保護者達の伴奏曲 第二幕−第四楽章−

作:デビアス・R・シードラ様


「そういえばみんなはどうする?」

食事を作ってもらって後片付けまではさせられない。そう言って佐祐理は洗物をしている。

その横で香里が食器を拭き、美汐が片付ける。

見事な連携で片付いていく。

ちなみに奏花も手伝おうとしたのだが、祐一が必死に止めている。

「あたしは家に戻るわ」

「私も、午後は用事がありますので」

そう答える二人。

「佐祐理さんは?」

「舞と約束があるんですよ」

「そうか」

給湯器を止める佐祐理。

「卒業後に舞と二人で住む部屋を探そうと思っているんです」

「なるほど。候補は決まっているの?」

「全然です」

そう言って苦笑する。

「場所の候補は決まりましたけど」

「なるほど」

その言葉に笑顔でうなづく香里。

「このあたりってことですね?」

最後の食器を片付けた美汐が答える。

「そうですね」

「お姉ちゃんこの辺に住むの?」

祐の問いに頷く佐祐理。

「じゃあ、お料理習いに行っていい?」

「ええ、大歓迎ですよ。いつでもきてくださいね!」

「うん!」

あっという間に仲良くなっている二人である。

「佐祐理先輩になら私も習いたいです」

「そうね」

美汐の言葉に同意する香里。

「佐祐理はそんなに料理は上手くないですよ?」

二人の言葉に答える佐祐理だが、その言葉に苦笑する、美汐と香里。

「本気で言っているのよね、佐祐理先輩の場合」

「謙遜しているわけじゃないですしね」

「?」

そんな二人を不思議そうに見ている佐祐理。

二人の苦笑の意味が割わかっている祐一はそんな光景をほほえましく見ていたりする。

「でも、天野も煮物とか上手いよなあ」

美汐のお弁当をつまんだことのある祐一。

「そうね」

香里もご相伴に預かったことがあったりする。

二人の言葉で祐にも羨望の目で見られていたりする。

「そ、そんなことないですよ」

「そうですねー佐祐理も教えてほしいです」

「あの、その」

照れてあたふたする美汐。

「こんどみんなで料理教えてもらいましょう」

「さ、佐祐理先輩」

「そうね。佐祐理先輩もよろしくお願いしますね」

「佐祐理もですか?香里さんに教えるほど上手くはないですよ」

「そんなことはないですよ」

苦笑で返す香里。

「場所はここを貸せばいいのかな?」

そんな三人に微笑みかける祐一。

「うん!お姉ちゃんたち祐にも教えてね!」

その言葉で決定した。

なお、料理の話に参加させてもらえない奏花は一言も発せず、部屋の隅っこでいじけていた。

 

「そういえば、祐一様の学校はどこにあるんですか?」

「うん?ああ、そうだな・・・だいたいあの辺り」

そう言って指差す。

「ちょうど水瀬家との間ぐらいに当たるんですね」

頭の中で地図を描いて答える奏花。

「そうだな」

「ねえ、パパ、私が通う学校は?」

「あのあたり」

そういて再び指差す祐一。

「パパの学校の近く?」

「ああ、すぐ近くだな。祐の通う学校のほうが家に少し近い」

「ふ〜ん」

「ああ、そうそう。明日一緒に学校行こうな、祐」

ふと思い出したように言い出す祐一。

「転校の手続きなんかはほとんど秋子さんがしてくれたんだけど。一応行って挨拶とかもしないとな」

「うん。わかった。でもパパ私はいつから通うの?」

「新学年が始まってからだな」

「そうですね、もうすぐに学校自体が春休みですから」

奏花の言葉に頷く祐。

「いっぱい友達できるといいな〜」

「祐様は可愛いですからすぐに友達できますよ」

「わ、わたし可愛くなんてないから」

そう言う祐。無論謙遜などではない。

こう言ったところも親である祐一とよく似ていたりする。

ちなみに祐一兄もそうであるからある意味血筋なのかもしれない。

祐一の父である、祐史にしても学生時代から非常にもてていたというし、祐一の叔父である祐貴にしても学生時代からもてていたそうである。

祐貴の妻である汐菜に言わせて見れば「苦労しました」とのこと。

相沢家の人間を振り向かせるには正面きっての告白でもしない限り、恋人になるのは不可能そうである。

なお、祐一の父祐史だけはある意味特殊であるが。まあ、それは別に語る機会があるときに。

「祐は可愛いさ」

そう言いながら祐一は祐の頭をくしゃくしゃとなでる。

そんな幸せな親子の風景は一人の声でさえぎられる。

「あー祐一ーー!」

真琴の声で。

こっちに走ってくる真琴をみて、目を見開く祐。

「真琴ママ!?」

祐の言葉に大ブレーキする真琴。

「あう!?」

そんな真琴に走りよる祐。

そして真琴をしっかりと見て一言つぶやく。

「真琴ママじゃない」

ちょっと寂しそうな声の祐。

「あう?あう?」

どうしたらいいの?って目線で祐一に助けを求める真琴。

「あー確かに真琴ねえの若いころに似てるしなあ」

「・・・私も驚きました」

奏花も目を見開き驚いている。

そう、真琴(元狐)は祐の母親である真琴(祐一の義姉)と非常に似ているのである。

真琴(元狐)が人になろうとしたとき、祐一の記憶の中の真琴(祐一の義姉)の姿を読み取って今の姿を構成したのかもしれない。

「祐一〜」

困った顔の真琴。寂しげな顔で小さな女の子に見つめられているものはきついものがある。

「ああ、祐。真琴ママじゃないからな」

「うん。わかってる」

そういう祐の頭を祐一はゆっくりとなでてやる。

「でも、にてるよね」

「そうだな」

しんみりとした雰囲気。

「あう・・・なんなの・・・」

 

 

「あう!?」

祐の説明で、祐一の娘と聞き慌てふためく真琴。

「あう、あう!?」

「まあ、少し落ち着け」

「だ、だって。祐一娘がいるなんていわなかったじゃない」

まだ、ちょっとあわてている真琴。

「いや、お前も聞かなかっただろ?」

「普通娘さんがいるかなんて聞きませんよ・・・」

二人の会話を聞きこっそりともらす奏花。

まあ、普通学生である祐一に娘がいるか?などとは問わないだろう。

「あう・・・で、この子の母親に似ているの?」

「ああ」

「お姉ちゃんママにそっくり」

祐も頷く。

「あう」

「ねえ、お姉ちゃん抱きついていい?」

「あう?」

「真琴抱きつかせてやってくれないか?」

「別にいいけど」

「祐、良いってさ」

「うん」

言葉とともに真琴に抱きつく祐。

「やはり、真琴様のことを思い出したんでしょうね」

「そうだな」

祐に聞こえないように話す二人。

抱きついてきた祐の背中に手を回してあげる真琴。

保育園で働いていたこともありこういったことにはわりと慣れていた。

「ありがと、お姉ちゃん」

「ん」

微笑む祐に頷く真琴。

「ああ、そういえば祐。そのお姉ちゃんも真琴っていうんだ」

「そうなの?」

「ああ。そして祐にとっておねえちゃんになるかもしれないぞ?」

真琴の養女問題である。真琴は現在、水瀬真琴となるか、相沢真琴になるか協議中だからだ。

「俺の妹になるかもしれないからな」

「そうすると、祐の叔母になるの?」

「そうですね」

「あう?・・・ってことは祐は真琴の姪?」

法律的にはそうなるわけである。

「お姉ちゃんも家族になるんだね!」

そう言って真琴に微笑む祐。

「あう?家族」

「そうだな、家族だな」

「真琴の家族・・・」

その言葉に考え込む真琴。

「お姉ちゃん、祐のお姉ちゃんになってくれる?」

「真琴がお姉ちゃん?」

「うん」

そう言って微笑む祐。

「決めた!祐一決めた!」

決意を込めた目の真琴。

「?」

「真琴は相沢真琴になる!」

「そうか」

祐一は真琴の言葉に微笑む。

「じゃあ、今度一緒に俺の両親に会いに行こうな」

「うん、祐と一緒に」

その言葉に祐がうれしそうに真琴にまとわりつく。

「こうしていると姉妹みたいですね」

「そうだな」

真琴(元狐)は真琴(祐一の義姉)がそっくりなほど似ているのだから、真琴(祐一の義姉)の子である祐が真琴(元狐)に似ているのは当然である。

祐が母親よりも父親に似ているとはいっても。

「お姉ちゃん・・・」

そう言ってうれしそうな表情の真琴。

真琴にとって家族というものはずっとある意味もとめていたもの。昔祐一に拾われ、そして彼を追って祐一の目に再び表れた真琴。

祐一とともに会ったときの家族の暖かさ、それが失われた悲しみ、空虚感から祐一を憎いとまで思った真琴。
真琴は家族の暖かさが欲しくてそれを求めているのである。

そんな真琴にとって姉と呼ばれることは至高の喜びであったようだった。

「そういえば、真琴はどこに行くところだったんだ?」

「あ、つい忘れてた」

「おいおい」

苦笑する祐一。

「中林さんが急にこれなくなったからってことで助っ人」

「中林さん?ということは保育園の手伝いか?」

「そう、日曜日でも預かっている子がいて、何人か見ている人がいるんだけど。急に中林さん用事が入ったからって」

真琴は今でも保育園の手伝いに行っている。とはいっても土曜日か、日曜日にバイトとしていっているだけだが、保育園側も週末はこれない人が多く、非常に助かっていたりする。

「そうか、偉いな真琴」

そう言って頭をなでてやる祐一。

それを見てお姉ちゃん偉い!って言いながら自分も頭をなでようとする祐。

そんな祐が可愛くて見ていて微笑ましい奏花。

「真琴様お急ぎだったのでは?」

「あう!?そ、そうだった。じゃ、行くから」

そう言って走っていく真琴。

「お姉ちゃんまたねー」

手を振る祐。その声が聞こえたのか走りながら手を振り返す真琴。

「なんていうか、風のような方ですね」

「上手いたとえだな」

「お姉ちゃんも一緒に暮らすの?」

「うーん。どうだろ?」

相沢真琴となった場合、まあ、もっとも真琴はそのつもりであるわけだが。

祐一たちと一緒に暮らすほうが普通なわけである。

「祐はどうしたい?」

「もちろん一緒に暮らしたいよ!」

「そうだな。じゃ、今度あったときにそう言おうか?」

「うん」

「では、私たちも早く水瀬様の家に向かいましょう。夕飯の時間には帰りたいですし」

そう奏花が促す。

「そうだな。よし行こう」

祐と手をつないで歩き出す祐一と奏花。

 

ちなみに祐一たちと別れて走っていた真琴。

一つだけどうしてもわからなかったこと。

祐一、祐と一緒にいたあの女性は誰だろう?ということ。

「あう・・・?」

真琴の記憶にはあの女性の記憶はなかった。

「・・・まあ、そのうち祐一が教えてくれるよね」

わりと祐一を信用している真琴であった。

 

つづく


あとがき

祐はしたたかじゃないですよおおおおお(←作者心の叫び

今回水瀬家について名雪の登場シーンがあったんですが、真琴に食われました(笑)

それにしても私の書く真琴は「あうあう」よく言うなあ(笑

 

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