保護者達の伴奏曲 第三幕−第二楽章−

作:デビアス・R・シードラ様


 

職員室に赴き、校長室へと案内される道すがら案内役の女教師と談笑する祐一。

女性とあっさりと談笑できるところなど、天性のプレイボーイの祐一らしいといえよう。

「ずいぶんお若いですね?」

「よく言われます」

スーツ姿の祐一は苦笑し、年若い−とはいっても祐一よりは年上ではある女性の教師に返答する。

「来年も基本的にクラス変更はないので、今の子達とそのまま進級することになります」

学校の方針として、二年に一度のクラス替えとなっていることを説明する教師。

「一年では短いだろうと、二年あればかなり親しくもなりますし」

もちろん、いろんな人と接するという面ではデメリットもあるのですが、と続ける。

「では、校長は中におりますので」

「あ、はい。案内ありがとうございます」

丁寧に頭を下げる祐一に、笑顔で答えて女教師は職員室へと帰っていく。

「さて」

襟をただし、窓ガラスに反射する自分の姿を見てネクタイをチェック。

「失礼します」

校長室のドアをくぐる。

 

 

「どうも、ようこそおこしくださいました」

そう言って祐一を出迎えたのは初老の女性だった。

初老とはいっても、若かりしころの美人さを今でも感じさせるような、清楚な落ち着いた感じのする貴婦人だった。

どこかで、あったかのような奇妙な既視感を覚える祐一。

むろん、目の前の人物にあったことはない。

しかし、どこか見覚えがあるような気する。

「私は当学校の校長、まあ、中学の校長もかねていますが・・・」

小学校、中学校一貫教育の私学学校である。

「まあ、現場の総責任者になるのでしょうね、天野美影です。これからお子さんをお預かりさせていただくわけですが」

「えーと・・・天野?」

「はい、そうですが?」

話の途中で気になったため割り込む祐一。

「ひょっとしてお孫さんがいらっしゃる?」

「ええ、いますよ」

「えーと・・・美汐という名前だったりします?」

恐る恐るといった感じに聞く祐一。

「ええ、そのとおりです」

驚きの表情をしながらうなづく美影。

「なるほど・・・だからか」

美影の言葉を受けてつぶやく祐一。どこか見たことがあると思うはずだ、美汐の祖母なのである。

美汐の両親は今ここにおらず、もともとおばあちゃん子であり、むしろ美汐育ての親は美影である。

似ていないはずがない。

「ひょっとして・・・美汐のお知り合いですか。いえ、ちょっとまってください」

少し考えつつ、手元においてある資料を見返す美影。

「相沢さん・・・ですね」

「はあ、そうですが」

「・・・美汐の話すあなたと祐さんの親御さんのあなたが同一人物であるという可能性を失念していました。美汐の先輩の相沢さんでしたか」

まあ、普通高校生の祐一にこの年齢の娘がいるとは考えないだろうから、当然同姓の別人と考えるほうが自然だろう。

「まあ、普通はそうですね」

苦笑する祐一。

「それにしても、俺のことなんて話してるんです?」

「奇妙な先輩だと」

どこか可笑しげに答える美影。

「あと、いろいろといってはいましたけど。あの子が嫌がるかもしれませんからこれ以上は秘密です」

「はあ」

なんていうか、釈然としない祐一である。

もうすこし自分がどう評価されているのか聞いてみたかったりする。

「うちは今美汐と二人ですから、食事のときも寂しくてね。ここ最近は美汐もいろいろ話してくれるようになって」

うれしそうに語る美影。

「真琴ちゃんもよくうちに遊びに来てくれますし、最近は我が家が明るくなっていいことです」

「真琴迷惑かけたりしていません?」

「いえ、ぜんぜん。もう一人孫ができてみたいで、嬉しいわ」

本当に嬉しそうに笑う美影。

「真琴ちゃんは明るい子だから、家が華やぐし、いいことよ。そういえば相沢さんと、真琴ちゃんの関係は?」

「真琴との関係ですか?」

「ええ」

真琴との会話を思い出す祐一。真琴自身決断しているんだし、もうこう答えてもいいかな、と結論を出す。

「あいつは俺の義妹です」

「あらそうなの?じゃあ、相沢真琴なのね?」

「ええ」

「あら・・・でもたしか沢渡真琴って自己紹介してもらったような?」

真琴と最初にあったときのことを思い返す御影。

美汐の影に隠れるようにしていた真琴が、自分の前で自己紹介してくれたときのことを。

「まあ、いろいろありまして」

「相沢真琴になるってことなのね?」

「ええ、まあ」

「詳しくは本人からかしら?」

「そうですね、俺から言うのも・・・何か違うような気がしますし。あいつが話すと決めて話すことでしょうから」

「なるほどね。相沢さんは教育者向きね?」

どこかいたずらっぽい笑顔で祐一に話す美影。

「今の発言なんか、立派な教職者の言葉よ」

どこか自己完結ぎみにそういうと美影は言葉を続ける。

「あの子が最近少し明るくなったのも、前向きになったのもあなたのおかげですね?」

「なんのことです?」

しらばっくれる祐一。

「あの子が学校の話をすること事態珍しいんですけど。それもまして異性のね」

じっくりと祐一を見る美影。

「なるほど、あなただからこそあの子を再前進させることができたのでしょうね。少し話しただけですがよくわかりましたよ。そして美汐は多分相当苦戦するだろうことも、ライバルも多そうですし。しかも強力でしょうしね」

そこでふと思い出したように話を変える。

「ごめんなさいね、まったく転校とかの話していなかったわね」

「そうですね」

苦笑に苦笑で返す祐一。

「書類に不備などは見られませんでした。当学校は『相沢祐』さんの転入を認めるとともに歓迎いたします」

「はい、ありがとうございます」

「明日から、でいいのかしら?」

「新学期、新学年からというのも考えたんですが、早く学校に慣れてもらいたいですし」

「そのほうがいいかもしれないわね」

その後事務的な話をし、校長室を後にする祐一。

 

「学校指定の上履きとかは買わないとなあ」

廊下を歩きつつ、つぶやく祐一。

先ほど美影から学校指定の物の一覧。またそれを取り扱う店の一覧表ももらってきてある。

「あ、相沢さん」

先ほど祐一を校長室へと案内した教師が祐一を呼び止める。

「はい」

「あの祐ちゃんの教科書なんですけど」

「はい」

そういえば、それも買わないとな、と思い返す祐一。

「あと少しの期間ですよね」

「ええ、そうですね」

基本的に三学期、しかもあと少ししかない。

「お買いにならなくても、この短い期間ですから教職員用の物をお貸ししますので」

「本当ですか、ありがとうございます」

「いえ、お気になさらないでください。さすがに今の時期で買うのはもったいないですから」

明日、大きな荷物入るような紙袋とかを持たせてあげてください。そう言って教師は一礼すると、去っていった。

 

 

「あとは、上履きとかか。これは祐にも来てもらわないとな」

さすがにサイズ、特に靴というものは難しい。

同じサイズであっても合う合わないは存在するからだ。

携帯電話で、祐を商店街へと呼び、祐一も向かう。

距離的には祐一の家からくる祐よりも、祐一の現在位置のほうが商店街には近い。

「缶コーヒーでも飲んで待つかな」

商店街の入り口にある自販機郡−非常に多くの自販機があり、なかなかの品揃えだったりする−でコーヒーを選ぶ祐一。

ブラックをさけつつ選択。

「むしろコーヒーにこだわる必要はなかったかな」

購入した後に気付く。

「パパ!」

「おう」

祐の呼び声に答える祐一。

「どこに行くの?」

「とりあえず、靴屋だな。教えてもらった店があるからそこにいこう」

「上履きだね?」

「だな」

祐一と手をつなぐ祐。

ぱっと見たところ、親子というよりは年の離れた兄妹に見えなくもない二人である。

容姿的には似ているので、家族であるということはよく解る。

「あら?祐一君?」

上履きをゲットした二人が、体操服などを買うために別の店を訪れたときに後ろから声がかかる。

「あ、こんにちは」

「こんにちはー」

祐一が挨拶をしたので、やや祐一の後ろに隠れながらも挨拶する祐。

「あら?」

そんな祐を見て。ほほに指を当てうーんと悩む紫。

その姿が違和感なく、可愛く見える紫。

この街は基本的に年齢を取らない何かがあるのかもしれない。

「えーと」

いまだ思案中。

「ねえ、パパどこかであったような?」

祐一の服のすそをつかみながら言う祐。

「ああ、祐も会っただろ、香里」

「香里おねえちゃん?」

「ああ、香里のお母さんだ」

祐一の言葉にいまだに可愛らしく悩んでいる紫を見て。再び祐一に目線を戻す祐。

「香里おねえちゃん?」

「・・・まあ、なんとなく言いたいことはわかるがな」

苦笑しながら祐の頭をなでる祐一。

「秋子さんとか、うちの親とかさ。色々と例外はあるんだろ、世の中には」

「佐祐理おねえちゃんのお母さんとかもだよね」

「そうだなー」

しみじみと話す祐一。

「あ!?」

突然声を上げる紫。

「ど、どうしました」

「祐一君の妹さん!」

「え?」

「あら・・・でも祐一君は妹さんいないはずよねえ」

再び思案中。

「でも、祐一君のお姉ちゃんじゃないわよねえ」

どこをどうやったら、多少贔屓目に見ても中学生にしか見えない祐が上に見えるのか。

「祐一君のお嫁さん?」

「どこをどう回ったらそうなりますか、俺の娘です」

苦笑しながら言う祐一。

「ああ、娘さん〜よろしくね〜」

ほにゃっとした表情の紫。

「えーと、香里おねえちゃんのお母さんなんだよね?」

紫の差し出した手と握手をして、祐一にボソッと言う祐。

「性格的にはまったく似てないけどな」

「祐一君の娘さんねー」

「相沢祐です」

「祐ちゃんか〜」

ジーと祐を凝視。

「「?」」

そんな紫を不思議そうに見る2人。

「げっと〜」

そう言いながら祐を抱き上げる紫。

「はわ!?」

「うーん。可愛い〜お持ち帰り〜〜」

そう言って反転。

「って、ちょっと、紫さん」

「どうしたの、祐一君」

祐を胸元に抱き上げたまま、にっこりと微笑む紫。

「とりあえず、祐おろしてあげてください」

「むう〜」

名残惜しそうに祐をおろす紫。

それを見ながら本当に香里の母親なんだよなあ?と思う祐一。

まあ、確かに香里のほうが年齢的に上そうではある。

「それにしても祐一君子供いたのねー。うーん可愛い」

祐の手をしっかりと握り、とりあえずおろしたものの、離す気はない紫である。

「そう!祐一君の子供なんだから、うちのこと結婚してくれたら祐ちゃんもうちの子ね〜」

「香里おねえちゃん?」

「そうね。栞でもいいわよ。むしろ2人共でもかまわないわ」

にっこりと言い放つ紫。

「2人は法律的にダメだとは思いますけど?」

「大丈夫よ!一人は愛人」

言い切る紫。そこまで言うと、今までの表情からやや物憂げな表情になって、紫は言葉を続ける。

「ああ、でも祐一君的には栞はだめよね?」

「?」

「あの子最近とみに依存度高いもの・・・なんで病弱だったときのほうが人に頼らなかったのかしらねえ」

ふう、とため息。そこで表情を戻し。

「香里は長女だけどお嫁に貰っていっていいからね〜」

「あのですね」

苦笑する祐一。

「たぶん本人もいつでもOKだと思うわよ?」

にっこりと、そんなことを言ってのける母親である。

「そうしたら祐ちゃんもうちの子〜」

そう言って祐に頬擦り、香里の幸せな結婚よりも、「祐ゲット」紫的にはこっちが本命。

「パパそろそろ行かないと」

結構話し込んでいて、時計を見るとそれなりの時間が過ぎている。

まだ、体操服などは買っていないし、ほかにももろもろ買わないといけないものがある。

「うん、そうだな。じゃあ、紫さんこの辺で」

「あ、そうなの?じゃあね〜」

そう言って別れて歩きだす・・・はずが。

「なんでこっちに来ます、紫さん」

「祐ちゃんが可愛いから」

直球である。

「まあ、細かいこと気にしないー」

 

 

なお、買い物すべて終了するまで紫はついてきた。

さらに祐一宅へと帰る2人にさらについていこうとしたところを、香里に見つかり家へと連行されていった・・・

 

 

つづく


あとがき

遅くなってすみませんーー

っていうか・・・まあ、家に帰れない日々やったんすけどね

まあ、その辺は置いといて。

今回から紫さん登場。

えー、栞にも香里にも似てませんw

香里はこの人見てある意味反面教師にしたんだろうなあと。

 

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