保護者達の伴奏曲 第二幕−第三楽章−
作:デビアス・R・シードラ様
「そういえば、パパ一人?」
「いや、引越しを手伝ってくれた人たちと一緒だ。あそこの喫茶店で待ってもらってる」
祐一と手を繋ぎながら歩いていく祐。祐の右側に祐一、左側には奏花。
以前は人いわく『私はメイドですから』ってことを言って二人の半歩後ろを歩いていたのだが、祐に『奏花おねえちゃんは祐と一緒に歩くの嫌いなの?』と涙目で言われてからは祐の隣を歩いている。
「ふーん。その人たちって女の人?」
「ああ、そうだが?」
その言葉に反応する二人。
一瞬これでもかってぐらいに驚きの表情を浮かべた後、慌てふためいて表情を戻す奏花。
ちょっと考えてから小さくうなづく祐。そして背中に背負ったウサギ型のリュックサックの中から小さいノートを取り出す。
『パパおよめさんこうほかんさつ日記』と書かれた一冊のノート。
実は祐一と奏花も今までその存在を知らなかったりする。
「・・・祐それなんだ?」
「祐様それは?」
二人の目線が祐の手元に注目する。
「あ、な、なんでもないよ」
すっと自分の背中側に隠す祐。
不思議に思いながらも、まあ見せたくないならいいか、と歩き出す祐一。
その姿を見て、祐様なら見せる機会にみせてくれるでしょう、と思い祐一の後を歩いていく奏花。
そして一つ頷いてから二人の後を追う祐。
ノートは背中に戻してある。あとで観察し終わってから記載しようと思いながら。
祐と祐一の再会を三人は喫茶店の中で見守っていた。
喫茶店ではウエイトレスに頼んで窓際の席を用意してもらったのだ。
「あの子が祐ちゃんね」
祐一に抱きつく女の子を見ながら言う香里。
「そうですね、写真の子です。それとあの後ろの方が奏花さんでしょうね」
美汐の言葉に佐祐理が頷く。
「きれいな方ですね・・・って、走っていってこけちゃいました」
苦笑する佐祐理。
「・・・相沢君がドジなんだって言ってたけど。なんか納得できるわね」
「・・・そうですね」
美汐も苦笑する。
「それにしても・・・写真より実物のほうが可愛いわね」
「私もそう思います」
香里の言葉に美汐も同意する。
「佐祐理もそう思いますね。ああいう子なら本当に自分の娘にほしいですよね」
「そうですね。でもなんていうか、娘と言うより、妹でしょうね」
「年齢差的にはそうね」
こけた奏花に走っていく祐を見ながら言う香里。
「妹ですかあ。妹のいる香里さんとしてはどうですか?」
「そうですね。まあ栞とはいろんな意味で比較にはならないですけど」
佐祐理の言葉に苦笑いしながら続ける香里。
「妹っていいですよ」
「そうですかー」
三人そろってこっちに向かってくる姿を見て美汐がポツリとこぼす。
「でも、ここから見ていると・・・中のいい夫婦みたいに見えますよね・・・」
祐一と祐、奏花の三人が喫茶店に近づいてくるのを見て佐祐理が促し、席を立つ。
会計を済まし(もちろん誰かのおごり等ということはない)外へと出て行く。
「こんにちはー」
「こんにちはー」
佐祐理の言葉に元気よくにっこりと笑顔で祐が答える。
「えっと、その。祐一さん」
「はい?」
「祐ちゃんください」
ずずいと詰め寄る佐祐理。
「さ、佐祐理さん!?」
「可愛すぎです、祐ちゃん」
そう言いつつ祐を抱きしめる佐祐理。
なんとなく抱きしめられた祐もきゅっと佐祐理を抱きしめてみる。
「・・・えっと。俺はどう対処したらいいのかな、香里」
「ふられてもね」
苦笑でしか返せないわよ、といった感じの香里。
「うーん。良い抱き心地でした」
そう言って抱擁をとく佐祐理。
「それにしても、結構不思議だな」
「そうですね」
祐一の言葉に頷く奏花。
「どこが不思議なんです?」
「いや、結構人見知りするんだけどな、祐って」
「そうなんですか、とてもそうは見えませんけど」
佐祐理と楽しげに話している祐を見ながら答える美汐。
「そうなんだけどな。佐祐理さんとは馬が合うというか、相性が良いんだろうな」
「でしょうね」
「皆様、好かれていると思いますよ。祐様嫌いな人でしたら祐一様の後ろに隠れてしまってでてきませんし」
「そうなんですか?」
「はい」
香里の言葉に頷く奏花。
「逃げちゃうしな」
「そうですね」
「とりあえず嫌われてはいないみたいね」
ちょっと安堵する香里。
「とりあえず、奏花」
「はい?」
「荷物」
そう言って右手を差し出す祐一。
「いえ、その・・・これは仕事ですから」
「そういうこと言っていると、また祐に泣かれるぞ?」
その言葉にびくっとする奏花。
祐の泣き顔には相当弱いようだ。
「さて、そろそろ行くか」
「そういえば奏花さん達はご飯食べられたんですか?」
「いえ、食べてないですけど。それと、奏花でかまいませんよ」
「いえ、そういうわけにもいきません」
奏花のほうが年上である以上そういったことはちゃんとしておきたい美汐である。
「ねえ、パパ。久しぶりにパパのご飯食べたい」
祐一の服のすそをくいっと引っ張りながら言う。
「そうか、じゃあ、なんかかって帰ろうか」
「そういえば引越しのときにキッチンを覗かせて貰ったんですけど、必要なものは一応そろってましたよ。鍋とかならですけど」
調味料とかは買わないといけませんね、と続ける佐祐理。
「お姉ちゃんたちは料理できるの?」
好奇心で聞く祐。もっとも好奇心以外にパパのお嫁さん候補としての観察の一環もあるのだが。
「この三人は料理美味いぞ?」
「へー、お姉ちゃんたちすごいねー」
ないしんチェックしてたりする祐。
「祐ちゃんはどうなんですか?」
なんか一気に打ち解けて手を繋いで歩いている佐祐理。
「うーん。ぜんぜんダメー」
「練習しますか?」
「教えてくれるの、お姉ちゃん?」
「佐祐理でよければ」
「うん」
なんか微笑ましい雰囲気までかもし出していたりする。
佐祐理の過去を佐祐理本人から聞いて知っている二人、香里と美汐にとってその風景はすごく嬉しかったりする。
弟と言う存在を自分のせいで失ったと思っている佐祐理にとって、妹のように感じられる祐という存在がすこしでもかつての傷を癒してくれそうで。
もっとも、佐祐理の過去を知っているもう一人、祐一はそんなことは考えておらず、祐がいきなり仲良くなっていることを喜んでいたりする。
そして、奏化はどこか悔しかったりする。それは奏花の料理の腕のせいなのだが、まあ、それはそのうち語られることもあるだろう。
「いまいち家の周りの地理に詳しくないんだが、あのあたりで食材買える店ってあるのか?」
「あのあたりですか。向かう途中にはありますが」
美汐が即答する。
「さすがね」
祐一が言葉を挟む前に香里がさえぎる。
ちょっと悔しそうな祐一。そんな祐一を見上げて不思議そうな祐。
「でも、調味料とかはこの駅前でそろえたほうが良いですよ」
「じゃあ、近くのスーパーにでも行きましょうか?」
「そうだな」
香里の言葉にうなづく祐一。
「そういえばメニューはなににするの?」
歩きながら香里が祐一に問う。
「祐何がいい?」
「えっと。カレー」
「ふむ」
「でも引越しといったらそばじゃないですか?」
「ああ、引越しそばというやつか」
美汐の言葉にそれもそうだなあと思う祐一。
「ねえ、パパ。引越しそばって何?」
「それは・・・」
「引越し先の近所に近づきのしるしとして配るそばのことですよ」
言いよどむ祐一にかわって美汐が答える。
「えっとなんで、そばなの?」
「『おそばに参りました』の意味をかけているんです」
「へー、そうなんだ。お姉ちゃん物知りー」
素直に感心している祐と、照れている美汐。
「・・・さすがおばあちゃんの知恵袋」
こっそりとつぶやく祐一。
「ねえ、パパじゃあ、おそばにするべきだよね」
「まあ、そばを買って配るってのはいいアイデアだよな。じゃあ、祐」
「?」
「カレーうどんならぬ、カレーそばにするか?」
「うん!」
「一応配り終えたな」
「ちょうど、お隣さんとかいて良かったですね」
そばを配ったのがちょうど昼時だったこともあるだろう、いまどき珍しいわねえ。といいながら皆さん嬉しかったのか近所の皆様はかなり好意的に受け取ってもらえていた。
「パパ。カレーのなかに直接おそば入れるの?」
キッチンにいすを持ち込み軽く煮込んでいる祐一を見ている祐。
カレーを作るといっても時間が押しているため市販のルーを使って簡単に作っている。
「いや、これをおそばのだしでのばすんだよ」
そんな親子がキッチンで会話している間、ほかの四人はリビングで会話中。
「おまちどうさまー」
そう言いながら祐がそばを持って入ってくる。
「はい、お姉ちゃん」
「ありがとう」
一番近くにいた香里の前におくとまた戻っていく。
と、こんどは祐一が一気にトレイで4人前と、祐が自分用のやや小ぶりのどんぶりを持って入ってくる。
「じゃ、食べるか」
「「「「「いただきまーす」」」」」
「あ、美味しい」
「美味しいですね」
「蕎麦にカレーも美味しいですね」
「祐一様は相変わらず、上手いですね」
「パパ美味しいよ!」
皆から絶賛を受ける祐一's料理。
「そういえば、水瀬家のみんなは引越しのことも知らないのよね」
ずずーとすすりながら香里が問う。
「そうだな。あとで一応行こうとは思ってるけどな。祐連れて」
「ごねそうですね」
美汐の言葉に厳かに祐一はうなづく。
「だろうな。まあ、俺の知ったことじゃない」
「自分のことなのにずいぶん他人のことみたいに言うのね」
「まあ、あいつらにはしばらく他人の対応をするつもりだからな」
「そういうこと・・・こたえそうね」
香里は苦笑する。そして自分がそれを行われた時のことを想像して身震いする。
自分の好きな人に、今までとは違った対応をされる・・・それがどれほどのものなのか。
あくまで想像しただけではある。実際にそれをされたとき、それはどれほどのものになるのだろうか。
美汐と佐祐理も同じ想像をしたのだろう。
痛々しい表情をする。
「まあ、自業自得なんですよね」
美汐の言葉にうなづく香里と、佐祐理。
そう、あの五人にとっては自業自得なのだ。
自分のわがままを通し続けたことへの。
あとがき
今回更新早いなあ・・・
たまたまですよ、たまたま(苦笑
PS…祐ちゃんいっぱい出したぞおお!!(←作者的にも嬉しいらしい