保護者達の伴奏曲−第二楽章−

作:デビアス・R・シードラ様


「その前に祐一さん、すこし話をしたいのですけど」

「ええ、構いませんけど?」

秋子の言葉に祐一はうなずく。

「祐一さんの家族の話なんですけど。実はその件でわたしも悩んでいまして、それでここにきていたんです」

思案顔を浮かべ、語尾はつぶやくように言う。

「家族の話ということなら、席をはずしましょうか?」

美汐の問いかけに秋子は祐一を見る。

「祐一さんが構わないと言うのなら問題はないです。あなた達に関係がないともいえませんし」

「俺の家族?・・・ひょっとして『祐』になにかあったんですか!」

その反応は普段の祐一からは信じられないぐらいの慌てようだった。どこかひょうひょうとして常にどこか余裕をもっている普段の彼からは想像もつかない。

「なにかあった・・・といえばあったのですけど。怪我をしたとかそういうことではないですから、祐一さん落ち着いてくださいね」

「そうですか・・・」

秋子の言葉に一応納得しながらも落ち着かない祐一。

「えっと、すみません。話を聴いていても良いんでしょうか?」

佐祐理が二人の話を遮らないタイミングを待ってから問う。

すこし寸巡してから祐一はうなずく。

「じゃあ、先にその『祐』って誰なのか教えて欲しいんですけど?」

秋子に問うように言う香里。

「えっと、『祐』ちゃんというのは・・・」

そこまで言いかけて秋子は祐一の顔をうかがう。

「俺から説明しますよ、秋子さん」

秋子の視線をを見て祐一は小さくうなずくと言葉を発する。

「相沢祐、いまは両親とともに海外にいるが俺の『娘』だ」

一瞬の沈黙。

秋子と祐一を除き目をしばたかせるのみ。

「あの、すみません、祐一さん。聴き間違えたのかも知れないのでもう一度お願いします」

三人の中で最も早く硬直から溶けた佐祐理が聞き返す。

「祐は俺の娘です、佐祐理さん」

「・・・確認するけど、相沢君の娘なのよね?」

「なんどもいうが、そうだぞ?」

繰り返し言うのであきれたような口調で話す祐一。

「祐一さんもうすこし説明してあげたほうが」

秋子が苦笑しながら祐一に説明を促す。

「そうはいっても、俺の娘ってこと以外に説明は・・・」

「あの、相沢さんの実の娘ではないですよね?」

美汐の言葉にうなずく祐一。

それを見てどことなく安堵の表情を浮かべる三人。

それを見て微笑む秋子。

なぜ三人がそんな表情をするのかわからない祐一。

「法律的には俺の娘だけどな」

「祐一さん、どういうことです?」

「つまり、祐は俺の養女ということです。佐祐理さん」

「養女?」

祐一の言葉に香里はより一層不思議そうに聞き返す。

「ああ」

「ええと、祐一さんと血のつながりはないんですか?」

佐祐理の問に首を横に振る祐一。

「俺と血のつながりはありますよ?」

「いまいちよくわからないのですけれど・・・」

思案顔で小首を傾げる美汐。

「祐と俺の関係か・・・それには祐がどうして俺の養女になったのか、ということも説明する必要があるんだが」

すこし思い悩む祐一。

「・・・ちょっと長い話になるぞ?それに、あまり聴いて面白くない話だ」

「構いません」

即答する美汐。

「そうか・・・」

そう言って祐一は言葉をいったん切る。

どこから話そうか考えているのだろう。

そして祐一の話は始まる。

「祐はいまは俺の子供として戸籍上は登録されてはいる。現在9歳。実の親は、相沢恭、相沢真琴。俺の兄と義姉だ」

相沢真琴。旧姓沢渡真琴、祐一憧れの初恋の人である。

「祐一さんと、恭さんは非常に仲の良い兄弟だったんですよ」

その光景を思い出しているのか、和やかな笑みを浮かべる秋子。

しかし、その語尾「だっ『た』」という言葉に佐祐理だけがぴくっと反応する。

無論、それで何かを言うわけではないが。

「『祐』と言う名前は真琴ねえが推薦、兄さんも嬉しげに同意して決まった名前だ」

「ひょっとして?」

佐祐理の言葉に秋子がうなずく。

「祐一さんの名前からとったんですよ。おふたりとも祐一さんのことが好きだったし、祐一さんのように優しい子に育って欲しいという願いもこめて」

「俺は優しくなんてないですよ」

秋子の言葉に照れながらそっぽを向き答える祐一。

そんな祐一を四人は嬉しげに笑みを見せてみていた。ここにいるものは祐一と言う人間がどれほど優しいのか。また、その優しさゆえに自らを傷つけてでも相手を救おうとする人間であると言うことをみずからの体験によってよく知っているからである。

「二人は共働きで、俺の両親も忙しかったから、祐の世話をしていたのは基本的には俺だった」

「祐ちゃんにとって見ればその当時から祐一さんは兄であり、友人であり、もう一人の親であったといいうことです」

祐一と秋子の言葉に三人がうなずく。

「だからあの日も・・・三年前のあの日も、俺は祐と遊んでいたんだ」

祐一の暗くなる顔を観て、事情を知っている秋子は心苦しく、顔を曇らせる。

「あの日は真琴ねえが出張から帰ってくる日。この出張が終われば、真琴ねえは短いが休暇には入れるはずだった。兄さんもそれにあわせて休暇を何とか取ることができた、本当に珍しいことだった」

「お二人とも、会社では結構重要なポストについていたので、自分の都合だけで休むことはできなかったんですよ」

秋子の補足に三人がうなずく。

「急いで帰ってくるために真琴ねえは最終便の飛行機を使っていた。もちろん、夜も遅い。だから兄さんが車で迎えにいくことになっていた。久方ぶりに二人一緒に休みが取れる、祐と一緒に遊園地に行ける。そう出張先の電話口嬉しそうに、本当に嬉しげに言っていたのを今でも覚えている。そして、そんな二人が家へと帰ってくる途中」

祐一は一息入れ、もう冷めているコーヒーを一口含む。

「飲酒運転のトラックと正面衝突」

祐一の言葉に香里、佐祐理、美汐の三人は息を呑む。

「俺が二人を待っているんだといって聴かない祐を寝かしつけて、すこし立った時だった、病院からの電話は・・・」

 

つづく

 

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