保護者達の伴奏曲 第二幕−第七楽章−

作:デビアス・R・シードラ様


 

「ところで、佐祐理さんは家にいるの?」

道すがら香里が祐一に問う。

とりあえず途中までは香里も一緒に行くことにしたようだ。

「そういえば・・・そうだな」

もともと今日は水瀬家で夕飯を食べることになるだろうと予想していた祐一。

もっともその予想は最悪の形で覆されたが。

「まあ、たぶん家にいるんじゃないかな?」

「・・・結構行き当たりばったりですね」

奏花に結構きついことをいわれている祐一。

奏花自身先ほどの名雪とのことでまだ気が立っているのかもしれない。

「ねえ、パパその子なんていうの?」

「その子?」

「パパが助けた子犬」

「ああ、狼って言う字でロウ」

「狼?」

「ああ、どうもシベリアンハスキーの血が入っているみたいで、狼を想像させるんだよ」

日本犬と洋犬のハイブリット、どうもその混ざり具合が絶妙で先祖がえりをしているかのような犬。

「ふーん」

「かっこいいわよ、銀毛っていうのかしらね」

祐一と祐の会話に加わる香里。

「銀色?奏花おねえちゃんみたいな?」

「うーん、そうねえ」

奏花を見て一考する香里。

「奏花さんの銀髪も綺麗だけど・・・もっと銀色よ」

「そうなのですか・・・ちなみに私は銀髪ではないですよ」

色が薄いために銀髪に見えるだけで、基本的に奏花は銀髪というわけではない。

「え、でも綺麗ですよ」

「ありがとうございます」

お世辞でなくほめている香里のことばに照れる奏花。

「っと、あたしこっちだから」

そう言って分かれ道の片方を指す香里。

「今日久方ぶりに父さんが帰ってくるのよ」

香里の父親は国際弁護士である。仕事の関係で久しく日本に戻ってきていない

栞の件で一時的に帰ってきてはいたが基本的にはアメリカにいたはずだ。

なかなか豪快な人で、祐一のことを気に入っている人であり、祐一のことをものすごく買っている人でもある。

二人が会ったのはわずかな間だったというのに妙にフィーリングがあったとでも言うのだろうか、年の離れた友人のようにお互いが思っていたりする。

「向こうでの仕事に一区切りがついたってことを言っていたわ。これからはこっちで仕事をするってことみたい」

「そうかあの人が帰ってくるのか」

「父さんも祐一君に会いたがっていたわよ」

「そうか、よろしく伝えてくれ」

わかったと言いながら駅のほうへと歩いていく香里。

「どういった人なのです、香里様のお父上は」

「そうだなあ・・・豪快な人だぞ?」

「というと、祐史様や祐貴様のような?」

比較対照に祐一の家族を出す奏花。

「ああ、あれは別格」

苦笑する祐一。

あの二人を比較対照にしてしまうと、誰でもおとなしい人になってしまうなあと思う祐一。

「それもそうですね」

奏花にしてみても比較対照が悪かったと思ってしまう。

「おや、相沢君じゃないか?」

「うん?」

振り向く祐一。

「ああ、久瀬じゃないか」

舞のこともありかつては敵対すらしていた二人。

しかし、すべてのことが終わったあと、舞の前で土下座して謝った久瀬。

校舎の窓ガラスが割れていたことで非難していた久瀬。

しかし、本当は舞のことも考えた上でのこと。

窓ガラスが割れていたり、校舎の破損、そういった事があった次の日には舞の体にはどこかに怪我を負っていることがあった。

それがゆえに強く言ってきたこともあった。

そして、ほかの生徒との兼ね合いもあり退学を言い渡さなければならなかったこと。

それは教師側からの意向であったことも。

すべてが自分のせいではない、しかし、生徒を守ることができない生徒会では生徒会がある意味がない。

そして、誤解とはいっても疑いを持って接してしまった自分に対し、申し訳ないと。

それ以来、祐一も彼のことを見直すことにしたのである。

わりと付き合ってみると気さくなやつであるとは北川も言う。

「親戚かい?」

目線を祐のほうに向け問う久瀬。

「いや、俺の娘だ」

その言葉に動きの止まる久瀬。

「す、すまない・・・もう一度言ってもらえるかな?」

「俺の娘だが?」

祐を後ろから抱くようにしながら告げる祐一。

「・・・き、聞き間違いかな。君の娘?」

「相沢祐一の娘、相沢祐です」

「・・・じ、じじつ」

「どうかしたのか?」

驚愕の表情のままの久瀬に問う、祐一。

「どうかしたのか?じゃないだろう・・・驚くよ誰でも。そんな話は一言も言ってなかったじゃないか」

「聞かれなかったからなあ」

「・・・いや、普通高校生に子供がいるか?とは聞かないよ」

「それもそうか」

「それにしても・・・よく似ているね」

祐一と祐を見て言う久瀬。

「そうか?」

「ああ、非常に似ているよ、特に目がね」

「えへへ」

その言葉に嬉しそうにする祐。

「ところで、彼女が君の娘ということは、この方は君の奥さんかい?」

奏花のほうを見て祐一に問う久瀬。

「ち、ちがいます」

顔を赤くして否定する奏花。

どことなく嬉しそうなのは言うまでもない。

「奏花お姉ちゃんは・・・お姉ちゃんだから」

祐の言葉にひとつ頷く久瀬。

「つまり、兄妹?」

「いや、それも違う」

「?」

「奏花はうちのメイドなんだよ」

「メイド?」

「はい、そうです」

久瀬の漏らした言葉に同意する奏花。

「相沢君は金持ちだったのか?」

「どうだろ」

祐一自身あまりそういう意識はないためにそう漏らす。

「一応、YAコンツェルンの御曹司かな」

その言葉に絶句する久瀬。今日は驚いてばかりだな、と自分でも思い苦笑する久瀬。

「前々から思っていたことなんだが、相沢君は底が知れないな」

「そうか?」

「そうだよ。それと・・・君の娘さん、祐さんの事だけど。あまり人には言わないほうがいいと思う」

苦笑していた表情を引き締め、警告するように言う久瀬。

「どういうことだ?」

「うちの高校は結構うるさいからね。特に相沢君も知っているとおりうちの学校は生徒会の力が強い」

「ああ、それが?」

「つまりね、すこしでも付け入る隙があれば教師側は底をついて権力を取り戻したいんだよ」

こんなことは言いたくはないんだけどね。その表情から言外にそう言う久瀬。

「まあ一応今でも僕が生徒会長だからね」

どこか力なく続ける久瀬。

「なるほどな」

「まあ、でも悪いことをしているわけじゃないし。むしろ堂々としているほうがいいのかもしれないな・・・」

ふと何か考え込むようにして考えを変える久瀬。

「おいおい、いきなり言うこと変わっているぞ久瀬」

苦笑する祐一。

「いや、むしろ正当なことなのだから、正当として通したほうがいいな」

つぶやく久瀬。

「しかし、教師側はなんか言ってくるだろう?」

そこまでは考えていなかったな、と思い、自分の考えが足りなかったことを反省しつつ言う祐一。

確かに教師側、学校側としては子供がいるということに対し、何か言ってくるということは十分考えられることだ。

「多分ね。しかし、生徒を守るのが生徒会の仕事だからね。相沢君に何か後ろめたいことがあるのなら別だが、そうではないからね」

舞の時にはガラスが割れていたりといろいろと弁明が必要なこともあったが、今回はそうでない。

そう考えている久瀬。

「なるほどな・・・しかし、それではお前が面倒なことに」

「いやいや、君にはいろいろ迷惑をかけているからね。少しでも借りは返しておかないと」

そう言って笑う久瀬。

「っと・・・しまった」

ふと時計に目線を落とし、時間をみて声に出す久瀬。

「どうした?」

「人と待ち合わせが合ってね。すまない、これで」

「ああ」

「奏花さんとおっしゃいましたか、それと祐さん、きちんとした挨拶もできずに申し訳ありません。今は急いでいるのでこれで失礼しますが、後日改めてきちんと挨拶をさせていただきますね」

そう二人に告げ、頭を下げると本当に急いでいたのだろう、小走りで久瀬は去っていった。

「礼儀正しい方ですね」

「そうだな」

人の第一印象は結構大切なんだなと思う。最初は舞のことがあり、決していいとは思えなかった。

多分そのときに今のような挨拶をされたらきざなやつとしか思わなかっただろう、そう考え、ずいぶん最初のときとは自分が感じる印象も変わったな、そう感じて苦笑する祐一だった。

 

 

つづく


あとがき

久瀬君登場。

彼はいい人になりました(笑

このSSはサブキャラにやさしい話ですから。

彼もいい扱いです。

そのうち出てくるアンテナ君も(笑

ちょっと短いけど今回はこの辺で

次回こそ、戦うメイドさんだ!(謎

 

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