保護者達の伴奏曲−第五楽章−

作:デビアス・R・シードラ様


「まあ、とりあえずその話は置いておいてですね、秋子さん、先ほどの話なんですけど、祐はいつこっちに?」

「実は・・・明日なんです」

どこか茶目っ気のある表情で秋子は言う。

 

第五楽章

「な、なんていうか、ずいぶん急ですね?」

美汐の言葉に秋子がうなずく。

「姉さんから話を聞いて、一刻も早く行動したかったですし。第一祐一さんなら、そうすると思いましたし」

その言葉に祐一は苦笑する。

「まあ、そうですね」

「祐一さんなら、祐ちゃんが悲しがっていると知ったら自分から海外へと出て行きそうです」

佐祐理は少し笑いながら言葉をつむぐ。

「ですよね?」

「否定はしませんよ」

先ほどよりもやや渋面で祐一はうなずく。

「俺のとっての一番は『祐』ですから」

しかし、祐一の顔には慈愛が満ちていた。

「ところで一点気になっているんですけど?」

会話に加わってこなかった香里がいぶかしげに秋子に問う。

「はい」

「祐ちゃんて9歳ですよね?どうやってくるんですか?」

まあ、常識的に考えても9歳児が一人で海外からくるのは無謀だ。

「ええ、それは奏花さんがいっしょですから」

「ああ、なるほど」

秋子の言葉にうなずき、二人だけでわかりあっている祐一と秋子。

「ちょ、ちょっと?その人って?」

名前からしても、女性であるのは間違いない。

そのことから慌てたように問いただす香里。

「ああ、うちのメイドさん」

「「「え?」」」

香里、美汐、佐祐理の声がはもる。

「相沢君の家ってお金持ち?」

「あら、香里さんは知らなかったんですか?」

むしろそのことのほうが驚きといった表情の秋子。

「あの、ひょっとして?相沢って・・・あの?」

美汐がおずおずと答える。

「世界的に有名な、YAコンツェルン?」

「ああ、そうだぞ?」

こともなげにうなずく祐一。

「もっとも経営者は親父の兄、俺の叔父にあたる人だけどな」

「・・・はえー。相沢祐貴さんなら、何度かお会いしたことが」

「ああ、そうか。佐祐理さんならあったことあるだろうね」

そういえばこの人もお嬢様なんだよなーと再認識する祐一。

あまりにも普通に接しているからふと忘れそうだが、佐祐理もこの街では比肩するものがいないお嬢様である。

「ということは、祐一さんのお父様は祐史さんですか?」

「ええ」

「・・・その方って、YAコンツェルンの社長では?」

その言葉に反応して答える美汐。

よく知っているな、と感心しながら祐一はうなずく。

「まあ、社長という割には常に最前線で働いているけどなー」

「やっと、ゆっくりできるといっていた矢先に、海外での業績上昇計画を理由に日本を離れさせられていますしね」

祐一の言葉を秋子が補足する。

「それで祐一さんが日本に残られるという話になったんですね?」

「そういうことです」

「相沢さんはお金持ちだったんですね」

「あくまで会社は叔父のものだぞ?」

美汐の問いかけに祐一は苦笑する。

「あら、でも祐一さん後継者ですよね?」

「どういうことです?」

秋子の言葉に要領を得ないといった感じで香里が問う。

「祐貴さんはお子さんがおられないんですよ。そして、祐一さんのことを実の息子以上にかわいがっているんです」

「そういうことなんですか」

秋子の言葉にうなずく美汐。

「まあ、確かに祐とともにえらく気にいられてはいるけどな」

「祐ちゃん早くあってみたいです」

満面の笑みで言う佐祐理。

「まあ、佐祐理ちゃんなら問題はないでしょうね」

どこか面白そうに言う秋子。

「どういうことです?」

「祐一さんが祐ちゃんのことを大事に思っているように、祐ちゃんも祐一さんのことをすごく大事に思っているというか、心配してるんですよ」

その秋子の言葉に苦笑いする祐一。

「まあ、確かに俺のことを思っていろいろとしてくれているのはわかるんですけどね」

「相沢君が苦笑している意味がわからないのだけど?」

「ああ、簡単に言うとな、俺のお嫁さんを探しているんだ」

「「「!?!?!?」」」

祐一の嫁という言葉に過敏なほどの反応を示す三人。

「パパのお嫁さんは私が探してきてあげる!っていうのが口癖みたいになってきているしなあ」

「そうですね。可愛いです」

祐一の言葉に秋子も微笑む。

祐の横でその言葉を聞いて、どこか照れながら、しかし嬉しげに祐の頭をなでる祐一の姿を三人も思い浮かべてみる。

いかにもアットホーム的な微笑ましい風景が描ける。

が、しかし・・・三人にはその絵を思い浮かべるのに欠けているものがある。

「祐一さん、祐ちゃんの写真とないんですか?」

半ば持っていることを予想しながら佐祐理が聞く。

「ええ」

祐一は答えながら、財布を取り出す。

「はい」

佐祐理に写真を渡す。

その写真を香里と美汐も覗き込む。

そこにはどことなく祐一に似ている少女が写っていた。

基本的に祐一と血はつながっているが、それにしても似ている点が多い。

並んでたてば、兄妹、親子、そのどちらでも誰も不思議がらないだろうし、何も言わなければそうとるだろう。

祐という少女は肩まで伸びているきれいなストレートの黒髪や、その容姿の綺麗さからも十分すぎるほど人をひきつけるだろうし、将来的にはすばらしい美人になるだろう。

ただ、彼女を見たときに最も印象に残るのはそのひとみではないだろうか?

深く澄み切った黒、決意とその意志の強さが見てとれる、そのひとみ。

そう、彼女のまなざしは相沢祐一に似ているのだ。

相沢祐という少女が、相沢祐一とのつながりを最も感じさせている部分でもあるだろう。

「可愛いですねー」

「本当に」

三人ともに好意的な感想を残す。まあ、もっとも相沢祐一の娘という点のみで彼女たちが好意的にとらないはずはないのだが、それを抜きにしても、非常に魅力的な少女だった。

「どことなく名雪に似ている部分もあるわね」

「そうか?朝は普通に起きるぞ?」

祐一はわざとらしく言う。

「それは、名雪だけが持つ特性でしょう」

実の親に言い切られる名雪。

その言葉に苦笑するしかない香里。

話には聞いているものの実際にはどこまでひどいのかわかっていない佐祐理と美汐はきょとんとしたままだ。

「まあ、二人の想像以上さ」

「そうですね」

祐一の言葉に秋子も深くうなずく。

母親にここまで言われてしまう名雪っていったい?

もっとも日ごろの彼女の朝を知っているものならば誰もが納得はするだろうが。

「確かに容姿的には名雪にも通ずるものがあるかもなあ。まあ、血縁者なわけだし」

「それはそうね」

いとこの子供とはいえ、血縁的には確かにつながってはいる。

さらに言うのならば、秋子と、祐一の母は非常に似ている。双子といってもさしつかえがないぐらいだ。秋子と、名雪も親子という以上に似ている。祐一の母と名雪が親子といっても信じない人のほうが少ないだろう。

そして、祐一と祐一の兄はどちらかというと女顔で、容姿的には母親の遺伝を受け継いでいる。それで祐一の兄の娘なわけだから、当然祐と祐一の母は似ている。

基本的に相沢家、水瀬家の女性たちはみなにているというわけである。祐のことを名雪が妹として紹介することができるぐらいには。

「それにしても可愛いですねー、それで明日のいつごろこられるんです?」

「明日の朝には日本にはつくといっていました」

「ということはそこから電車での移動を考えると昼前頃かしら?」

空港からの所要時間を計算する香里。

「そうですね、だいたいそれぐらいになるでしょう」

「俺の携帯の番号って教えたんですよね、秋子さん」

「ええ、教えておきましたよ」

「「「携帯!?」」」

予想外の言葉に反応する三人。

「うん?あれ、言ってなかったか。ついこの間買ったんだが」

「名雪は知りませんけどね」

基本的に名雪に対する秋子さんの扱いというもの結構ひどいような気がするが、名雪の祐一に対する扱いと比べるとはるかにいいとは思えるから不思議だ。

「真琴やあゆも知らないとおもうぞ、あいつらに教えるとろくなことになりそうにないから」

祐一の予想は確かにわかるものがある。

あの三人、とくに真琴などに教えたら格好のいたずらの的だろう。

「いい判断だと思うわ」

香里も納得する。

「で、私たちには教えてくれるんですか?」

むしろ、教えてください!といった表情の美汐。

「ああ、かまわないぞ」

「携帯持とうかしら・・・」

祐一の言葉に香里も一度はいらないと思っていたものの優位性を考え直す。

祐一が一人暮らしをすれば、名雪たちに気兼ねして電話していなかったものが電話できるようになる。

さらに祐一が携帯電話を持ち、自分が持てば家の電話で受けなくてすむ。

つまり、栞に干渉を受けなくてすむということ。

そして、それは佐祐理にもいえる。佐祐理の場合はルームメイトの舞に気兼ねすることなく電話をかけられるし、電話を受けられるということだ。

もっとも、佐祐理はすでに携帯電話を所有していたし、その電話番号は祐一も知っていたりする。

美汐にしても、直接祐一に電話できるというメリット、そしていつでも電話を受けることができるというメリットは大きい。

そして、この三人は「程度」とか「加減」とかを非常に理解しているので電話代がかさみすぎるということもないだろう。

どこかの五人にように。

「明日迎えにいかないとな」

「それと、祐一さん今日中に引越しの準備もしないといけないんじゃないですか?」

美汐の指摘に祐一はうなずく。

「まあ、もっとも俺の荷物なんて少しだけどな。こっちにきてから荷物も増えてないし」

むしろ増やすことができなかった、と言い換えるべきかもしれない。

「あの子達にはやっぱり罰が必要ですね」

ぼそっとつぶやくような言葉、しかし、いつもの秋子の言葉とは比較にならないほどの冷淡な声だった。

「じゃあ、そろそろ帰らないと」

引越しの準備を整えなくてはならない、物が少ないといっても早くはじめるにこしたことはない。

祐一の予定上、明日の午前中までには引越しを済ませておくつもりだった。

「手伝いましょうか?」

「いや、いいよ。とりあえず箱詰めするだけだから」

美汐の手伝いを断る祐一。

「それに手伝ってもらっているとあいつらが何しだすか・・・」

その言葉に深くうなずく美汐。確かにそのとおりだろう。

「あの子達には何も告げずに引っ越してしまうほうがいいでしょう」

秋子の言葉に全員がうなずく。

「明日あの子達をわたしが買い物と称して連れ出しますから、皆さん手伝ってくれますか?」

続く言葉にも三人はうなずく。

「すみません秋子さん、みんな」

「いえいえ、祐一さんの力になれて佐祐理はうれしいですよ?」

そういって微笑む。

「じゃあ、とりあえず明日はそういう段取りで」

「何時ごろ伺えばいいんでしょうか?」

「9:00には連れ出しますから。9:30ぐらいかしら」

時間を確認し、ここで今日は解散となる。

名残惜しそうな三人と別れ、祐一は秋子と共に夕食の買出しへとついていく。

こうして祐一の水瀬家での最後の一日は過ぎていった。

明日には祐一の娘『祐』がくる。果たして彼女はどういった日常をもたらすのだろうか?

 

 

第一部 完

 

つづく


あとがき

どうも、作者のD.R.S(長いので省略)です。

さて、今まであとがきなんてモノはなかったのですが、第一部最後の話ですし・・・少しはこう、説明でもしとこうかと思いまして、今回からあとがきを追加です。

まず最初に感想をくださった皆様ありがとうございます。私個人は基本的に掲示板には書かない人ですが、必ず掲示板を見させていただいております。ですのでこの場を借りてお礼申し上げます。本当にありがとうございます。

感想をいただけると次を書かねば!という意欲をいただけます。

更に謝らねばなりませんね、相変わらず『祐』が出てきません。楽しみにされていた方、申しわけありません、次回には必ず!

それと、題名に関しましてすこし。

本当に題名は私の中では決まっていなかったんですね。で、かまぼこさんに決めてもらったんですが、いい題ですねえ。『保護者』というところにはものすごく感銘を受けますね、『保護者』最初の展開上では女性人4人のことをさすのでしょうけど、この作品における最大の保護者って主人公である祐一君なわけですからね。この展開を知っていたのか!と思いましたし。

さすがです、かまぼこさん!!

では、長くなりましたのでこのへんで。

また、次の機会がありましたら、お会いしましょう。

補足

ちなみに普段の私と違う!など思った方々、時々はこういうときもあるんですよ。

 

 

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