保護者達の伴奏曲 第二幕−第二楽章−

作:デビアス・R・シードラ様


 

「こんにちはー」

部屋で片づけをしている祐一の耳にチャイムとともに声が聞こえる。

「この声は佐祐理さんだな」

いったん片付けの手を止め、玄関へと降りていく。

 

「ずいぶん早かったですね」

「ええ、急いできちゃいました」

ちょっと茶目っ気の表情で言う佐祐理。

すでに高校を卒業し、来年からは大学生だというのに、こういったことをされても似合うのは割と不思議だ。

「お邪魔しますねー」

祐一に断りながら佐祐理は靴を脱ぎあがっていく。

「あ、二階なんで」

階段へ誘導する祐一。

「そうなんですか。あ、そういえば佐祐理、祐一さんの部屋にいくの初めてですね?」

「そう言われてみればそうですね」

佐祐理の家に舞とともに行ったことはあるが、佐祐理が祐一の部屋を訪れたことはない。

「一応居候のみですから、『招待する』というわけにもいかなかったですしね」

「そうですね。皆さん集まってのパーティーなんかは結構来ているんですけどね」

年末年始や、水瀬家一同によるバーベキューなどそういったものに参加はしていたのだが。あくまで会場はリビング、庭である。

祐一の部屋には入ったことがない。

「そういえば、香里や、天野も入ったことないかもしれませんね」

「そうなんですか」

そう答えながら、内心少し安心する佐祐理。

とりあえずリードは許していないようだからだ。

もっとも水瀬三姉妹(真琴はまだ未定だが)は祐一の部屋に入るなんて日常茶飯事なのだが、彼女たちにはすでにリードなんてない。

むしろ対象外である。

「もう結構片付いてますね?」

祐一の部屋を見ての佐祐理の第一声がである。

「まあ、ある程度片付けましたから」

そう祐一は苦笑するがちなみに佐祐理は知らないのだが基本的に祐一の部屋は佐祐理が今見ている現在とほとんど差がない。

「あとは本棚の整理ぐらいですか?」

もう一度部屋を見渡して佐祐理が確認する。

「服なんかが少し整理しないといけませんけど」

ちなみに下着などは先に箱詰めしてある。

「あんまりやることないですね?」

「そういわれてみるとそうですね」

祐一も部屋を見渡して答える。

ここに引越ししてきたときにある程度の荷物はあったはずだが、最初に必要なものを荷解きしただけにとどまっていた。

というのも日曜日などは真琴や、名雪たちにつれまわされて自分の時間をとることができなかったせいである。

「すぐに終わりそうですね?」

「そうですね。香里や、天野もすぐ来てくれると言っていましたし」

「でも急ぐにこしたことはないでしょうし」

不測の事態などで遅れるわけにもいかない。祐を待たせるということは祐一には考えられない。

「ですね」

そんな話をしていると階下からチャイムの音。

「二人ですかね?」

「ほかの人だったら祐一さんが困りますよ」

 

「えっと、本当にすることがありませんね」

美汐の部屋を見ての第一声も佐祐理とほとんど変わらなかった。

「そうね」

同意する香里。

「そういえば、引越しの荷物はどうやって運ぶの?」

「秋子さんが任せてくださいっていってたけど・・・」

「そのことならおまかせください!」

佐祐理の声に一同佐祐理のほうを向く。

「秋子さんが軽トラックを友人から借りたそうなので、佐祐理が運転します」

「・・・ええと。つまり佐祐理さんが車で運んでくれると?」

「ええ」

その言葉に納得したようにうなづく香里と、天野。

「どうしたんだ?」

「いえ、近くの空き地に軽トラックが置いてあったので」

「なるほど」

「でもこれなら、箱に詰める人と運ぶ人と分けたほうが効率がよさそうね?」

香里の言葉に一同うなづく。

「そうか、ならとりあえず俺は運ぶとして・・・」

「この中で一番力があるのはあたしかな」

そう言って香里が名乗り出る。

 

「結構早く終わったな」

祐一の言葉どおり10:30にはほとんど排出が終わっていた。

もっとも家具とかはそのままおいていくのだからそんなに量はないのだが。

「そうですね、では移動しましょうか・・・そういえば新しい家の位置を知らないのですが?」

天野の言葉に祐一が地図をわたす。

「そんなに遠くはないぞ?」

「・・・へー。ここよりもうちに近くなるのね」

覗き込みながら言う香里。

「私の家にも近くなります」

「佐祐理の家からも近くなりますね」

「そうなのか?」

三人の言葉に確認の言葉を返す祐一。

「そうね・・・水瀬家より近いわよ」

「一番近くなるのは佐祐理の家ですね」

「その次が私の家でしょうか」

地図で、自分の家を指しながら言う三人。

「まあ、とりあえず移動するか。佐祐理さん道大丈夫?」

「ええ、だいたい」

もう一度地図を確認しながら佐祐理はうなづく。

「では、ナビゲータとして私も同行します。このあたり」

そう言って途中の自分の家のあたりをさす美汐。

「結構入り組んでいますから、車だと地理がないときついと思います」

「そう・・・じゃあ、お願いするわね」

「お願いしますね、美汐さん」

二人の言葉にうなづきながら助手席にのる美汐。

「じゃ、香里、俺たちはゆっくり歩いていくとするか」

「そうね・・・っと先に鍵を渡しておいたほうがよくない?」

「それもそうだな」

そう言って美汐に鍵を渡す祐一。

「先に開けてしまってかまわないんですか?」

「かまわないさ」

その言葉は信頼の証である。

 

香里とゆったり歩いていく祐一。

「そういえば、祐ちゃんから連絡はあったの?」

「ああ、朝に。ちょうど香里達から連絡が来る少し前にな」

「そうなの、じゃあ・・・」

すこし目算する香里。

「昼少し前と言ったところかしら。11:30ぐらい?」

「たぶんな・・・奏花が迷わなければ」

「え?」

香里の表情に苦笑する祐一。

「まあ、一言で言うと・・・ドジなんだ」

「そ、そうなの」

「普段は凛としてるんだけどなー」

しみじみとうなづく祐一。

「だから、祐には二人で買い物に行くなと言われててな」

「どうして?」

「俺ははっきりいって方向音痴だし、俺と二人で買い物とかに行くとより一層慌てふためく回数が増えるしなあ」

それは相沢君と二人であるからこそなんじゃないかしら?と思う香里。

「まあ、そういったことで帰ってくるのにえらい時間かかることがあってさ」

「相沢君は迷う、奏花さんはドジって道を間違えるってことね?」

「そうそう」

苦笑しながら言う祐一。

「じゃあ、二人にとって祐ちゃんはナビをかねるのね?」

「上手いこというな」

苦笑しつつうなづく祐一。

「まあ、そういったところも欠点なんかも含めて奏花と言う一人の人間だからな」

「そう言ってしまえるあなたが、時々本当にすごいと思えるわ」

「そうか?たとえば栞も絵が下手という部分も含めて栞だろ?」

「そうね」

「そういえば前から疑問に思ってたんだが」

「?」

「香里は絵は上手いのか?」

「そうねえ」

少し考える香里。

「上手くはないわ。といっても栞のように異次元は描かないわ」

「なるほど」

最近のなぞがひとつ氷解して満足げな祐一。

「まあ、あれもひとつの才能だよな?」

「そうかもしれないわね」

苦笑しながらうなづく香里。

「あたしからもひとつ質問なんだけど。奏花さんってメイドさんなのよね?」

「ああ、俺も祐も家族としか見てないけどな」

「どういうこと?」

いぶかしげにたずねる香里。

「いや、一応俺の両親が後見人なんでな」

「そうなの?」

「ああ、昔病気で両親二人とも亡くしてな。うちの両親が養女として引き取ろうとしたんだけどな」

「断ったの?」

「ああ、そこまで迷惑はかけられません・・・ってね」

そこでいったん言葉を切った祐一。

「まあ、その程度であきらめるうちの両親ではないんだが」

「はい?」

「いきなり奏花の家の契約をきってだな」

「え?」

「本人が高校いっている間に、荷物をすべて我が家に運び込んでだな」

「・・・」

もはや驚愕の表情のみの香里。

「俺も知らない間にやっていたしなあ」

「・・・・・・」

「で、奏花が家に帰ると家には『物は運びました』って扉にはってあるんだな」

「・・・・・・・・・」

「いやあ、あれには驚いたなあ」

「って、それで終わり?」

「いや、まあうちの両親のすることだし」

そんなに驚くことか?といった表情の祐一。

「何ていうか、『この親にしてこの子あり』って言葉の意味がすごくよくわかったわ」

「・・・そうか?」

「まさか、祐ちゃんも・・・こういった子なのかしら」

まあ、それはそれで楽しそうだけど、そう思ってしまう自分に苦笑する香里。

自分も結構この人に毒されたなあ何て思ったりしていた。

 

「あ、もう運び込んでいるんだな」

「そうね、早くて手伝わないと・・・って、大きな家ね・・・」

ちょっと冷や汗かきながら見上げる香里。

「そうだな・・・っていうか、基本的にうちの両親がいても5人でしかすまないんだけどな」

「そうよねえ・・・」

もう一度見上げて言う香里。

「まあ、とりあえず荷物入れよう」

 

トラックへと近づく祐一達に佐祐理が声をかける。

「あ、祐一さん。荷物なんですけど、とりあえず玄関のところへ積んでしまってますけど」

「あ、それでいいです。部屋割りとかは祐と決めるんで」

「そうですか、よかったです」

そこへ美汐もやってくる。

「ほとんど荷物は入れましたけど、あとは本とか少し重いものだけ残ってしまいましたけど」

「ああ、ありがとう、天野。そのへんは俺が運ぶからいいよ」

そう言って微笑む祐一の笑顔にほほを赤く染める美汐。

「そ、それにしても大きな家ですね」

ちょっと照れ隠しにそう言う美汐。

「そうよね、あたしもさっき言ったんだけど・・・大きいわよねえ」

「佐祐理先輩のお宅に行ったときも思ったんですけど、ここも大きいですよね。でも祐さんと二人で住むんですか?」

「まあ、一応今はそういう予定だけどな」

どこか含みを持たせた祐一の言葉。

 

「さて、これが最後の荷物か」

積んである箱の上に積み重ねる。と、腕時計を確認する。

11:00

「ちょうどいいな、そろそろ駅に行くかな」

「佐祐理車返してきますね」

つぶやきながら玄関から外へと出た祐一に声がかかる。

「あ、はい。ありがとう佐祐理さん」

「いえー」

「あれ、でも佐祐理先輩この車ってどこに?」

「この近くの業者さんですよ、秋子さんの知り合いだそうです。朝借りてきたので場所はわかっていますから」

5分ぐらいの位置にあるそうだ。駅へと向かう道の途中に当たる。

「じゃあ、そっちで合流しましょうか、そろそろ駅へ向かうんで」

「そうですね。では先に行きます」

そう言って佐祐理は車を走らせて行った。

「それにしても佐祐理先輩車の免許持ってらしたんですね」

「そうだな。つい2.3日前にとったばかりって言っていたけどな・・・3週間前ぐらいにとりに行きますって言ってたけど、早いよなあ」

あっさりと試験はすべて一発通過した佐祐理だった。

「そうね、でも佐祐理先輩、運動神経とかいいし、昨年の主席卒業だし、筆記も問題ないでしょうしね」

「あー。免許かほしいなあ、バイクなら持ってるんだけどなあ」

「相沢さん、バイクの免許持ってるんですか?」

「ああ、こっちには持ってきてないからなあ。あ・・・でもまてよ。向こうの家を引き払ってこっちに荷物は入れてあるって言ってたから」

そういいながらガレージへと歩いていく祐一。

「えっと、こっちはこの鍵か」

先ほど美汐に返してもらった鍵の束であける。

「おお。あるじゃないか、MY愛車!」

「へーサイドカーつきなのね?」

「ああ、祐が乗れるようにな」

祐一の言葉に苦笑する、香里と美汐。やはり祐が考え方の最優先である祐一である。

「さて、それじゃ駅に向かうか」

ガレージのシャッターを閉めながら祐一が言う。

 

「まだこの時期は寒いな」

駅までの道歩いてきたとはいえ、この街の三月はまだ寒い。

「みんなあそこの喫茶店で待っていてくれないか?」

そう言って駅の一角の喫茶店を指差す祐一。

「祐一さんは?」

「俺はここで待ってるつもりですけど?」

「なら、佐祐理たちも待っていますよ」

「いや、そこまでしなくても・・・」

それをやんわりと断る祐一。さらにいいですよと切り出そうとする佐祐理をさえぎるように美汐が言葉を挟む。

「せっかくの好意です、そうさせてもらいましょう」

そう言って香里と佐祐理とともに喫茶店へと向かう。

「美汐さん?」

とめられた佐祐理が不思議そうに美汐に問いかける。

「佐祐理先輩、久方ぶりの親子の再会です。二人だけにさせてあげましょう」

美汐の言葉に『あっ』となる佐祐理。

「そ、そうですねー久しぶりの親子再会ですね」

納得がいった佐祐理。こうして三人は喫茶店の中にて待つこととなる。

もっとも奏花がいるのだから、美汐の思っているように親子二人きりの再会ではないのだが。

 

 

つづく


あとがき

掲示板にて感想くださった方ありがとうございます。

掲示板のほうへ返答書いておきますね。

PS…今回祐ちゃんでてこねー(ニヤリ

 

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