保護者達の伴奏曲 第二幕−第八楽章−

作:デビアス・R・シードラ様


 

祐一にしてみれば、実は犬は好きだったりする。

名雪はいうまでもなく、猫派だし、真琴も犬は苦手だったりする。

やはり、狐のときの何かが狩猟される側の何かを感じ取っているのかもしれない。

まあ、そんなこともあり祐一自身、居候という身分以外に水瀬家に犬を連れてくるわけには行かなかったりするわけだ。

今は奏花と祐の三人暮らしだからその遠慮などいらない。

基本的に家主は祐一なのだから。

祐一自身、非常に自分になついている犬が嫌いなはずがないし、祐も犬好きであること。

奏花も犬が嫌いでないことからも、今回の犬「狼」を迎えにいけることはある意味において非常にうれしい誤算である。

「ねえ、パパ?」

「どうした、祐?」

「『狼』ちゃんて、何歳?」

祐一はその言葉に狼の姿を思い浮かべていう。

「二歳ぐらいかな・・・ひょっとすると、もう少し若いかもしれないが」

「ふーん」

「祐様の方が年上なんですね?」

「まあ、そうなるけどな。犬は6歳ぐらいで人間の還暦だろ?」

犬は基本的に1歳以降は成人犬として扱われる場合が多い。

「・・・っと。ここだここ」

話の途中で、あたりの家よりもひときわ大きい家を祐一が指差す。

門は西洋建築、車用の大きな門の横にもうひとつ通用口のついたタイプである。

「大きい家ですね」

門を見上げるようにして、奏花は言いながら車用の入り口とは違うほうに向かう。

そしてチャイムに手をかけたところで動きが止まる。

「祐一様?」

「うん?」

「ここは佐祐理様のお宅ですよね?」

念のための確認といった感じで祐一に問う奏花。

「そうだが?」

話の要領を得ない祐一。

疑問に思いつつも、インターホンにて知り合いのメイド長に話を通すと中に入っていく祐一。

「庭も広いねー」

祐があたりを見渡しながら、ややはしゃぎぎみに言う。

その姿を見ながら急に動きの止まる奏花。

 

頭を下げダッキング

その上を通過する左足

「背後からですか」

つぶやくように言うと

サイドステップして相手から距離を置くと同時に正対する

その動きに連動するように振りぬいた左足を地面に置くと同時に爆発的な力で奏花に接近する

奏花は相手の姿を視認すると、それは敵と判断

染み付いた動きがすぐに相手の行動をカットするために稼動

黒服、そう呼ぶにふさわしい黒のスーツの男

男の動きを止めるように高速で右のローキックを放ち

瞬間的な痛みに動きが止まったところでそのまま膝に移行する

黒服はやや痛みにしかめながらも左の手でなんとか膝を受けとめる

受け止められたのを感じるとともにすぐに距離をとる奏花

技術はあっても体格には差がある、接近状態の攻防は危険すぎると判断

瞬間的に後方に飛び退る

現状のやり取りで黒服は自分の立ち技での攻防は分が悪いと判断したのだろうか、

やや強引敵とも言える方法で距離を詰める

そこへやや大振りに振りぬかれる奏花の右のこぶし

ハンマーフックに気味に振るわれたこぶしを低空タックルの体制で入ってきた黒服はそこで動きを止めた

低空タックルに来たところに膝で迎撃したのである。

「お見事、っていうか、意識飛んでるなあ」

奏花の撃退した黒服の様子を見ながら言う祐一。

「うーん!奏花お姉ちゃんは強いねー」

「あ、いえ、その」

明らかに動揺している奏花。

「普段は見ているこっちが心配になるのになあ。こういうときだけは動き変わるからなあ」

妙に感心したように言う祐一。

「で、勝ち台詞は?」

「え?」

「基本だよな、祐?」

「うん、そうだねー」

「『スカートは戦いにくいですが、それでもあなたは相手ではありません』とか」

「『Win!』って大きく言うのもいいかもしれないよ」

「えっと、そのあの」

照れている奏花をみて悪乗りしていく親子。

「『口ほどにもありませんね』とか?」

「いえ、ここは『魔法少女に勝てると思わないで!』ですよ、祐一さん」

「いや、いきなり魔法少女って」

苦笑する祐一。

「魔法少女なら、やっぱりステッキ持ってないと、奏花お姉ちゃん素手だし」

「あー、盲点でしたね。それでは魔法少女っぽくないですね。残念です。今度は用意しておきますねー」

「よろしく!・・・じゃなくて。いつからそこに?」

普通に会話に参加している佐祐理に問いただす、祐一。

先ほど見事な格闘の腕を見せた奏花ですら気がつかない接近であったりする。

「そうですねー奏花さんのローキックあたりからですか」

「ほとんど最初ですね」

「ですねー」

「お姉ちゃん!」

ぽふっと佐祐理に抱きつく祐。

「うーん、やっぱり祐ちゃんは抱き心地いいですねー」

抱きついてきた祐をきゅっと抱きしめる佐祐理。

「ところで、佐祐理さん。この人は?」

奏花の膝蹴りによって気絶している黒服の男を指す。

祐は佐祐理に抱きついているのをやめ、気絶している人を見に行く。

心配しているのかもしれない。

「ああ、柳田さんですね。最近雇った護衛の方です」

佐祐理の言葉を聞き、とりあえず怪しい人ではないことを確認すると、奏花も祐の方へと向かう。

「で、何で襲ってきたのかな?」

「たぶん・・・勘違いしたのかと」

苦笑しながら言う佐祐理。

「というと?」

「この家に祐一さんぐらいの年齢の方が入ってくることはありませんからね」

「まあ、そうですけど?」

「柳田さんは佐祐理専属ボディーガードなんですけど。佐祐理に近づく男性は排除!って心に誓っているそうで」

「はい?」

いまだに気絶中の柳田をみながら答える祐一。

「佐祐理には好きな人がいるんですよ〜っていったら、『ならば、ほかのお嬢様に近づく男性は私が排除します』って」

「ああ、なるほど」

「この間、卒業式の時の写真を持ってきてくれた久瀬さんも攻撃されていました」

なお、背後からの一撃でKOされた。

「可哀想に」

「そういえば、祐一さん。佐祐理に何か御用ですか?」

「ああ、うん。狼を連れて行こうかと」

「狼ちゃん?」

祐一は佐祐理に事情を話す。

「そうですね。佐祐理ももうすこししたらこの家でますし」

「ええ、それもありますからね」

「・・・あれ、祐ちゃんは?」

二人が話している間に、祐と奏花は佐祐理と祐一の視界にはいなくなっている。

「まあ、奏花も一緒にいるだろうから問題はないとは思うけど」

「えーと、どこいったんでしょうか?」

そのとき二人の耳に犬の鳴き声が聞こえる。

「狼ちゃんの所にいるみたいですね」

「そうみたいですね。たぶん待ちきれなかったんだろうなあ」

どこか微笑ましいものを見るような表情のまま苦笑する祐一。

「祐ちゃんは犬が好きなんですね?」

「ええ」

二人、狼のいるほうに歩きながら話す。

「わん!」

祐一の姿を見つけると、一声鳴いて駆け寄ってくる犬。

もちろん狼である。

祐一の足元まで来ると、座れの体制で祐一を見上げる。

「お、元気だったか?」

祐一は微笑みながらあごの下をなでてやる。

「くーん」

気持ちよさげにする狼。

「あ、狼ちゃん」

急に走っていってしまった狼を追って祐が奏花とともにやってくる。

そのまま祐一の足元にいる狼に抱きつく祐。

ふかふかの毛が気持ちいらしい。

狼も嫌がるそぶりはなく、抱きついてきた祐のされるがままになっている。

「うーん、さすがは祐一さんの娘さんというべきなんでしょうかねえ」

その光景を見ながらつぶやく佐祐理。

「どういうことです?」

佐祐理の呟きを耳に入れた奏花が聞く。

「狼ちゃんいい子なんですけど、佐祐理家の中でなついてくれたのは佐祐理と、佐祐理のお母様の佐織。あとはお父様ぐらいなんです」

「つまり、結構人見知りするってことですか?」

「ええ。お父様も最初はぜんぜんなついてくれないって言って拗ねてましたし」

そのときのことを思い出したのだろう、苦笑する佐祐理。

「狼ちゃんの朝の散歩をするようになってやっと打ち解けたんですよ」

「そうなんですか」

「それなのに祐ちゃんは最初から抱きついても大丈夫ですしね」

「子供だからなのでは?」

動物は人間の機微には敏感である。

そのため無垢な子供のほうが警戒しない。

自分よりも小さいという意識もあるのかもしれないが。

「それでも、狼ちゃんは結構用心深いですからね」

再び目線を戻した二人に、祐の言葉でお手をしている狼の姿。

「非常になついていますね」

やっぱり祐ちゃんは動物にすかれる何かがあるんでしょうねーと思う佐祐理。

 

ひとしきり四人+一匹で遊んだあと、帰宅することを告げる祐一。

「少し寂しくなりますね」

そう言って狼をなでる佐祐理。

「まあ、佐祐理もここをすぐに出ますけどね」

卒業、大学入学とともに舞との同居生活を始める予定の佐祐理。

「まあ、その折には言ってください。手伝いますから」

引越しの手伝いをするという祐一に、奏花も及ばずながら私もと付け足す。

「はい、ぜひお願いしますね」

その申し出を受ける佐祐理。

彼女自身気がついていないかもしれないが、こういったところにも彼女が変わってきている、変わったところがある。

かつての彼女なら、こういった申し出もありがたいですけど、などと言いながら断っただろう。

あくまで自分ひとりが・・・といった考え方が少しずつではあるが変わっていっているのである。

「あ、そうです。お母様が、ぜひとも祐ちゃんに会いたいと」

「佐織さんが?」

「はい」

佐祐理の母親、佐織と祐一とは面識がある、というか父親とも面識があるし、二人には佐祐理と結婚しないか?と会うたびに言われていたりする。

「ちょうどいいですから、夕飯を食べていきませんか?」

佐祐理の提案に奏花と、祐を見る祐一。

二人はうなづく。

本来なら水瀬家で夕飯になると思っていたため、まだ食材も買っていないし。

確かにいい提案ではある。

「今日はお父様も早く帰ってこられると言っていましたので、逆にここで佐祐理が引き止めておかないと後で文句言われちゃいます」

そう言って微笑む佐祐理に、祐一も承諾せざるを得なかった。

 

つづく


あとがき

こんかいは・・・とくに・・・

あ!あめとんぼ様ににて行われていた投票で、保護者に入れてくれた方々に多謝!

ありがとうございますーー

 

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