ホームルーム。

本日は明日の舞踏会のための設営準備もあり午前中で授業が終わるため日が真上にあるこの時間にホームルームとなる。

もっとも空は薄暗い雲に覆われていて天頂にあるはずの太陽など見えはしないんだが。

担任である石橋先生がこの後の設営準備のことと明日の注意事項をクラスの生徒に伝える。

ココに来て初めて知ったのだが、どうやら明日の舞踏会は午後から、それも夕方頃からということらしい。

そんなわけで午前中は今日と同じように授業があるわけだ。

授業終了から舞踏会まで時間が空くので運営関係の人間以外の舞踏会参加者は一旦家に帰って準備が可能だということ。

もっとも、中にはそのまま学校に居残って開催まで時間を潰すものをいるらしい。

どっちにしても、運営関連じゃない俺たちにしてみれば今日の午後も明日の午後も時間が空くというわけだ。

ちなみに各部活動も休みになるので一度にみんなが暇になる。

当然陸上部所属の名雪も暇になるそうで、今日の午後を利用して香里をそそのかす計画らしい。

なにをどうやってそそのかすかは訊いてないし、名雪も考えてるかどうかも妖しいが、

引き受けてくれている以上はそれを信じて待つことにする。

仮にダメだとしても名雪が悪いわけでもないし、次の策を練ればいいだけなのだ。

問題は、

栞がいつまでもつか、

それだけだ。

担任石橋の舞踏会以外の簡易説明を右から左に流して窓の外をちらっと覗く。

先ほどまで栞がいた場所に人影はなく、中庭はただ白い雪が一面を覆っている。

北川が戻ってこないところを見ると栞を寒空に置いておくのを忍びなく思い校舎に入れたかどこかに連れて行ったかだな。

まったく相変わらず面倒見のいい。

もとい自然なプレイボーイめ、チキショウ。

そんなことを考えているともうどうやらホームルームも終わりの様子。

最後に担任が閉めようと全体に声をかける。

「じゃあ、コレで注意事項と連絡は終わりだが、質問は?」

誰も質問がないらしく何も言わない。

中には、既に帰るための準備をし始めているやつもいる。

石橋先生もそれを確認してホームルームを終了

しようとしたところで何かに気付いてクラスの連中に声をかける。

「……北川の姿が見えないがどうしたんだ?」

その質問に一斉にクラスのみんなが一番後ろの窓際の席に目を向ける。

言うまでも無く北川の席なのだが、その一つ前が俺の席なので一度に視線をこちらに向けられて少々ひるんでしまう。

まわりにしてみればそんな俺の様子などどうでもよく、

そういえば北川いないな、とか、どこいったんだアイツ、などと呟く声が聞こえてくる。

栞のところに行って帰ってこなかったわけで、

結局無断でホームルームをサボっているという事態になってしまっている。

「相沢、美坂、北川がどうしたか知らんか?」

担任が俺と香里に件のアンテナの所在を問うてくる。

北川の席の前と横の俺たちなら何か聞いているかもしれないとでも思ったのだろう。

そしてきっと、名雪にそれを聞かないのは現在うとうとと船を漕いでいるからだ。

そっちは気にしないのか石橋。

アンタの奥様(予定)が(お嫁さんランキングにて)負けた相手だぞ、遺恨はないのか?

などと、余計な方向に思考が脱線して担任の質問に答えられない状況に陥っていると、

香里が俺に呆れたような視線を一瞬送ると担任に向かって気だるそうに答えた。

「北川くんでしたら……ホームルームが始まる前に突然どこかに走って行きましたよ」

香里、その答え方だと北川が『凄い変なヤツ』に聞こえるぞ。

多分『叫んで』のキーワードが追加されれば即病院行きだ。

黄色のピーポーに乗って。(←都市伝説:一部地域では緑)

ちらほら『まぁ、北川だしな』とか『流石だよな』とか謎の評判が流れてくる。

ちょっとだけ北川を不憫に思い、

俺はそんな北川の名誉を挽回すべく真実を教室内の皆様方に言って聞かせることにした。

「北川なら、後輩の面倒見に行きました」

「そうか、なら仕方がないな」(←石橋)

「北川らしいよな」(←クラスメイトA)

「北川くんじゃしょうがないわよね」(←クラスメイトB)

などなど、『後輩の面倒』というキーワードのみで担任以下クラスメイトの表情が納得の色にそまる。

それだけでこの学校、もといこのクラスの中における北川の人柄がうかがい知れるというものだ。

凄いな、北川よ。

お前はコレだけの人に認められていたんだ。

ちょっと感動して涙が出そうになる。

けど、だけどな、

それだけの人たちに認められてても、

「へぇ、北川くんって信頼されてたのね」(←香里:どうでもよさそうに)

一番知ってて貰いたい人が何も知らなかったんだよな。

あ、涙が……。

 


でも、やっぱりまいがすき☆


 

「んで、祐一くんは服どうするの?」

「あー、秋子さんに相談したところ用意できるとのことだったんで甘えることにした」

「なるほど」

放課後、例によって栞のことは北川に任せ、

香里のことは名雪に任せて、

たまたま昇降口で一緒になった舞と街をぶらぶらしていた。

傘をさすほどでもないがちらちらと降る雪が視界の隅に入るのを気にしながら雪を踏みしめて歩く。

特にあてもなく、雑談をしながらとりあえず俺が知らない場所でも行ってみるかといういい加減な散歩になってしまっていた。

話題は明日の舞踏会。

舞に服のことを聞かれたが、実のところ昨日の夜にそのことに気付き秋子さんに相談したのだ。

学校の催し物とはいえ、すでに街のイベントになりかかっている舞踏会、

それなりにしっかりした服装を義務付けられているということが先日の昼の説明と田中さんに貰ったポスターで判明したからだ。

結局名雪も出ることになったのでその辺の服は秋子さんがなんとかする、と答えたのでお任せした。

まぁ、世話になりっぱなしだがこればっかりはどうにもならない。

どうするかは詳しくは聞いていないのだが、予想としては水瀬家にその手の服のストックがあるか、貸衣装を仕入れてくるかというところだろう。

流石にドレスやタキシードはいかに秋子さんほどの腕があろうともUFOキャッチャーでは取って来れない。

あ、ちなみにあのゲーセンでのことが判明した後に解ったことだが、

秋子さんのUFOキャッチャーの腕前はなかなかのもので、ゲーセンの店員に顔覚えられてるらしい。

人は見かけによらないものだ。

ともあれ、そんな感じで俺の服は調達出来そうなわけだ。

舞の方もどうするか訊いてみたのだが、去年も一昨年も参加している為自前で持っているらしい。

当然、佐祐理さんとか久瀬氏も自前だそうだ。

「そーいや、佐祐理さんは? 一緒にいないの珍しいよな」

いつもセットな感じの舞と佐祐理さんだ、珍しく今日は片方だけと昇降口で会ったので気にはなっていたのだが。

「そんな、いつも一緒にいるような言い方されても」

「いや、実際問題ほとんど一緒にいるぞ、俺から見たら」

「……そういやそうね、でもま、今日は佐祐理明日の準備手伝いに行ってるわ」

「ああ、舞踏会の設営か、前会長だけあって責任感強いってことか?」

「……単に暇だったんじゃない? 今頃久瀬っちが泣いてそうな気がするわ」

「だな」

舞の久瀬に対するおくやみを聞いて、その姿が簡単に脳裏に浮かぶ時点で俺もかなり毒されているようだ。

隣でため息をついて観戦している田中さんまで想像できるのだから困ったもんだ。

一瞬、設営準備大丈夫なのかと思ったのだが、舞の言葉がそれを打ち消す。

「ああ見えて佐祐理って面倒見いいのよ」

意外そうにも聞こえる話だが、よく考えれば納得できる話でもある。

舞と同じくなんだかんだで栞のことを気にかけるわ、あゆともちゃっかり仲良くなっているわ、

それになんと言っても生徒会長を務めていたわけなのだから人望もあって面倒見がいいことは充分想像出来る。

きっと、やることやって余裕の分だけ弾けて遊んでいるような人なんだろう。

成績もよくてお嬢様だから当然作法とかも出来てて、

生徒会長もこなしてみんなとバカやって、

なんか人生の理想像みたいな人だ。

巻き込まれる周りは大変そうだが本人の視点に立てばきっとこの上なく楽しいのだろうな。

「だから、きっと設営に影響しない程度に久瀬っちをいじめてるわね」

久瀬氏は溜まったものではなかろう。

「佐祐理さんって昔っからああだったんだろうな、久瀬も一弥も大変だろうに……」

昔から近くにいた男性を思って涙する。

頭の中には小さく幼いながらも幼馴染と弟を振り回して大暴れする見た目非常に可憐な少女が思い浮かぶ。

考える程にしっくりと来て、

思う度に男性2人が不憫になってくる。

しかし、そんな思いは舞の発言であっさりと散って行った。

「それがね……佐祐理昔はあんなんじゃなかったのよ」

「なんだそりゃ、昔はいっぱしのお嬢様してたのか?」

意外とは思いつつ、まぁでも仮にもお嬢様なのだから昔は厳しく育てられて絵にかいたようなお嬢様ライフを送っていたとしても不思議ではないから、

そんな大人しい女性を気取っていたのかと舞に問うたが、それも首を横に振られることになる。

「本当意外だと思うけどね、佐祐理大人しいどころか壁があってね」

「……あんまり人と話さないってことか?」

「うん、拒絶、とまでは行かないけど近寄りがたいというか」

「それがお嬢様オーラってやつじゃないのか?」

「うーん、そうじゃなくて、平たく言うと暗かったのよ」

なんと言うか、意外を飛び越えてありえない、とか思ってしまう。

今のあんな佐祐理さんを知っているだけにそんな状態など想像すら出来ない。

続けて舞の話を聞くと、なんでも家が厳しく、それにあわせて自分も家にあった女性にならなければならないというプレッシャーを背負ったりそのほかいろいろあったそうだ。

「昔、そんな暗くて今アレか? いったい何があったんだよ」

ちょっとしんみりしてしまった空気を少しでも軽くしようかとおどけてそんなことを言って見ると舞が少し照れ臭そうに答えてくれる。

「わかりやすく言うと……まぁ、その……あたしが祐一くんに会ったようなものなのよ」

その言葉ではっとする。

そうだ、舞とて『昔あんなん』で『今こんなん』なのだ。

俺に出会わなければ少なくとももうしばらくはあの麦畑で1人で遊んでいたはずの少女。

『自分を好きになれる』

あの時の舞の話だとその切っ掛けを与えたのが俺ということだ。

俺に会わず、その後もそんな切っ掛けを与える人物に出会っていなければ舞はどうなっていたのやら。

ついでに言ってしまえばあゆだってそうだ。

出会ったときは泣いていた。

母を失い俯いていた少女だ。

それでも今ああして笑っているのだ。

「あの向こうに見える総合病院ね」

俺の思考を遮って、舞は今歩いている道の先にある病院を指差した。

このまま歩いて行けば10分とかからず辿り着くところだ。

突然なんの話かとも思ったが続きを聞いて納得、どうにも話は続いていたらしい。

「あたしが佐祐理と初めて出会ったのはあそこだったのよ」

「病院?」

「ええ」

「なんだ、2人でコブシで語り合って友情を確かめて病院送りにでもなったのか?」

「ああ〜、そっちの方がよかったわねぇ、後々まで語り継げるわ」

本当に悔しそうな表情をする舞。

どこまで本気だかわかりゃしねぇ。

しかし、すぐに表情を戻して語る内容はかつて2人が出会った頃の昔話。

「あの頃、お母さんが入院しててね、時々あたしお見舞いにいってたのよ」

病院の方を見ながらとつとつと語る舞。

今でこそ元気でいるそうだが昔舞の母は病気がちで病院の世話に何度もなっていたとか。

そういう事情もあって舞は時折病院に訪れていたらしいが、

頃を同じくして倉田家においては一弥が体調を崩して入院してたとか。

一弥の病気は精神的な物。

厳しい家に育ったおかげで家柄などの見えない重圧に心をすり減らしていた上、

味方になるべき姉も同じようにその家の教育方針のために弟に厳しく接していた。

結果、八方塞となった一弥は子供だというのにそれらのプレッシャーに重く圧し掛かられ、耐え切れず潰れてしまったというわけだ。

暗い表情で病院のベッドに横たわる一弥。

何とかしたいが今までが厳しく接してきたためどうしていいか解らずこちらも暗い表情でベッドサイドで佇む佐祐理。

ちょうどそんな頃。

その2人の姉弟は舞に出会うことになった。

舞は俺と出会った後で自分を好きになるように努力し、

既にもう笑えるようになっていた、そんな頃だったという。

「んで、病院で見かけた佐祐理はなんかやけに暗い女の子だったのよね」

「その、さっき言ったように人を寄せ付けない感じのか?」

「そうそう、で、あたしも昔そんな感じだったわけだから気になっちゃってね」

軽く言うがきっと舞にはそれは大きなことだったのだろう。

聞いてて恥ずかしいし嬉しい話、俺がきっかけになって笑顔になれたとは言うが、だからこそ暗い表情のままの辛さが解っているということ。

俺が舞のきっかけになれたように舞はこの少女のきっかけになろうと思ったんだろう。

理由こそ違えど、自分が通ってきた道だったから。

「ってことは、佐祐理さんと遊んだりしたわけか」

「うん、ぶっちゃけた話、かなり強引、つーかむしろ了承も得ないで引っ張りまわしたね」

「それで佐祐理さん笑顔にしたのか?」

「それがなかなか、理由聞けば『弟の見舞いに来てるから』とかいって逃げようとしたりしたからさ〜」

「まぁ、確かに放っておいて遊び呆けるのも問題だよなぁ」

「それであたしも納得してね」

「大人しく相談に乗った、とかか?」

「んにゃ、一弥の病室で一弥と佐祐理巻き込んで一暴れした」

「おぃ」

呆れた。

いやまったくその発想と行動に呆れかえったが、話を聞けば結局のところそれが功を奏したというか、

呆気に取られていた佐祐理さんと一弥もそんな舞に苦笑が漏れてしまったらしい。

その後舞の話だと暴れたせいで舞だけ看護婦さんに摘み出されたそうだが。

ほとぼりが冷めた頃に母の見舞いのついでに一弥の病室に寄って見たところ笑顔で2人に迎えられたということだそうだ。

舞が摘み出された後、姉弟に何があったかはわからないが、

きっと舞がきっかけになって事態が好転したことは考えるまでもない話だろう。

「その後あたしと佐祐理が同い年だって解ってね、学校も同じだってことが解ったんでそこらへんからつるむようになったのよ」

まぁ、あんな風な超絶コメディアンに成長するとは思いも寄らなかったらしいが。

その後、一弥の病気も精神的なものだったこともあって、体調も改善され退院。

家の方針がどうこうというのを姉弟2人で覆し、舞に見習って我が道を進み人当たりもよくなってどんどん明るくなっていったということらしい。

倉田家のご両親もいろいろ当時は頭を抱えたらしいが、暗かった子供らが明るくなり、

ましてや体調を精神的なもので崩しがちだった跡取り息子が元気になったこともあったので特に何も言わなくなったとか。

でもって、その事態の発端になった舞が倉田家において陰ながらではあるがVIP扱いされているとかいうのは後に美弥さんから聞いた話だ。

出来た話だ、っていうか出来すぎた程に作り話みたいな冗談みたいな話だが、

後の美弥さんの話に続きがあって

『病院で一暴れした、なんて話でしたけど、実際はそんな大人しいものじゃなく当時病院内で『川澄舞』を知らないものはいないと言われた程だったらしいのよね』

だそうだ。

おそるべし、川澄舞。

そんなこんなで、意外な倉田家の過去を聞きつつ病院の前を過ぎて歩き続ける。

「だからね、佐祐理も美坂姉妹のこと気になるんだと思うよ」

「え?」

「自分が一弥に厳しく当たって、まぁ、自分なりに冷たくしてたと思ってたこともあって、だと思う」

「だから美坂家の姉妹関係をなんとかしようと?」

「具体的に何が出来るって訳でもないだろうけど……いろいろやってるんじゃないかしら」

なんでも俺が香里を舞踏会に参加させようとしてて、北川が上手いこと栞を参加に持っていったから、今回の舞踏会に佐祐理さんも積極的なのだという。

舞踏会自体で何かが出来るわけでも、姉妹の仲を改善させる策があるわけでもないが、なんとかしようという心遣いだろう。

まったく、コレだけ心配されているんだから香里も素直になればいいのに。

でも、だからこそ、コレだけ心配されているからこそ、栞の状態が気にかかる。

みんなは栞があと一週間もたない、下手をすると今にでも倒れる可能性があることを知らないはずだ。

このまま黙っていていいのだろうか?

少なくとも美坂姉妹に関わった人間にはどう転んでも心に傷が残ってしまいそうな話になる。

けど、正直言って何を言っていいかわからない。

言うなら言うで、そんな事実を突きつけられて目の前の栞、そして香里にどう対応していいか解らなくなるだろうし。

言わないなら言わないで、何も知らないまま栞がいなくなった後、みんなが何を思うか、

そんなことを考えるとどうしていいか解らない。

そんな俺の苦悩を見て取ったのか舞が不思議そうに話しかけてくる。

「……祐一くん、悩み事?」

「……まぁ、そりゃいろいろと、考えることも多いからな……」

舞に相談しようかとも思う。

実際、普段ハイテンションエンタティナーな美少女戦士だが、コイツはなんだかんだで優しいし頭もいい。

そして昔不思議少女だっただけあって、自分が辛く悲しい目を知っているだけに本当に苦しんでいる相手にはしっかりと相談に乗ってくれる。

だから栞も(多分天野も)懐いているのだ。

けど、相談と言うにはネタが重すぎる。

学生の相談のレベルじゃないし、相談されても答えようがないはずだ。

それこそ奇跡も起きないことには。

――ああ、そうか。

『奇跡ってね、在り得ることではないようなことの上に、例えそれが在り得たところで簡単には起きないことだから奇跡なのよ』

以前香里が言ったことだ。

なるほど、香里も結局『奇跡』と言うものでしかどうしようもない、という結論に辿り着いたのだ。

でも、その奇跡を否定しているような口調で『在り得たところで』なんて言葉を吐く辺りまだどこかでその『奇跡』を待っているんじゃないだろうか。

当たり前だ。

口ではなんと言っても、栞は香里の妹なんだからな。

自分で何も出来ず、正解もない状況ならもう理解の範疇を超えた『何か』に頼るしかなくなる。

信仰心のない人間でも窮地に陥った時に信じてもいない神に祈りをささげるてしまうのと同じだろうな。

考えに没頭して、ふぅ、とため息をついたところで舞が小首を傾げてこちらを見ていた。

ああ、放ったらかしにして申し訳ない。

「んー、まぁ、そのなんですかねぇ」

「ん?」

軽く頭を掻きながら、舞は俺を気遣うように苦笑を浮かべて見て取り。

「大丈夫、なんとかなるよっ」

なんて無責任に、内容も知らずに言ってくれやがりました。

「舞」

「何?」

「……奇跡って信じるか?」

「んー、なんつーか、何をそんなに思いつめてるか知らないけどさ、奇跡って信じるとか信じないとかじゃないと思うよ」

「はぁ?」

「だから、信じてようが信じてまいが、起こるものは起こるってこと」

けど、

何も知らなくても、

何も聞かないでただ俺を励まして、無責任でもこんな風に言って貰えるのは、

気休めとはいえ随分と心が軽くなるもので、

舞が言うと何故か本当になんとかなりそうで、ちょっとだけ奇跡の期待をしてしまいそうになった。

 

 

「でもさ、祐一くん」

「なんだよ」

「最近、美坂姉妹ばっかり構って……あたしのこと構ってくれない……」

そしてちょっと拗ねてる舞が可愛かったりしました今日この頃でした。

 

つづく


あとがき

僕のところでは例のピーポーは緑でしたね。

ともあれ、佐祐理さんの過去。

原作から「でもまい」仕様の佐祐理さんにするにはこんな感じだと。

……いや、舞の出番がないから急遽こんな話を挿入したわけじゃ……。

 

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