保護者達の伴奏曲−第四楽章−
作:デビアス・R・シードラ様
秋子は子悪魔的な笑みを浮かべて、言葉を紡ぐ。
「この話名雪は『全く』知りませんから」
従兄弟のことなのに知らされていない名雪って?そう感じる香里。
しかし、名雪が知らないのはなんとなく優越感があるのも確かだった。
秋子の言葉にどことなく苦笑を浮かべる祐一。
「それで、秋子さん話って?」
「ええ、祐ちゃんなんですけど」
「はい」
「元気がなくなったと、姉さんから」
「祐がですか!!」
椅子から立ちあがらんばかりの勢いで祐一は問い返す。
「ええ、やっぱり、さびしいんでしょうね・・・祐一さんが側にいなくて」
祐一の脳裏には空港で別れる時、笑顔だった祐がいた。
「そうか、やっぱり無理して。別れる時の笑顔だって・・・一番俺がわかっていたはずなのに。俺が困ることは絶対にしない、そういう子だってわかっているのに!」
祐一の顔には苦悩の表情が見える。
「祐一さんを心配させたくなかったから、別れる時も笑顔だったんでしょう」
「祐・・・」
「最初は元気に振る舞っていたそうです。でも、段々と」
「そうですか・・・」
「どんなに気丈でも、9歳ですから」
「ええ」
秋子の言葉に重々しくうなずく祐一。
そう、どんなに気丈であっても祐は若干9歳の少女にすぎない。
ましてや、一度自分の愛する家族を失っているのである。
だからこそ、その家族と一緒にいたいと思う気持ちは人一倍であろう。
「それで、姉さんから電話があったんです、わたしに。祐ちゃんのこと、それともう一つのこととあわせて」
そこで言葉を切り、秋子はコーヒーに手を伸ばす、しかしそのコーヒーが切れていることに気がつき、マスターにお代わりを注文する。
「祐のことともう一つ?」
「ええ、実は姉さん達が家を建てていたのを知っていますよね?」
祐一の両親はこの街へと実は移り住もうとしていた。
もっとも急な海外転勤によりその話はなくなったのだが、本来はこの街の近くへと転勤し、そこで暫くは動かないということになっていたのだった。
そのため、ここに家を建てていたのだった。
「ええ、もちろん知っていますけど?」
その家ができていれば祐一は一人暮らしするはずだったのだから。
「それが完成したという旨だったんです」
「ああ、できたんですね。で、祐のこととあわせてというのは・・・ひょっとして」
「はい、祐ちゃんと2人で住んで欲しいと」
寂しそうな表情を浮かべる秋子。
秋子にとって見れば家族が一人減るのである。
ましてや、自分自身が淡い思いを抱いている人物が。
「そうですか」
「姉さんにもいったんですが、祐ちゃんも一緒にうちで暮らすということを考えていたんです」
「いえ、そこまで迷惑はかけられませんよ、それに今は家もあるわけですし」
祐一の言葉に秋子は苦笑する。
「祐一さんならそういうと思っていました」
他の三人も同じ意見なのか、うなずいている。
「それでも、一緒に住んでもらおうかと思っていたんですが、つい先程まで」
つい先程まで、名雪達の話を聴くまでということだろう。
「本当は一緒に暮らして欲しいんですけど、あの子達増長しすぎていますし」
祐一に対して奢らせようとしている、いや、奢らせつづけている者達。そのの中でも主犯格というべき名雪。
「祐一さんも一人暮らしをするとなれば、すこしは気兼ねもするでしょうし」
一人暮らしとなればその分物入りとなるのは当然である。
常識的な考え方をする者ならば一人暮らし、まあ祐一の場合は被保護者との二人暮らしになるわけだが、そんな人に奢らせようなどとは考えないだろう。
秋子の考えも確かに的を得てはいるのだが、それがあの五人に適用できるかどうか。
香里と美汐はそのコメントに、ため息をはく。
多分、その思惑道理にはならないということが分かっているから。
秋子との思惑の差は、彼の日常を、奢らされているという日常を見ているか、見ていないかだろう。
そんな2人を見て祐一は苦笑する。
彼も、無駄だろうなあと感じていたから。
そして、三人の中で一人そのことを考えていなかった人物。
佐祐理は二人暮らしということから、疑問に思うことがあり、それを考えていたことによる。
そして2人の話を遮るように佐祐理が割り込む。
「あの、祐一さんと、祐さんが一緒に暮らすとして、家事とかってどうなるんです?」
佐祐理にとっての疑問。
その言葉を聴いて2人もはっとする。
それは香里と美汐にとっても当然の疑問でもあったからだ。
「俺がやりますよ?」
祐一はなぜ「当然」のことを聴くんです?といったふうに答える。
「え?」
「何をそんなに驚くんだ、香里?」
「相沢君、料理とかできるの?」
「ああ、できるが?」
「祐一さんの料理の腕は中々すごいですよ?」
祐一の言葉を裏付けるかのように秋子が言葉を続ける。
「うそ・・・」
どこか呆けたようにつぶやく。
秋子をして中々すごいといわれるほどの腕なのだ。
この三人にしてみれば料理ができるということで、祐一に対してのアピールポイントであっただけに、ショックといったところだろう。
「えっと・・・ひょっとして家事全般できるんですか?」
「ああ、できるぞ?」
美汐の問に答える祐一。
「祐ちゃんのために、親になったんですよ、祐一さんは」
秋子はどこか誇らしげに言う。
「それに料理とか自分ができないと教えられないだろう?」
「それは確かにそうだけど」
栞に料理を教えていた香里にとってみれば、それは確かにその通りなのだが。
「それに秋子さんは、ああいっているがそんなにたいしたもんじゃないぞ?佐祐理さんのほうがずっと上手いさ」
祐一の誉め言葉に顔を赤らめる佐祐理。
「まあ、とりあえずその話は置いておいてですね、秋子さん、先程の話なんですけど、祐はいつこっちに?」
「実は・・・明日なんです」
どこか茶目っ気のある表情で秋子は言う。