保護者達の伴奏曲 第三幕−第一楽章−

作:デビアス・R・シードラ様


「うーん」

軽くストレッチするかのような感じで体をほぐしながら階段を下りてくる祐一。

家の中なので気楽にジャージを着ている。

おきているのは祐一一人。

奏花にしろ、祐にしろ朝は弱いのである。

「さて、朝ごはんは何にするかな」

昨日ある程度の食材も買ってはある。

冷蔵庫中を眺めながら献立を構築していく。

「簡単にすますか」

昨日は飲んだこともあり、今日の朝のことを考えていなかった。

そのためご飯が炊いてあったりということはない。

サラダ作って、ベーコンエッグでも焼いて、パンでいいかな。

などと考える祐一。

「コーヒー・・・どうしようかな」

ここの所祐一の朝はブラックコーヒーだった。

しかし、ブラックコーヒーは訳あって飲めない。

「いっそ、紅茶に鞍替えするかなあ」

甘いものが嫌いというわけではないが、飲み物はどちらかというとストレートで飲むほうが好みの祐一である。

お湯を沸かしながらそう考える。

「まあ、とりあえずサラダ作るかなー」

野菜を取り出し、洗う。

そしてリズミカルに切り刻んでいく。

「♪」

実は久しぶりに料理をするのが楽しい祐一だったりする。

 

 

「祐一様に準備させてしまって・・・」

ものすごく申し訳なさそうな表情でサラダを食べる奏花。

「奏花おねえちゃん朝弱いからねー」

奏花に作ってもらったミルクティーを飲みながら指摘する祐。

ちなみに飲み物は完璧に作れる奏花である。

ここでいう完璧とは、何の問題もおきない、という意味での完璧であるが。

「確かに弱いよな・・・」

寝ぼけてネグリジェ姿の奏花に抱き疲れた経験もある祐一である。

理性を総動員したことは言うまでもない。

「どうにも朝は・・・」

奏花も自分自身わかってはいることである。

「まあ、それだけが原因じゃないけどな」

「?」

それだけじゃないの?と言った目で祐一を見る祐。

「いや、まあ・・・」

なんともいえない表情の祐一。

「わ、私だってサラダとかは作れますよ」

「シーザーサラダを作るつもりがシーフードサラダにならなきゃな・・・」

「パパ、それまったく別の料理・・・」

「サラダはあってるんだけどな」

「・・・」

事実のためなにもいえない奏花。

家庭科の授業ではいつも最高の評価は絶対にもらえない奏花である。

課題の料理ができたためしがないのである。

まあ、できた別のものは美味しくできてはいるのだが。

「そ、奏花おねえちゃん?」

そんな事実は知らなかった祐である。

「えっと、その。忘れてください、祐様」

どこか悲壮感すらある奏花に思わず頷いてしまう祐。

「まあ、別に料理できないわけじゃないし」

苦笑しながら言う祐一。まあ、目的とは違ったものができるだけで味は悪くないのだから。

「自動的に日替わり?」

「ある意味な」

祐のコメントにさらに苦笑する祐一。

「祐様にまでけなされた気がします」

その言葉に思わず笑ってしまう祐一と祐、そしてそれに釣られるように笑顔になる奏花。

相沢家の食卓は賑やかである。

 

「祐一様そろそろ準備しないと」

その言葉に時計を振り向く祐一、時刻は7:30。

「ああ、そうだな」

「パパ高校に行くの?」

「うん?ああ、違うよ。祐が行く学校に挨拶に行かないとな」

そのために今日は高校は休むつもりである。

「祐一様、スーツのほうは用意してありますので」

「ありがとう、奏花」

こういったところの気遣いはさすがメイドさんである。

「さて、着替えてくるかなー」

「洗い物は私の仕事〜♪」

部屋から出て行く、祐一と祐。

「・・・私も祐様のお手伝い」

どこかおいていかれたような寂しい気分を感じながら、奏花も祐を追っていく。

 

「パパ似合う〜」

祐の前にはビチッとスーツを着こなした祐一。

「祐一様は割りと肩幅がありますから、こういったスーツのようなものは非常に似合いますね」

ちょっと顔を赤らめながら、そう評する奏花。

「おかしなところないか?」

「ばっちり!」

自慢のパパだよ〜って感じの目の祐。

サムズアップしてたりする。

「問題ないかな・・・奏花?」

自分自身でも問題はないか確認しなおす祐一。

自分のことだったら特に気にもしないが、今回は違う。

祐の父親として出向くのだから、非常に気を使う。

「しいて問題があるとすれば」

「?」

「祐一様を見て、惚れてしまう女教師がいるかもしれないことですね」

「ははは、奏花にしては上手い冗談だ」

「いえ、あの?」

はっきり言ってまじめにそう考えている奏花。

そんな奏花を慰めるようにポンポンと叩く祐。

「・・・パパだからね」

「はい、わかってはいますが」

「ああいったところも含めて、難儀だけど。頑張ってね、奏花おねえちゃん」

「ゆ、祐様!?」

慌てふためく奏花。

「私は結構お姉ちゃんの味方だからね」

「ゆ、祐様・・・」

「ふぁいと!」

右腕をぐっと突き出す祐。

「・・・ん?」

そんな二人を不思議そうに見る祐一。

「なんでもないよ」

なんでもなくてもパパは気がつかないと思うけどね。そう思う祐。

どうして、自分のことだけには鈍いのかなあ、とも思いため息。

「そうか?」

「うん、ところで私も一緒に行ったほうがいいの?」

自分を指差しながらいう祐。

「そのほうがいいと思いますよ」

「そうだな」

二人とも頷く。

「うん・・・じゃあ、奏花おねえちゃんは?」

「私はお留守番です」

「奏花にはいろいろやってきてもらうこともあるからな」

「?」

「役所に行って転居の手続きなどをするんですよ」

転居願いなど結構書類を出さなければならない。

また、まだ開けていないダンボールを開けて整理もしないといけない。

昨日は祐一がいたので下着類などは片付けていなかったのである。

こっそりと用意してあるきわどいやつなどを見られるわけには行かないから。

無論用意したのは夕夏であるが。

「いろいろあるんだね。引越しにも」

しみじみと頷く祐。

「結構面倒なもんさ。さて、では行くかな」

リビングから出て行く祐一、それについていく祐。

「じゃあ、奏花おねえちゃん後お願い〜」

「はい、行ってらっしゃいませ」

 

 

「ねえ、パパ?」

「うん?」

仲良く手をつないで歩く二人。

「狼ちゃんのご飯は?」

「・・・あ・・・」

あからさまにしまったと言う表情をする祐一。

「奏花おねえちゃん・・・覚えてるよね?」

「・・・」

奏花だからなーと思う祐一。

「狼ちゃん大丈夫だよね?」

「・・・早く帰ってこような祐」

「う、うん」

ちょっと早歩きになる二人だった。

 

 

つづく


あとがき

こ、今回は早いですよ?

たまたまですよ、たまたま・・・

次も早いなどと期待はしないでくださいね?

 

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