんだろう、ちょうど北川がクレーンを操りなんか緑色のぬいぐるみっぽいものを取ったようだった。

「だとすると、年下キラー北川のことだから……アレを栞に渡しそうだぞ」

「あ、本当に渡した……なるほど、年下キラーのゆえんはコノあたりか」

「栞、嬉しそうだな」

「ええ、それもかなり、ね」

真剣な表情で、そして缶が熱いのか上のほうをつまむように持ちながら2人の動きを見て何かを考える舞。

栞は照れたような仕草で、北川は爽やかな笑顔を浮かべている。

ふむ、と軽く納得をしたような声を出して舞はおしるこを飲み干し缶を近くのゴミ箱に投げ入れると俺の方に向き直り、口元の緩みを隠しきれない表情で語りだした。

「このままでは予想を裏切って、いやある意味期待通りの面白い状況に」

「つまり、香里ではなく栞を手に入れてしまうわけか」

なんだかすっかり栞ルートのフラグを立ててしまったような北川を遠目に見ながら俺たちはなんだかよくわからないままに頷きあってこの状況を楽しむことにしたのだった。

「……しかし、アレよねこういうこと一番好きそうな佐祐理がヤケにおとなしいわよね」

「あー、そらだって……まぁ、それよりいいオモチャ見つけたから、だろ?」

舞の疑問に答えながら俺が指した先では、

「あゆちゃんっ、足で踊るんじゃない、心で、魂で踊るのよっ!!」

「う、うぐっ!!」

「心のステップを体で表し、魂を込めて大地を揺さぶるダンスを!!」

「わ、わけわかんないよっ!?」

ダンスゲームが大きな世界になっていた。

 

つづく


あとがき

すすまねぇ……。

 

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