保護者達の伴奏曲 第二幕−第九楽章−

作:デビアス・R・シードラ様


「うむ、今日の夕飯は・・・ズヴァリ!」

思いっきり大げさな動作でビシッと佐祐理をさす、佐祐理パパ=孝治。

「カレー!!」

「はい、正解です。お父様」

それに対し、あっさりとした、なかば呆れたような口調で返す佐祐理。

「対応が冷たくないかい?」

「最近のお父様の砕け具合に比べれば」

ふうと一息吐く佐祐理。

「はっちゃけ具合といっても良いです」

上着を受け取りハンガーにかけながら言う佐祐理。

「昔は厳格でしたのに」

「無理にそうしようとしていたからな、大きな間違いだ」

そうはき捨てるように言う孝治の顔には苦渋の表情が浮かんでいた。

「あのころは、まだ父さんもいたしな・・・あの人のせいにするなんて事はないが。それが一族に対する責務と思っていたこともあるしな・・・」

「お父様・・・」

「こうして今のように気楽に何事もやれている、心のゆとりを持つ・・・そうしていれば一弥も」

「お父様!それはいってはいけない事です!」

語気を荒くする佐祐理。

「過ぎてしまったことを反省することはいい、でも後悔はしないようにしよう。それが一弥のためにもなる。そう、話し合ったじゃないですか!」

「そうだったな」

家族の絆が戻った日のことである。

表面的な関係ではない、腹を割って皆が話す。

何年かぶりの家族そろっての議論だった。

「で、カツはつくのか?」

声を一転、むしろ纏っている雰囲気すら変えて孝治が切り出す。

「カツカレーですか?」

「ああ、私はあれが好きだからな」

「そういえば、祐一さんも好きだといっていましたね」

ふと、思い出し口にする佐祐理。

「ほほう。さすがは祐一君だな。私と趣味が合う」

嬉しげな孝治。

「カツカレーはなあ・・・学生時代に良く食べたんだよ」

「大学時代ですか?」

「ああ、大学の裏手に洋食屋があってな」

昔を思い起こす孝治。

「親父さん元気かなあ」

「仲良かったんですか?」

「常連だったしな。店の手伝いなんかもしたしな」

「はー、お父様がお手伝いを」

父親の昔の話を聞けて嬉しかったりする佐祐理。

こういった会話などかつてはこの家に存在しなかったのだから。

「もう、久しく行ってないなあ。佐祐理が生まれる前に一度行ったのが最後かな」

「本当にずいぶん前ですね」

「佐祐理がこんなに美人になるぐらいだからなあ」

しみじみと語る孝治。

「っと、まあ。この話はまた後でだな」

「?」

「腹がすいてしょうがない。食べながら話すことにしよう。佐織にもはなさんといかんしな」

かつては食事中にしゃべるなどもってのほかだったが、今の倉田家にそんな決まり事はない。

むしろ会話の弾む食卓である。

「お母様に?」

「ああ、久方ぶりに食べたくなったから、皆で一度行こうかと思ってな」

「それはいいですね」

久方ぶりの家族そろっての出かけである。

「まあ、それはそれとして。早く夕飯にしよう」

「あ、そうそう。今日は祐一さんたちが来ていますからね?」

そう言って微笑むと部屋から出て行く佐祐理。

「な、ほ、ほんとうかいい、佐祐理!?」

佐祐理を追って飛び出すように出て行く孝治。

 

「おう!祐一君よく来たな!」

ダイニングのドアを開けるとともに声を上げる孝治。

「・・・あれ?」

しかし、祐一は視界にはいない。

「・・・はて?」

代わりにいるのはちょこんとイスに座った祐と、その隣に座る奏花。

「あら、あなた。お帰りなさい」

そこに人数分のコップをもって入ってくる佐織。

「ああ、ただいま・・・じゃなくてだな」

「祐一さんなら今トイレに行かれてますよ?」

「あ、そう?」

「ええ」

「って、それもそうなんだが、彼女たちは?」

後ろを一回振り返る孝治。それに対し軽く会釈を返す奏花。笑顔で返す祐。

「祐一さんの娘さんですよ」

「は?」

「それと、祐一さんのお宅のメイドさんだそうです」

「いや、だからな?」

そんな話をしている二人のところへ戻ってくる祐一。

「あ、孝治さんお邪魔してます」

「おう、ゆっくりしていってくれ」

祐一に言葉を返し、再び佐織に向かいなおす孝治。

「意味がわからないんだが」

うーんっとほほに人差し指をさし考える佐織。

こういったしぐさがいたって普通に見えてしまうこの人も、明らかに実年齢と外見から受ける年齢には多大なギャップがある。

「それなら、ご本人に聞いてみたらどうです?」

「彼、トイレだろう?」

「先ほど戻ってきたじゃないですか、あなたも挨拶したでしょ?」

「はい?」

そういえば、先ほど誰かと挨拶したような記憶がある孝治。

「祐一さん、ご飯は大盛りで?」

「ああ、よろしく」

「祐ちゃんは?」

「えーと、パパの半分ぐらいで」

そんな二人をよそに、ちゃくちゃくと食事の準備をしていく残りのメンツ。

「奏花さんは?」

「祐一様の2/3ぐらいで」

「じゃ、よそってきますねー」

そう言ってキッチンへと向かっていく佐祐理。

ふとその姿を視界に捕らえる孝治。

そのまま目線をスライドさせ・・・

「祐一君!」

「はい?」

急に名前を呼ばれてビクッとする祐一。

「えーと、確認したいんだが」

「はい」

「こちらは君の娘さん?」

恐る恐るといった感じでたずねる孝治。

それはまあ、娘の婿にと思っている人物が娘を連れていたらこわごわ聞きもするだろう。

そうじゃない、その答えを期待して。

「はい、そうですよ」

しかし、祐一はあっさり孝治の期待を破る。

「祐」

祐一は祐に呼びかける、それに対し祐はうなづくと、イスから降りて孝治の前でお辞儀をする。

「相沢祐一の娘の相沢祐です」

「祐ちゃんは礼儀正しくて可愛いわね〜」

そんな祐に抱きつく佐織。やっていることが佐祐理と同じ、やはりこの親にして佐祐理ありなのだろう。

挨拶をしても何の反応もない孝治をどうかしたのか、と思い心配げに見つめる祐。

まあ、ただ唖然としているだけなのではあるが。

「孝治さん?」

祐一からも声をかけられてわれに返る孝治。

「本当なのか・・・」

でも少し落ち込んでいる孝治。

そんな孝治を見て祐は自分が何かをしてしまったのかな?と思って心配げに祐一を振り返ったり、佐織をみたりしている。

「祐ちゃん気にしなくて良いわよ、ちょっと驚いているだけだから」

佐織の言葉にハッとし祐を見る孝治。不安げな表情の祐を見て自分が不安にさせていることに気がつく。

「いや、すまないね。祐ちゃん。少し驚いてしまって」

そう言って祐に笑いかける。

「それにしても、祐一君娘さんがいるなら、早く教えてくれよ」

苦笑いしながら祐一に言う。

「まあ、その辺の事情もおいおい話しますよ」

「ふむ」

祐の見た目の年齢から、祐一の本当の子供ではないな、そう思いながらうなづく孝治。

「まあ、なにはともあれ。とりあえず夕飯にしようか?祐ちゃんもおなかすいたかい?」

「うん!」

「じゃあ、夕飯に・・・・・・」

そこまで言って自分の席に着こうとしたときに重要なことに気がつく孝治。

みなの席の前には湯気が立っていて美味しそうなカレー。

孝治が大好きなカツつき。

しかし、自分の席の前には・・・からの皿のみ。

「What?」

思わず口に出る疑問の言葉。

「ああ、お父様ご飯よそう量を聞こうとしたときに忙しそうでしたので割愛しました」

笑顔で答える佐祐理。しかし、どこか怒っているような・・・

佐祐理にしてみれば祐を困らせたのは心情的にいただけないところがあったのだろう。

「うう・・・自分でよそってきます」

そんな佐祐理の怒りを感じたのだろう、すごすごとキッチンへといく孝治。

その哀愁漂う背中に苦笑せざるを得ない祐一、佐織だった。

ちなみに奏花は手伝って良いものなのかどうか苦悩していた。

 

 

最近の倉田家の夕飯は賑やかで話が弾むのだが、今日はいつも以上に楽しい夕食となった。

 

つづく


あとがき

はいはい〜。ずいぶん時間が空いてしまいましたねー

反省です。

何もしてなかったわけじゃなくて、一応保護者の第一幕をコピー本ように加筆修正してたんですけどね。

まあ、そのコピー本をどうするかがこれからの課題なわけですが(苦笑

ま、それはおいておいて、倉田家の皆様登場です。

なかなか突飛なお父様になりましたが、個人的に気に入っているのでそのうちいろいろ出てきてもらいましょ(笑)

第二幕も終盤、あと2〜3話ぐらいでしょうか・・・いや、それぐらいで終わってくれないかなあ(苦笑)

 

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